北大路機関

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新型装甲車/装輪装甲車-改開発中止(考察4)道路法2.5m&狭軌貨物輸送3.0mの車両限界

2018-08-07 20:09:46 | 先端軍事テクノロジー
■国土に合致する装甲車の難しさ
 96式装輪装甲車の調達を継続するのか、更なる新型を開発するのか、多少大型でも海外製装甲車を模索するのか、即応機動連隊が次々と誕生する中、喫緊の課題です。

 日本で日常的に運用する装甲車とするには、道路運送車両法の車両限界内に当たる車幅2.5m以内に収めなければ行動通行に際し道路管理者である関係当局に届け出が必要となり、非常に煩雑となります。96式装輪装甲車が細長い形状となっているのもこうした配慮からです。一方アメリカ陸軍主力装輪装甲車、ストライカー装甲車はこれよりも大きいのです。

 日米合同演習にて何度か日本にも展開していまして、前回の中央観閲式本番でも登場しています。車高は2.64m、と装輪装甲車(改)よりも低く押さえられ、一方で車幅は2.72mあります。装輪装甲車(改)は車幅よりも全高のほうが高い、トップヘビーな形状となっていましたが、戦闘中に横転は致命的問題といえまして、ストライカーは重心を考慮しています。

 ただ車幅は道路運送車両法の特殊大型車両似含まれる2.5m以上で、公道走行時には道路管理者と所轄警察署長への届け出と許可が必要となります。この煩雑さをどう考えるか。16式機動戦闘車、陸上自衛隊の装輪装甲車で車幅が2.5mをこえる車種はこの一種類だけです。車幅2.98mあり、正直なところ試作車が完成した際には車幅が公表され、当時驚きでした。

 16式機動戦闘車、思い切った仕様で開発したものだ、と驚いたことを思い出します。しかしこのほかは、豪州製ブッシュマスター耐爆車両を邦人救出用に取得した輸送防護車も、96式装輪装甲車も巨大なNBC偵察車も、全て車幅は2.5mに収められています。しかし防衛装備庁がスラローム射撃映像を公開すると、安定性を考慮しての車幅と理解できました。

 実は機動戦闘車開発開始当時も、新規開発ではなく、何故96式装輪装甲車に105mm砲を搭載しないのか、という識者からの批判はかなり多くありました。これについて、残念ながら機動戦闘車開発者の方に直接聞くことはできませんでしたが、射撃時の反動を考慮するならば、車幅2.5m以内では技術的に不可能だった、というお話を人づてに聞いています。

 106mm無反動砲を60式自走無反動砲のように二門後部に砲架ごと括り付けるならば可能かもしれないが、無人砲塔にしても有人砲塔にしても砲塔搭載時の安定性を設計していない既存装甲車に搭載する事は簡単ではなく、低姿勢で、低圧砲を背負い式に搭載しても、射角や射撃姿勢の制限、停車射撃を要する等制約が大きくなる、ということなのでしょう。

 自衛隊が車幅2.5mの分水嶺を自ら超えた、しかし、興味深いのは2.98mという、もう一つの車幅制限、3mを厳格に下回っている点は注目すべきでしょう。3mとは国鉄狭軌貨物輸送車両限界、61式戦車が車幅3mに抑え、妙に高いシルエットを採用した背景には貨物列車で輸送したいという戦略上の要件を満たすためでした。その意味で戦略機動性は高い。

 61式戦車は車幅3m以内、しかし90mm戦車砲か105mm戦車砲かの開発当時の議論があり、90mm砲の交戦距離900mでも錯綜地形の多い日本では十分であるという結論と共に、3m以内に収める戦略機動上意義があったという。そして16式機動戦闘車も車幅2.98m、つまりJR在来線の貨物列車で大量輸送が可能です。61式と16式というのも妙な一致やも。

 日本全国の道路が一車線当たりあと1m広ければ様々な外国製装甲車両が導入出来た事でしょうが、これは今から全国的に拡幅を行うには厳しいものがあります。そして専守防衛、つまり国内を戦場と想定して運用する装甲車なのだから、設計に制約を課すこととなっても車幅を抑える努力があり、結果、装備開発全般を難しくする要素となっているようです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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6 コメント

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Unknown (ドナルド)
2018-08-07 21:30:28
何の問題もなく、2.5mを越えれば良いと思います。

法は改正すれば良い。単純明快です。

実際の道の狭さは、実際2.5m超えのトレーラーやクレーン車が沢山走っており、結局はノウハウを貯めることです。遅く始めれば始めるほどよくない。

憲法改正なんぞ、全然後で良いので、もっと現実的かつ喫緊の課題である医師法、薬事法、道交法、無線関係法制などの整備を着々と進めるべきです。オスプレイもAAV7も大型無人機も全くいらない(単に自衛隊を弱体化させただけ)ので、こうした政治家の領分である法改正という仕事をしっかりやっていただきたいものです。
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Unknown (流線形)
2018-08-08 11:19:35
ドナルドさんと同じ意見です。

