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サウジアラビア油田攻撃事件!世界石油生産5%爆破,七七〇km先狙うイエメン自爆無人機

2019-09-19 20:02:16 | 防衛・安全保障
■イラン製巡航ミサイルに酷似
 長距離ミサイル技術の拡散防止は1990年代より世界各国が取り組んだ課題ですが、成果は実らず、我が国を含め世界は新しい脅威に直面しました。

 無人航空機の技術を応用するならば、技術的に難しい巡航ミサイルを比較的簡単に製造できるのではないか、サウジアラビアへのイエメンフーシ派武装勢力による無人機攻撃は新しい脅威を突き付けた構図です。つまり1000km飛行できる無人機があれば、ドローンの誘導技術を応用する事で長距離打撃力とできる、新しいミサイル脅威拡散といえましょう。

 サウジアラビア国営サウジアラムコの油田施設が9月14日、大規模な長距離攻撃を受けました。攻撃された油田はサウジアラビア東部のクライスとペルシャ湾沿岸のアブカイクの施設であり、サウジアラビア内務省の発表では17発の誘導弾乃至無人機が命中したと発表しています。攻撃の数時間後、イエメン武装勢力が無人機10機による攻撃を声明しました。

 Quds-1無人機が今回の攻撃に用いられたことがサウジアラビア政府による残骸の公開で判明しています。これはイランのスーマルやロシアのKh-55/AS-15ケント巡航ミサイルと類似した形状の本体にチェコ製PBS/TJ-100ジェットエンジンの本体もしくはコピー品を搭載したもので、TJ-100ジェットエンジンそのものは軽飛行機用に供給されているものです。

 Quds-1無人機の原型はKh-55巡航ミサイルをイランがコピーしたスーマル巡航ミサイルと、されています。Kh-55巡航ミサイルはウクライナ製JSC R95-300ジェットエンジンを採用していますがPBS/TJ-100はJSC R95-300よりも推力は低くなっています。しかしQuds-1無人機はカメラは有さずGPS誘導の体当たり専用、定義としてはミサイルに近い。

 サウジアラムコの油田施設攻撃は世界に衝撃を与えました、二箇所の油田施設攻撃による被害はサウジアラビアの石油産出量において実に半分を操業停止とする規模であり、一回の攻撃で全世界の石油生産量に置いて実に5%の生産が停止したのです。これは即座に石油先物取引市場に暴騰を呼び、サウジ政府が早期操業再開見通しを発表するまで続きました。

 防空軍、サウジアラビアは陸軍と空軍から独立した強力な防空軍が置かれていますが、今回の攻撃を防ぐことはできず、今後はサウジアラビア空軍が保有するE-3早期警戒管制機による巡航ミサイル低空侵攻警戒強化や、場合によっては更なるサーブ2000やE-2D等早期警戒機の増強、そして空軍と防空軍のデータリンク強化等が喫緊の課題となりましょう。

 防空軍、サウジアラビア軍には陸軍や空軍とは別の地対空ミサイルと対空レーダーに特化した軍として防空軍が編成されています。その装備も決して小規模なものではなくペトリオットミサイル16個大隊、PAC-2/3システム96基、MIM-23-Bホーク地対空ミサイル128基、更に近年は弾道ミサイル脅威へ対抗すべくTHAAD迎撃ミサイル7個中隊を配備した。

 230発のミサイルを迎撃している、これは有志連合関係者の発言を18日にロイター通信が報じた発言です。予算が潤沢という部分は重要であり、サウジアラビア防空軍は多数の高性能防空装備によりミサイルを迎撃、高い戦果を挙げており、攻撃が長期間実施されている為、迎撃への実戦経験も豊富で現在世界で最もミサイル迎撃を実戦経験している軍です。

 石油供給量全世界の5%が一時的とはいえ停止した事態は深刻です、サウジアラビア政府は石油タンク等に命中があり、大規模な火災が発生したものの犠牲者は無く、九月中の完全復旧見通しを示していますが、攻撃が今回で終了する可能性は限りなく低く、特に無人機による長距離攻撃は過去にも国際空港や軍事施設が狙われ、今回が初めてではありません。

 イエメンの武装勢力フーシ派が声明した今回の攻撃は、例えば砂漠の多いサウジアラビアには海水淡水化プラント等、脆弱性の高い重要施設が存在しています。更に国営サウジアラムコは株式公開を間近に控えており、当初一兆ドルと云われた世界株式史上最大の株式公開がミサイル攻撃の脆弱性に曝される影響は、単なる石油資源価格高騰に留まりません。

 イラン関与の可能性がある。イエメン内戦へはイランによる武器供与が確実視されています。また、イエメン内戦以前からイエメン国内の武装勢力による隣国サウジアラビアへの越境攻撃が発生している為、サウジアラビアとイランの対立要因ともなっていまして、しかし今回攻撃は油田がイランのペルシャ湾対岸であり、サウジアラビアは直接攻撃を疑う。

 ホルムズ海峡の緊張、サウジアラビアとイランの対立は日本タンカーが攻撃された石油海峡であるホルムズ海峡での緊張にも直結しており、中東全域の緊張へも直結します。サウジアラビアの油田や国際空港への攻撃が続くのであれば、間接的にホルムズ海峡での緊張が増大する事とも繋がる為、タンカー護衛の必要性や次の段階への飛び火が懸念されます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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