goo blog サービス終了のお知らせ 

北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:ヘリコプター搭載護衛艦いずも型・ひゅうが型と艦載機F-35B搭載の必要性

2015-01-11 23:46:59 | 防衛・安全保障
◆F-35Bもう一つの必要性
 満載排水量27000t、空前の大型護衛艦として年度内にヘリコプター搭載護衛艦いずも就役を迎えます。

 ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦を含め、海上自衛隊の護衛艦隊に所属する四個護衛隊群は、いずも就役で3隻の全通飛行甲板型護衛艦を、将来的に4隻の全通飛行甲板型護衛艦により護衛隊群を編成することとなりますが、全通飛行甲板について現在はヘリコプターの運用を想定しているのみですが、今回はもう一つの視点を。

 護衛艦隊は、艦隊によるシーレーン防衛や制海権維持に際し、艦対艦ミサイルと艦砲を対水上打撃能力として保有していますが、艦対艦ミサイルは射程が100浬に迫る一方で、レーダーは直進する電波を利用する特性上、水平線より向こう側の目標をレーダーで捕捉することはできません。

 このため、護衛艦は艦載機をセンサーとして使用し、護衛隊同士の対抗訓練においてもSH-6J/K哨戒ヘリコプターにより目標をいち早く捕捉し、ハープーンならば60浬、SSM-1ならばそれ以上の距離を以て想定交戦し、命中判定を電子的に行い、彼我の状況を想定し訓練としています。

 しかし、ターターシステム艦のように艦対空ミサイルの射程が30km前後の時代ならばともかく、昨今の艦対空ミサイルの長射程化は、哨戒ヘリコプターの索敵を非常に困難なものとしています、即ち発見する前に艦対空ミサイルとの間で交戦状態となってしまう、ということ。

 従来はP-3C哨戒機が遠距離からの索敵を行ってきましたが、実態といますとイージス艦の運用が本格化したのちには、P-3Cであっても水平線上に進出した瞬間にイージス艦が運用する長射程のSM-2艦対空ミサイルの射程内に入る恐れがあり、イージス艦の運用開始は相手に情報優位を取らせない手段として大きな意味があった、とのことでした。

 実際には護衛艦隊はイージス艦の防空システム以上の索敵能力を持つ航空自衛隊のE-767早期警戒管制機などとの連携により、イージス艦の能力により選択肢が無い状況に陥る事は必ずしもありませんが、E-767の運用体制や早期警戒機を目標とするより長射程の空対空ミサイルの開発など、その優位は絶対的にかつ永続的とは言えない事を留意する必要があるでしょう。

 こう考えますと、ヘリコプター搭載護衛艦の有する全通飛行甲板による長大な航空機運用能力を、ヘリコプターに限定する現状を改め、ステルス機を運用できる体制を構築したならば、SH-60J/Kでは実施できない高脅威度状況下での強行偵察、索敵が可能になるのではないでしょうか。

 F-22,写真はF-35ではありませんが、ステルス機であれば、敵防空艦艇のミサイル脅威状況下においても、ステルス機のレーダーに非常に捕捉されにくいという特性を活かし目標情報を艦隊と共有する手段を得、艦隊の制海権維持等において非常に重要な情報優位を獲得する重要な要素と成ると考えるところ。

 従来、ヘリコプター搭載護衛艦に固定翼艦載機、といいますと、AMRAAMを搭載したF-35Bで艦隊防空、ASM-2を搭載した中古AV-8Bハリアーで対艦攻撃、という視点を考えがちですが、艦隊防空は米空母機動部隊でさえ従来のF-14戦闘機がイージス艦に任務を譲り、対艦攻撃は対艦ミサイルで実施されA-6攻撃機はより多用途性の高いF/A-18に転換、日本の海上防衛を考えますとそれ以上に情報優位の手段としての艦載機の重要性を考えさせられました。

 もっとも、NH-90のようなステルス性を有するヘリコプターは存在し、場合によってはステルス性の高い哨戒ヘリコプターを開発して運用する、または、X-47無人機のようなステルス無人機を導入して陸上基地から運用する、従来型無人機を大量導入し過飽和攻撃に近い方式の一種過飽和索敵を行う、選択肢は幾つかある事も確か。

