ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ワールド・カップは、マネー・カップだった。

2010-10-20 19:44:07 | スポーツ
華麗なパスサッカーで魅せたスペインが優勝し、しかも日本代表がベスト16に進出したため、大いに盛り上がったワールドカップ南アフリカ大会。次回は2014年のブラジル大会。ザック・ジャパンがどんな戦いを見せるのか、今から楽しみですが、日本はその先、2022年大会の誘致に乗り出しています。

もちろん、競合相手がいて、韓国、カタール、オーストラリアという同じAFC(アジアサッカー連盟)所属の3カ国と、アメリカ。初めての開催を目指すオーストラリアが、国際的なスポーツ大会開催の実績、競技レベル、インフラなどの点も含めて優位かと思われますが、南アフリカ、ブラジルと南半球での開催が続くことがどう影響するか、またカタールのオイル・マネーも侮れず、日本も含めて5カ国の激戦が予想されます。12月2日にスイスのチューリッヒで行われる理事会で決定される予定ですが、この日には、2018年大会のホスト国も決定されます。こちらには、イングランド、ロシア、スペイン・ポルトガルの共催、ベルギー・オランダの共催、というUEFA(欧州サッカー連盟)所属の4候補があり、こちらも大激戦。

2018年、2022年ともに激戦だけに事前運動が活発に。「夏には豪州協会関係者がFIFAの幹部に真珠やネックレスなど高価な品物を贈った問題が地元紙に報じられた。イングランドでは、スペインが招致からの撤退を取引材料にW杯南アフリカ大会での審判員買収をロシアに持ちかけたと発言し、招致委会長が辞任に追い込まれてもいる」(18日:産経)といった騒動がありましたが、ついに、やはり、というべき「マネー」絡みの事件が起きてしまいました。

日本のマスコミも伝えていますが、『ル・モンド』も17日、18日、二日連続で詳細を伝えています。

事の発端は、英紙『サンデー・タイムス』が「ワールド・カップ、その票売り出し中」(仏語訳:Coupe du monde : des votes à vendre)というタイトルの記事を掲載したこと。その内容は・・・

『サンデー・タイムス』紙の記者が、アメリカの誘致活動を支援するロビイストになりすまし、FIFAの委員に接触したところ、理事一人と副会長一人が、アメリカへの投票と引き換えに金銭を要求した。証拠としてその映像まである!

おとり取材に引っかかって金銭を要求したという二人は、ナイジェリア出身のアダム理事(Amos Adamu)とタヒチ出身のテマリイ(Reynald Temarii)副会長。アダム理事は57万ユーロ(約6,500万円)を要求。FIFAの副会長であり、OCF(オセアニアサッカー連盟)の会長でもあるテマリイ氏は、160万ユーロ(約1億8,000万円)をスポーツ・アカデミー建設のために要求するとともに、すでに2候補がOCFに何らかの金銭を支払い済みであると漏らしたそうです。

この記事が出るや否や、FIFAのゼップ・ブラッター会長(Sepp Blatter)は、この好ましからざる状況に際し、徹底した調査を命じるとともに、委員たちにこの件に関しては意見を公にしないよう要請しました。

記事で指摘された2委員に関しては、倫理委員会が取りうるすべての手段を講じて事実を明らかにするとともに、おとり取材のターゲットになったと言われる他の委員に対しても調査を開始。また、今回の件に関連した委員を輩出している各連盟とそこに所属する18年・22年大会への候補国に対しても、不正な活動がなかったか調べることになりました。

莫大なマネーが動くと言われているワールドカップとFIFA。ベールに包まれてきた闇の部分をどこまで明らかにすることができるのでしょうか。どこまでの自浄作用が期待できるのでしょうか・・・

かつて『黒い輪 権力・金・クスリ―オリンピックの内幕』(原題:The Lords of the Rings)という本が出版されていました。タイトルから分かるように、オリンピックの五つの輪は、権力、金、ドーピングにまみれた黒い輪だ、という内容の本なのですが、国際オリンピック委員会(IOC)のみならず、国際サッカー連盟(FIFA)、国際陸上競技連盟(IAAF)も同じような状況にあると書かれていたと記憶しています。出版された1992年当時、IOCはサマランチ(スペイン)、FIFAはアヴェランジェ(ブラジル)、IAAFはネビオロ(イタリア)という会長がトップの座に長く君臨し、ラテンの三悪人とも呼ばれていました。スポーツ・マーケティングをめぐる「マネー」。日本の「政治とカネ」以上に規模も大きく、根が深いのかもしれません。せめて選手たちがこうした動きに巻き込まれず、素晴らしいプレーで「金メダル」・「優勝」を目指してほしいと願っています。

年金問題に、リセアン立ち上がる。

2010-10-19 19:55:47 | 政治
フランスで今、年金改革に端を発した大規模なストやデモが行われているのは、ご存知の通り。年金受給開始年齢を60歳から62歳へ、年金全額支給を65歳から67歳へ引き上げようという政府提案に対し、組合を中心にさまざまな組織・団体がストやデモを実施。ガソリンや航空機燃料の不足が心配されたり、交通ストにより国民の足に影響が出たり、大型車ののろのろ運転(l’escargot)による交通渋滞、公務員ストによる窓口業務のストップや混雑、エッフェル塔が半日閉鎖されるなど、市民はもちろん観光客にも影響が出ています。

しかし、年金問題は自らに影響するせいか、連日のように続いているストに関しても国民の71%が共感を表しているそうです(18日の『ル・モンド』)。

一方サルコジ大統領は、年金改革はどうしても必要なものであり、フランスは必ず実施する、と改めて不退転の決意を表明しています。

日常生活への影響がさらに続くようだと、ストへの国民の理解もやがて減っていくだろうという見方もあり、組合側としても、ストに続く今後の戦略が求められています。

こうした一連の反対運動で目立っているのが、高校生による授業ボイコットとデモです。14日と18日の『ル・モンド』(電子版)によると、かなりの生徒がこの運動に参加しているようです。

高校生の団体として最も大きいUNL(l’Union nationale lycéenne:全国高校生連合)によると、14日のデモに1,100の高校が参加し、その内700の高校が閉鎖された。一方、文部省は、それほどの規模ではなく、全国にある4,302の高校のうち、程度の差はあれ、340の高校で混乱があったと発表しています。

デモには実際、各地で数百、数千という高校生が参加しました。5,000人から7,000人の参加者があったレンヌをはじめ、ランスでは3,000人、ル・アーブルで2,000人、ブレストで2,000人など、全国で高校生がデモに参加しました。