道路法(車両制限令)、道路運送車両法(道路運送車両の保安基準)の改正で、車幅2.5mの制限を自衛隊車両については除外すると但書で規定し、かつ道交法上の特殊車両に関する許可制の対象から自衛隊車両については但書で除外すれば良いと思います。
既存の法的枠組みを維持しつつ、自衛隊の車両運行の幅、自由度を上げることが可能となります。
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Unknown (軍事オタク)
2018-08-09 13:13:45
自衛隊のみ2.5M撤廃は賛成です。
ところで、代替に、軽量戦闘車両システムはどうですかね?
2.5M以内だと思うが、インホイルモーターとディーゼルで、できたら、
これまた研究中のハイブリッドで。
12.7mm重機だけでなくて、25mm程度の機関砲搭載バージョンもできないですかね?
車体小さくてだめかな?
通常型でも運転手など含めて9人しか載せられないかな?
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Unknown (ファッツ)
2018-08-09 23:05:54
ドナルドさん・流線型さん
平時は其れで大丈夫だと思うのですが有事の時は如何なのでしょうか?自分の住む山口は有数の総理輩出県とあってか土建王国とも言うべき様相で山の中でも立派な2車線道路が走ってますが全国的には例外で田舎の方では地域の主要な国道でも集落の中ではすれ違い難しい1車線だったりキツい坂の峠越えが有ったりしま東名阪の方でも再開発や区画整理が儘ならず狭い道が多いと思います。(寧ろ此方の方が多数かも。)
実際の有事になると道もどんな状況になるか判らないと思います。敵軍の侵攻・工作も去ることながら避難者の車の放置等で狭くなったり塞がったり等も考えられます。又、少子化が進む中で道路整備・維持費が此からも潤沢に組まれるかも判らないかと。
勿論、装甲車としての走行性能・防御力や収得性が最優先ですので如何しても無理なら諦めも肝心ですがその辺りの機動性を易々と放棄して良いのかなと素人ながら思います。
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ファッツ様へ (ドナルド)
2018-08-10 10:48:30
ありがとうございます。

ただ、私の知る田舎も、道は非常に立派で(都会よりよほど立派)、「集落の中ではすれ違いの難しい1車線だったりキツい坂の峠越え」を通らずとも、ほぼ問題なく域内を移動できるところを多く知っています。

一方で「すれ違いが難しい1車線だったりキツい坂の峠越え」のところでは、敵もまた行動ができないので、大きな問題はないのではないでしょうか?また、そのために、軽装甲機動車や高機動車が配備されているのではないでしょうか。

車幅の問題は、おっしゃるように、問題ないところと問題のあるところに分かれると思います。そもそも、バスも入れない小道がたくさんある以上、2.5mの96式APCだっていけないところはたくさんあるでしょう。

ここは、経験を積む必要がありますが、「敵もまた行動ができない」を考慮すれば、軍事的には対応可能なはずです。むしろ、その準備をしておき、ここは通れる、ここは通れないというノウハウをしっかり蓄えておくことこそ、防衛側としては重要ではないでしょうか。
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ファッツ様、ドナルド様へ (流線形)
2018-08-10 15:26:14
欧州の様に演習場外の市街地、住宅地での実動演習に行う事が出来れば、より仕様を深く考慮出来るのだろうと思います。
ファッツ様がおっしゃる様に、場合によっては、車幅は2.5mに抑えた方が使い勝手が高いという事もあると思います。
ただ、現状、与えられている知見だけで仕様を固め、要求を満たす物を作るならば、法的制約によって使えない物のなるでしょうから、法改正という小手先の正攻法で対応してはどうかと考えている次第です。

この問題の根幹には、遅滞行動を前提とした場合における、実運用環境に適した仕様を検討出来るだけの生の体験、情報が不足している事があるのではないかと思います。

避難してくる住民とは逆方向に向かう部隊を同じ道路上を走らせる事は危険ですし、渋滞を引き起こす事は想像に難くはありません。幹線道路(といってもWW2時のフランスの田舎道だが)を一方通行にしたRed Ball Expressでさえ、渋滞が起きたそうですから。

今回の件は、非常事態における作戦地域へ向かう自衛隊車両と避難民の誘導をどの様に行うのかといった構想、実験、立法措置、各地方自治体での具体策検討など、車両の仕様に留まらない問題をはらんでいる事を示していると理解しています。
ちょっと激しい表現になりますが、政治の世界で解決されるべき問題が放置されている結果だと思います。
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