 特にヘリコプター搭載護衛艦があり、F-35Bをその全通飛行甲板へ搭載すべきという提案は言うには簡単ですが、まずF-35B戦闘機7機で護衛艦あきづき型一隻に匹敵する取得費用を要しますので導入は予算面から簡単ではありません。更に海上自衛隊には航空教育集団へ航空自衛隊のT-4練習機のような戦闘機要員を養成する航空教育体系もありませんし、戦闘機部隊の運用基盤そのものが現在は皆無で、航空自衛隊の支援が不可欠となります。

 しかし、艦隊の情報優位を如何に確保するのか、この方法に代案が無ければ、制海権維持という任務を果たし得ない状況が現出する可能性も否定できず、ひいては護衛艦隊の存在意義にもつながります。ターターミサイルとヘリコプター、という関係の時代を遙かに超える厳しい状況が現出しており、ステルス機を用いて情報優位、この構図はF-35B戦闘機と海上自衛隊を考えるもう一つの視点となるようにも考える次第です。

北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (21)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 平成26年度防衛省補正予算... | トップ | 榛名防衛備忘録:“高機動車”... »
最新の画像もっと見る

21 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (PAN)
2015-01-12 00:50:07
はるな様

今年もよろしくお願いします。

さて、今回はいずも型就役を間近に控え、F-35B運用の有用性に言及されていますが、ひゅうが型もいずも型も、全通甲板であるとはいえ、飛行甲板の形状や各種装置の配置などから考えると、STOVL機の運用については考えられていないのではないでしょうか?
もちろん、試験的な離着艦は可能でしょうが、それと日常的な運用ができることは別の話でしょう。

確かにF-35系が備える情報収集能力は魅力であり、艦隊の目として期待できるところです。が、翻って数機のF-35Bを積むこととトレードオフして降ろさざるをえなくなる装備を考えると、本来の任務の幅を狭めることにつながりかねないと考えます。仮にF-35Bを4機積むとすると、哨戒ヘリと大型輸送ヘリの搭載数を半減せざるを得ないでしょう。

もしF-35Bの運用を考えるとしたら、計画の存在が噂されている強襲揚陸艦ではないでしょうか?少なくとも現行DDHの艦載機としてF-35Bを考えるのは、かなり無理が多い話のように考えます。
返信する
Unknown (ドナルド)
2015-01-12 12:00:29
はるなさま

基本は無人機ではないでしょうか?

前提として、敵の大まかな位置は、偵察衛星からの情報で分かっているとします。敵が 300-400 km 以内にいれば、24時間態勢で、敵の「いそう」な方向に偵察機を飛ばす必要が出てきます。

1:敵側がレーダー発振をしていない場合は、無人機やヘリで、パッシブの索敵を行う。神経戦。突然レーダーが出された場合には撃墜されるリスクが高い。無人機なら1機の犠牲で、敵艦隊を発見できる。

ただし、艦隊と偵察機の間の通信は、極めて限定的にしておく必要があり、この場合は「判断」の出来る有人偵察機の方が、現時点では有利かもしれません。UAVのAIの能力もどんどん良くなるでしょうが。

2:敵側が常時レーダー発振していれば、ヘリを飛ばし、ESMで測敵(こちらは発見されない)。レーダーを出していない敵艦は探れないが、高度な電波を出す「防空艦」の位置は分かる。偵察衛星で敵の艦隊規模は既に分かっているため、必要に応じて、空自に大規模航空攻撃を依頼できる。

3:大規模航空攻撃の段階になったら、2-3機の無人機を飛ばし、敵に撃墜させるのと引き換えに、敵艦隊の全体像をレーダー検知し、空自にリンクする。


4:艦対艦戦闘をするケースは少ないのでは?

偵察機を300-400kmの水平線距離からバンバン撃墜するような高度な防空能力を持つ敵と対峙する場合には、護衛艦の持つ8発程度のSSMでは、全数容易に撃墜されるのでうっても意味がないのでは?

敵が「あきづき」レベルのミニイージスなら、偵察機は撃墜されないでしょう。敵SAMの射程次第では、ヘリでも十分仕事ができます。しかし、同じく8発程度のSSMは全数落とされるので、艦対艦戦闘は難しい。。。

敵がフリゲート艦以下のレベルなら、艦対艦戦闘でこれを撃没できますね。その場合は、無人機も不要で、ヘリで十分索敵できるでしょう。


5:無人機がよいのでは?

