■北朝鮮砲兵の意外に低いその能力
本日は、昨日の北朝鮮韓国砲撃事案に関して率直な感想を少し掲載してみます。
第一印象は、ここまで北朝鮮砲兵の能力は低かったのか、という事。陸上自衛隊ではクビになる精度というところでしょうか。今回、北朝鮮軍は最初の十二分で150発を射撃した、とのことで、その後に韓国軍の反撃を受け20~30発を撃ち返したとのことですが、このうち延坪島には70発、一部報道では80発が着弾したとのことでした。しかし、これ半数が外れているのですよね。沖ノ鳥島のような小さな島を狙ったのではなく、列記とした人口1200名の離島を目標として射撃半数以上が外れて、こんな低い命中精度で大丈夫なのか、という印象です。そもそも今回は面制圧が目的で対砲兵戦は想定していなかったのでは、ということもできるかもしれませんが、それならばロケット砲を併用するはずで、野砲だけ、という点の説明がつきません。
砲兵、特科火力の命中精度は緻密な作業の集大成に支えられています。例えば砲撃を行う地域の測量を目標と自己の展開位置を可能な限り正確に把握し、射撃を行う場合の風向風速湿度などの気象観測、これをしっかりと行うかで命中精度は1~2ミルほど変わってくる、といわれています。気象観測は基本的な機材があれば行えますし、北朝鮮軍は永久築城というかたちで砲兵陣地を構築していますので測量する時間は何十年もあったはずです、しかしこの精度、北朝鮮軍砲兵は基本的なことができないのではないのか、自衛隊の特科火砲の能力を支えている上記の地道な作業を考えると思ってしまいます。
第二に印象に残ったのは韓国軍自走砲部隊の能力の高さでしょうか。北朝鮮側に民生被害は今回でなかったものだと考えられます、そういうのも韓国軍の反撃で北朝鮮側に民生被害が出ていれば、確実にプロパガンダに利用されたはずなので、これがない、ということはK-9自走榴弾砲の能力がいかんなく発揮されたのだろう、ということです。99式自走榴弾砲と比べれば韓国のK-9自走砲は同じ52口径155mm自走榴弾砲なのですが、日本のは自動装填装置と特科情報装置への自動リンク機能が備えられていますが韓国のK-9は手動装填、M-109A6を52口径化した程度の能力の延長線上にあるのですが、かなり善戦したようです。
陸上自衛隊のFH-70榴弾砲では緊急時の射撃で毎分6発、持続射撃で毎分2発が射撃可能です。実際には悠長に射撃を続けていると反撃を受けるので最大の火力投射と陣地転換を行うのですが、今回は北朝鮮砲兵、NHKの報道では最初の12分間で150発を撃ってきたとのこと、FH-70の特科大隊による効力射に匹敵する規模です。しかし、これに韓国軍が50発応戦すると、反撃は30発にまで低減しているのです。北朝鮮軍は海岸の崖を刳り抜いた掩砲所に火砲を設置しているのですが、ここまで反撃が衰えたところをみると、掩砲所の砲座部分が破壊されてしまったのではないでしょうか。もっとも写真などをみると、かなり海面に近い位置に掩砲所を設置していて、あれでは着上陸対処に水平射撃を加えるには有利でしょうが、対砲兵戦にはそもそも不向きだったおかもしれませんが。さて、北朝鮮が30発の反撃に韓国軍が20発を撃ち返すと、北朝鮮軍の砲は沈黙したようです。一部報道ではK-9自走砲二門にも被害が出たそうですが、逆に二門の被害で済んだのは迅速な陣地転換が可能な自走砲ならでは、ともいえ、陸上自衛隊も将来火砲の自走化は真剣に検討するべきでしょう。
第三に、相手が陸上自衛隊でなくて僥倖だったなあ、という印象です。韓国軍は対砲レーダーを装備していないことは有名でたびたび在韓米軍から導入を開始してはどうかと指摘されています。この話は江畑謙介氏の著書でも紹介されていましたが、韓国軍砲兵隊は島の反対側の駐屯地に展開していたと報じられていますので、恐らく北朝鮮軍は海を隔てて地中にマイクロフォンを設置する音響評定を行ったのかもしれませんが、精度が低すぎました。対して韓国軍は北朝鮮が沿岸の掩砲所から射撃を加えてきた、と報じられていますので前進観測班を北朝鮮が見える位置に進出させて目標の評定と着弾修正が行えたのでしょう。
