“慰安婦問題”を追及する韓国に刺さった、「ベトナム人虐殺」というブーメラン
5/18(火) 7:01配信
現代ビジネス
4月5日、韓国でとある“事件”が報じられた。
韓国の情報機関である国家情報院(以下、国情院)が、韓国最高裁判所の判決を「事実上拒否した」ともとれる対応を見せたのだ。
すべての始まりは、今から50年以上も前のベトナム戦争にて、韓国軍が民間のベトナム人をむごたらしく虐殺したことである。
韓国軍による悲惨な虐殺
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フォンニィ・フォンニャット虐殺、タイヴィン虐殺、ゴダイ虐殺、ハミ虐殺、ロンビン虐殺…。
韓国軍によるベトナム人虐殺と暴行の被害者は、判明しているだけで30万人いると言われている。
なかでも青龍部隊(チョンリョン)と猛虎(メンホ)部隊の2つは、冷酷無比な殺人者集団の“鬼畜部隊”とされている。
韓国政府を相手取って訴訟を起こしたグエン・ティ・タン氏の村を襲ったのは、前者の青龍部隊だった。
タン氏が被害に遭ったのが、「フォンニィ・フォンニャット事件」だ。
1968年2月12日、南ベトナムのクアンナム省ディエンバン市(当時ディエンバン県)のフォンニィ・フォン二ャット村で、大韓民国海兵隊第2海兵旅団(青龍部隊)によって住民70余名が殺害された事件である。
同日の早朝、韓国軍の戦車が幹線道路で地雷を踏んで爆発したため、近くにあった同村を攻撃したとされる。
この事件でタン氏は韓国軍の銃撃を受けて負傷したが、なんとか一命を取り留めた。
しかし撃たれた腹部に傷跡が残ったうえ左耳も聞こえなり、被害から50年経ったいまでも後遺症に悩まされているという。
また、彼女の兄も銃で撃たれて重傷を負い、母親と弟は殺害された。
被害者が勝訴したものの…
2017年8月、虐殺の生存者であるタン氏の代理人団は、国情院に対して情報公開請求を行った。
「1969年11月、中央情報部(現在の国情院)が青龍部隊1大隊1中隊の3人の小隊長を調査した際の、報告書や尋問調書といった文書のリスト」の公開を求めたが、国情院が拒否したことで、同年11月に訴訟へと移行した。
1審と2審ではタン氏側が勝訴し、情報公開は正当という判決が下されている。
しかし国情院は
「当該資料が公開されると、国の重大な利益を著しく害する恐れがある」
「調査当事者のプライバシーが侵害される可能性がある」などと理由を述べて、公開を拒否してきた。
3月25日、最終審の最高裁判所は「韓国政府が虐殺事件の関係者を調査したか否か、といった歴史的な事実を確かめるために必要な史料であり、公開するだけの価値があると認められる」と判断し、上告を棄却。
タン氏側がの請求を認めて、国情院に対して情報公開を求める判決を下した。
最高裁の確定判決を受けたタン氏と代理人は、3年8ヵ月法廷闘争を経て、ようやく資料が公開されると安堵したという。
だが4月5日、開示された資料に書かれていたのは、次のたった15文字だった。
韓国世論の反応はいかに?
