誰でも母国への思いは深い。
ただ、それは客観的な尺度でなければならない。
在日韓国人経済学者が、韓国人の生活は日本人よりも上であるという寄稿を韓国紙へ投稿した。
韓国の高い失業率や低い年金支給という実態から見て、首をひねる内容である。
韓国の高い失業率については、世間周知のことである。
韓国の高齢者貧困率が他の国と比べて高い理由は、公的年金(国民年金、公務員年金、軍人年金、私学年金)が給付面においてまだ成熟していないことが挙げられる。
2019年現在、公的年金の老齢年金の受給率は約53.2%で、まだ多くの高齢者が公的年金の恩恵を受けていない状況だ。
日本は、国民皆年金である。
要するに、100%受給である。
こういう状況を見て、韓国が日本より生活水準が上であるという指摘には驚かされる。
『ハンギョレ新聞』(5月4日付)は、「日本は韓国より貧しくなったのか」と題する寄稿を掲載した。筆者は、イ・ガングク立命館大経済学部教授である。
「なぜ日本は韓国より貧しくなったのか」。
先日、日本のメディアに掲載されたある記事のタイトルだ。
近くて遠い国である日本は、韓国にとって常に追いつきたい対象であり、日本にとって韓国は一段格下の相手だっただろう。もはやそうではない。
(1)「国際通貨基金によれば、市場為替レートに基づく1人当り名目国民所得は2020年に日本が4万0146ドル、韓国は3万1497ドルで日本の方が高い。
日本の物価上昇率が低いため、実質国民所得の差はさらに大きい。
それでも1990年には日本の国民所得が韓国の約3.9倍であったから、
日本が長期不況を経る間に韓国がとてつもなく急速に追撃してきたわけだ」
1990年は、日本の生産年齢人口比率がピークであった。
その後は、生産年齢人口比率が低下に向かっている。
つまり、1990年までは「人口ボーナス期」で潜在成長率は上昇した。
1991年以後は、「人口オーナス期」で潜在成長率が下降段階である。
韓国は、生産年齢人口比率のピークが2014年である。
この前後で、韓国の潜在成長率は上りから下りに変わっている。
こういう人口動態変化を見れば、韓国が、日本経済を最も追い上げた時期は終わったのである。
日韓ともに潜在的成長率は下降へ向かっているが、韓国には合計特殊出生率が世界一低いという事実がある。
日本よりも生産年齢人口比率の落勢スピードが高まり、経済成長率は急減速へ向かうはずだ。
これが、経済学知識で解明できる最新分析である。
(2)「この数値は為替レートの変化に敏感で、開発途上国ではサービス価格が低いため、国際比較では通貨の実質購買力を示す購買力平価為替レートをよく使う。
完ぺきな指標ではないが、これで比較すると韓国は日本よりもすでに国民所得が高くなっている。
購買力平価為替レートで計算した1人当り実質国民所得は、2018年に韓国が4万1409ドル、日本が4万1001ドルであり、韓国と日本は逆転した。
1990年にはこの基準での日本の国民所得が韓国の約2.6倍だったがすでに逆転し、
2026年には差がさらに広がって韓国が約4万9000ドル、日本が4万4000ドルになる展望だ。
現実でも韓国の物価や賃金、そして生活水準は日本より低くないと感じられる」
各国における経済規模の比較は、ドル換算である。
日本の場合、2009年以降にそれまでの円高から円安基調へ大きく転換した。
円高・円安の尺度は、購買力平価(卸売物価基準)による。
この購買力平価では、日本は円安に推移している。
それゆえ、GDPの総額や国民総所得(GNI)は、ドル換算では低く計算されるという特性を頭に入れていただきたい。
日韓の一人当たり購買力平均GNIを求めると、次のようになっている。
世界銀行調べ、2019年データである。カッコ内は、一人当たり名目平均GNIである。
日本 4万4810ドル (4万1513ドル)
韓国 4万3520ドル (3万2422ドル)
中国 1万6790ドル ( 9980ドル)
2019年の一人当たり購買力平均GNIを世界銀行データで見ると、日韓は逆転していない。
日本が韓国を上回っている。
ただ、購買力平価による比較は、物価レベルが低いほど有利な数字が出てくる。
ちなみに、購買力平価換算と実数の名目GNIを比べれば、大きな乖離が見られる。
日本は1.079、韓国1.342、中国1.682である。
