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ペトリオットPAC-3部隊中国四国地方展開完了,グアム八月ミサイル危機へ破壊措置命令

2017-08-12 22:20:00 | 防衛・安全保障
■中国四国地方4駐屯地へ展開
 北朝鮮のグアムへのミサイル発射宣言に伴い、航空自衛隊が動きました、陸上自衛隊駐屯地への展開を実施したのです。

 グアムへの北朝鮮火星12型ミサイル発射宣言にともなうグアム八月ミサイル危機にたいし、自衛隊は飛行経路として北朝鮮が指定した島根県、広島県、高知県、以上に加え恐らく上空を経由するであろう愛媛県へのミサイル防衛部隊の展開を開始しました。島根県の陸上自衛隊出雲駐屯地、広島県の海田市駐屯地、愛媛県の松山駐屯地、高知県の高知駐屯地、です。

 2012年、北朝鮮が沖縄県先島諸島上空を経由しフィリピン沖へミサイル実験を行った際には、陸上自衛隊と航空自衛隊は沖縄救援隊を編成し、宮古島と石垣島、下地島へミサイル迎撃部隊と衛生部隊を派遣しました。この沖縄救援隊派遣時には、沖縄は本州から陸路で展開することができないため、海上自衛隊輸送艦の支援を受けての派遣となりました。今回は陸路で結ばれた地域への展開であった為、迅速に展開できたかたち。

 ミサイルの破片落下、可能性としてはミサイル燃料に用いられる化学化合物に有毒性があり、一部でも人口密集地域へ落下した場合は広範囲が汚染される可能性があるのです。このため、自衛隊では航空自衛隊が破片を高高度で爆砕するペトリオットミサイルPAC-3部隊を派遣し、陸上自衛隊が衛生部隊と化学防護部隊を派遣しています。PAC-3は射程が15kmから20kmと大きくなく、配置の駐屯地から場合によっては迎撃が不可能となる場合がありますが、今回配置されている自衛隊駐屯地をみてみましょう。

 海田市駐屯地は中国地方と山陰地方を防衛警備管区とする第13旅団の司令部が置かれている駐屯地で、広島市中心部まで9km、原爆ドームを含め弾道ミサイル攻撃から防衛が可能です。また広島県呉市、海上自衛隊呉基地までの距離も12kmで、弾道ミサイル迎撃範囲に含みます。呉基地の第4護衛隊群はイージス艦を運用していますが、イージス艦ちょうかい母港は佐世保となっています。一方、広島市に隣接する山口県岩国市の日米航空部隊拠点である岩国基地はPAC-3の射程圏外です。

 出雲駐屯地は、出雲大社の出雲市内にあり第13偵察隊が駐屯、先日サマーフェスタが行われたばかりです。松江市まで27km、米子市まで55kmあり、山陰地方の主要都市から距離があります。山陰地方には第8普通科連隊の駐屯する米子駐屯地や第17普通科連隊の駐屯する山口駐屯地がありますが、今回出雲駐屯地へPAC-3が配備された背景には、ミサイルの飛翔経路から万一の落下の可能性がある進路として出雲駐屯地が選ばれたのでしょう。

 松山駐屯地は第14特科隊などが駐屯しています。松山市は四国最大の都市で、松山駐屯地も松山市内の南梅本町に位置しており、松山市中心部まで8kmの距離にあり、伊予市などへも迎撃範囲に含みます。駐屯地には第14旅団隷下の第14高射特科中隊も駐屯していますが、陸上自衛隊の野戦部隊として部隊を攻撃する巡航ミサイルや航空機に備えるもので、弾道ミサイルの迎撃能力はありません。

 高知駐屯地は第50普通科連隊が駐屯しており、高知市ではなく香南市にあります。沿岸部ではなくやや高台にあり、高知空港まで8kmの位置にあります。高知市中心部までは約19kmで、PAC-3であれば高度によっては迎撃できる限度の距離です。このほか、高知駐屯地からの迎撃範囲には安芸市などが含まれます。高知県にはこの他航空自衛隊土佐清水分屯基地がありますが、こちらは更に人口密集地から遠い立地に在る通信施設です。

