北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:第1機械化大隊編成の参考点と戦車の陸上装備体系における位置づけ

2013-11-16 19:06:38 | 防衛・安全保障

◆想定脅威が減退しなければ、必要な打撃力は不変
 陸上自衛隊は冷戦時代に部隊展開密度の不足を補う形で大量のヘリコプターを導入しました。そして今日、戦車縮減による機動打撃力の不足を補うべく、より強力な対戦車誘導弾や装輪装甲車体系を構築へ着手しつつあります。
Gimg_2747 第一機械化大隊を参考とした機械化部隊を広範に編成するには1100両の戦車が必要となります。これから戦車がさらに減るという検討もあるのにチミは何をいっとるだねエ、というような批判もあるでしょうが、機動戦闘車と中距離多目的誘導弾の大量配備が開始され、小銃班にも大量に対戦車ミサイルが配備される現状では、そこまで現実味があるとは当方も思ってはいません。反面、元々は1995年防衛大綱改訂以降、初めて1200両に達した戦車数を削減する方向が明示された一方、戦車の代替装備が延々と調達された実情を見ますと、逆にこれでいいのか、という疑問符が本稿を起稿へ向かわせる、その起点となりました。
Gimg_5503 元来、戦車はその必要性の低下が戦車数の削減へ向かう根拠として戦車定数を900両に削減する方向が示され、その後徐々に削減されるに至ったのですが、脅威想定と陸上自衛隊に求められる火力投射の要請、脅威評価と求められる打撃力が換わらなかったため、戦車を削減したとしても普通科中隊の無反動砲小隊を対戦車小隊へ改編、小銃班の無反動砲を軽対戦車誘導弾へ置き換え、師団対戦車隊を廃止し一部連隊への対戦車中隊新編、ミサイルで対応できない目標に対する機動戦闘車の開発、軽対戦車誘導弾を補完するべく従来小銃擲弾以上の小銃擲弾の配備、更に無反動砲を多用途ガンとして再配備するなど、戦車を減らした分、これを補うべく増えた装備の方が多くなっています。
Fimg_6004 もとより戦車を必要なだけ揃えていれば此処まで装備体系は複雑化しなかったのではないか、と考えるところ。現状の膨大な種類の対戦車誘導弾の種類を後方支援の面から批判する声もあるかもしれませんが、当方も、例えば連隊戦闘団に戦車中隊を付与できる確実な戦車定数を確保できれば、中距離多目的誘導弾を全ての普通科中隊に配備する必要は無く、旅団の火力不足を補う装備や、どうしても必要ならば師団対戦車隊を創設して配備すれば、元々従来の中MATに近い射程を有する軽対戦車誘導弾が配備されているのだから、必要ないと考えます。10式戦車が充分な数を有するならば、機動戦闘車の必要性はそこまで高くありません。
Gimg_9378 また、10式戦車は50両、三か年一括取得契約を結ぶことが出来れば、7億円まで一両あたりの生産費用を抑えることが出来ると事業評価されたことがありますが、年間10両前後を単年度契約した場合生産計画を建てることが出来ないため、単価が13億円程度まで上がることとなります。これを中期防の五年単位で見た場合、少々大雑把に100両を調達した場合の取得費用は五年間で700億円となります。しかし、単年度ごとに少数生産を継続した場合は五年間で50両を650億円で調達することとなってしまうわけです。
Img_0070 勿論当然の前提として、戦車さえあれば何とかなる、という安易な考えではなく、戦車が無くともこれとあれとそれにどれが必要、という考えに対し疑問符を提示するところです。もっとも、既に開発された装備については考えねばならないとも思うのですが。大隊規模の戦車の打撃力を中隊規模の戦車、中隊規模の対戦車ミサイル、中隊規模の機動戦闘車、その他装備で補おうとしていることが結果的に装備に関する予算面での圧迫を大きくしている印象があり、それならば、一長一短御各種装備を揃え装備年鑑を多種多様な各種装備で豊かに飾るよりは、必要な数の戦車を揃える方が先決で、その分戦車により補える装備を減らすことが必要なのではないか、という考えに至りました。