凄惨な虐殺の生存者に対して、韓国政府はこのように信じられない対応を取っている。
その一方で、韓国の歴代大統領は、ベトナムとの首脳会談の場で謝罪の意を表明してきた。
その言葉を参照しておこう。
2001年:金大中
「本意ではなくベトナム国民に苦痛を与えてしまい、申し訳なく思う」
2004年:廬武鉉「我が国民は(ベトナム国民に対して)心の借りがある」
2018年:文在寅「両国の間の不幸な歴史に対して、遺憾の意を表明する」
この通り3人の大統領が事件に言及しているが、タン氏の代理人団は、「韓国政府は虐殺に関しては明確に謝罪していない」と指摘する。
50年が経過してもまだ被害者は救済されていないため、タン氏のように、法廷で虐殺の全容を解明して韓国政府の責任を追及する以外に方法はない。
韓国の教科書では、慰安婦問題や徴用工問題は必習項目となっており、事細かく教えられる。
しかし自らが加害者であるベトナム問題については、まったくと言っていいほど教育されていない。
そのため、韓国軍による虐殺や強姦があったことすら知らない韓国人が多いのだ。
しかし昨今はインターネットの普及や支援団体らの積極的な活動によって、徐々に一般市民の間にも知れ渡ってきている。
このようなベトナム戦争での問題に対し、韓国世論の中には「謝罪と補償を行うべき」という意見も多い。
その中の一部は、
「自らの過ちを認め、賠償しないのであれば日本と同レベルだ」
「我々が日本と違うということを見せてやろう」 「日本とは違う道を歩もう! 真相を解明し、韓国側に過ちがあったのなら謝罪をし、補償して責任を負わなければならない」
「日本の慰安婦、強制徴用に謝罪を要求するのであれば、我々も責任を負わなければならない」
といったように、日本を引き合いに出している。
また虐殺問題だけでなく、韓国軍人とベトナム人の間に生まれた子ども「ライダイハン」が現地に置き去りにされた問題も、未解決のまま残っている。
2019年5月、ライダイハンのトラン・ダイ・ナット氏ら3名は、「国連人権理事会による問題の調査と、親子関係を確定するためDNA型鑑定に応じるとともに、公式な謝罪を求める」という公開書簡を文在寅大統領に提出した。
しかし文在寅政権は沈黙を貫いていて、その後の進展はない。
目に余るダブ
今年の新年演説での文在寅大統領
こうした問題に対して、加害者である韓国政府はもちろん、被害者側のベトナム政府も積極的に解決しようとはしていない。
ベトナム政府が黙殺するのは、韓国企業による膨大なベトナム投資が理由と言われている。
昨年11月に発表された「2020年10カ月間 国家別対ベトナムFDI投資規模順位及び比率(大韓貿易投資振興公社)」によると、
国別の対ベトナム投資の1位はシンガポール(75億1000万ドル、31.9%)で、2位は韓国(34億2000万ドル、14.6%)、3位は中国(21億7000万ドル、9.2%)となっている。
貿易額も似たようなものだ。
ベトナム税関総局が2019年に発表した輸入相手先の1位は中国(754億5194万ドル)で、
2位が韓国(469億3458万ドル)、
3位は日本(195億2552万ドル)である。
この通り、ベトナムにとって韓国は経済面での友好国のひとつであり、サムスン電子をはじめ韓国系企業が次々とベトナムに進出している。
そのため韓国との関係を重視するベトナム政府は強く出られず、過去の悲惨な事実を黙認しているのだ。
文在寅大統領をはじめ歴代の韓国大統領は、日本に対して「謝罪と賠償」を繰り返し要求し、日本政府もそれに応じて何度も「謝罪と賠償」を重ねてきた。
日韓問題と韓越問題を一概に比較することはできないが、日本には過去に対する謝罪を要求するにもかかわらず、頑なにベトナム戦争での事実を認めようとしない韓国政府のダブルスタンダードな態度は言語道断であろう。
自らの行動を棚に上げて、日本を責め続けてきた韓国だが、虐殺から50年が経った今、ようやくブーメランとなって返ってこようとしている。
「『(相手の立場になって考える)易地思之』の姿勢で額を突き合わせれば、過去の問題もいくらでも賢明に解決できるだろう」 今年の新年演説で、文在寅大統領が日本に対して述べた言葉である。
当時の被害者は、まだ何人か生存している。
韓国政府は一刻も早く事実を確認して、被害者らが生きているうちに謝罪と賠償を行うべきである。
新年演説が本心から出たものであるならば、文在寅大統領が取るべき道は明らかであろう。
羽田 真代(ライター)