◆一昼夜で全部隊送り込め!
南海トラフ地震は避難が遅れる冬季夜間の発災を想定すれば今までよりも犠牲者の桁が一つ大きくなるとの研究があるようです。自衛隊の災害派遣という観点から、この国家の危機へ如何に立ち向かうか。
陸上自衛隊は方面隊を超えた師団規模の部隊緊急展開の実動訓練として協同転地演習が行われています。この中で陸上自衛隊の車両を鉄道輸送する長距離機動訓練も実施されているのですが、東日本大震災に際しては協同転地演習を遙かに超える規模での自衛隊部隊の緊急展開が実施された中で、車両の輸送や補給物資などの輸送を行うにはどのような装備であっても必要であるということは自明であったにもかかわらず残念ながら自衛隊車両などの輸送は行われたとの話を聞きません。
もちろん、被災地への救援物資輸送で、自衛隊の車両や装備品に係らずといえば鉄道貨物輸送が実施されたことは言うまでもありません。JR貨物を筆頭に東日本大震災へは、公共交通機関としての枠を超えた貢献はありました。例えば鉄道燃料輸送、本来は港湾部から内陸部へ十数Kmから精々数十Kmを移動するものが基本ですが、仙台港はじめ石油陸揚用港湾設備が全損したため、横浜をはじめ全国から長駆被災地へ立ち向かったことは有名です。
鉄道輸送は広域災害に強く、改めてその存在感を示したのが今回歩東日本大震災でした。太平洋岸の鉄道施設は地震による軌道崩壊や橋梁損傷、津波による線路流出や設備破損の被害を受けた一方、JRは迅速に貨物輸送を日本海縦貫線に転換、日本海側から東北地方へ前進し、機能する路線に沿って被災地近傍へ輸送を行い、同時に復旧作業に昼夜兼行で邁進し、路線復旧と共に貨物輸送網を幹線から支線へ中央から末端へ前進させ、鉄道は大震災に対し復旧能力が高いことを示しました。局地災害ならば鉄道は復旧に時間を要しますが、広域災害ならば稼働路線を繋ぐ方式で長距離移動を行うことが出来たのですね。
JR貨物の救援物資は、特に燃料など、民間向けではなく緊急車両を優先として給油したことから、自衛隊車両や、そのほかの消防広域救助隊や警察機動隊、国土交通省を筆頭に様々な燃料需要に応えたことは間違いなく、消耗品や糧食などは自衛隊以外の自活能力を前提としていない機関へは大きな支援となったことは間違いないことであり、この点で貨物輸送は求められた責務を全うした、と言えるでしょう。
しかし、九州や北海道からの車両部隊の緊急展開は、九州からは1000km以上の距離を自走し被災地へ駆けつけ、北海道からは米軍の揚陸艦や民間カーフェリーに依存する部分が大きかったわけです。今回の震災では青函トンネルに影響はなく、北海道からの緊急展開に際しては自衛隊車両を鉄道車両に貨物輸送として搭載することが出来たならば、米軍の揚陸艦が佐世保から北海道に展開するよりも早く展開できた可能性があります。
北海道から73式装甲車が発災後36時間以内に展開することが出来ていれば、こう考えてしまうわけです。市街地の長期浸水により、海上自衛隊が展開するにも市街地の奥深くで交通船は乗り入れることが出来ず、しかし徒歩では進出が困難、高機動車や軽装甲機動車は水深が深く通行不能で、広く装備されている96式装輪装甲車は浮航能力が無い、方面隊の94式水際地雷敷設車は大型すぎ数も限られている。しかし73式装甲車、北海道に集中配備されている73式装甲車ならば浮航能力があった。
何故行われなかったのか。考えられる理由は簡単で、我が国の鉄道貨物輸送においては自動車を運搬するピギーパック輸送が普及していないため、長物輸送用の貨車に搭載するか、土砂運搬用無蓋貨車へ車両を搭載、いや積載する、ということが実情であり、搭載に時間がかかるということ。特にJR貨物駅では既にコンテナ輸送が基本となっているため、車両がそのまま搭載可能なスロープも非常に少数が解体されず残っているのみという現実があります。
加えて、上記の貨車は全て輸送の主流から傍流以下となっており、老朽化は解体か維持か、という水準まで老朽化が進んでいるのが実情です。新規に貨車を防衛予算により調達するか、自衛隊の鉄道輸送の頻度を高め、JR貨物へその必要性が実感される規模に展開させ、新造を依頼するという手法以外に老朽化への対処はありません。後者はやや現実味が無い提案に見えますが、JR貨物は東日本大震災に際し、震災瓦礫輸送専用貨車を新造していますので、毎日のように自衛隊輸送の需要があるならば可能性はあるやもしれません。