パリでは、数百人の高校生が、経団連(Medef:le Mouvement des enterprises de France)の本部前をデモ行進。郊外では、一部生徒と警察との衝突もあり、一人の学生が片目失明の恐れのある負傷を負うなど、数名が病院に搬送されました。また多くの都市で、延べ45人の生徒が警察の取り調べを受ける騒ぎに。

では、どうして高校生が年金改革に反対して、デモまで行っているのでしょうか。年齢的にはまだまだ先の問題で、高校生が自分の問題として受け取るには早いのではないかと思えてしまうのですが、フランスの高校生たちはそうは考えていないようです。

UNL委員長のヴィクトール(Victor Colombani)は、次のように述べています。高校生といえども、自分たちに直接影響してくる年金改革に対して自ら立ち上がれるだけの成長はしている。今後も活動を続けていく。

また、高校生の団体で二番目に大きいFIDL(Fédération indépendante et démocratique lycéenne:自主民主的高校生連盟)は、「子供でもなく、操り人形でもなく」(Ni bambins, ni pantins)というスローガンとともに、首相府(Matignon)へのデモを呼びかけました。

要は、もう子供じゃないんだ、自分たちにも政治参加できるんだ、ということを示したいようですが、年金が直接影響してくるとは、どうしてなのでしょうか。『ル・モンド』には紹介されていないのですが、France2などテレビのニュース番組で、デモ中にインタビューを受けた高校生たちが言っていたのは・・・「60歳まででも長いと思っていた労働期間が、2年も延長されるのは、たまらない」、「定年が2年延びれば、その労働者の人数分、求人が減少することになり、自分たちの就職が一層難しくなる」、「年金支給開始年齢の引き上げは、年金保険料の支払い期間が2年延びることを意味し、自分の負担が重くなる」などといった意見が出ていました。

将来的負担増、目の前の就職難や失業・・・長い目で見ようが、目先のことを考えようが、この年金改革はよくない、という意見のようです。しかも、こうした意見は自分で考えたもので、デモへの参加も自ら決めたもの。そう簡単には、矛を収めないかもしれないですね。

こうした高校生や大学生の運動参加は、年金改革に大きな影響を与えると見る識者もいます。若者の反対運動に遭い、ついに潰えた法案がかつていくつもあったことを思い出すべきだ・・・確かに、そうですね。例えば、ド・ヴィルパン首相時代のCPE(Contrat première embauche:初期雇用契約)騒動。若者の雇用対策とは言うものの、雇用者側に配慮し、26歳以下の雇用に関しては、2年の試用期間中なら理由なく解雇できるという内容で、大学生から高校生までが大反発。結局撤回に追い込まれ、ド・ヴィルパン氏の大統領への道が閉ざされる一因になりました。

下院をすでに通過し、今週上院で採決される年金改革。組合側はこの先の戦術を考える必要を指摘されていますが、疲れを知らない高校生たちは、まだまだ突き進みそうです。問題意識、議論、行動力・・・「若気の至り」とか、単なる「はねっ返り」で片付けてしまう訳にはいかないものがあります。

二つの「モネ」展、醜い争い。

2010-10-18 20:02:00 | 文化
この秋、パリはモネで溢れている・・・二つの「モネ」展が時を同じくして開催されています。

一つは、9月22日から来年の1月24日まで、グラン・パレで行われている「モネ」展。オープン初日には6,300人の入場者があり、会期中には今までの記録だった2008年の「ピカソと巨匠たち」展(“Picaso et les maîtres”)を超える80万人の入場が見込まれると言われるほどの大人気。めったに貸し出されないニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵の『サン・タドレスのテラス』やモスクワ・プーシキン美術館所蔵の『草上の昼食』など、70を超える世界中の美術館やコレクター所蔵の作品が、一堂に集められています。

もう一つの「モネ」展が行われているのは、16区にあるマルモッタン美術館。クロード・モネの息子、ミシェル・モネが多くの作品を寄贈した美術館です。10月7日から来年2月20日まで、印象派の語源となった『印象、日の出』(Impression, soleil levant)や『睡蓮』など館所蔵の多くの作品と、手帳や写真などモネの遺品も含めて、幅広くモネを紹介する一大美術展になっています。

二つの美術展を回れば、モネのかなりの作品に出会えるわけで、愛好家にとっては願ったりかなったり。よくぞ協力して開催してくれたと感謝したくなりますが、実は開催をめぐって、タイアップどころか醜い争いが行われていた。その争いのお蔭で、二つの「モネ」展が開催されたのです。10日の『ル・モンド』(電子版)がその内幕を紹介しています。

事の発端は、2008年3月。ルーブルやオルセーなど国立美術館の運営管理や展覧会の企画を行うフランス国立美術館連合(RMN:la Réunion des musées nationaux)のグルノン会長(Thomas Grenon)とオルセー美術館のコジュヴァル館長(Guy Cogeval)が、グラン・パレで「モネ」展を開催することを決定。美術展の成功は、いかに優れた作品を集めるかにかかっている。そこで、各地の美術館や個人のコレクターに貸し出しを依頼。特に「モネ」展と言えば、印象派の由来となった『印象、日の出』は欠かせない。

そこで、コジュヴァル氏はその年の秋、『印象、日の出』をはじめ多くのモネ作品を所蔵しているマルモッタン美術館のタデイ館長(Jacques Taddei)を昼食に誘って、貸し出しを依頼しようとした。しかし、タデイ館長が語るには、その会食はとても気まずいものだった・・・テーブルに着くより前に、コジュヴァル氏は「モネ」展をやろうと思うと切り出した。それに対しタデイ氏は、自分も同じ企画を温めていると答える。するとコジュヴァル氏は、それは諦めた方がいい、まるで巨人のゴリアテに歯向かうダビデのようなものだ。そこでタデイ氏は、小さいダビデが勝つこともある、このまま帰ってもいい、と応酬。結局、物別れに。

こうして、交渉はまとまりませんでしたが、しかしどうしてもマルモッタン美術館所蔵のモネの作品を借りたいグルノン氏とコジュヴァル氏は17点の作品に絞って、貸し出しを願い出ました。しかし、そのリストにあったのは、1870年代のモネを代表する作品ばかり・・・『印象、日の出』、『サン・ラザール駅』(La Gare Saint-Lazare)、『雪の中の蒸気機関車』(Le Train dans la neige)・・・これらを貸し出してしまったら、マルモッタン美術館に印象派の充実した時代の作品が無くなってしまう。そこで、タデイ氏は申し出を断りました。

それでも諦めきれない二人は、今年の1月、5点にまで絞って、改めて貸し出しを依頼しました。しかも今回は、グラン・パレ、『睡蓮』の大作を展示しているオランジュリー美術館、マルモッタン美術館の3館共通のチケットを提案。各チケット代金のうち7ユーロをマルモッタン美術館が手にすることができるという、おいしい条件まで付けてきました。

