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海上自衛隊地方隊への一考察④ 海上自衛隊基地のNBC防護体制をいかに構築するか

2012-06-17 22:29:43 | 防衛・安全保障
◆同時に原子力事故下の基地機能維持という側面
 地方隊の任務には基地機能の維持と自衛艦隊への補給支援が含まれますが、NBC防護という視点をもう少し考える必要があるかもしれません。
Timg_86_24 基地が核攻撃を受ければ、迎撃を行うほか着弾後に実施できる能力は無く、基地周辺に分散された燃料施設や弾薬庫など無事である施設を集約し、最小限の維持を行うほかは、残念ながら放棄するほかありません。しかし、これは極論であり、例えば化学兵器による基地への攪乱攻撃などは現実的に考えられます。化学兵器と生物兵器について、洋上を行動中の艦艇に用いることはほぼ不可能であり、こんごう型以降の護衛艦はNBC防護能力があることから能力は限定的です。しかし基地というものははどうか。
Timg_832_8 この視点はゲリラコマンドー対処という視点で指摘するべきでしたが、現在のところ、海上自衛隊の除染装備は限られており、知る限りでは海上自衛隊に化学戦部隊はありません。護衛艦には除染装備が装備されており、携帯除染器が装備され、防護服による展示も地方隊展示訓練では行われているのですが、かぎられたものです。この点、航空自衛隊の基地についても比較的高い基地防空体制はあるのですがNBC兵器対策となれば戦闘機搭乗員へのガスマスクを含めこれから検討事項、という水準でしかない点は問題と考えます。
Timg_872_7 基地は特に全く移動することが無い、そして戦略目標となります。基地の支援が無ければ水上戦闘艦部隊も潜水艦部隊も航空部隊もその能力が大きく制限されてしまう。もちろん運搬手段は色々と考えられるのですが、弾道ミサイルだっても、かなり命中率が低いという前提は加害半径を化学兵器により補完する形で対応出来ます。核攻撃ですが、これは基本的に自衛隊としては弾道ミサイルや巡航ミサイルに対し、この技術と能力が高まっているのですが、落達以前に迎撃、という選択肢以外に対応できる術はありません。
Timg_5872 化学兵器ですが、特に基地が化学兵器への対処能力を欠いている場合には化学兵器攻撃、これは弾道ミサイルを含めてエスが行われるのに教導して地上と水中からのゲリラコマンドーの襲撃が行われる可能性を無視してはなりません。基本は悪意が無い自然災害と異なり軍事行動は悪意の投射であり、複合的な攪乱として十分考えられるのです。警備隊が大混乱の状況に攻撃を受ければ、どうなるのか。この視点は必要ではないでしょうか。
Timg_2546 海上自衛隊基地ですがNBC攻撃に際し、実のところ化学防護車のような陸上自衛隊の花形装備を導入する必要はありません、そういうのも化学防護車は不整地突破能力を有する野戦における化学兵器使用への汚染状況の観測が任務の車両であり、海上自衛隊基地には、もちろん周辺部の山間部は別として基地内に不整地と呼ばれるものは無いためです。この点予算面から実現性は高まるといえるでしょう。
Timg_2626 化学剤監視装置、これも車載運用ではなく可搬式のものを必要に応じて基地周辺の監視に用いる、そして特に除染装備に重点を置いて化学兵器攻撃に際しては迅速な中和剤散布実施により基地機能を維持するという方法が妥当であると考えます。中和剤散布は94式除染装置のようなものがあれば理想ではあるのですが、現状では加水分解を期待し消防車で散水することが限度なのですから、せめて第一歩として防護服の一定数配備と携帯除染器装備、そしてその操作を行う専門の部隊教育からでも始めるべきです。
Timg_3348 ここでも陸上自衛隊の支援を受ければ、という視点はあるでしょう。しかし、陸上自衛隊の化学防護部隊には非常に部隊数に対して任務が多く、海上自衛隊基地へ一個小隊という規模であっても有事の際に常駐を求めることは無理があるのです。特に安定基地のほか、海上自衛隊には重要な基地として航空部隊の航空基地があり、まず行えることは限られていたとしても、NBC防護という視点は持つべきではないでしょう。
Timg_4141 他方、もう一つの視点として核汚染対策は検討されるべきです。核攻撃に対しては確かに打つ手なしです、しかし、艦艇が外洋で放射性降下物の被害に遭い、基地において線量測定を行う必要が生じる、こうした事態は考えられるでしょう。そしてなにより、海上自衛隊基地の近傍に原子力発電所が位置する例があり、舞鶴基地と若狭湾原発集中地域での高浜原発、大飯原発、敦賀原発、美浜原発、横須賀基地と東海第二原発、佐世保基地と玄海原発、呉基地と伊方原発、大湊基地と東通原発、この原発への攻撃や災害による事故の想定は行わなければなりません。
Jimg_1289 護衛艦であれば、放射能除去装置として散水装備があります。放射性降下物は付着しなければ汚染を避けることが出来ますし、浸みこまなければ高圧放水を行う除染の必要がありません。除去装置は海水を大量に散布し放射性物質を洗い流す装備で、かなり早い時期から搭載されています。しかし、原子力事案となれば、特に住民救助任務等を行った場合は、住民が核汚染の降下物被害を受ける可能性があり、一つの防災拠点となるであろう海上自衛隊基地についても、こうした除染能力の保持は必要になってくるのではないでしょうか。
Timg_5974 福島第一原発事故では横須賀地方隊が多用途支援艦などを派遣し、原子炉冷却支援任務に当たっていますが、もちろん、直轄部隊としてより高度な原子力防災工作艦の建造を望みたいのですけれども、例えば電源車の海上からの小型輸送艦による輸送支援、例えば海上からの炉心冷却給水支援等が要請される可能性があります。専用艦とはいわずとも、一定の防護装備と検知装備を準備し、即応体制を構築できないか、この一点から指摘いたしました。
Timg_6345 もちろん、原子力事故は防止するべく防災設備の構築、重要免震棟の整備、火災対策など電力会社の責務です。それは認めるのですが、想定を行う限度があります。それならば原子力政策の放棄は、という視点も確かにあるでしょうが、我が国は工業国であり電力を簡単に賄えるものではありません。太陽電池一つとっても自社工場の広大な屋上に太陽電池を設置しそれだけで賄っている工場、私は聞きません。化石エネルギーへの過度な集中は、結局供給地域の安定維持へ自衛隊の強化と派遣を行わなければならないのです。
Timg_7384 原子力事故対策へ、自衛隊の部隊を新たに予算面と人員面を模索する、ということは簡単ではないでしょうが、少なくとも検知器材と除染装備、そして個人防護装備は保有されるべきです。これら装備は前半に記しました、防衛出動における化学兵器攻撃などに対しての基地防護装備とも一部重なる部分もあり、福島の経験があるからこそ、これまで見ないように意図的に忌避したリスク管理へ、それなりの予算措置を採ることは政治の義務ではないでしょうか。

