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弥助観音

2010年08月09日 | 祠・石碑
藁科川沿いの国道362号線を遡り、八幡のところで右折し、県道60号を10分ほど走ると、寺島という集落があります。

お茶を静岡にもたらした聖一国師さんが、地蔵尊を建立したことから“寺島”という町名がついたとの言い伝えがありますが、ここの氏神様が祭られている白髭神社の中段には、いくつかの石像が祀られています。

「顔の部分が割れてしまったのかな?」

以前、この場を訪れた時に、顔の部分がコンクリートでつなぎあわされている小さな石の像を見て、単に痛ましいものと感じただけでしたが、後から以下のようなこの像にまつわる言い伝えがあったことを知り、衝撃的でした。「野山の仏」という本に、紹介されていたお話を少し易しく言い直して再話します。

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『弥助観音』
ここがまだ駿州安倍郡寺嶋村と言われていた頃のこと、弥助というそれはとても利口な村人がいました。頭の鋭い人であったので、当時のお役人たちの矛盾や不合理なところを正しては、村人のために尽くし、村全体が幸せになるよう努めていました。けれども、役人の方としては、そんな弥助の働きが面白くない。このような人がいたのでは、村を思うように治めることができないと、弥助を召し捕ることに決めました。

ある朝、役人たちが捕まえにやって来ることを村人からの通報で知った弥助は、裏山に逃れて、桜の木によじ登り、枝影に隠れました。役人たちは、この周辺の地域きってのお金持ちであり、弥助の親友だった富沢(とんざわ)の六郎兵衛を先頭にして、鉄砲を持ってこの寺島に乗り込んできました。

寺島の橋を渡って弥助の家に到着した役人たちは、その家を守っていた弥助の母に罪状を告げて、「弥助はどこか」と存否を尋ねました。すると老母は、「いない」と息子の不在を告げながらも、息子の身を案じて、弥助の隠れている裏山の方をちらりと見てしまいました。「あそこだっ!」と役人たちと六郎兵衛は、弥助が山に逃げたことを察して、老母が目をやった山に向かいました。

「やすけさーん、やすけさーん」と大きな声で呼びかける六郎兵衛を先頭にしながら、山を登る役人たち。その声を聞いた弥助。もともと六郎兵衛とは親しい間柄だったので、これはてっきり、六郎兵衛が自分のことを救いに来てくれたものと思って、隠れていた桜の木の上から「ここだ、ここだ」と返事をしてしまいました。

“ズドーン・ズドーン・・・・”

弥助を見つけた役人たちは、いっせいに鉄砲を放ち、顔を撃たれた弥助は、もんどりをうって木から落ちる。それでもまだしばらくは息があったと見えて、側にきた役人たちと六郎兵衛の顔を見るなり、
「よくも六郎兵衛、私をだましおったな!救いにきたと思ったら、役人たちの道案内だったとは。生まれ変わって七代までもたたってやる!!」
と言い、息を引き取ったそうです。

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このような言い伝えが残る「弥助観音」の石像は、顔の部分が破損して三つに壊れた訳ではなく、人工的にはじめからわざと割って、それを組み立ててのせたものだそうで、弥助が鉄砲で打たれて顔を割られた有様をかたどったものと、その本には書かれてありました。

それを知って、この像と向かい合う時、“すさまじさ”に身の気がよだちます。

このお話を紹介した「野山の仏」の作者はこう結んでいます。

「・・・恐ろしいまでに強力な権力に、レジスタンスを感じ、正義を愛した弥助が、村人の不幸を代弁した結果が、この悲惨な銃殺になって死を遂げたことを、村人は我がことのように悲しんだに違いない。この石仏を見ていると、弥助の無念の顔や、村人の怒りに満ちた心が感ぜられるし、昔の不幸で暗かった時代を生きた農民の姿が浮かんでくるようである。」
(「野山の仏」戸塚孝一、金剛社、1963)

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2 コメント

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言い伝え話 (たろうずのママ)
2010-08-09 17:43:56
昨日、現地集合したため探しながら帰ったのですが…気がつけずに通り過ぎてしまったようです。残念
確かに こうして見ただけでは何もわからないですね。こんな言い伝えがあったとは…衝撃的です。

私も子どもと同じく、言い伝えというものに興味があるので、葉茶さんに聞けたこと 大変嬉しく思いました。
(仕事を通して興味を持ちました)

時間つなぎに話された…ということでしたが、ぜひぜひ多くの方々にも語り継いでくださいね
またお逢いできる機会がありましたら、葉茶さんのお話をたくさん聞かせてください。
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ありゃりゃ (葉茶)
2010-08-09 22:08:23
★たろうずのママさん

スルーしてしまったのですね、残念

道脇にある祠ではなく、カーブのところにある鳥居の上にあるので、分かりにくかったと思います
今度いらしゃる時はどうぞ一声お掛けください。近くの鍵穴には、これまたちょっと地元の人じゃないと気づくことができない、滝が大好きなお不動さんのお話があるので、こちらも要チェックです

お仕事を通して興味を持たれたとのこと。なんとも奥深いですよね。また何か面白いお話があったらぜひ教えてください

まだ、そらで話ができるのは4~5話しかありませんが、そのうち100話ぐらい覚えて、小さい子どもたちに語って聞かせることが出来る好々爺になりたいです

絵本も紙芝居も大好きですが、何もなくてもその場でできますもんね。次お会いする時まで、新しいお話、仕込んでおきます

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