 中国四国地方へ展開したペトリオットミサイルPAC-3は岐阜基地の第4高射群から高射隊が今回派遣されています。高射隊は昨夜2000時頃に岐阜基地を進発、高速道路などを通行し今朝までに、海田市駐屯地、出雲駐屯地、松山駐屯地、高知駐屯地へ到着しました。陸上自衛隊の駐屯地へ展開するため、給食や休息施設などは陸上自衛隊駐屯地業務隊の支援が受けられますし、警備などにも第13旅団と第14旅団の支援を受けることができるでしょう。

 第4高射群より4個の射撃中隊を派遣した事で、現在は中部地方と京阪神地区のミサイル防衛部隊に深刻な空白が生じています。航空自衛隊には6個高射群24個高射隊のペトリオットミサイル部隊があり、射程100kmのPAC-2ミサイルにより低空から高高度までの航空機や巡航ミサイルに、射程15kmのPAC-3により宇宙空間から落下する弾道ミサイルへ警戒していますが、高射隊には5機の発射機があるのみで、PAC-3を運用するM-902発射機はうち2機、残る3基はPAC-2を運用するM-901発射機です。

 洋上には海上自衛隊イージス艦が展開し、PAC-3よりも射程の大きなSM-3ミサイルが防備に当たっています。SM-3は射程1300km、最大射高500kmというミサイル迎撃ミサイルで、放物線を描いて宇宙空間から落達する弾道ミサイルの放物線の頂点部分を中心に迎撃するミサイルです。イージス艦が展開しているのは日本海で、防衛省はSM-3で最初の迎撃を行い、可能性として撃ち漏らした場合に人口密集地域へ到達する前にPAC-3にて迎撃を行うとのこと。

 ミサイル迎撃は、日本へ落下する可能性がある場合を除き実施しません。故に自衛隊が迎撃を行う事は先制攻撃ではなく、特にPAC-3であれば射程内に入ってきた時点で既に着弾まで数秒前の段階です。特に射程の大きなSM-3でも500kmまでの中間段階の迎撃を行うもので、PAC-3については人口密集地に落下する直前に破壊力のある弾頭や燃料タンクなどを高高度にて爆砕、破片は落下しますが爆発し地上へ被害が及ぶことを阻止するものです。

 懸念するのは、北朝鮮が在日米軍基地や日本国内へミサイル攻撃を奇襲的に掛ける事です。北朝鮮は過去にも韓国内へ一方的に砲撃を仕掛ける事案が度々ありました、経済制裁への報復やアメリカの同盟国、国連加盟国や第二次世界大戦での朝鮮半島北部での被害への報復等、口実は説得力を度外視したならば幾らでもあるのです、この場合は日本国内へのミサイル攻撃という可能性を真剣に警戒しなければなりません。

 万一の際には国民保護法に基づくミサイル攻撃警報が自治体防災無線とテレビや携帯電話への一斉メールにより通達されます。ミサイルは核弾頭を搭載したものでなければ、直撃した場合でも半径200m以内の屋外にでている人員への致命的殺傷力が想定されますが、それ以上離れていたならば被害は極限できます、伏せるだけでも生存率は若干高まりますが、側溝に潜りこめば数十cmの違いですが爆風と破片の直撃を避けられるため、生存率は非常に高くなるのです。

 広島原爆投下の事例から、爆心地でも地下施設に待避したならば生存確率は十分あり、実際、爆心地近くの相生橋などは倒壊を免れました。ミサイル警報に接した場合には、落下地域に近い場合、慌てず住宅ならば浴室など構造が頑丈な設備に、マンションであれば地下駐車場や機械室など構造上頑丈な施設、商業施設ならば地下階や地下道、地下鉄など。車道であれば可能な限りトンネル内、ビル間の隘路など爆風が通りにくい場所に待避することで生存確率を大幅にあげることが可能です。

 爆発が近傍で発生した場合には、北朝鮮は先日マレーシアでのテロに使用したように、大量のVXガスなど神経ガスを装備しているため、対比するかどうかの情報が重要となります。地下室など気密性の高い場所に避難した場合を除き、滞留する地域の留まるよりは、NHKニュースなどの情報を的確に得て、落ち着いた行動を執る事が必要でしょう。退避さえしたならば、助けの手は必ず差し伸べられます、それまでに個々人で出来る措置を執る事が重要といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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9 コメント