ただ、この方法は今後北朝鮮軍が後方から152mm榴弾砲などで間接照準射撃を行ってくると対処が難しくなります。この点、陸上自衛隊は対砲レーダーをすべての特科連隊や特科隊に配備していますので、射撃を行った北朝鮮の火砲は迅速にその位置を把握できます。もっとも、陸上自衛隊が相手の場合、射程が10km以上という96式多目的誘導弾が配備されていたりして、文字通りピンポイントで殲滅、ということにもなるでしょうから、こうやって考えると自衛隊の装備というのは進んでいるのですね。
第四、というわけではなく少し離れるのですが新しい心配が。今回は北朝鮮が韓国の離島に対して、特に住宅のある地域に射撃を行い、民間人2名の犠牲者が出た、ということが過去の事案とは異なる事例でした。過去を見た場合、武装ゲリラの侵入事案等で樵が殺害されたり、韓国人拉致事案のように一般市民への被害も皆無ではなかったのですが、しかし砲撃、というのは希有な事例といえます。そこで、今後なのですが、イスラエルに対してイスラム過激派が行っているような散発的なロケット攻撃、このような散発的な長距離射撃が韓国本土のあたりで行われるのではないか、という危惧です。これまで武装ゲリラの浸透か直接大規模侵攻ばかり警戒していましたが、軍事境界線で散発的に発生する銃撃、これを砲撃に置き換えて軍事境界線周辺の非武装地帯以遠に対して行われる可能性、ということも、あり得ないわけではないのですよね。
今回の砲撃は、識者の分析を俯瞰すると背景には国内の体制引き締めなのではという意見や、金正日氏の後継である金正恩氏の指導力誇示、対米交渉の要求などが背景にあるとされていて、これに続く方策として、北朝鮮による三度目の核実験が警戒されているのですけれども、しかし、韓国本土での攪乱の波及のほうが可能性としてあるのでは、と思いました。もちろん、ソウルを砲撃すれば全面戦争ですが、ソウル以外を砲撃すれば、韓国側としても全面戦争や北進は望まないでしょうから、最悪の事態は避けられえるわけです。
こうした器具を杞憂とするためには米韓が一致して軍事演習を展開して封じ込めを行うことでしょう。また、そうした意味でも巨大な後方拠点としての在日米軍の位置づけは重くなってきますので、今政府は日本にできることは何か、ということを考えるとしきりに強調していますが、最たるものは普天間問題の辺野古移転と工法決定そして着手でしょう。また、万一の状況変化に対応できるよう、邦人救出作戦を方式と法整備の面で真剣に検討すること、でしょう。それが第一です、そして南方の中国だけではなく北方のロシアも脅威である、としきりに掲載してきましたが、同時に北朝鮮の情勢もあるわけで、防衛大綱への明記は充分考えるべきです、他方、それができないのでしたら、総選挙も遠くないでしょうし、先送りして次の政権交代後、と丸投げしたほうが、国民の安全と平和には、寄与するかもしれません。出来ないことを認めるのは辛いことですが、それも政権を担う責任の一つです。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
対する韓国側も国産装備で度々砲身破裂事故を起こしていますが、今回もK-9の内1両が破裂事故を起こしたようで、たかだか20発程度の発射数で発射不能になるようではいささか心許ないように思います。
自衛隊は何かと批判される立場ですが、対砲レーダーや観測ヘリを取って見ても装備の導入方針や運用の仕方については先見の明があったと感じます。
韓国語のサイトhttp://blog.naver.com/eclick/110097865322を(エキサイト翻訳も使いながら)ざ~っと見ていくと、どうやら、240mmのロケット砲も使ったのではないかと思われます。北朝鮮側の観測手段がないことを加味しつつも、外れた弾着の多くは精度の劣るロケット弾によるものではないかと思ってみたり。。。日本の報道では「砲弾」とのみ報道されていますが・・・どうなんでしょうね。
あと、弾着の鮮明な映像「North Korea artillery attack 」
http://www.youtube.com/watch?v=ndbsMaX5faEも見たのですが、122~130mm級のHE弾の着発時の危害範囲って、こんなもんなんでしょうか?それとも、これは76.2mm砲のものでしょうか?