無人機はヘリよりも遥かに長時間飛べます(英軍記事等から、ヘリは1日あたり3-4時間が限界と理解しています)。さらに機体が50億円を超えるSHよりは安価で、しかも無人なので、撃墜されてもダメージが小さい。おそらく長射程SAMの弾体そのものよりも安価では?

#RQ-21だと、機体x5を含んでシステムが6.5億円程度。機体そのものは1億円以下でしょう。

このレベルのもの(今はIR画像のみ、レーダーは開発しているけど強力ではない)を3-4機飛ばし、必要に応じてSHヘリ(強力な対水上レーダーやESMを持つ)を飛ばして補うのが良いと思います。

問題はUAVとの通信で、これを逆探知されるのが嫌ですね。UAVそのものの出す電波は(そのうちレーダーも使う予定ですし、耐ジャミング能力のために出力も必要なので)出し続けるとして、艦からのコマンドは、バースト通信を使ったりして、非常に限られたものにしたいですね。

本来は、UAVからの通信も、衛星通信にして秘匿したいところですが、これをやるとかなり高価なシステムになってしまうので、なかなか難しいようです。
返信する
Unknown (軍事オタク)
2015-01-12 15:19:58
ステルス戦闘機艦載運用すれば、海自にとっては革命的でしょう。
航空自衛隊に配備しておいてもいい。艦載する時に海自に編入してもいいでしょう。
強襲揚陸艦も導入しますから、最低50機ぐらい導入してほしいものです。
返信する
Unknown (通りすがりの者)
2015-01-13 00:29:49
明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。F-35Bを導入し艦載するとなると計画中の強襲揚陸艦が現実的ですね。今のDDHに搭載するのは、コスパの面であまり良い物では、無いです。
返信する
Unknown (Unknown)
2015-01-13 02:26:50
 いずも型のF-35B搭載は、海自の将来的なオプションとして視野には入ってると見ています。あぶくま型のRAM搭載程度には。
 そしてF-35B搭載の主要な目的は、恐らく離島防衛ではありません(口実としては言及されるでしょうが)。離島防衛であれば近接航空支援兵力は島嶼部の空港に配置すれば済むためです。第31海兵遠征隊司令官マクマニス大佐も(日本の海兵隊に必要な能力という文脈でですが)否定的に語っています(『海幹校戦略研究』第2巻第2号)。その方が費用対効果も高いでしょう。同様の理由で、導入を目指してる海自の強襲揚陸艦にもF-35B搭載の可能性は低いです(搭載可能にはしても配備はしないでしょう)。海兵隊内でも強襲揚陸艦へのSTOVL攻撃機搭載には否定的な意見も根強い?ようですし。
 ではいずも型へF-35Bを搭載するとしたら、その目的はやはり艦隊防空と水上打撃力の向上でしょう。具体的にはシーレーン防衛や、第一・第二列島線間の海域での中国空母機動部隊への抑止力です。中国空母が作戦能力を獲得し小笠原沖や硫黄島沖に出没するようになれば、必要性が現実的に語られるようになるでしょう。
 いずも型の軽空母化は上記の問題にある程度は役に立つでしょうから、ベターな選択ではあると思います。ですが費用対効果の面で疑問点がある上、いくつか議論をすっ飛ばしています(私個人としてはベストな選択と思いません)。軍事的合理性だけでは、F-35Bの搭載決定まで進む力はありません。
 結局、最後の一押しは政治の力になると思います。オスプレイ導入決定の流れに見るような、合理性だけでは説明のつかない、政治家主導での決断になると予想します。
返信する
あああ (syosin)
2015-01-13 11:10:31
F35で索敵するにしても、F35自身が発する電波でステルス性が失われてしまうのではありませんか?
返信する
Unknown (ぬるねこ)
2015-01-14 20:31:44
海自が運用するのではなく、アメリカ軍を援護する為に
F-35Bの搭載能力をつけるのではないでしょうか?
海自はF-35B型を導入する為の訓練が必要なく、アメリカ軍は海自から補給が受けれて、お互いに得しますし

