ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

年金問題に、リセアン立ち上がる。

2010-10-19 19:55:47 | 政治
フランスで今、年金改革に端を発した大規模なストやデモが行われているのは、ご存知の通り。年金受給開始年齢を60歳から62歳へ、年金全額支給を65歳から67歳へ引き上げようという政府提案に対し、組合を中心にさまざまな組織・団体がストやデモを実施。ガソリンや航空機燃料の不足が心配されたり、交通ストにより国民の足に影響が出たり、大型車ののろのろ運転(l’escargot)による交通渋滞、公務員ストによる窓口業務のストップや混雑、エッフェル塔が半日閉鎖されるなど、市民はもちろん観光客にも影響が出ています。

しかし、年金問題は自らに影響するせいか、連日のように続いているストに関しても国民の71%が共感を表しているそうです(18日の『ル・モンド』)。

一方サルコジ大統領は、年金改革はどうしても必要なものであり、フランスは必ず実施する、と改めて不退転の決意を表明しています。

日常生活への影響がさらに続くようだと、ストへの国民の理解もやがて減っていくだろうという見方もあり、組合側としても、ストに続く今後の戦略が求められています。

こうした一連の反対運動で目立っているのが、高校生による授業ボイコットとデモです。14日と18日の『ル・モンド』(電子版)によると、かなりの生徒がこの運動に参加しているようです。

高校生の団体として最も大きいUNL(l’Union nationale lycéenne:全国高校生連合)によると、14日のデモに1,100の高校が参加し、その内700の高校が閉鎖された。一方、文部省は、それほどの規模ではなく、全国にある4,302の高校のうち、程度の差はあれ、340の高校で混乱があったと発表しています。

デモには実際、各地で数百、数千という高校生が参加しました。5,000人から7,000人の参加者があったレンヌをはじめ、ランスでは3,000人、ル・アーブルで2,000人、ブレストで2,000人など、全国で高校生がデモに参加しました。

パリでは、数百人の高校生が、経団連(Medef:le Mouvement des enterprises de France)の本部前をデモ行進。郊外では、一部生徒と警察との衝突もあり、一人の学生が片目失明の恐れのある負傷を負うなど、数名が病院に搬送されました。また多くの都市で、延べ45人の生徒が警察の取り調べを受ける騒ぎに。

では、どうして高校生が年金改革に反対して、デモまで行っているのでしょうか。年齢的にはまだまだ先の問題で、高校生が自分の問題として受け取るには早いのではないかと思えてしまうのですが、フランスの高校生たちはそうは考えていないようです。

UNL委員長のヴィクトール(Victor Colombani)は、次のように述べています。高校生といえども、自分たちに直接影響してくる年金改革に対して自ら立ち上がれるだけの成長はしている。今後も活動を続けていく。

また、高校生の団体で二番目に大きいFIDL(Fédération indépendante et démocratique lycéenne:自主民主的高校生連盟)は、「子供でもなく、操り人形でもなく」(Ni bambins, ni pantins)というスローガンとともに、首相府(Matignon)へのデモを呼びかけました。

要は、もう子供じゃないんだ、自分たちにも政治参加できるんだ、ということを示したいようですが、年金が直接影響してくるとは、どうしてなのでしょうか。『ル・モンド』には紹介されていないのですが、France2などテレビのニュース番組で、デモ中にインタビューを受けた高校生たちが言っていたのは・・・「60歳まででも長いと思っていた労働期間が、2年も延長されるのは、たまらない」、「定年が2年延びれば、その労働者の人数分、求人が減少することになり、自分たちの就職が一層難しくなる」、「年金支給開始年齢の引き上げは、年金保険料の支払い期間が2年延びることを意味し、自分の負担が重くなる」などといった意見が出ていました。

将来的負担増、目の前の就職難や失業・・・長い目で見ようが、目先のことを考えようが、この年金改革はよくない、という意見のようです。しかも、こうした意見は自分で考えたもので、デモへの参加も自ら決めたもの。そう簡単には、矛を収めないかもしれないですね。

こうした高校生や大学生の運動参加は、年金改革に大きな影響を与えると見る識者もいます。若者の反対運動に遭い、ついに潰えた法案がかつていくつもあったことを思い出すべきだ・・・確かに、そうですね。例えば、ド・ヴィルパン首相時代のCPE(Contrat première embauche:初期雇用契約)騒動。若者の雇用対策とは言うものの、雇用者側に配慮し、26歳以下の雇用に関しては、2年の試用期間中なら理由なく解雇できるという内容で、大学生から高校生までが大反発。結局撤回に追い込まれ、ド・ヴィルパン氏の大統領への道が閉ざされる一因になりました。

下院をすでに通過し、今週上院で採決される年金改革。組合側はこの先の戦術を考える必要を指摘されていますが、疲れを知らない高校生たちは、まだまだ突き進みそうです。問題意識、議論、行動力・・・「若気の至り」とか、単なる「はねっ返り」で片付けてしまう訳にはいかないものがあります。