しかし、マルモッタン美術館はこの申し出も拒否。その理由は・・・『印象、日の出』はあくまでマルモッタン美術館のシンボル的作品で、同じパリの他の美術館で展示すれば、何かと誤解のもとになる。

こうした、言ってみれば楽屋裏の出来事は、本来なら一般には知られないものですが、コジュヴァル氏はあまりに悔しかったのか、マスコミを通してマルモッタン美術館を非難してしまった・・・マルモッタン美術館の「モネ」展は、作品を貸し出さなかったことを正当化するために、急きょ決定した美術展で、まったくひどい対応だ。マルモッタン美術館は、田舎美術館だ。

これに対し、タデイ氏は、マルモッタン美術館の「モネ」展はグラン・パレよりも先に企画していたものだと反駁し、次のように付け加えました。私は田舎の美術館、それもモネの作品で溢れた美術館にいることができて幸せだ。

しかし、RMNやオルセー美術館相手にやりあったことで、マルモッタン美術館の立場が悪くなることは、タデイ氏も認めざるを得ません。モネの作品をお目当てに年間30万の入場者数がある私立のマルモッタン美術館は、その入場料と館内での書籍販売で運営されている。国の補助金は受け取っておらず、クーラー施設を取り付けるにも、メセナを募らざるを得ない状況だ。正規の館員は8名だけで、館長と言っても名誉職で、手当てはわずか月800ユーロ(約9万円)。予算の不足分は、作品の貸し出しで補っている。来年夏にはスイスの美術館でモネの多くの作品が展示されることになっているが、その貸出料は100万ユーロ(約1億3,000万円)と言われている。

しかも、マルモッタン美術館のシンボル、『印象、日の出』にしてもこの春、マドリッドの美術館に貸し出されていた! それゆえ、コジュヴァル氏の怒りは収まりそうにありません。一方、マルモッタン美術館はオルセー美術館から2008年に6点の作品を借り受けていた。これでは、今後マルモッタン美術館は、オルセーをはじめ国立の美術館から貸し出しを受けることができなくなってしまうのではないでしょうか・・・

どうも、今回の件、コジュヴァル氏とタデイ氏の馬が合わなかったことが原因のような気がします。「オルセー」を笠に着たコジュヴァル氏の威圧的な態度。一方、良く言えば反骨精神、悪く言えば意固地なタデイ氏。見事な衝突ですが、同時に、見事にフランス人気質を表しているように思えてなりません。

今回の表沙汰になったいざこざの結果、二つの「モネ」展は大盛況。特にマルモッタン美術館はモネの有名作品を多く展示しているだけに、大成功。もし、両氏の争いが、話題づくりのために事前に仕組まれたものだったとしたら・・・それこそ商業主義に毒されている! フランスよ、お前もか! しかし、文化大国・フランスのこと、たぶん、そこまでの醜さはないのでしょうね。ショー・ビジネスの世界や、何事も商売、商売の国では分かりませんが。いずれにせよ、来年初めまで、パリがモネ愛好者たちを惹きつけています。

フランス語話者は、増えているのか、減っているのか。

2010-10-17 18:01:45 | 文化
フランコフォニー国際組織(OIF:l’Organisation internationale de la francophonie)という団体があります。「フランス語が何らかの形で用いられている国・地域の総称」(ウィキペディア)である「フランコフォニー」の国際的組織で、56カ国・地域のメンバーと14カ国・地域のオブザーバーで構成されています。設立は、1970年。

このOIFは、2年に1度、参加国のサミット(フランス語圏首脳会議)を行っています。今回は、10月22日から24日まで、スイスのモントルー(Montreux)で開催されます。その会議を前に、OIFは現在、世界にどのくらいのフラン語使用者がいるのかを調査し、公表しました。13日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2007年には2億人だったフランス語話者が、2010年には2億2,000万人に増えた! わずか3年で10%も増加したことになります。ビジネス上の共通語がますます英語になっている時代にあって、これはすごい! ・・・しかし、調査方法に変更があったようで、数字を鵜呑みにはできないようです、残念ですが。

2007年までは、さまざまな機関が公表しているデータを基に概算を発表していたそうですが、今回は、国・地域ごとの詳細なデータを調べ、なおかつ不足部分は独自に調査して、より詳細なデータとして発表しました。ということは、増加率はともかく、総数は今回の数字のほうが信頼できそうですね。

しかも、今回はOIFに加盟していない国・地域も調査対象に加えたそうです。独立戦争の影響を引きずって未だに加盟していないアルジェリア(1,120万人)、一部にフランス語話者のいるアメリカ(210万人)、イスラエル(30万人)、そしてイタリアのヴァレ・ダオスタ地方(Valle d’Aosta:サヴォワ地方から国境を越えてすぐ東:9万人)といった小さな数字まで集めたそうで、こうすれば3年前より増えるのは当然ですね。

ただし、今回の調査では、特にアフリカで単にフランス語を話せるだけで、読み書きのできない人は除外したそうです。従って、フランス語話者の総数として、2億2,000万人という数字は過小評価になる、とOIF側は言っているそうです。

ここで、『ル・モンド』は疑問を呈しています。フランス語は、話す人の数では9位、学んでいる人の数では2位(OIFによれば1億1,600万人)の言語。しかし、国際的に英語がすごい勢いで普及しているにもかかわらず、フランス語使用者は今後増えるのだろうか?

OIFの担当者は、次のように述べています。150年前にフランス語は唯一の世界共通語としての地位を失っている。しかし、フランスはそのことを認めるのが遅すぎた。今日、フランス語はもはやエリートのための言語ではなく、生活に必要な言葉として話されている。

フランス語話者を増やすには、生活上の必要性からフランス語を話す庶民を大切にすべきだ、ということなのでしょうね。実際、アフリカでは人口が増えるに従い、旧植民地を中心にフランス語話者が増えている。一方、北アメリカでは伸び悩み、ヨーロッパでは減少している。例えば、イギリスでは、高校の卒業試験の必須科目からフランス語は除外されてしまったそうです。

国際機関でのフランス語の地位はどうなっているのでしょうか。答えは、明らかな衰退。EUで使用される書類のうち、オリジナルがフランス語で書かれたものは全体の15%に過ぎない。ジュネーブにある国連の欧州本部では、書類の90%が英語で書かれている・・・

現在フランス語話者のほぼ半数がアフリカに暮らしていますが、アフリカの人口が今のペースで増え続ければ、2050年には、その割合は85%ほどに達するだろうと予想されています。しかし、これも、学校教育でフランス語がきちんと教えられること、フランス語が公用語として維持されること、という条件が付くそうです。例えば、ルワンダ語・フランス語・英語を公用語にしているルワンダは、英語優先に舵を切ってしまったとか・・・

こうした現状に基づき、22日からのフランス語圏首脳会議に、OIF事務局はフランス語教師の育成とアフリカ諸国での文盲対策を特に強く提案するそうです。フランス語の未来は、アフリカにかかっている!

