◆波高4メートル・風速19メートル・沖合1200km
海上自衛隊は昨夜、太平洋上にて遭難者の救助を行いましたが、その遭難者が辛坊治郎氏であったことに少々驚かされました。氏は京阪神を中心に報道番組のほか、政治討論番組の司会などで非常に有名な方です。
さて、この方が番組を長期休演し、全盲の船乗り岩本光弘氏とともに太平洋ヨット横断へ挑む最中、昨日太平洋上においてヨットが障害物に接触し、浸水ののち転覆、沈没の可能性があり救命艇に移乗し海上保安庁へ救助を要請することとなりました。しかし、今回の救助要請は、その現場がかなり過酷な状況となっていました。
現場は宮城県金華山沖1200km、日本列島南方海域には台風が遊弋しています。担当する第二管区海上保安部長は海上保安庁の装備では即座の救助は困難と判断、21日1000時に厚木航空基地の海上自衛隊航空集団司令官へ人命救助に関わる災害派遣を要請、航空集団は隷下の第四航空群及び第31航空群へ出動を命じています。
1049時、厚木航空基地よりP-3C哨戒機が離陸しています、これは救難飛行艇US-2に先行し、遭難海域へ進出、要救助者の正確な位置を把握し、後続のUS-2を誘導するために先行したもの。続いて1139時、厚木航空基地を第31航空群のUS-2救難飛行艇が離陸しました。第31航空群は岩国航空基地に展開する航空群ですが、1機程度を救難任務へ備え、厚木航空基地へ展開させており、今回も厚木より出動しました。
US-2は従来のUS-1を置き換える新型機として新明和工業にて国産開発されたもので、対潜哨戒飛行艇PS-1を源流とする航空機ですが、新明和工業はかつての川西航空機、第二次大戦中に世界最高の性能を持つ飛行艇とされた二式大艇を開発した企業で、それ以前の飛行艇と併せ、日本の飛行艇技術の現時点での集大成と言える航空機です。
元々は、P-2VやP-2J対潜哨戒機、今日ではP-3C哨戒機が洋上で墜落事故を発生させた際に、救難ヘリコプターの行動圏外で従来の高速艇では不可能である迅速な救難任務を行うために開発されたもので、航続距離は4700km、波高3mでの海面に離着水が可能であり、短距離離着陸性能に優れ離着水距離は僅か300m程度でしかありません。
しかし、今回の遭難現場は過酷を極めました。波高4m、風速19m、悪天候下では燃料消費も大きくなり、離着水の障害となる海上漂流物の確認も視界不良が邪魔します。このため、機長は現場海域に到達したUS-2は着水を断念し、一旦厚木航空基地へ引き返す判断を下しました。
1505時、第四航空群のP-3C一機が厚木航空基地を離陸します。このP-3Cは1049時に離陸した最初のP-3Cを交代するべく離陸したもので、荒天下にて大きくなる燃料消費に対応しての交代、同機も遭難海域上空に常駐し、波高が高い同海域において漂流する救命艇の位置を見失わないよう展開したもの。
続く1508時、厚木航空基地より再度US-2が離陸します。波高は相変わらず4m前後だったようですが、機長は波の動きを読んだうえで慎重に荒れる海面へ着水に成功しました。こののち、夜間となるため救助が困難になる分水嶺での着水敢行といえるでしょう。
1814時、要救助者の救助に成功します。US-2はPS-1やUS-1と同じように胴体に消波装置を設置していますが、これが救助任務の際、機上救難員の乗り込んだボートにとり最大の脅威となります、何故ならば胴体が波浪で浮き上がった刹那に引き込まれれば、消波装置の溝ごと落ちてくる飛行艇に押し潰されてしまうからです。
この難題を乗り越え、体調に異常がないことが確認されたのち、US-2は2230時、厚木航空基地へ着陸しました。これをうけ2240時に災害派遣要請を出した第二管区海上保安部長より撤収要請が出され、今回の厳しい災害派遣任務は完了しました。
1000km以上沖合の荒天の海域へ迅速に救難任務を行うことが出来るのは、世界でも海上自衛隊のUS-1AやUS-2くらいのものでしょう、行動半径で1000km以上のヘリコプター、特に荒天時でも1000km先で救難任務を行える機体は世界を見渡してもほぼありません。
航続距離で2000km以上のヘリコプターは意外とあるのですが、救難任務ではホバーリングを行う必要があり、このホバーリングが燃料消費を著しく悪化させるのです。また、荒天時は風向きや風速もヘリコプターの航続距離に少なくない制約を課します。
このため海外であれば、ヘリコプターに空中給油を行うことで航続距離を延伸し、救難任務を行う事となるのですが、ヘリコプターへの苦衷給油はプロープ&ドローグ方式、つまり空中給油機から延びた給油ホースの着脱口へヘリコプターが空中で接続する方式が採られるため、荒天時には制約される可能性があるのです。
