米外交の真髄を掴めない
文氏は、日韓外交だけを見ても取り返しのつかない失敗を重ねている。
この視野狭窄的な振る舞いは、米国のバイデン政権にも向けられている。
米バイデン大統領は4月28日、就任99日目で初の施政方針演説をした。
バイデン氏が示した原則の根幹は、「米国の利益」と「同盟国」である。
米国の利益に合致する方向で、同盟国と協力強化を進めるという意味だ。
米国と同盟国を結ぶ共通の利益は、民主主義の価値を守ること。
民主主義を防衛する相手は、中国の専制主義である。
米国は、2021年国防予算に中国の軍事・経済強国化をけん制する目的の「太平洋抑止構想」項目を新設。22億ドル(約2,400億円)を配分する。
この予算は、インド太平洋地域で米軍資産を増やして領域内の同盟関係を増進するために使われる。
バイデン政権が、中国との全面対決を宣言し、その中心に「同盟国協力」を置いたことは、米韓同盟を結ぶ韓国にとって重大問題のはずだ。
米国の全面対決相手の中国と、例え経済問題といえども「二股外交」を行なう余地はないはずだ。
しかも、中韓外務・防衛「2+2会議」の開催まで行なうとは、米国にとっては傍観できない事態であろう。
米国の機密情報が、中国へ漏れるリスクが高まるからだ。
韓国は、こうした米中対立の激化を正確に把握していないようだ。
米国に対して、インド太平洋戦略対話の「クアッド加入」を確約せず、
のらりくらりしている背景には、文政権独特の朝鮮半島「平和論」が影響している。
米国につかず離れずの外交姿勢で、朝鮮半島の平和を維持しようというものだ。
大統領統一・外交・安保特別補佐官であった文正仁(ムン・ジョンイン)氏である。
その外交論は、次のようなものだ。
空想的外交論に嵌る韓国
韓国が、米中対立の中で米国側に立てば朝鮮半島の平和と繁栄を維持するのは難しい。
それゆえ、1つの陣営に属さない「超越的外交」が、韓国の進む道という考えである。
中立論は、他国の善意に自国の安全保障を託するという空想的平和論である。
ドイツ哲学者カントは、著書『永遠平和のために』(1795年)において次のように強調している。
共和国(民主主議国)が、専制主義国家に対抗する手法は「共和国同盟論」であると主張した。
あのカントが説いた、現実的平和論である。
朝鮮戦争が、なぜ起こったかを考えれば理解できるだろう。
当時の米国は、韓国防衛に関心を持っていなかった。
北朝鮮・ソ連・中国は、この間隙を突いて38度線を越えて侵攻した。
こういう歴史的事実を考えれば、米国の韓国に対する無関心が悲劇を生む原因になった。
その後は、韓国が米国と同盟を結んでいるから、新たな侵攻を食い止めている。
現に、北朝鮮は核開発を活発に行なっている。侵攻の機会を狙っているのだ。
北朝鮮の後ろには中国が控えている。
北朝鮮は現在、中国の「傀儡政権」化しつつある。
この中朝が、軍事的に一体化して韓国に対抗している。
この事実を見落としては、極めて危険である。
中朝が緊密化すれば、米韓が一体化して防衛力を固め対応することは当然なのだ。
韓国の「バランス外交」は、この現実的対抗策を忘れている。
朝鮮戦争以前の危険な空白状況へ、韓国を戻せという暴論に等しい議論である。
北朝鮮が動けば韓国は戦場と化す
北朝鮮は5月2日、バイデン米大統領の施政方針演説に反発した。
バイデン氏は、「外交と断固たる抑止」を通じ北朝鮮の核脅威に対応すると表明したが、これを「大きな失敗」とし相応の措置を講じると警告した。
また、米国が北朝鮮の人権状況を批判したことについて、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)への冒涜だと強く批判した。
『聯合ニュース』(5月2日付)が伝えた。
前記の「バランス外交」は、北朝鮮の出方ひとつで破綻する危険なアイデアである。
とうてい韓国の外交方針として受け入れ難い空想論である。
朝鮮半島で軍事紛争が起これば、日本も甚大な影響を受ける。
米国は、日米韓3ヶ国安保論の重要性を主張する。
その根拠が、ここにあるのだ。
それは、韓国がクアッドへ加入することでもある。
韓国の安全保障は、インド太平洋戦略の一環として捉える段階に来ているのである。