では日本では・・・大学でのフランス語学習者が減少しているといろいろなところで聞きます。また書店に並んでいるNHKの語学学習テキストでも、フランス語の山は低くなっています。時代は、英語・中国語・韓国語なのでしょうね。しかし、時代に流されず、自分の好きなことをやるのも個人の自由。他人に迷惑をかけなければ、人生、好きに生きたいものです。時代に迎合しないへそ曲がりが多くいた方が、社会も健全なのではないでしょうか。少なくとも面白いのではないか、と思うのですが、日本の現実という厚い壁を前にすると、悲観的にならざるをえません、残念ながら。

時代の針は、再びアンシャン・レジームへ。

2010-10-14 19:48:40 | 社会
アンシャン・レジーム(l'Ancien Régime)・・・世界史の授業で習いましたよね。フランス革命以前、ブルボン王朝時代のフランスの政治社会制度。旧体制とも訳されていますね。21世紀の今、フランスの社会が再び旧体制のようになってきている、という意見を紹介する記事が、9日の『ル・モンド』(電子版)に出ていました。

今日のフランス社会は、一握りの特権階級とそれを支える一部の人々、そして社会の底辺に暮らす大多数の人々で構成されており、これは国王を頂点としたアンシャン・レジームそっくりだ・・・今月13日に出版された“Réinventer l’occident. Essai sur une crise économique et culturelle”(西洋再考、経済および文化の危機に関するエッセイ)という著書の中でこのように語っているのは、Hakim El Karoui(アキム・エル=カルイ)氏。

1971年生まれの39歳。チュニジア出身の父親はソルボンヌの教授、フランス人の母親は理工科大学校の教授という、知的エリート階級の出身。ラファラン内閣では、ラファラン(Jean-Pierre Raffarin)首相のスピーチ・ライターを務め、今日では、エッセイストとして活躍するとともに、ロスチャイルド財閥の投資銀行の経営にも携わっている。

エル=カルイ氏は、今日の世界、そしてその潮流の中にあるフランス社会について、『ル・モンド』とのインタビューで次のように語っています。

グローバリゼーションの世界では、中産階級はとても不安定な状態に置かれている。ここ20年に亘って、富の集中が行われてきた結果、富める者はより豊かに、そうでないものはいっそう貧しくなってきた。中流意識は薄まり、貧しさを実感する層が増えてきている。グローバリゼーションの世界では、その時代を生き抜く能力を持つ一部の勝者と、社会に自らの立つ位置を見出しにくくなっている敗者がいる。

しかも、経済危機が状況を一層悪化させている。今回の危機は、欧米の人々が給与以上の消費によって過度の借金を作って来たことに起因する。所得以上の消費をカードやローンで賄うシステムは破綻し、結果として、欧米の中産階級はかつてない生活レベルの低下を余儀なくされている。こうした状況下、各国の政府は、経済を改善する術を見出せず、右派政権であろうと、左派政権であろうと、ポピュリズムに頼って自らの存在を維持しようとしている。つまり、右派は外国人排斥に、左派は自分勝手な企業経営者への憎悪に国民の不満の矛先を向けさせようとしている。

私たちの社会は、新興国ほどには明確なピラミッド状ではないが、次第にアンシャン・レジームに似てきている。つまり、底辺に暮らす多くの人々、そして頂点に君臨する少数のエリートとそれを支える人々(弁護士、医師、レジャー産業従事者など)という構図になってきている。大多数の人々は、資格や能力を求められることがないかわりに、給与が製造業に働く人々よりも40%も低いサービス業に従事することになる。どういう人たちがその職に就くかというと、女性、若者、移民の子供たちといった社会的弱者だ。

移民問題については、フランス社会は現在抱えている多くの問題にもかかわらず、明るい未来を持っている。なぜなら、移民を社会に組み込もというよりは、同化させようとしてきたからだ。移民もやがてフランス人として社会に溶け込み、移民問題はその色彩が薄くなっていく。高等教育をうける移民やその子供たち、異人種間の結婚、人口動態、社会的階段を昇る移民やその子孫を見れば、新たな社会を予想することも容易だ・・・

ということで、フランス革命以前のような社会構成になってきているという今日のフランス。であれば、革命が起きるのでしょうか。21世紀の革命、どのようなものになるのでしょうか。

ところで、フランスには、グローバリゼーションに異を唱える人が少なくありません。グローバリゼーションという名のアメリカナイズ、あるいはアングロ=サクソン流価値観の押しつけに警鐘を鳴らしているようです。例えば、“altermondialiste”(改グローバリゼーション主義者)のジョゼ・ボヴェ(José Bové)氏。弱肉強食の新自由主義に反対する立場から、アメリカのイメージを代表するマクドナルドの店舗を解体したことでも有名ですね。今は、欧州議会議員になっています。

みんなが同じ方向へ向かおうとすると敢えて異を唱える、あるいは逆方向へ歩き始める「へそ曲がり」。でも、そんな人がいるから、あるいは、そんな国があるから、世界の暴走に歯止めがかけられるのではないでしょうか。付和雷同、寄らば大樹の陰、長い物には巻かれよ、という国に住んでいるからこそ、そうしたへそ曲がりの必要さを特に強く感じるのかもしれません。フランスにはいつも、いつまでも、潮流に流されないへそ曲がりでいてほしいものです。

フランス版、自白を強要した警官を訴える!

2010-10-13 19:40:40 | 社会
いつまでも自白しないと、お前の妊娠中の妻は刑務所で出産することになるぞ。いいのか、えっ。お前の子どもたちは、児童養護施設送りだ。それで、いいのか。どうなんだ。黙ってちゃ分からんぞ。いい加減、調書にサインしろ!