ただ、現状では非常に車両搭載に時間を要します。第10師団が協同転地演習により北海道へ緊急展開した際、78式戦車回収車を鉄道輸送しましたが、貨車への搭載はスロープが構造上使うことが出来ず、貨車にそのままクレーンにて搭載する必要がありました。そこまで大型の、38tの車体をそのまま吊り上げることが可能なクレーン車は自衛隊には無く、結局日本通運の支援を受け、三日がかりで搭載したとのことでした。これでは間に合わない。
この場合考えられるのは、師団防災計画に一定以上の距離への軌道を行う場合の貨車搭載可能車両及び補給物資を予め列挙し、大型トラックへはコンテナの搭載を計画。こうしたうえで海上コンテナ用フォークリフトを方面後方支援隊に一定数を配備し、コンテナ輸送用貨車へ車両を積載するアタッチメントを新規に調達、既存のコンテナ輸送用貨車へ、高機動車、軽装甲機動車、3t半(73式大型トラック)、96式装輪装甲車といった車両を迅速に貨物駅からコンテナ用貨車へ搭載できるよう準備しておくことが考えられるでしょうか。
自走可能な車両は多いですが、北海道からの展開には青函トンネルを利用する場合の方が、呉基地から輸送艦を展開させるよりも早いでしょう。なによりも、輸送艦には被災地でのエアクッション揚陸艇LCACを用いた被災者救助の重責があります。陸上自衛隊の輸送は重要な任務ですが、呉から被災地へ行く前に呉基地周辺の第13旅団か、被災地の位置によりますが横須賀基地近傍の第1師団、佐世保基地近傍の第4師団を収容することはあっても、これら部隊を展開させたのちは洋上拠点としての任務が待っています。
また、必要な物資をコンテナ化しておくならば、物資の輸送を貨物駅がどの程度自衛隊の拠点として用いることが出来るかの、平時からの法整備と提携準備を行う重要性に繋がる内容ですけれども、自衛隊の後方支援体制は非常に有利なこととなります。かつてあった、桂駐屯地や朝霞駐屯地、島松駐屯地や神町駐屯地に福岡駐屯地への貨物引込線があったならば、より有利にはなるのでしょうけれども。
自衛隊の任務は筆頭に我が国の軍事力を用いた脅威への防衛警備であり、続いて国家の防衛に寄与する任務として災害派遣がある、ということはこの項目でも忘れてはなりません。ただ、陸上自衛隊の車両輸送の一部を、可能な範囲内で鉄道輸送に依存することは防衛出動において重要な位置づけとなります。北方への緊急展開を念頭とした長距離機動が北方機動演習と今日の協同転地演習で示されていますが、なにより、南西諸島有事に際して陸上自衛隊の緊急展開に大きく寄与するでしょう。
沖縄には鉄道が無く、仮に建設されたとしても九州と繋がることはないではないか、と思われるでしょうがそうではなく、鹿児島阿久根港や長崎県佐世保基地への鉄道車両輸送による展開を行うことに意味があります。全国から南西諸島にもっとも近い九州の港湾設備に自衛隊を集結させ、その後民間車両運搬船などにより沖縄本島の勝連基地や那覇軍港に牧港といった拠点に部隊を集中、本島の防備を固めると共に、海上自衛隊輸送艦により先島諸島に輸送する、こういうこと。
自衛隊輸送はカーフェリーだろう、と言われるでしょうが確かに一理あるのですけれども、北海道から九州までカーフェリーで移動する場合には九州西方へは72時間を要します。加えてカーフェリーにも数の限度がありますので、駐屯地近傍の港湾に集結するのではなく南西諸島に近い幾つかの港湾からのピストン輸送を行うのが望ましく、この為には車両の自走とともに鉄道輸送を行うことが望ましいではないでしょうか。
第7師団の90式戦車や89式装甲戦闘車を高速カーフェリーで九州から大分港へ協同転地演習において展開したことが昨年有名となりましたが、あれは戦車の輸送だけであり、戦車一個中隊を一週間戦闘を継続させ維持するためには多くの後方支援が必要となります。戦車を輸送するのは展示するためではなく戦闘に用いて外敵の侵攻を抑止するか上陸された際には排除することが目的です、この為に立後方支援車両が多く必要となりますので、こちらの輸送を考えた場合、高速カーフェリーの重要性は高いですが、他方運べるものであれば鉄道貨物輸送も民間運搬業者も動員しなければなりません。
これらの実現へは、前述の大型フォークリフトの方面後方支援隊への多数配備、輸送学校における鉄道輸送訓練の近代化と充実、平時からの鉄道輸送強化による自衛隊の輸送体系への定着とJR貨物との連携強化、考えるだけでこうした改編が必要となるのですが、我が国には東日本大震災において広域災害へ威力を発揮した鉄道輸送という財産があります。南海トラフ地震という国家危機へ臨む上で、検討は為されるべきだと信じます。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
