北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アイアンドーム防空システムと我が国ミサイル防衛、北朝鮮弾道弾と中国巡航ミサイル脅威

2016-06-01 22:48:54 | 先端軍事テクノロジー
■イスラエル製新近距離ミサイル
 北朝鮮ミサイル実験が繰り返される中、我が国は基本的にミサイル攻撃に対し先制的自衛権行使を選択肢に含めていない為、ミサイル防衛への関心が高まっています。

 こうした中で、イスラエルが新しい海上配備ミサイル防衛システムの実験に成功、というと報道がAFP等で流れました。一瞬新装備完成か、と思わせる内容ですが、実体はロケット弾迎撃用のアイアンドームシステムをコルベットに搭載し運用成功した、というものでした。アイアンドームはイスラム武装勢力がイスラエルへ数百発を投射してきましたカッサムロケットへ対抗する迎撃装置で、これは戦時中カチューシャロケットの愛称で知られたロケット弾の系譜、122mmロケットの単発発射機を用いて不特定多数が多方面から無差別攻撃を実施するもの 。

 イスラエルのアイアンドーム、我が国のミサイル防衛を考える上で、よく頻繁に識者や専門家の一部が言及する装備です。イスラエル国内へ大量に打ち込まれるロケット弾を次々と迎撃に成功する様子が報道され、特に複数の落下するロケット弾へ先行するように迎撃に上昇し、複数を十数秒間で迎撃、迎撃成功率は防護対象区域へ落下するロケット弾に対しては90%という高い迎撃能力を発揮しており、これを自衛隊が導入すれば北朝鮮のミサイルに対して有効に迎撃出来るのではないか、という、一種誤解があるようです。

 アイアンドーム、技術的に迎撃は例えばミリ波レーダーと3P機関砲弾を用いれば可能なのですが、兎に角撃たれる数が多いのが難点で、このため、20連装のロケット弾迎撃用ミサイルシステムとしてアイアンドームが開発されています。よくある誤解で、ミサイル迎撃システムという部分と迎撃が成功しているとの報道から、日本にも導入すべきとの意見を散見しますが、確かに陸上自衛隊の師団防空などには効果があるといえるものの、所謂MD,ミサイル防衛には役に立ちません 。

 それは日本へ飛来するミサイルはカッサムロケットのような122mmロケット弾ではなく、極超音速で飛来する弾道ミサイルであるためです、アイアンドームの射程は10km前後、射程は大きくなく弾頭威力も小さい為弾道ミサイルを迎撃できないのです。ミサイルの規模はアイアンドームが直径160mm、全長3m、本体重量90kg、というもの。それでは、弾道ミサイル防衛に当たるミサイルの規模は、といいますとMIM-104FペトリオットミサイルPAC-3で直径250mm、全長5.8m、重量320kg、と。

 ミサイルの大きさからアイアンドームと近い規模のミサイルを観てみますと、航空自衛隊の短射程空対空ミサイルであるAAM-5が直径130mm、全長3.1m、重量95kg、また、海上自衛隊が護衛艦などにも採用していますRIM-116C/RAMが直径146mm、全長2.82m、重量88.2kg、という規模です。超音速で高高度まで上昇し直接迎撃する弾道ミサイル迎撃用ミサイルとの違いはこのようにミサイル本体の大きさに表面化しているといえるやもしれません。

 ならば無用か、と問われると実はそうでもありません。MDミサイル防衛ですが、ただ、弾道ミサイルではなく巡航ミサイルへの防空能力ならば、大きな能力を発揮できるといえます。アイアンドームは155mm野砲弾など小型目標も多数を同時に捕捉し迎撃可能であるため、専守防衛の我が国としては、例えば相手が航空機から爆弾を投下し航空基地等を無力化する攻撃を受けるまで、本格的な迎撃を実施できない日本の国情には合致しているといえるでしょう 。

 巡航ミサイルによる第一撃は奇襲となり当然飽和攻撃という形で同時に多数が投射され、複数のミサイルが多方向から飛来する事になります、そういうのも、第一撃は海戦の状況を確認する、攻撃を加える側には防衛体制が確立するまでの位階のみの機会であるからです。こうした場合に対してもアイアンドームは1セットを構成する即応弾が20連発射機3基の合計60発、一目標へ2発を発射するとしても同時に30目標を迎撃可能ですので、航空自衛隊の基地防空地対空誘導弾システムよりも即応弾が多いのは心強い。

 H-6 轟炸六爆撃機は射程2000kmのCJ-10K巡航ミサイル6発を搭載可能で、遠距離から我が国航空基地や原子力発電所等を攻撃可能です。CJ-10K巡航ミサイルは水上戦闘艦搭載型や潜水艦搭載型の開発も同時に進んでおり、ミサイル防衛という視点から、我が国は北朝鮮の弾道ミサイルだけではなく巡航ミサイルへの対処を本格化させなければなりません。

 幸い、巡航ミサイルは弾道ミサイルと異なり低空を飛行するものの基本は亜音速巡航である為、早期警戒機等を飛行させたならば早期に捕捉し充分な余裕を以て、ペトリオット、、03式中距離地対空誘導弾、11式短距離地対空誘導弾、81式短距離地対空誘導弾C型、基地防空地対空誘導弾システム等で迎撃が可能である一方、多数を同時に打ち込み、飽和されると厄介で、アイアンドームの即応弾の多さは利点といえるでしょう。

 ただ、費用面では必ずしも我が国の国情に合致しているとは言えません、アイアンドームはEL/M-2112レーダーシステムと20連装ランチャー3基から構成されていますが、イスラエルは2億500万ドルを投じて2個中隊所要の調達を行いました、開発費や初度装備品などを考えた場合、我が国が導入する場合、那覇基地等を防護するシステム一式だけで恐らくこの2億ドルに達すると考えられます。

 一方、アイアンドームシステムと類似の装備として、艦載装備のRAMがあり、アメリカの防衛企業レイセオンなどはEL/M-2112とRAMによるシステムの第三国への提案を行っています。我が国の場合は、RAMの導入を開始した訳ですし、飽和攻撃へ対処できるシステムは、国産でも不可能ではありません、PAC-3をPAC-2四基分に各4発を搭載し16連装とし、巡航ミサイルへ備える事も出来ますし、基地防空地対空誘導弾システムを現在の高機動車へ4連装発射機を搭載していますが、これを牽引車両にけん引させる20連装発射装置を開発し、即応弾数を増大させる事でも対処は可能です。しかし、こうした視点からミサイル防衛を弾道ミサイル防衛に留めず巡航ミサイルによる飽和攻撃を想定する事は、重要といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本海危機,北朝鮮新型弾道弾... | トップ | 陸上防衛作戦部隊論(第五三... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事