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Unknown (KGBtokyo)
2017-08-13 11:27:37
PAC3をこのように配備しても、安全保障知識が極端に欠除した日本国民向け気休め効果ぐらいしか無い!
自衛隊は根本的にSAM運用体制が間違っている、PAC3は基地防衛等拠点防衛用の物で地域防衛には向かず、やろうとすればCPも極端に悪い。
地域防衛するならTHAADの方がCPも遥かに高い!
また政治的にも中国が韓国へのTHAAD配備に強烈に抗議している状況で、日本が配備に踏み切ることは米中韓に対する効果大!
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Unknown (ファッツ)
2017-08-15 19:40:47
そりゃ出来ればTHAADも含めた三段階迎撃体制が好ましいですが空海共に大物買いが連続してる状況ではTHAAD配備は予算的に厳しいですし8機程装備しても日本全土は覆え無い事を考えるとイージスアショアと言う選択は悪くなかったと思います。PAC-3も大規模改修が迫ってますしまずはイージス艦&アショアとPAC-3改修型のコンビで凌いで様子見と言うのが良いのでは?勿論余裕があれば次期防衛大網でTHAADも欲しいですがない袖が振れるかどうかはその時の国際情勢と財務状況次第ですので…
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Unknown (Unknown)
2017-08-18 18:49:37
イージスアショアに決定したようですね、報道で知りました
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Unknown (KGBtokyo)
2017-08-19 13:20:39
平時の机上論の結果。
本当の戦争を現実として捉えられないからか、絶対制空権化で戦ってきた米軍の影響か?
格好の標的になりそうな図体のデカイ物ばかり調達!
中SAM、12式SSM、ヘリ空母etc
イージスアショア本体の価格は安いとしても、大型で脆弱なイージスアショアの巡行ミサイル等からの防御はどうするのか?
またMDがブースト、ミッドコース、ターミナルと3段階に分かれている理由を分かっているのか?
コスト問題言うなら、都市防空不向きなPAC3の増勢やMSE化止めればTHAAD2ユニット程度の費用は捻出出来る。
PAC3は西方重点の基地防空及び政経中枢(永田町霞が関)に絞り、既調達の大型中SAMはパトリオットの代わりに東名阪に配備。
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Unknown (ドナルド)
2017-08-19 20:26:30
KGBTokyoさま

私は、イージスアショアの配備に賛成です。

対北朝鮮だけを考えた場合、イージスアショアで、なんの問題があるのでしたっけ?また、現在問題があるとして、SM3Bなどのミサイルの改造で、対応できないようなシステム固有の問題なのでしょうか?

対中国を考えるなら、イージスアショアには問題がありますが、その場合は、イージスアショアの弱点などほとんど関係ないレベルかと思います。

THAADにすれば、その代わりイージス艦を数隻減らすなり、陸自師団を1こ廃止するなりのコスト対策が必要になると思います。

なにか見落としがあるのかもしれませんが。。。
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Unknown (KGBtokyo)
2017-08-20 13:12:14
ドナルドさま
バノン氏も言っているように北朝鮮など余興にすぎません!
問題の本質は中国、北朝鮮により日本の国体が揺るぐことは無いが、中国により日本の国体が脅かさされ、今後その脅威は拡大する一方。
100歩譲って北朝鮮にのみ対応するというならSM3はイージス艦8隻で良いでしょう、対北朝鮮戦でイージス艦の出番はMD以外にはたいして無い。
ミッドコースのみの対応で、ターミナルが不要という事にはなりません、SM3の最小迎撃高度は70kmで、それ以下には対応出来ません!
発射探知、弾道計算が机上通りいくという事もありませんし、行ったとしてもミッドコースで撃ち漏らす事も有り、迎撃機会増やす事も重要。
コスト問題持ち出すならPAC3で都市防空しようとする事が最も非効率。
前にも書いたようにPAC3増備、MSE化止めればTHAADの調達費用は捻出できます。
MD導入期にPAC3選択したのは、当時ターミナル用として確立出来ていたのはそれしかなかったので間違いではないが、THAADに目処が付いた後もPAC3を都市防空用に調達し続けたのは誤り!
もちろんPAC3の基地防空用途は評価します。
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Unknown (ドナルド)
2017-08-20 17:31:26
KGBtokyoさま