まず輸送ですが、コンテナならば鉄道輸送のみならず、トレーラ、コンテナ船、貨物輸送機といった他の輸送方法もとることが出来ますし、輸送拠点にトレーラを集中すれば、積み替え負担が少なく、荷物の効率的な移動が可能であります。しかしながら、今回の震災でも問題になったのですが、コンテナ積載用クレーンが被災しています。このあたりは、防災重要保安設備として、耐震基準も再検討が必要かと思います。
2つ目に、緊急物資をコンテナに入れておくことで、通常時は積み置きが可能で、移動はすぐに可能になります。 また、そのコンテナをコンテナハウスとして利用できるようにしておけば、すぐに仮設の事務所程度として使用できます。但し、クレーン車または大型フォークリフトの手配は必用です。これにより、トレーラの稼働時間の向上になります。
コンテナには、たとえば冷凍コンテナのように、自己発電能力を備えたものなども可能なので、様々な用途のコンテナが製作できそうに思えます。
あと、装軌車積載用のフラットコンテナや搭載卸下用スロープ、荷役設備の無い場所でのタンク車からの卸下が出来るようにポンプも欲しい
旧陸軍は線路上に仮設するスロープ付ターンテーブルを装備していたようです
軸重制限が厳しいまま投げ出されて百何十年、物件移送の機材も朽ち果てるばかりの貧弱狭軌線に多くは期待し難きもの故、広軌新線(即ちNeo幹線)の戦時国有化を真剣に検討すべきことと思われ
しかし、鉄道の凋落を思えば、それを主力と考えることは反対です。鉄道の凋落は、高速道路の整備に起因しており、言い換えれば、時代は「車」です。
#船は、「海を越える」という意味で、別途必須です。有事に、戦略的に重要な橋を落とすのは基本ですから。
トラック輸送、鉄道輸送、海上輸送の全てに適合することから、「災害用装備のコンテナ化」は必須だと思います。安いし、日頃からパッケージ化しておくことで、立ち上がりも早くなるでしょう。
この発想を広げて行くと、兵站部隊のかなりの部分もコンテナ化できると、「兵站能力そのものの向上」に役立つかもしれません。
兵站では、「物資を輸送する」に加えて「各部隊に必要な物資を仕分けする」という作業と、「日本中から物資を集める」という作業があります。
「輸送」「集める」は主にハードウェアの問題であり、市販のトラック/トレーラー/コンテナ車をある程度(数千両規模で)確保(というか追加)すべきと思います。
が、最も懸念されるのは「仕分け」です。
各大隊/連隊規模で、必要物資(食料や弾薬はもちろんのこと、医療/衣料品から、工作道具、テント、梱包用具、はては鉄板/木材など、色々)を(webで?:笑)発注し、それが本部で集められ、査定され、仕分けられ、輸送されて行く。宅配便とか、ネットショップとかの枠組みですよね。そう思うと、「コンテナ」的な発想が、もしかしたら適合するかもしれません。
#この「査定」と「仕分け」に加えて、敵の妨害を想定に折り込んだ「輸送計画」が、兵站の要諦と思います。そう言えば、個々数年、ペリ○ン便が苦労しているそうですから、そこの優秀な人材をごっそり引き抜けないでしょうかね。。。
#いかん、完全に「素人の発想」ですね。。。陸自の兵站がどのようなシステムなのか、どこかによい情報があると良いのですが。。。
前線部隊を1日といえども弾薬切れにしたり、数日以上食料切れにすれば、それだけで連隊ごと戦闘力を失う訳です。まさか国内で略奪する訳にも行かない。
例によって、予算/人員中立の立場でゆけば、兵站の強化で代わりに削減するのは普通科/機甲科(あるいは特科)しかありません。兵站は明らかに不足ですから、やむを得ません。ただ、災害救助には兵站も前線もあまり関係ないので、総人員(「定員」ではなく「実員」)が不変であれば、大きな変化はありません。(災害/戦争両者の)有事対応とも、よりバランスが取れた編成になることで、そもそも良い方向にしかなりませんし。
プライマリバランスが達成され、防衛費が増え始めたら、そのとき「前線と兵站」をバランスよく増強しましょう、、、と、すみません、最後はいつもの主張になってしまいました。。。
そういえば、陸自のコンテナ式トラック(PLS付き特殊トラック)の予算化が1両だけど認められたのでは?