Img_2603 また、日本に敵が上陸する可能性が無い、と考え、周辺国が大量の揚陸艦を建造し、水陸両用装甲車両の開発を進めている実情、無人の島嶼部以外に島嶼部の周辺に或る離島に対する攻撃が為される可能性が高まっている実情を、納得させる論拠と共に提示し戦車は不要、機械化部隊の上陸は無い、と現実的に納得することが出来る論拠というものが見当たりません。加えて、近年、大口径機関砲を搭載する装甲戦闘車の普及が始まり、特に従来は徹甲弾による対装甲車戦闘に用いられていた機関砲弾はそのまま調整破片弾が開発されることで露出歩兵に対する根本的な脅威となっています。これに対処するには長射程の対戦車ミサイルに、装甲戦闘車か戦車以外にはありません。
Img_2327 しかし、近年、各国の装甲戦闘車は元来開発された背景が戦場タクシーの自衛戦闘力を強化するという範疇であったことを忘れたかのように、あたかも末期のドイツ四号戦車状態ともいうべき、火力の強化、装甲防御力の強化、戦車に依存しない装甲車体系へと邁進しています。結果的に、コストは跳ね上がるべきで、それならばイスラエル軍のプーマ重装甲車のように高価な火器管制装置等の装備体系を省いたうえで必要な火力支援は戦車が行う、という運用体系、これは即ち戦車ありきの機械化部隊、という体制の方が、コスト面では逆に抑えられるものではないか、と考えるところ。
Eimg_6687 この実情は米軍でも深刻で、例えばストライカー装甲車を大量配備し、ストライカー歩兵装甲車には遠隔操作銃塔RWSに12.7mm重機関銃を装備、火力支援にストライカー機動砲として105mm砲を搭載した装甲機動砲を旅団あたり30両、当初計画では65両を整備する方針の下、戦車に依存しない装備体系の構築を目指しましたが、結局火力不足と機動砲の運用限界が重なり、驚くべきことに米陸軍は12.7mm重機関銃搭載のRWSを30mmテレスコープ弾機関砲へ置き換え、火力を強化する方策を示しています。結局、戦車の真似事が出来る車両は戦車にはなり得なかったわけで、部隊装備体系をめちゃくちゃにしてしまいました。無論、ストライカーの運用は機動性最重視ですので、戦車との適合性は元々考えられなかったのかもしれませんが、戦車不要にこだわり過ぎ、その労力を戦車の戦略機動に充てていれば良かったものを忌避したため、コスト面では大きくなった。
Fsimg_7542 更にコスト面を突き詰めますと、戦車にしろ装甲戦闘車にしろ、装備を構成する要素で最も比重が大きく成長している部分は火器管制装置です。暗視装置に弾道コンピュータを加え情報伝送装置と組み合わせることでどうしても大きくなり、例えばイスラエルのメルカヴァMkⅢはBIZ火器管制装置を搭載しただけのメルカヴァMkⅢ-BIZで生産費用が三割増大した、という事例、元来装軌式装甲車よりも安価にまとめられるという装輪装甲車が高度な火器管制装置を搭載した場合の費用面ではフランスのVBCI装輪装甲戦闘車が邦貨換算で五億円以上を要し、隣国スペインの装軌式装甲戦闘車であるアスコッド-ピサロ装甲戦闘車よりも高コストになっている実情などがありました。
Img_2653 結果、戦車一個中隊と装甲車二個中隊か、装甲戦闘車三個中隊か、どちらが高コストなのかを比較した場合、機械化大隊編制の場合は戦車は量産が進んだと仮定して一個中隊14両を98億円、装甲車二個中隊28両を28億円として126億円で一個大隊を編成できるのですが、装甲戦闘車を三個中隊揃えますと42両の装甲戦闘車を揃えるには210億円が必要となります。もちろん、装甲戦闘車だけで部隊を編成したほうが補給面では単一種類に特化できますので維持と後方支援の費用は有利でしょうが、それにしても取得費用を大隊あたり126億円か210億円か、と問われたらば、流石に後方支援の部分での費用を抑える強調を行っても岩塊があるでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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