北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑥ 国産装備は高いのか?

2012-10-01 23:19:06 | 防衛・安全保障

◆いつのまにか価格論議から性能談義へ

 防衛産業、この話題の中で国産装備品は割高である、という点がその昔は強調されていました、これは正しいのでしょうか。

Aimg_6834 今回は、比較対象の違いなどの指摘や稼働率の問題を次回以降として、単純に高いというのは本当か、という部分に話を絞りましょう。護衛艦やミサイルなどは、これを提示しますと少々時間がかかりますので次回以降に。そしてもちろん、量産効果に限界があるものの防衛上の必要から維持されている弾薬や一部の装備品についてはその指摘が間違っている、というわけではありません。なんでもM-1A1戦車は3億5000万で90式は12億、という話、湾岸戦争の頃に盛んでした。

Bimg_6745 しかし、90式戦車は当時生産開始直後の時期であり、M-1戦車は量産開始から軌道に乗り価格が押さえられている状況で、比較対象としては余り妥当とは言えない条件の違いがあるほか、M-1A2戦車が導入開始される頃には電子装備品の取得費用における比重が大きくなり、取得費用は輸出価格で1600万ドル程度と大きくなっています。90式戦車と同世代の第三世代戦車では最も高性能な車両として提示されるレオパルド2戦車もスペインの輸出しようレオパルド2A6の改良型は国際市場に提示された当時邦貨にして16億という数字が出ました。

Bimg_6288 その頃に日本の90式戦車の取得費用は一両当たり8億円の大台を下回るころとなっており、実のところ日本の戦車は国産で開発費用を負担した国内向けではあるのですが、かなり諸外国よりも低い費用で取得できている、という印象があります。日本製の戦車の方が安価、という数字がWebにより広まり始めたころには、専門家ではない方々の中で識者を名乗る方には既に国産は割高である、という視点が固着していた頃ですが、高い、という数字を提示された方々は、そうではない、という数字を提示されると、電装品やデータリンク機能で劣っている分安いのだ、という実情を提示してきています。

Bimg_5992 このほかで、陸上自衛隊の96式装輪装甲車の取得費用は1億円を割り込みましたが、同時期に米陸軍において制式化され大量生産が開始されたストライカー装輪装甲車は取得費用が140万ドルという数字が提示されており、これにたいして我が国の96式は車高を考えすぎたため底面形状が地雷に弱いという点や車幅を気にしすぎたため傾斜装甲を側面に採用できなかったので防御力に問題がある、という価格面の問題を後ろに回した性能面が強調されるようになりました。

Bimg_5914 自衛隊装備の価格面での競争力は、勿論我が国での運用を念頭とした特殊性から海外への販路が開けるかという点とは別の問題となりますが、例えば高い高いといわれた89式装甲戦闘車、末期には年産一両という生産設備維持生産が続けられていた中で一両当たり7億円となっていたのですが、諸外国では重装甲戦闘車として知られるドイツのプーマ装甲戦闘車が取得費用にして13億円と、二倍近い価格で提示されています。89式装甲戦闘車は熱線暗視装置と対戦車ミサイル搭載により費用が大きくなりましたが、ここまで極端ではありません。

Aimg_6797 車体価格では89式装甲戦闘車について、概ね40mm機関砲を搭載したスウェーデンのCV-90装甲戦闘車の輸出仕様と同程度であり、量産最盛期、と言っても5~10両の生産ではありましたが、この場合の費用でも、取得費用の欧州オーストリアスペイン共同開発の価格を抑え部品汎用性を考慮したウラン/ピサロ装甲戦闘車と同程度に抑えることが出来ています。そして驚くべきことなのですが、装軌式装甲車よりも生産費用を抑えられるという装輪装甲車で、機関砲塔と火器管制装置を充実させたフランスのVBCI装甲車が5億5000万円程度ですので、89式装甲戦闘車、実は言われるほど高くないのです。

Aimg_6077 高い安いという点を挙げますと、自衛隊の装備品は、高い、とこれまで固定された概念で観られていた装備品を、今日改めてみてゆきますとそこまで高くない、というものが多くあります。そして、安い、として提示されている価格には事情がある、例えば商品の社員向け価格ではありませんが開発費を負担している自国向けであるとか、もしくは東西冷戦時代における友好国信頼醸成の主砲として安価な数字を提示して割安に、一種政府援助による赤字補填とともに提示されている部分、もしくは消耗品が多く維持費が大きい、という事例も無視できません。

Bimg_6907 さて、性能面から見ますと、近代化改修を制度上制限している、もしくは制式化という我が国の行政手続き上近代化改修を難しい、という部分を以て装備品の性能が遅れている、という指摘をする向きもありますが、基本性能は戦車や火砲については自動装填装置技術など高いものがりますし、基幹連隊指揮統制システムや特科情報システムのように遅れている部分は可能な範囲内で近代化は図られています。そして例えばM-1戦車も現在最新のM-1A2SEPv2へ改修が行われているのですが、この費用は少なくありません。

Bimg_6599 この点、海外装備品は進んでいる、という点について、進んでいるのではなく進めるために追ア費用負担を行っている、というものであり、それだけ多くの費用を要するということ、これを我が国が導入したとしても取得費用に近代化改修の費用は含まれていません。同時に言換えるならば、同じように費用を投入すれば、開発国である我が国では国産装備の方が自由な、性能か費用重視かの面で含め近代化改修の裁量を有することとなります。そういった面からも、国産装備は、勿論すべてではありませんが、取得費用の面で有利なものがあるといえるでしょう。

北大路機関:はるな

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