ホバーリング時間を15分と見積もった場合でも沖合1200km、厚木航空基地からは更に遠い海域への救助は仮にMV-22であっても制約を受けます。こうなりますと、ヘリコプター運用能力を有する水上戦闘艦か大型巡視船を経由して救助する飛び石救助方式を採らざるを得ず、狩りに巡視船で救助に向かった場合には数日を要していたことでしょう、これをUS-2は数時間で成し遂げました。
1200km先にて、風速19mと波高4mの波浪を乗り越えての救難任務は、US-2の限界性能に近い任務ともいえます。救難飛行艇はUS-1A、US-2が合わせて7機、岩国航空基地と分遣の厚木航空基地へ向け、今この瞬間も待機していますが、その能力の高さが、カタログデータに示されたものよりも高いことが、今回の任務達成により証明された、といえるかもしれません。
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天気予報の数値では風速10m前後でも波高が3~4mだった思いましたので、気象関係の資料を調べましたが風速20mでは波高10m程となっていました。丁度静まった頃合いを見計らったのだと思いますが、着水を決断したパイロットに敬意を表します。
US2そのものを、売ればいいよね。民間機に転用
なんて、改造するようにして、技術を盗むのがインドの目的だろう。
それにしても、パリ航空ショーにUS2を持っていかないことが、おかしいようね。
武装しない様にして、US2を売ればいい。
しかし、マスコミのイベントの尻拭いに、P3C,US2を出動させているのかと思うと、実費請求してやったら?と思いますが。
それにしても、4mの波浪の中、救助できるなんて
すごいの一言。
厚木に一旦戻って、給油や装備を積み込んで、同じクルーでやるとすると、すごいですね。
まずは、那覇か下地島に配備するべき飛行機だよね。
US-2は行動半径がUS-1Aよりも延びていますし、フライバイワイヤの採用で荒天下の運用能力が延伸していますからね・・・
ただ、UH-60J改を航空自衛隊は新救難ヘリコプターとして導入しますが、この後継機を考えねばならない2030年代後半には、US-3かUS-2Aか、の性能とV-22EかV-23かの性能で、もしかしたら変わる程度の技術革新が、起きるかも?しれません
>気象関係の資料を調べましたが風速20mでは波高10m程となっていました
・・・、すげー
US-2が着水した時点でのP-3Cからの映像でも白波が立っていましたからね、そしてあの辺りは津波漂流物の危険も捨てきれない、P-3Cが相当レーダーと目視で捜索しているでしょうけれども
南海の花束、という戦前の飛行艇乗りを描いた映画がありましたが、あの頃の97式大艇の時代以来、航空機技術も操縦技術も受け継がれて今に至る賜物、というところでしょうか
>製造技術まで売り込むことはない
はあ、本文と何の関係もない内容ですね
>武装しない様にして、US2を売ればいい
それと本文と何か関係が?
完全にスパムで“素晴らしい飛行艇ですね、これからも応援しています”と書き込んでURLにエロサイトを書き込むスパムと同じで、少し本文に関わりありそうな内容を書き込み持論を押し付ける行為は迷惑以外なんでもありません
これが最初や十回や二十回ならば何も言いません、しかし三桁台となると話は別です、無関係な記事を掲載し、もしくは注意され、あなたが逃亡した記事は、今年だけでざっと見ても以下の通り
本記事、US-2出動!辛坊治郎氏と岩本光弘氏太平洋横断航海遭難へ災害派遣、金華山沖1200km、のほか
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早急にこれらの記事へ無関係なコメントを書き込んだ事由か、荒らしていたことを認めるか、を述べていただきたい
確かにその頃には、いろんな事で技術革新が起きているかも知れないですね。
ただ、US-2AかUS-3が更に進化して、荒天下の波を広範囲に把握して予想する、合成開口レーダーと情報処理装置の複合型のようなものが開発され、更に行動半径と離着水能力が近代化されている可能性もありますが、ね・・・。
正直なところ、V-22シリーズが更に行動半径を伸ばす素地があるとすれば、米軍がV-22に渡洋能力を考え、大西洋無給油横断やハワイを給油し太平洋を横断する戦域展開能力を後継機か改良型に求める場合ぐらいでしょうか、もしくは空中給油受油能力の全天候性能を強化するぐらいかな、と。現状で十分と考えれば、これ以上は伸びません。
・・・、我が隣国が対艦弾道弾を技術的に術用的なものとして完成することが出来れば、その域外に強襲揚陸艦を配置して、特殊作戦部隊を展開させる必要性が出て、案外大きな航続距離を求められることになるやもしれませんか、ううむ。
最後は、費用対効果でしょうね。如何に高性能でも全般的にコストが掛かり過ぎたら意味無いですからね。