足利事件の菅家さんを取り調べた際の録音テープ、大阪地検特捜部による証拠改ざん、大阪東署の警官による取り調べを録音したテープ(先週ある日の午後、突然メディアが報じましたが、その夜からは一切報道されていません。どうしてしまったのでしょう。裁判の際の証拠なのでそれまで公開できないのか、権力側からの圧力によるものなのか)・・・こうした一連の報道が続いていますので、上記の取り調べの言葉、日本でのものかと思ってしまいますが、実はこれ、フランスでの出来事です。

11日のTF1、夜8時のニュース番組が、無罪になった元被告が取り調べに当たった警官を訴えた、と伝えていました。詳しく知りたいとフランスの新聞記事を探したところ、11日の『ル・フィガロ』(電子版)が紹介してくれていました。

“Il poursuit un policier pour des aveux extorques”(自白強要の罪で警官を訴える)という見出しの記事。「義理の妹を強姦した罪で訴えられ、その後無罪になった元被告が取り調べを担当した警官を訴えた。非常にまれな出来事だ」という概略紹介で書き始められています。

元被告の名は、パトリック・ルヴヌール(Patrick Leveneur)氏。TF1の映像から判断するに、移民とかではなく、ごく一般的な白人男性です。名前からもそう思われますね。1997年3月11日、当時妊娠8カ月だった妻とともに、住んでいたマルセイユの警察署に呼び出された。取り調べにあたったのは、未成年者補導係の警官たち。取り調べの容疑は、義理の妹への暴行。身に覚えのないルヴヌール氏は、当然否認します。すると、冒頭にあるような、罵詈雑言、言ってみれば言葉による脅迫を受けることになりました。テレビのインタビューでは、屈辱的な扱いを受けたと言っていました。

子どもたちを送りつけてやると警官が叫んだ施設は、DDASS(Direction departementale des Affaires sanitaires et sociales)。日本でいえば児童養護施設にあたるのでしょうが、“les enfants de la DDASS”(養護施設の子どもたち)という表現があるように、フランス人にとっては、差別の対象になってしまうようです。なお、妻が同時に取り調べを受けたのは、共謀の嫌疑だったのでしょうね。

いくら無実を訴えても聞き入れてもらえない。挙句に、妻は刑務所で出産、子供は“les enfants de la DDASS”になってしまう。頭が真っ白になったルヴヌール氏は、心ならずも罪を認めてしまった・・・

予審判事の取り調べには、一貫して無実を訴えましたが、4か月の拘留が認められてしまった。第2審の控訴院でも、無実を訴え続けました。そして、1999年の初め、判決が出ました・・・検察が提出した調書は信頼性に欠ける。ようやく、無実を勝ち取ることができました。

2年近くの取り調べ、拘留、裁判・・・すっかり疲れ切ってしまったルヴヌール氏。警察の対応に嫌気がさしたのでしょう。また、日本的に考えるならば、いくら無実になっても、一度犯人扱いされてしまうと、周囲からは犯罪者を見るような視線が。程度の差こそあれ、フランスでも、そうした視線を感じてしまうのでしょうか、マルセイユを離れ、今ではパリ近郊、ヴァル・ド・マルヌ(le Val-de Marne)県に住んで、運転手をしています。

ところで、義理の妹はどうしてルヴヌール氏を訴えたのでしょうか。結婚したばかりだったそうですが、その夫から処女でなかったことを強くなじられ、言い逃れのため暴行されたことにしてしまった。その虚偽の暴行の当事者にされてしまったのが、ルヴヌール氏だったわけです。義理の妹は、2004年、誣告罪で訴えられました。

法制度のしっかり整備されているように思えるフランスで、現在問題視されている日本での取り調べと同じように、自白強要がある。これだけでも驚きなのですが、現代のフランスで、処女性が重要視されている。これまた、ビックリです。

そして今回、ルヴヌール氏は取り調べに当たった警官を相手取って、慰謝料請求の訴えを起こしました。ルヴヌール氏の分が20万ユーロ、奥さんの分が10万ユーロ。ルヴヌール氏は、自分と同じような状況に二度と誰も巻き込まれないことを願っていると言っています。ルヴヌール氏の弁護士は、金額の多寡は問題ではない。ルヴヌール夫妻に起きたことは誰にでも起こりうることで、そのことを明るみに出すことに今回の訴訟の意義はある。今後同じことが繰り返されないためにも、取り調べには常に弁護士が同席できるように制度を改正してほしい、と述べています。

日本では、取り調べの可視化が呼びかけられていますが、フランスでは、弁護士同席の上での取り調べが求められている。解決のための方法は異なりますが、同じ問題を抱えているようですね。権力は腐敗すると言われます。権力の一部である警察や検察での取り調べにおいても、自白を偏重するあまり、推定無罪の原則を忘れた、「権力」を笠に着た取り調べが横行している・・・国の違いを問わない、共通した問題になっているようです。

「筋金入り」から「筋金入り」への贈りもの。

2010-10-12 19:45:38 | 政治
今年のノーベル平和賞は、ご存知のように、中国人作家・民主活動家の劉暁波(Liu Xiaobo)氏に贈られることになりました。発表のあった8日、『ル・モンド』はさっそく二つの記事を電子版に速報として載せました。

まずは、現地時間11時24分に、“L’opposant chinois Liu Xiao reçoit le prix Nobel de la paix 2010”(中国の反体制派・劉暁波が今年のノーベル平和賞を受賞)という見出しで、概略を伝えています。

劉氏の受賞は、長年にわたり非暴力で人権擁護を求めてきた努力に報いるためのものだ。劉氏は、当初から有力候補だったが、しばしば予想を覆すノーベル賞委員会。しかし今回は下馬評通りの選出となった。

劉氏は、54歳。かつてニューヨークのコロンビア大学で教壇に立っていたが、1989年に帰国。北京師範大学で教鞭を取り始めたが、学生を中心とした民主化運動の高まりに身を投じ、天安門事件の際には中心人物の一人に。鎮圧後、判決の出ないまま1年半、拘留される。96年から99年にかけては、労働矯正キャンプ送りに。大学を追われてからは、ペンクラブのリーダーの一人として活躍。中国大陸では出版できない劉氏の本も、香港を中心に店頭を飾り、多くの支持を得ている。

中国の民主化を要求する『憲章08』を起草した劉氏は、国家転覆罪により、11年の禁固刑を言い渡され、現在遼寧省の刑務所に収監中。受賞の知らせを先に受けた夫人の劉霞(Liu Xia)さんは、「とても嬉しくて、なんて言っていいか分からない。ノーベル賞委員会、チェコのハヴェル前大統領、ダライ・ラマをはじめ、劉暁波を支援してくれている全ての人々に感謝したい」と述べているが、この劉霞夫人も当局の監視下に置かれている。

何度も刑務所送りを余儀なくされている劉氏だが、中国の民主化を決して諦めてはいない。「その歩みはゆっくりとしているが、庶民はもちろん、党の中からも湧きあがっている自由への希求は、容易に押さえつけられるものではない」と最近のインタビューでも語っている。