総火演を見てる影響でしょうか、どうも、イメージしてる榴弾の弾着にしては危害範囲が小さいような気がします・・・・120mmRTのほうがよほど威力がありそうな気が。
それから、流石は休戦中の戦時国の最前線、防空壕への迅速な避難によって人的被害を極少化できているように思いました。
http://www6.atwiki.jp/namacha/pages/48.html
99式自走りゅう弾砲もいっぱいください
10式戦車も最低1200台ください、歩兵戦闘車、機動戦闘車もください。MLRSをあと100台追加して沖縄と九州と関東と関西に25台ずつください。M-240も装備させてあげてください陸自の一部のUH-60Jにミニガンを載せてあげてください。地対艦ミサイル連隊を元の数に戻して尚且つ沖縄に配備してください。陸自の兵員数を冷戦と同じ規模にしてください。
お願いします
これだけすれば満足です
第一報では砲撃戦に続いて南北海軍が銃撃戦を行った、という報道もあったのですが、それよりも延坪島の西側、北朝鮮からは島影に展開するK-9自走榴弾砲部隊に、無理して低伸弾道のカノン砲を使ったため飛び越えてしまったのかな、と思います。
油断させるために、という事はないでしょう。過小評価されてしまっては、近く大規模南進を考えている訳でもないでしょうし、もっとも、ここまで警戒態勢が整っている状況下では南進なんていこうとは絵空事ですが。
今回の事例を踏まえますと、今度はソウル近郊の山間部を狙って、カノン砲の射撃を行う可能性も出てきたように思います。
K-9ですが、事故があったのですか?こちらは初耳でした・・・、情報ありがとうございます。展開している火砲の数は不明なので何とも言えないのですが。
別のコメントでもお寄せいただいたのですが、韓国軍、対砲レーダーは導入しているようです。また近年にも幾つか取得しているようで、考えてはいたのですね。
韓国軍ですが、まずは北朝鮮軍の火砲数があまりに多すぎますので、精密誘導砲弾よりは面制圧が可能なロケット弾を重視するのではないのかな、と。
陸上自衛隊の次期火砲ですが、重装輪回収車と野砲の組み合わせ、というのが現実的でしょうね。カエサルでは道路運送車両法の横幅で運用が制約されてしまうかもしれません。
個人的には射撃を自動化したスウェーデンのアーチャーHSPシステムの方が自衛隊向き、と思うのですが。短時間で大量火力投射、というのは自動装填装置を採用した75式自走榴弾砲とバンドカノン自走砲、共通点がありますので、FH-70後継にはアーチャー、と思ったりします。
北朝鮮軍は着発信管を使っているようなので、富士総合火力演習でのCVT信管、着発信管も使われていますが、見え方が違ってくるのではないでしょうか。空中炸裂信管だと、FH-70用のL7砲弾でしたか、確かCVT信管利用で短径35㍍、長径45㍍の加害半径だったと記憶します。
日本のマスコミの砲弾のみ、ううむ、最初は高射砲で撃たれたとか、野砲から迫撃砲を飛ばした(新しい緊急展開か!?)等など、いわれていますので信憑性があまりに低いのですけれども、使われているのでしょうかね、上のコメントでお教え頂いたTPQ-37、2002年以前の型式はロケット弾の追尾が出来ないのですから何とも言えないのですが、ね。
防空壕ですが、こういうのが完備しているのが韓国ならでは、ですよね。日本も弾道ミサイルの脅威云々、というのなら、トンネルや地下街利用を含め、せめて標識の整備くらいは、と思います。