ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランス人怒る、公共心が失われているぞ。

2010-10-22 21:16:57 | 社会
14日の『ル・モンド』(電子版)に、“Une majorité de Français juge l’incivisme en hausse”という見出しの記事が出ていました。「過半数のフランス人が、“incivisme”が増えていると思っている」・・・この“incivisme”とは公民精神の欠如という意味。反意語が“civisme”で、公民精神とか市民意識という意味ですから、簡単に言ってしまえば、「公共心」。従って、「過半数のフランス人が公共心の低下を認めている」といった内容の記事ですね。

日本でも、近頃の若いもんは、という声は時代を問わず、いつの世でも聞こえてきますし、世の中乱れてきている、という嘆き節も聞こえます。確かに、乱れていると非難されても仕方のない点もありますが、世の中時代とともに変わったんだという点もあるのではないでしょうか。「変化=悪」と決め付けるのではなく、変化のどこが悪くなった点で、どこが良くなった点なのかを冷静に見極めることが大切なのではないでしょうか。「自分が若かった時と違う=乱れ」と決め付けないことが大切だと思います。「改革=善」ではなく、改革には改善されるものも、改悪で終わるものもあるのと同じですね。

では、フランスでは、公共心がどう乱れているというのでしょうか。調査会社のIpsosが行った調査によると、65%のフランス人が、特にここ10年、公共心が低下してきていると思っているそうです。むしろ良くなっているのでは、という意見はわずか13%。圧倒的に公共心の悪化を嘆く層が多いようです。65%の内訳は、非常に低下しているが47%、どちらかと言えば乱れてきているが18%。

年齢で切ってみると、やはり、60歳以上では75%の人が、フランス社会では公共心が低下していると嘆いているそうです。近頃の世の中は・・・国は違えど、歳とともに新しい時代、変わりゆく時代への不満が増えてくるようですね。憤懣、やる方ない! 一方、15-24歳では、公共心の低下を認める層は47%に減ります。しかし、それでも半数近い。若者にさえ、社会における公共心、道徳は乱れていると映っているようです。

では、公共道徳の欠如に対し、どのような対策を取るべきなのか。46%と半数に近い人たちは、共生、共存(vivre ensemble)ということを学校でもっとしっかり教えるべきだ、と考えています。また、若者への公共サービスの充実をあげる人が33%、近隣住民との付き合いの大切さを強調する人が25%。

公共心が現れるのはどんなところかという問いには、69%という多くの人が、年齢、性別、出自にかかわらず、周囲の人を敬うことだ、と答えています。「他人への思いやり」ということなのでしょうね。続いては、交通ルールのような、社会で決められた規則を守ることだと答えた人が31%。そして、共和制の価値観を守ることだという人が30%。一方、投票に行くことだという人は18%、社会の利益になることに参加したり、公共的、民主的な生活を送るという答えは、10%以下と少数派です。他人への思いやり、社会のルールを遵守すること・・・こうした点は、日本と変わりないような気がします。

一般的に個人主義と思われているフランス人ですが、内心では隣近所との付き合いは大切だと考え、他人への思いやりが社会の潤滑油としても欠かせないと思っている・・・そういえば、5月に“Fête des voisins”(隣近所のお祭り)というイベントが行われています。今まで名前も知らなかった、同じ建物あるいは同じ地域に暮らす人たちが、建物の中庭や、歩道に集まって、持ち寄ったちょっとした飲み物とつまみを摂りながら、和気あいあいと過ごす。パリ・17区で連帯・家族・近隣問題を担当するペリファン副区長(Anatase Périfan)が、孤独感の解消、地域への帰属意識の醸成を目的に1999年に始めたイベントで、5月下旬(去年までは5月最終の火曜日、今年から最終の金曜日)に行われています。

都会に暮らす孤独、都市の憂愁・・・同じ気持ちの住民、同じ問題を抱える自治体が多いのでしょう、各国に広がり、2009年には、1,000の都市で850万人(フランス国内では650万人)が参加しました。お互いが知り合いになれば、社会のルール無視も減ってくるのではないでしょうか。公共道徳も、蘇ってくるのではないでしょうか。

公共心が無くなっていると憤慨するだけでなく、その対策を考える。それも、前向きで、多くの人が参加したくなるような対策を考え、実行する・・・日本でも、何かいいアイデアは生まれないものでしょうか。ただし、お互いの顔色をうかがい、言いたいことも言えない状態を強いる「世間様」が強くなることは避けるべきだと思います。あくまで前向きな方法を考えたいものです。
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