そして、第2弾として、同じ8日の12時36分に、“Nobel : l’ambassadeur de Norvège convoqué par Pékin”(ノーベル賞、ノルウェー大使が中国政府に呼び出された)という見出しの記事を公開。劉氏の受賞に関して、世界がどう反応したかを紹介しています。

劉暁波氏のノーベル平和賞受賞の知らせを受けて、中国政府は、劉暁波は中国の法律に違反した行為により、中国の司法制度によって裁かれた犯罪人で、こうした人物にノーベル賞を授与することは、賞の原則に反しており、また中国・ノルウェーの二国間関係を損なうものでもあると不満の意を表わしている。

受賞の発表数時間後、駐中国ノルウェー大使は中国外務省に呼び出され、中国政府の不満を直接言い渡された。オスロでも、駐ノルウェー中国大使が同じメッセージを伝えるために、ノルウェー政府に面会を求めた。

一方、受賞を喜ぶ声が世界各国から発せられている。ノルウェーのストルテンベルグ首相は、劉氏の受賞を大いに喜んでいる。受賞の決定以前にも、ノルウェー側は中国政府から、非友好的な対応は二国関係を悪化させる恐れがあると警告を受けており、受賞後の中国政府の声明と合わせて二度に亘る警告を受けたにもかかわらず、「ノルウェーは緊密で広範な協力関係を中国と長年にわたり結んでいる。しかもその関係は多くの分野に亘っており、人権もその一部である」と述べ、劉氏の受賞を当然のものとして祝っている・・・ちょっとやそっとの脅しには屈しない強固な意志、原理原則に忠実な態度が現れていますね。

また、前年のノーベル平和賞受賞者、アメリカのオバマ大統領は、「ここ30年に亘り、中国は素晴らしい経済発展を遂げ、数百万の国民を貧困から救い出し、多くの国民の生活を向上させた。しかし、劉氏の受賞は、政治の改革が同様には行われていないこと、基本的人権が守られるべきことを改めて想起させた」と述べるとともに、劉氏の速やかな釈放を要求した。

フランス政府は、ベルナール外相が、「今回の決定は、人権を擁護することの大切さを具現化したものだ。フランスはEUと共に、劉氏の拘束以来、懸念を表明し、その解放を幾度となく要求してきた。フランスは表現の自由への支援も改めて確認する」と、短い声明を控えめに発表した。サルコジ大統領やフィヨン首相からのメッセージは、すぐには出されていない。

国連人権高等弁務官事務所のピレイ高等弁務官は、中国や他の国々で人権の擁護者が果たしてきた役割の大切さが認められたわけで、非常にうれしいと喜びを表明。バン・キムン事務総長は、人権を改善することへの世界的なコンセンサスが認められた結果だと、劉氏の受賞を控えめに称えている。

EUのバローゾ委員長(ポルトガル)は、大きな犠牲を払いながら、自由と人権のために戦っている人々への力強い支援のメッセージだと、受賞の意義を語ったが、中国の人権問題や劉氏の釈放については直接言及しなかった。

ドイツ政府は、報道官が、劉氏が直接授賞式に出席できるようすぐにも釈放されるべきだと述べるとともに、ドイツ政府は今までも劉氏の解放を要求してきたが、実現まで今後も続けていくと表明。

1989年のノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマは、即座の解放を要求するとともに、劉氏の受賞は、中国の政治・司法・憲法の改革を求める中国人自身の声が国際社会で認められたことだと評価・・・

このように、多くの国や国際機関が劉氏の受賞を喜ぶとともに、劉氏の解放、中国における人権問題の改善を要求していますが、そのトーンにはばらつきがあります。世界の工場から世界のマーケットへと変貌を遂げ、今や中国市場抜きには世界経済は語れなくなっています。こうした状況下、どこまで強く中国に人権や民主化を迫れるのか。その国、その人物の強さ、原則へのこだわりが試されているようです。

尖閣問題が少し落ち着いてきたタイミングでの劉氏の受賞に、日本政府は何を言うことができたのでしょうか・・・政治面ではその存在感が非常に希薄な日本のことですから、『ル・モンド』では全く触れられていません。

菅首相は、「普遍的価値である人権について、ノルウェーのノーベル賞委員会がそういう評価をし、メッセージを込めて賞を出した。そのことをしっかりと受け止めておきたい」(産経)と記者の質問に答えていますが、「しっかり受け止める」とはどういう意味なのでしょう。もって回った言い回しで、腹が据わっていない、原則がない、少なくとも原則は気にしていない、という対応のように見えます。

そういえば、菅夫人が夫を評して、原理原則へのこだわりがなく、場当たり的にやってきた、といったニュアンスのコメントを出していましたが、その通りなのかもしれません。

しかも、こうした言動、なにも菅首相個人だけではなく、日本国の伝統的な対応の仕方になっているのではないでしょうか。良く言えば柔軟性がある。悪く言えば、目先の功利性にだけ目を向け、大きなフレームをもたない。二国間関係だけを見ていけばよい時代には、これでもよかったのでしょうが、多極化の現代を生きていくには、やはり、日本の国としての原則がフレームとして必要なのではないでしょうか。

以前から顔の見えない日本人と言われてきましたが、その集合体である「日本」も顔が見えない。それどころか、姿形も分からない。これでは、どうやって各国と対等な関係を築き、あるいは尊敬の念を獲得できるのでしょうか。日本の明確なビジョンが求められています。アメーバのように融通無碍なことがアイデンティティだと開き直っていれば済む時代ではなくなっているのではないでしょうか。中国の人権についても、領土問題は領土問題、それとは別に人権について日本はこう考える、という筋のある意見がほしかったと思います。

レ・ブルー、確かな一歩。監督、確かな手腕。

2010-10-11 20:19:09 | スポーツ
先のワールドカップ南アフリカ大会では、散々な結果に終わったサッカー・フランス代表“Les Bleus”(レ・ブルー:ユニフォームの色に由来)。大会後、監督を交代し、新たなチーム作りに着手しました。その結果は・・・

クラブの監督が“entarîneurs”(訓練者)と呼ばれるのに対し、代表チームの監督は“sélectionneurs”(選択者)。この違いが明確にしているように、選手をしっかり鍛えるのは各クラブ。代表チームでは選手が集まって練習する時間が限られていますから、監督の戦術にあった選手、調子のいい選手を選んで戦うことになります。従って、新監督の選手選び、戦術の徹底には少し時間がかかります。その期間は、ファンも辛抱が必要なのですが、分かっていてもなかなか難しい。ブーイングのひとつも、浴びせたくなってしまうのがファン心理。