単純に情報収集するのでしたら、無人機の導入のがいいかと思われます
返信する
F-35B,外洋作戦で他に代替案が無い (はるな)
2015-01-15 00:24:13
PAN 様 本年もよろしくです

全通飛行甲板型DDHですが、その最大の価値は予てより提示していますように、艦載機を交換することで様々な任務に対応できることでして、一頃欧州で盛んに計画され建造されたモジュール艦、モジュール交換により様々な用途に対応する艦艇以上に迅速に艦載機変更がこれを実現できる点にあります

ですからご指摘の”哨戒ヘリと大型輸送ヘリの搭載数を半減せざるを得ないでしょう”、といいますのは少なくとも大型輸送ヘリが必要な任務ですので、両用作戦等に限定、少なくとも今回主眼とするF-35Bが必要となり情報優位に運用する対水上戦闘では、元々大型輸送ヘリというものは必要無い訳です、そして大型輸送ヘリが必要な輸送作戦では、少なくとも両用作戦は自衛隊の場合大陸侵攻など考えられませんので、我が国島嶼部に限られ、この場合島嶼部陸上航空基地からの支援を得られることとなるでしょう

もっとも、F-35Bが保有運用されていたばあい、陸上基地から運用し航空自衛隊の支援に充てる、という選択肢が加わるのですが

一方、強襲揚陸艦ですが、これはMV-22とも重なる点ですが、どの程度沖合から運用する構想なのか、と気になります、MV-22ならば南西諸島での蘊奥を想定すれば沖縄本島からの往復でも十分であり、沖縄本島の基地が弾道弾攻撃により完全に使用不能となるような状況を考えない限り、MV-22を保有さえしていれば、強襲揚陸艦よりは通常の輸送艦より重車両を輸送する方策の方が妥当とも思うのですが
返信する
MQ-8やRQ-21では能力不足、MQ-4ならば、しかし・・・ (はるな)
2015-01-15 00:49:58
ドナルド 様 こんばんは

無人機ですが、相当数を同時運用しない限り、外洋上で必要な位置情報を把握するには厳しいようにも、また、十分な能力を持つ航空機となりますと、RQ-21のセンサーや海上自衛隊が導入予定のMQ-8ではセンサーの能力的に不足で、十分な、と言いますとMQ-4Cを陸上基地から運用する方策が浮かぶのですが、やってしまいますとMQ-4C管制用にP-8Aを、というように少々我が国の運用体系と乖離してしまいそうで・・・

MQ-4を導入し、P-1哨戒機にMQ-4の支援能力を付与する、という代案は思い浮かべられますが、しかし、MQ-4を一定数運用するのとF-35Bの運用基盤構築は、費用的にどの程度違うのか、ちょっと分かりません

RQ-21,海象に左右されない改良を行い、相当数同時運用したならば滞空時間の長さからある程度、少なくとも音信不通となった機体の位置などから解析できそうですが、SH-60J/KやF-35Bと比較しRQ-21の海象への対応能力が分かりにくく、この点評価できません、そしてRQ-21は進出速度や12kgまでのセンサー搭載能力等を見ますと、洋上の治安作戦の延長としての運用が主眼で対水上戦闘をそこまで意識していない装備のようにみえまして

艦対艦戦闘ですが、起きえない、というならばいっそすべて撤去してしまったほうが、と思います、しかし、1個群でDDH以外7隻にSSMを搭載すれば56発を運用できます、当方提示のDDHを各護衛隊に配備する案でも24発を運用できる訳でして

加えて、F-35Bのような装備を以て敵水上戦闘艦部隊の位置を常時捕捉できる態勢を確立できた場合、62口径5インチ砲Mk45からエクスカリバーN5砲弾のような長射程砲弾を対水上戦闘に活かす方法も考えられます
返信する
流石にX-47の艦上運用は、想定外です (はるな)
2015-01-15 00:53:09
軍事オタク 様

>ステルス戦闘機艦載運用すれば

ううむ、艦載機としてX-47を運用することを考えますと、いずも型では明らかに不足で、ニミッツ級の規模の船体が必要になってしまいます、当方も陸上基地からの運用しか考えていません

本分でもX-47という具体名は示していますが、こちらは陸上基地からの運用、と記載しています
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

防衛・安全保障」カテゴリの最新記事