つまり、購買力平価で換算した一人当たり名目GNIは、前記の倍率だけ大きく膨らむ。
経済発展段階が低いほど、購買力平価換算が実数を膨らませてみせる。
その原因は、サービス価格のレベル違いである。
もっとはっきり言えば、労働価値が低い評価なのだ。
12年ほど前、ソウル近郊で夕食を取ったことがある。
焼き肉と酒をたっぷり飲み食いして、一人1000円で済み仲間と目を丸くした。
この韓国の実態から見て、購買力平価の高さを鵜呑みにするのは、実態とかけ離れて危険である。
韓国は、自ら経済発展レベルの低さを自慢するに等しい愚行なのだ。
(3)「もちろん国民所得の数字が示し得ない種々の差も存在する。
高齢者の貧困と青年失業問題は韓国の方がより深刻だが、
高齢化と財政問題では日本の方が深刻だ。
暮らしの不安定さは韓国の方が大きいかも知れないが、社会の活力は韓国の方が高く見える。
何よりも両国はお互いの社会を見て教訓を得られる隣国であることを忘れてはならない。
例えば韓国は、日本から低成長と人口変化の準備だけでなく、大企業と中小企業の格差の小ささや、最近の労働市場改革に関して学ぶ点が多い。
日本は情報通信など新産業の躍動性や労働者の賃金を上げるための努力に関して韓国から学ぶべきだろう」
「高齢化と財政問題では日本の方が深刻」としている。
これは逆であって、韓国が日本以上に深刻である。
韓国の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子どもの数)は、世界最低の「0.84」(2020年)である。
日本は1.30台である。
韓国は、昨年から人口減少期になり、予測よりも7年前倒しである。
最大の問題は、
年金受給率が53.2%と年金制度の未成熟のまま人口減少期入りして、社会保障制度を維持できない懸念が生じる。
日本の財政は、MMT(現代貨幣理論)によって維持可能性が立証されている。
現在の米国バイデン政権が、このMMTにそって政策運営している。
日本の場合、経常収支が黒字を維持し、財政支出が研究開発など成果を生む分野であることが、財政破綻を招かない理由である。
年金制度も成熟している。韓国とは、全く事情は異なるのだ。
誰でも母国への思いは深い。
ただ、それは客観的な尺度でなければならない。
在日韓国人経済学者が、韓国人の生活は日本人よりも上であるという寄稿を韓国紙へ投稿した。
韓国の高い失業率や低い年金支給という実態から見て、首をひねる内容である。
韓国の高い失業率については、世間周知のことである。
韓国の高齢者貧困率が他の国と比べて高い理由は、公的年金(国民年金、公務員年金、軍人年金、私学年金)が給付面においてまだ成熟していないことが挙げられる。
2019年現在、公的年金の老齢年金の受給率は約53.2%で、まだ多くの高齢者が公的年金の恩恵を受けていない状況だ。
日本は、国民皆年金である。
要するに、100%受給である。
こういう状況を見て、韓国が日本より生活水準が上であるという指摘には驚かされる。
『ハンギョレ新聞』(5月4日付)は、「日本は韓国より貧しくなったのか」と題する寄稿を掲載した。
筆者は、イ・ガングク立命館大経済学部教授である。
「なぜ日本は韓国より貧しくなったのか」。
先日、日本のメディアに掲載されたある記事のタイトルだ。
近くて遠い国である日本は、韓国にとって常に追いつきたい対象であり、日本にとって韓国は一段格下の相手だっただろう。もはやそうではない。
(1)「国際通貨基金によれば、市場為替レートに基づく1人当り名目国民所得は2020年に日本が4万0146ドル、韓国は3万1497ドルで日本の方が高い。
日本の物価上昇率が低いため、実質国民所得の差はさらに大きい。
それでも1990年には日本の国民所得が韓国の約3.9倍であったから、日本が長期不況を経る間に韓国がとてつもなく急速に追撃してきたわけだ」
1990年は、日本の生産年齢人口比率がピークであった。その後は、生産年齢人口比率が低下に向かっている。
つまり、1990年までは「人口ボーナス期」で潜在成長率は上昇した。
1991年以後は、「人口オーナス期」で潜在成長率が下降段階である。
韓国は、生産年齢人口比率のピークが2014年である。
この前後で、韓国の潜在成長率は上りから下りに変わっている。
こういう人口動態変化を見れば、韓国が、日本経済を最も追い上げた時期は終わったのである。