ありがとうございます。

私は対中国を考えるなら、敵攻撃機や巡航ミサイル弾道弾を、全弾防ごうなどと考えるのは非効率で相手の思う壺だと考えています。中国に対して物量戦を挑むのは、相手の土俵で戦うようなものです。THAADの一発は、中国製の短距離弾道弾よりはるかに高価だと理解しています。

THAADを否定するものではありませんが、極めて膨大な資金が必要とされるので、それだけの資金があれば、南西諸島では「地の利」を生かした、A2AD能力の向上が、より重要と思います。航空基地の抗堪性向上(バンカーや地下化など)、潜水艦を大型艦22隻から、大型艦16隻+小型艦16隻にして、沿岸防衛力の向上、師団を減らしてでも陸自SSM連隊の増強、長射程SAM導入による敵AWACSを列島に近づけない戦術など、やれること、やるるべきことは山のようにあります。

イージスアショアは安く、稼働率がイージス艦よりも高いので、この北朝鮮正面を低コストで対処でき、貴重なイージス艦他の戦力を、対中国へより効率的に使えることになります。

九州、四国、本州、北海道の防衛にあたっては、列島が長く縦深が深いことを生かして、より機動的な戦力運用ができるでしょう。ここまで届く弾道弾は、高価で数も少なく、ICBMとの区別も難しいことから、中国側もその使用には制約を受けると思います。

> SM3の最小迎撃高度は70kmで、それ以下には対応出来ません!

THAADが対応できるのであれば、SM3の将来改造で、70km以下も対応できるようになるのではないでしょうか?

PAC3増強、MSEでの代替には、私も反対です。意味がないので。各基地の抗堪性を上げることの方が、はるかに優先順位が高いです。


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Unknown (流線形)
2017-08-21 00:00:01
Eagis Ashoreの導入に賛成です。
理由は以下の通り。
≪対・北朝鮮≫
物理的に対抗する有効な手段の一つとなり得る。
確かにSM3-1Aの能力は不足しているが、段階的に能力を上げていくことが計画され、その計画が完遂された際には効果を期待しうることから、現実的な対抗手段の一つとなり得る。
また、陸上設置ということもあり、艦船に比べ拡張性に優れると考えられる。
よって、能力向上策の成果を艦船に比べると早くにimplementableと考えられる。
≪対・中国≫
上記のメリットに加え、戦略的に有効だと考えられる。
核の脅しが効くと思われる状況を作り出す為の外交的な労力、通常戦力による軍事的圧力、更にはこれらの設備を奇襲的に破壊するという政治的な賭けを強要することになる。
特に“奇襲”というのは、金銭的なコストのみならず、時間的コスト、更には政治的なコストを要するので、対日戦のハードルを上げる役割を果たす。

以上の通りなのですが、日本は、ゲリコマ対策にも金銭的コストを掛ることになるのですが、そこには政治的コストはさほど掛からないと思います。
むしろ、奇襲を強要される側の政治的コストの大きさを考えると意味があると思います。
準備には、時間も掛るし、複雑な計画も必要です。そうなると、何かしら計画の予兆が漏れてしまうと思われるので、政治的な賭けを強いることが出来る=予兆を把握する機会が増えるという意味において、より日本にとって安全保障環境を好転させることになると思います。
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Unknown (KGBtokyo)
2017-08-21 12:10:19
ドナルドさま
>私は対中国を考えるなら、敵攻撃機や巡航ミサイル弾道弾を、全弾防ごうなどと考えるのは非効率
そうですね、しかし戦争を現実のものと捉えられない人はそれを求める、故に机上の防衛エリアの広いSM3が良いのでしょう。
現実の戦争で重要なのは国家の継戦能力維持、彼我の損失バランスを有利にする事!
要は減災 減損失!
ここはMDの話題の場ですが、当然対中戦はMDだけではなく、かねてから言っているように、航空優勢を中国に獲られ無い事!
その為に重要なのは航空戦力、作戦機数だけでなく、航空基地増強、ドナルドさまも言われるように抗耐性強化が重要、コスト的には作戦機増強と同じくらい必要。
最後にMDに戻りますが、ミッドコースとターミナルの大きな違いの一つは大気圏外か内という事!
ミッドコースは大気圏外での迎撃になるので長大な射程が得らます。
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