北大路機関:はるな

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 愛媛の伊方原発事故の訓練で、伊勢を動員して (久我山のチ那ッピー)
2012-06-18 15:36:14
 愛媛の伊方原発事故の訓練で、伊勢を動員して
ヘリで住民を避難させていましたが、除染等が出来る人材と装備は呉でも必要ですね。
 考えたくないが、福島と同じ、津波被害と原子力災害が同時進行という想定はしても、無駄になるだけではない。
 佐多岬半島での、迅速な機器の運搬には、おおすみ型輸送艦のLCACは必要、放射能汚染を
出来る限り抑えて、活動出来る装備と人材を常駐させることは、松山の駐屯地と呉の連携も必要です。
 是非、予算と人材を獲得して、地方自治体との連携はとってやることは、早めにやってもらいたい。
 松山の南の伊予市沖に、災害訓練のために、おおすみ型輸送艦が停泊しているのを高台にある高速道路から見えたのには、感動しました。
 こういう訓練が、東北の震災での燃料輸送などに
十分生かされている。
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久我山のチ那ッピー 様 どうもです (はるな)
2012-06-23 17:15:03
久我山のチ那ッピー 様 どうもです

福島原発事故以前は、想定さえ禁忌となっていました。これが被害を拡大させた一因でもあるのですから、今後は想定と準備をしてゆかなければなりませんね。
返信する

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