文在寅が“自爆”…世界の投資家が「韓国株」と「ウォン」を売っているワケ
2/1(月) 6:02配信
真壁 昭夫(法政大学大学院教授)
株価が下がっている…
真壁 昭夫(法政大学大学院教授)
写真:現代ビジネス
1月26日、韓国銀行(中央銀行)は2020年10~12月期と通年のGDP(国内総生産)の速報値を発表した。 10~12月期の実質GDP成長率は、前期比でプラス1.1%と景気回復の兆候が見られた。
これにより、2020年通年の成長率は前年比1.0%と減と小幅なマイナスにおさまった。
2020年のマイナス成長の要因は、春先以降の新型コロナウイルスの感染発生によって人の動線が絞られ消費や輸出が減少したことだ。
GDPの発表後、ソウルの株式市場では韓国総合株価指数(KOSPI)が予想に反して下落した。
また、外国為替市場ではウォンが売られる場面もあった。
その背景にあるのは、主要投資家が先行きの韓国経済への警戒を強めたことだ。
韓国経済の先行きに対する根強い不安があるのだろう。
為替のディーラーの一人は、「足許の世界的な半導体市況を考えると、2020年後半の韓国経済の回復力は期待外れ」と指摘していた。
世界的な半導体需要の高まりの割には、サムスン電子の業績に物足りなさを感じる投資家もいる。
サムスン電子の10~12月決算は増益だったが、決算発表後に株価は下落した。 少子化や家計債務の増加など多くの国が抱える問題が韓国では特に深刻だ。
不透明感高まる韓国の輸出の先行き
韓国から輸出されていく自動車〔PHOTO〕Gettyimages
韓国経済の特徴の一つに輸出依存度の高さがある。
1997年7月の“アジア通貨危機”や2008年9月の“リーマンショック”など、世界経済が大きく混乱した後の韓国経済は、輸出が増加して内需が回復し経済成長率が高まるという回復パスをたどった。
品目別にみると、テレビなどの電気製品や半導体、鉄鋼、自動車などの輸出が増えた。
地域別にみると、中国への輸出が増加した。
外需主導での景気回復パスをミクロの観点から考えると次のようになる。
サムスン電子などの大手企業は、世界経済の不安定感、あるいは減速懸念が高まる状況下で設備投資を積み増した。
それによって韓国企業は価格競争力を高め、景気回復局面における海外需要を取り込み、業績は拡大した。
そうした過去の景気回復パスにもとづくと、今後、韓国経済がプラス成長を実現するために輸出の増加は欠かせない。
ただし、足許の世界経済の環境の変化を踏まえると、サムスン電子が世界の半導体市場でより多くのシェアを獲得するなどして輸出が増え、景気が回復すると考えるのは早計だ。
なぜなら、半導体業界では台湾企業の競争力向上が顕著だからだ。
足許の世界経済では自動車など各国企業の半導体調達が“台湾積体電路製造(TSMC)頼み”の状況にある。
また、サムスン電子と異なり台湾の半導体各社は設計・開発と生産を分離し、各企業が得意分野に注力している。
その分、台湾勢は変化に対応しやすい。
中国は“中国製造2025”の実現に向けて台湾半導体業界などから人材を獲得し、韓国勢を追い上げている。
今後の世界経済の展開はコロナウイルスの感染がどう収束するかに左右されるが、韓国への逆風は強まっているようだ。
今後の展開が懸念される韓国の内需
今後、韓国の内需は低迷する恐れがある。
ワクチンの接種が進めば一時的に内需は上向くと予想されるものの、内需が厚みを増す展開は想定しづらい。
まず、少子化が進む中で若年層の失業率が高止まりしている。
それは、社会全体でのリスクテイクを抑制し、経済格差を拡大させる要因だ。
また、労働組合の影響力が強いため、企業が長期の視点で韓国に投資することは難しい。
それは、雇用・所得環境の本格的な改善を妨げる要因だ。
また、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の対日政策も内需に無視できない影響を与える。
世界的に半導体産業などで水平、あるいは垂直分業が加速している。
それにもかかわらず、文氏はわが国の輸出管理手続きの厳格化に対抗して半導体関連部材の国産化を目指した。
その結果、2020年の韓国のフッ化水素の対日依存度は低下した。
一方で、わが国化学メーカーの業績は総じて好調だ。
純度99.999999999%(イレブンナイン)のフッ化水素分野でのわが国企業の競争力は依然として高い。
また、2020年、韓国のわが国からのレジストとフッ化ポリイミドの輸入は増えた。
本来、韓国政府はより円滑な高品質素材の調達を重視すべきだ。
それが企業の柔軟かつ効率的な事業運営と景気の回復に果たす役割は大きい。
足許、表面的には変化の兆しが出ているが、就任後から文大統領が対日強硬姿勢をとったことは韓国経済にマイナスだ。
家計債務の増加と不動産価格の高騰の影響も軽視できない。
不動産価格の調整リスクが顕在化すれば、韓国からは急速に資金が流出する恐れもある。
他方で、金融と財政政策の追加的な発動余地は狭まっている。
今後、どのように韓国が経済の安定と成長を目指すかは、世界各国にとって重要な先行事例となるだろう。
真壁 昭夫(法政大学大学院教授)