新たにレ・ブルーの監督になったロラン・ブラン(Laurent Blanc)にとっても、出だしはいわば五里霧中。選手起用もまだ手探り状態でした。練習試合に負け、ユーロ2012(欧州選手権)予選の初戦、対ベラルーシ戦でも黒星。しかも、ホーム、スタッド・ド・フランス(Stade de France)での敗戦。ファンからはブーイングを浴び、ドメネク前監督時代からの流れで、スタッド・ド・フランスではレ・ブルーは勝てないというジンクスがささやかれ始めました。

しかし、ここからブラン監督の手腕が発揮されだします。現役時代は、1998年ワールドカップ優勝、2000年ユーロ優勝という輝かしい実績を持つ代表チームの中心選手の一人。ディフェンスの選手でしたが、もともと中盤の選手だったため、攻撃参加にも積極的で、得点もディフェンダーとしては多くあげています。所属チームも、モンペリエ、マルセイユといった国内チームだけではなく、ナポリ、インテル、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドという各国の名門チームで活躍。さまざまなサッカー・スタイル、戦術を身をもって学んだのでしょう。引退後、ボルドーの監督になるや、いきなりチームを国内リーグで2位に導き、2年目にはついに優勝。チャンピオンズ・リーグでもベスト8に。名将の誉れ高い監督になり、チームを3年率いた後、レ・ブルーの監督に。

ユーロ予選・初戦の黒星から4日後、アウェーでのボスニア・ヘルツェゴビナ戦を2―0で勝利。そして、1カ月後の今月9日、3戦目は、スタッド・ド・フランスでのルーマニア戦。ホームでは勝てないというジンクスを打ち破れるか・・・見事2―0で勝利。6カ国がホーム&アウェーで戦う予選、3試合終了時点で、グループの首位に。その試合後のブラン監督のインタビューが、10日の『ル・モンド』(電子版)で紹介されています。

「今週の練習と今日の結果、そして選んだ23人の選手には満足している。レ・ブルーで何かが生まれようとしている。今のチーム・スピリットを大切にしたい。今後も困難な時期を迎えるかもしれないが、今は勝利の余韻に浸りたい。」

代表に選んだ選手は23人。そのうち試合当日ベンチに入れるのは、18人。そして先発は11人。途中交代が3人まで。選手たちについては、「誰もが今週の練習に真剣に取り組んだ。そのプレーのクオリティを見れば、誰が先発してもおかしくはなかった。従って、ベンチ入りから外す5人を決めるのは非常に難しかった。また、試合は14人で行うものだ。途中交代で退場した選手もよくやったし、そのプレーは交代で入った選手にもいい影響を与えた。」

確かに、2得点は、後半途中で交代出場したレミー(Rémy)、グルキュフ(Gourcuff)の2選手が最後の10分に決めたもの。しかも、グルキュフの得点をアシストしたのも、途中交代で入ったパイエット(Payet)。選手交代が見事に的中。試合は14人でやるんだということ、そしてなにより、ローラン・ブランの監督としての手腕を見事に立証しました。

キャプテンを務めたディアラ(Alou Diarra)は、「みんなが長い間この勝利を待っていた。ようやくクオリティを発揮し始めたところだ。だが、まだ何も成し遂げてはいない。今日のような規律と真摯さをこれからも維持していかなければならない。世界の強豪に再び加わるには、そうすることが必要だ。勝利を積み重ねていくことが大切で、過去の栄光に胡坐をかいていてはいけない。予選2試合を連勝したことで、モラルも順位も上がった。チーム精神のお蔭だ」と言っています。

新聞各紙も、これでようやく最近のごたごたに背を向けて、レ・ブルーが新たな一歩を踏み出した。これもローラン・ブランの監督としての手腕のなせるところだ。勝利の方程式を手に入れたようなもので、これからの活躍が楽しみだ、とこぞって絶賛。過去数年のふがいない成績やチーム状態を忘れ、ようやく溜飲を下げたようです。

次の試合は、12日のルクセンブルク戦。この試合で勝ち点3をあげれば、予選の次の試合は、来年3月26日。それまでの長い間、グループ首位の座に間違いなく座り続けられる。サッカー・ファンは熱い心で、この冬を過ごすことができる・・・

そして、我らが日本代表も確かな一歩を踏み出しましたね。ザック・ジャパン。久々にサッカーらしいサッカーを見せてくれました。サッカーは点を多く取ったチームが勝つスポーツ、横パスやバックパスをどれだけ繋いでも、点が入らなければ勝てない、ということを改めて証明してくれました。12日の韓国戦でも、ぜひ攻撃的なサッカーを見せてほしいものです。そして、サッカーでは監督の手腕がいかに大きな影響力をもつか、ということをフランス代表、日本代表が改めて物語ってくれているようです。

ネット版、親ばか。

2010-10-10 19:59:10 | 社会
「親が子に対する愛情に溺れ、はた目には愚かなことをして、自分では気づかないこと」(広辞苑)・・・どんなに人生に厳しく対峙している人でも、「彼もやっぱり、人の親、親ばかだね~」、などと言われることってありますよね。我が子のこととなると、客観的に見れなくなってしまう・・・

客観的には見れない我が子を、公然と見せることによって、親ばか振りも公然と見せつけてしまうケースが増えている・・・8日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2歳以下の子供のうち74%がすでにネット・デビューを飾っている!  北米、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランドの2,200世帯を対象に行った調査によると、2歳以下の子供の実に81%が公園デビューならぬネット・デビューを飾っているそうです。アメリカでは93%だそうですから、ほぼすべての子供がネット上にその写真や動画をさらしていることになります。ヨーロッパでは73%で、見出しにあるように、フランスでは74%。新しいものにはすぐに飛びつかず、プライベートを大切にすると言われるフランス人までもが、我が子のこととなるや、4人の親のうち3人までが子供の画像をネット上で紹介しているのですね。

しかも、驚くべきことには、新生児4人のうち1人が誕生以前にすでにネット上に登場している! どうやって・・・そう、胎児の超音波画像です。我が子の超音波画像を、うれしさのあまりネット上に公開してしまう親が、4人に1人。最も多いのはカナダの親で、37%。3人に1人以上の子供が、生まれる前の姿をネット上で公開されていることになります。さすがに北米以外では超音波画像を公開する親の割合は減りますが、それでもヨーロッパで15%、日本でも14%の親が我が子の超音波画像を公開しているそうです。

また、我が子が生まれるや否や、その子にメールアドレスを作ってあげている親もいる。スペインでは12%と二桁です。フランスでは7%。フェースブックにプロフィールを登録する親も5%いるそうです。