民間のコンテナと規格が同一かは調べていませんが、
大量に配備してもらたいですね。
鉄道輸送の充実もそうですが、輸送艦の大量配備や、2~3万トンの海上事前集積船 の導入も検討してみては?
事前に積載しておけば即日出発できるでしょう。
3隻くらいほしいね。戦車は積載しなくても、被災地に必要な物資や、車両、施設隊車両・通信車両、装甲車もふくめて準備しておけば心強いねえ。
当然弾薬等も入りますが・・・
配備先は、陸奥湾・舞鶴・佐世保あたりかなあ。
理由は平時の配備先は、津波の影響が少なそうで、かつ分散ですかね。
人員は飛行機でブーンと飛んで、船を待つとかね。
これだけ天災が多い国ですから保有してもいいのではないでしょうか?
まあ、有事には転地機動・米軍輸送等にもつかえるしね。
コンテナ、これ震災後に少し書いたと思いますが、コンテナハウスを積層して演習場の一角に備蓄し、普段は市街戦戦闘訓練に用いるようにしておけば、緊急時には仮設住宅として運用できる、という利点があると思います。
実は先日、東京駅の改修工事の様子を晴海ふ頭へ向かう途上目にしまして、鉄骨の市中を共に幾層もコンテナハウスを重ねた仮設事務所を見かけました。高層化できるのならば、より機能性も高まります。本土武力侵攻に際しては、そのまま戦闘地域からの疎開住民の収容に充てられる、という利点もあります、が水回りなどをどうするか、これは考えねばなりません。
装備品のコンテナ化ですが、駐屯地のコンテナヤードを構築しなければならない半面、物資管理は迅速にできるようになるでしょうね。
貨物輸送用の大型コンテナ用フォークリフトを十分に用意できるか、またコンテナ輸送とした場合、物流統制システムをいかに素早く立ち上げることが出来るか、装備品のICチップ管理等を含め考えなければならない点で張りますね。
貨物駅以外、というご指摘ですが、しかし予備の引き込み線アド、通じょうの物流を以て有事の緊急輸送能力を補完するのですから、これを自衛隊輸送が優先されることで、別の被害を拡大しないように、という認識は必要でしょう。
可能ならば、JR貨物への輸送科幹部の相互連携に関する研修などを補助金と併せ考える必要はあるかもしれません。
ううむ、戦時国有化は言い換えれば平時の赤字補填を国の責任とする意味の裏返しでもありますので、これを防衛予算で行うのは難しい亜もしれません。
もっとも、我が国は交通に対する国家保護の政策を投げ捨てて今日に至りますので、これまでのフリーライダーという政策自体に限界が生じているともいえるのですが。
ご指摘の点重要でして、一歩進め我が国は、今後鉄道を政策面から如何に扱うか、という視点も同時に重要になってくるのですよね。
車両確保ですが、同時に運転要員確保も重要な問題で、東日本大震災では日本通運から多くの予備自衛官を招集した結果、同時に日本通運へ被災地輸送の増便を求めた結果、かなりの無理が生じた、という一幕がありました。
非常時への備え=平時の余裕=経営上の無駄、という構図でして、しかし、この誰も補えない部分を国家が担う、という視点をどう考えるか、自分の番は来ないとして震災対策の軽視にただ乗りする危険な均衡に依拠する現状は果たして妥当なのか、これは一つの視点だろう、と。
事前備蓄ですが、しかし現役部隊でも輸送車両が不足して定数割れが生じている現状、更に現役部隊から車両を取り上げて予備に備蓄、というのでは本末転倒と言えるかもしれません。
新しい重輸送車両ですが、一両一億円と軽装甲機動車の三倍以上、96式装輪装甲車に匹敵する費用ですので、大量生産を行えば価格は下がるのかを含め、慎重に見極めたいところです。