日韓ともに潜在的成長率は下降へ向かっているが、韓国には合計特殊出生率が世界一低いという事実がある。
日本よりも生産年齢人口比率の落勢スピードが高まり、経済成長率は急減速へ向かうはずだ。
これが、経済学知識で解明できる最新分析である。
(2)「この数値は為替レートの変化に敏感で、開発途上国ではサービス価格が低いため、国際比較では通貨の実質購買力を示す購買力平価為替レートをよく使う。
完ぺきな指標ではないが、これで比較すると韓国は日本よりもすでに国民所得が高くなっている。
購買力平価為替レートで計算した1人当り実質国民所得は、2018年に韓国が4万1409ドル、日本が4万1001ドルであり、韓国と日本は逆転した。
1990年にはこの基準での日本の国民所得が韓国の約2.6倍だったがすでに逆転し、2026年には差がさらに広がって韓国が約4万9000ドル、日本が4万4000ドルになる展望だ。
現実でも韓国の物価や賃金、そして生活水準は日本より低くないと感じられる」
各国における経済規模の比較は、ドル換算である。
日本の場合、2009年以降にそれまでの円高から円安基調へ大きく転換した。
円高・円安の尺度は、購買力平価(卸売物価基準)による。
この購買力平価では、日本は円安に推移している。
それゆえ、GDPの総額や国民総所得(GNI)は、ドル換算では低く計算されるという特性を頭に入れていただきたい。
日韓の一人当たり購買力平均GNIを求めると、次のようになっている。世界銀行調べ、2019年データである。
カッコ内は、一人当たり名目平均GNIである。
日本 4万4810ドル (4万1513ドル)
韓国 4万3520ドル (3万2422ドル)
中国 1万6790ドル ( 9980ドル)
2019年の一人当たり購買力平均GNIを世界銀行データで見ると、日韓は逆転していない。
日本が韓国を上回っている。
ただ、購買力平価による比較は、物価レベルが低いほど有利な数字が出てくる。
ちなみに、購買力平価換算と実数の名目GNIを比べれば、大きな乖離が見られる。
日本は1.079、韓国1.342、中国1.682である。
つまり、購買力平価で換算した一人当たり名目GNIは、前記の倍率だけ大きく膨らむ。
経済発展段階が低いほど、購買力平価換算が実数を膨らませてみせる。
その原因は、サービス価格のレベル違いである。もっとはっきり言えば、労働価値が低い評価なのだ。
12年ほど前、ソウル近郊で夕食を取ったことがある。
焼き肉と酒をたっぷり飲み食いして、一人1000円で済み仲間と目を丸くした。
この韓国の実態から見て、購買力平価の高さを鵜呑みにするのは、実態とかけ離れて危険である。
韓国は、自ら経済発展レベルの低さを自慢するに等しい愚行なのだ。
(3)「もちろん国民所得の数字が示し得ない種々の差も存在する。
高齢者の貧困と青年失業問題は韓国の方がより深刻だが、高齢化と財政問題では日本の方が深刻だ。
暮らしの不安定さは韓国の方が大きいかも知れないが、社会の活力は韓国の方が高く見える。
何よりも両国はお互いの社会を見て教訓を得られる隣国であることを忘れてはならない。
例えば韓国は、日本から低成長と人口変化の準備だけでなく、大企業と中小企業の格差の小ささや、最近の労働市場改革に関して学ぶ点が多い。
日本は情報通信など新産業の躍動性や労働者の賃金を上げるための努力に関して韓国から学ぶべきだろう」
「高齢化と財政問題では日本の方が深刻」としている。
これは逆であって、韓国が日本以上に深刻である。
韓国の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子どもの数)は、世界最低の「0.84」(2020年)である。
日本は1.30台である。
韓国は、昨年から人口減少期になり、予測よりも7年前倒しである。
最大の問題は、年金受給率が53.2%と年金制度の未成熟のまま人口減少期入りして、社会保障制度を維持できない懸念が生じる。
日本の財政は、MMT(現代貨幣理論)によって維持可能性が立証されている。
現在の米国バイデン政権が、このMMTにそって政策運営している。
日本の場合、経常収支が黒字を維持し、財政支出が研究開発など成果を生む分野であることが、財政破綻を招かない理由である。
年金制度も成熟している。韓国とは、全く事情は異なるのだ。