ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

パリにアパルトマンを持つ・・・夢のまた夢。

2010-10-06 20:23:19 | 社会
パリにある自分のアパルトマンに暮らす。おしゃれですね。カッコいいですね。憧れますよね。例えば、作家の辻邦夫。パンテオンの裏にある名門リセ「アンリⅣ」のすぐ東側の通りにパリ滞在時用の住まいを持っていました。その建物には、「日本人作家・辻邦夫がいつからいつまでここに住んでいた」というプレートが壁に貼られています。もちろん、一般の日本人の方々でも、ご自分のアパルトマンに住んでいる方が多くいらっしゃいます。

ところで、例に出した辻邦夫。高校から大学時代によく読んだのですが、今や歴史の彼方に消えてしまいつつあるようです。『天草の雅歌』、『安土往還記』、『嵯峨野明月記』、『サマランカの手帖から』、『北の岬』、『春の戴冠』、『背教者ユリアヌス』・・・タイへ赴任する少し前、1990年頃は、その全作品六巻を古本屋に出すと、すごく喜ばれたものですが、6年後、中国赴任時に他の辻作品を古本屋に出そうとすると、もうこういう本は売れないんですよと、二束三文。そして、今や、ウィキペディアに「辻邦夫」の項目は見当たりません。歌は世につれ、小説も世につれ、ですね。

さて、そのパリのアパルトマン、異常に値上がりしているそうで、一般のフランス人にすら高嶺の花になってしまったとか。9月27日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

今、パリのアパルトマン、1㎡単価、いくらくらいだと思いますか・・・平均で7,000ユーロ程度。1ユーロ=115円で計算して、805,000円。80万として、70㎡の物件が、5,600万円。しかもこれはあくまで平均で、高級住宅地を持つ3つの区(たぶん、6、7、8区、あるいは16区?)では、9,000ユーロを超すそうで、1㎡あたり約100万円。

こうした中、若くてもアパルトマンを購入する人がいるそうです。しかし、ほとんどが、パリと言っても周辺部の小さなアパルトマン。しかも、親の援助があって、はじめて買えるそうです。例えば、フリーでダンサーをしている女性。親が1995年に6万ユーロで購入した、13区にある40㎡のこじんまりとしたアパルトマンに住んでいるそうですが、所有権の半分は妹のもの。それを買い取ることにした。そのアパルトマン、今では22万ユーロ(約2,500万円)に値上がりしているそうで(15年で3.7倍です!)、その半分11万ユーロを妹に払うことに。貯金23,000ユーロを頭金として払い、残金は毎月600ユーロの18年払い。年収は22,000ユーロ(約250万円)だそうで、そこから年間7,200ユーロ(約82万円)の支払い。贅沢はできないかもしれませんが、親のお蔭でパリに自分のアパルトマンが持てました。フランスの親子関係、もう少しドライなのかと思っていたのですが、子に美田を残す親もいるんですね・・・

15年で3.7倍といった不動産価格の急上昇は、平均的世帯のアパルトマン購入という夢を情け容赦なく打ち砕いています。今年パリで住まいを購入した人に占める労働者の割合は、2000年の2.4%から1.1%へ。サラリーマンの割合は、16.0%から7.6%へ。多数は、経営者、自由業、芸術家、商店主といった人たちで、49.3%とほぼ半数を占めているそうです。特に、ストック・オプションや高額なボーナスを手にする経営者や芸能界のスター、IT産業や金融界の新興富裕層が、高級アパルトマンを購入しているとか。どこの国も、同じですね。

パリに住む人の、住宅に関する負担は重く、収入の22%が住宅関連に割かれているとか。全国平均では18%だそうで、いかにパリでは住宅費が負担になっているか、分かりますね。パリに住む人の収入は、全国平均を34%上回っているそうですが、それでも庶民にとって住宅取得は容易ではないようです。

不動産価格の急上昇の一因は、リーマン・ショック後の株価急落に懲りて、資金を不動産に回す投資家が増えたこと。ロンドンのシティで働くあるフランス人が、手持ちの株をすべて売り払い、その1,500万ユーロ(約17億2,500万円)という資金をパリの不動産に投資。12戸ほどのアパルトマンを購入し、賃貸に出しているそうです。株よりもパリの不動産、という判断なのでしょうね。確かに、パリの不動産はロンドンなどと比べて割安感があり、オイル・マネーが狙っていると数年前から言われていました。今やオイル・マネーだけではなく、様々な資金がパリの不動産に流入している。不動産バブル・・・

7区の病院跡地に建てられたアパルトマン191戸の建物。その半分近くが投資用だそうです。また、地方に住む人で、パリにアパルトマンを購入し、自分がパリに行ったときに滞在するとともに、空いている期間は旅行者などに貸し出す人も増えているそうです。自治体では、こうした住民登録しない不動産所有者が増えることを懸念しているとか。ウィークリー・アパルトマンなどが増えると、その地区に住む学童も減少し、教育にも影響してくる・・・日本でも、沖縄県が同じような悩みを抱えていると聞いています。別荘としてマンションやコテージを購入する人が増えている。結果、住民税は増えないが、住民サービスにかかる費用は増えてくる・・・

高嶺の花のパリのアパルトマン。その中でも特に高嶺の花の例も紹介されています。立地は高級住宅地で、広さ150㎡から200㎡のアパルトマン。価格は200万ユーロ(約2億3,000万円)ほどするそうです。こうした物件を購入できるのは、50万ユーロ(5,750万円)ほどの頭金があるか、すでに別の物件を所有している人でないと無理だそうで、しかもローンを払い続けるためには月収が2万ユーロ(約230万円)ないと苦しいとか。従って、こうした豪華なアパルトマンを購入できる層は、フランス国民の1%以下しかいないそうです。当然と言えば、当然ですが・・・

10月4日の『ル・モンド』(電子版)が、不動産融資の金利が3.3%と戦後最低レベルになったと伝えています。2005年第4四半期に3.36%だった金利が、2008年の第4四半期には5.07%にまで上昇。そこから一気に下落し、ついに戦後最低の3.3%へ。しかし、数パーセントの動き。不動産価格はここ15年で3.7倍。金利の低下は投資家にとってはいいニュースかもしれないですが、パリのアパルトマンが高嶺の花となってしまった庶民にとっては・・・

ということで、パリは不動産価格急上昇の真っ只中。以前からパリにお住まいで、ご自分のアパルトマンをお持ちの方、羨ましい! 中国の不動産バブルははじけ始めているとも言われます。今後パリの不動産はまだまだ上がるかもしれませんが、いつかは終わりが来る。投資をお考えの方は、どうか、ババを引きませんように。高嶺の花と眺めているだけの人間にとっては、ババを引く心配がないのが、せめてもの救いです、さびしい話ですが。