ネット上に我が子の写真や動画を公開する理由は、それが家族や友人たちに我が子を紹介するもっとも簡単で便利な方法だから、ということだそうです。アメリカの母親の18%は、友人たちが同じことをやっているので自分もやったと答えているそうです。皆さんもう飛び込んでいますよ、と言われて沈没船から海に飛び込むのは、どうも日本人の専売特許でもないようですね。アメリカ人の中にも、大勢に流される人も結構いるようです。もちろん、日本の比ではありませんが。

しかし、子供の写真や動画をネット上で公開することには、少なからぬ危険が潜んでいます。

一度公開された映像が、そのまま将来にわたって存在し続けることが多くあります。我が子の写真や動画を公開する親の中には、成長記録をネット上で作る人も多いのではないでしょうか。

『ル・モンド』は、危険を具体的には紹介していないのですが、たぶん次のようなことが考えられるのではないでしょうか。公開した映像を単にかわいいと見てくれる人だけなら、問題はないのですが、かわいさのあまり誘拐を考える人もいるでしょうし、もっと問題なのは小児愛好者(les pédophiles)。その成長ぶりを追いながら、ターゲットとして見つめている人もいる。ヨーロッパでは小児愛好者による犯罪がしばしば報道されています。しかも聖職者の世界も例外ではないことが分かっただけに、キリスト教世界では大きな問題になっています。

我が子の写真や動画へのアクセスに何ら制限を加えていない親が多いため、フェースブックで誰もがアクセスできる子供の写真を見つけるのは至極簡単なことだそうです。我が子かわいさのあまり、ネット上で公然と公開した結果、何らかの犯罪に巻き込まれてしまったら、それこそ親ばかでは済まされません。

我が子の映像をネット上で公開することの危険について認識している親は、残念ながらわずか3.5%だったそうです。これだけ多くの子どもの映像が公開されているのだから、我が子の映像を公開したって問題ないはず・・・そう行けばいいのですが、やはり細心の注意が必要なのかもしれません。杞憂で終わるぐらいでいいのではないでしょうか。

17万年、払い続けなさい!

2010-10-09 17:42:01 | 経済・ビジネス
例えば、日本での住宅ローン。その返済期間は一般的には最長でも35年ですね。人の一生には寿命がありますから、そんなには長くできません。それが、17万年。17年ではなく、17万年です!

アメリカの刑期は累積方式なので、時に長期になることもあります。それでも、150年とか300年。では、17万年とは、何のことでしょう・・・

実は、損害賠償の支払い期間。もちろん日本ではなく、フランスでの話・・・ご存知ですよね、2008年の初め、株価指数先物取引で銀行大手ソシエテ・ジェネラルに49億ユーロ(当時の換算レートで7,800億円)もの損害を与えたとして逮捕された同社の元トレーダー、ジェローム・ケルヴィエル(Jérôme Kerviel)被告。彼に言い渡された損害賠償額が49億ユーロ。その返済に必要だろうと言われている期間が、17万年、というわけです。5日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

保釈後、IT関連企業で働いているケルヴィエル被告の収入は、月収2,300ユーロ(現在のレートで約26万円)。この額すべてを返済に充てたとしても、完済するのに177,000年かかるそうです。17万年超・・・気が遠くなります。ほとんど冗談としか言いようがないですね。

背任、文書偽造とその使用、コンピューター・システムへの不正侵入の罪に問われていたケルヴィエル被告への判決公判は5日に行われたのですが、言い渡されたのは、禁固5年(実際に収監されるのは3年)とソシエテ・ジェネラルが被った49億ユーロの賠償支払い。

被告側は、経営陣は利益を出すためにリスクを冒すことをむしろ奨励していたし、どのような取引が行われているのか承知していたはずだとして、無罪を主張していましたが、認められませんでした。裁判官は、度を越した取引について上司の許可を得ていなかったこと、損失が明らかになるにつれ、いかに社内の監督システムを欺かに傾注していたことからも、被告の有罪は明確だと断罪。検察が求刑したのは、禁固5年と罰金375,000ユーロ(約4,300万円)だったのですが、罰金の代わりにそれをはるかに上回る賠償金の支払いを命じたわけです。ただし、速やかに支払わない場合は、即刻収監される罰金とは異なり、賠償支払いですので、刑が確定するまで収監されずに済んでいます。

この判決内容には、裁判官が「偽りの平静さ」、「徹底した冷酷さ」、「不正に対する冷笑主義」と評したケルヴィエル被告の態度も影響しているのかもしれません。この判決は、言ってみれば、モラル喪失に対する償いを求めているのだとも言われています。

ケルヴィエル被告がこの巨額な賠償を、実際、支払っていくことになるのかどうかは、ソシエテ・ジェネラルにかかっています。賠償支払いを取り消すことができるそうです。しかし、実際に支払うとなると・・・

仮に、出所後、働き口があって、月収1,700ユーロを得るとすると、支払うのは448ユーロ。いくら賠償を支払うと言っても、生きていく最低の生活費は保証されるそうで、住居費や食費がこれに含まれ、計算すると支払うのは448ユーロで済むそうです。手元に残るのは1,252ユーロ(約14万円)。この額で暮らしていくことになります。とりあえず生きていくことはできるでしょうが、何しろ49億ユーロ。支払額は、それこそ雀の涙。死ぬまで状況は好転しようがありません。これではまるで終身刑。49億ユーロを、毎月448ユーロずつ支払っていくと、91万年超! 

今までフランスで科された賠償の最高額は、台湾へのフリゲート艦売却を巡る不正な手数料収入によりタレス社(Thales)に対して下された6億3,000万ユーロ(約72億4,500万円)。その8倍にもなる賠償支払が一個人に科された・・・ソシエテ・ジェネラルが実際に賠償請求を行うことはなく、損失額がどれほどになるかを裁判を通して明確にしたかったのだろう、と言われているようですが、はたしてその判断は・・・

リーマン・ショックもすでに昔話。再び億単位や数千万円のボーナスを手にしている金融界。その陰で、すさまじい賠償額を背負い込むことになるかもしれないケルヴィエル被告。彼はしくじった、で済ませてしまっていいものでしょうか。業界全体の体質に問題はないのでしょうか。第2、第3のケルヴィエルを生み出さないという保証はあるのでしょうか。かつて1社員の引き起こした損失で破綻したイギリスのベアリングズ銀行の例もあります。金こそすべて、でいいのでしょうか。「金」がなければ暮らしてはいけない。しかし「金」が生きていく目的の全てになっていいものでしょうか・・・時には、こんなことにも思いを馳せて、自分の生き方を再検証してみるのもいいかもしれません。秋が深まれば、夜長。時間はあるのですから。