◆部隊は中央直轄か西方直轄か旅団直轄か
報道によれば、政府は防衛省が進める年末画定へ向け検討が進む防衛計画の大綱改訂に際し、陸上自衛隊への海兵隊機能付与を明記する方針で調整が進められているとのことです。
防衛計画の大綱へ海兵隊機能盛り込み、これはどういう事でしょうか。それは即ち、防衛装備品は毎年度の防衛予算により調達されていますが、将来的にどういった任務への対応が求められ、それに基づき装備体系を構築するのかを考えねば、場当たり主義の単なる買い物に終わってしまいます。このため、我が国では長期的な防衛政策を防衛計画の大綱、防衛大綱へ盛り込み整備している、ということ。
その上で、まず長期計画の概略を防衛計画の大綱へ明示し、それを元に具体的にどうやって装備品を揃え人員を配置し訓練を行うかを五年ごとの中期防衛力整備計画に明示し、この中期的な計画を年度ごとの防衛予算へ割り振り、自衛隊の部隊を整備してゆく、というのが我が国の防衛政策です。
防衛計画の大綱は、民主党政権時代の2009年に改訂され、当初であれば2019年頃まではその大綱に基づく防衛政策を推進すれば我が国と周辺地域及び世界への防衛と抑止力と安定に寄与できる、と考えられていたのですが、民主党政権下では政権公約、マニフェストに防衛費5000億円削減が盛り込まれていた関係上、単なる人員削減と装備削減に終わり、その後の外交的失策で悪化した情勢へ対処することが出来ないものとなりました。
その結果、自民党政権へ政権交代後、ただちに防衛計画の大綱を見直す、として様々な施策が提起され、検討されていた陸上自衛隊への海兵隊機能盛り込みが、そのまま防衛計画の大綱へ明記され、本格的な両用作戦部隊を創設する方向が示されたというわけです。
ただ、この海兵隊機能は、北大路機関において何度も取り上げたようにアメリカ海兵隊型の大規模な有事への独力対処能力を有するものなのか、イギリスの泊地警備と海外領土警備に重点を置いたイギリス海兵隊型のものであるのか、離島警備と逆上陸による本土防衛を重視した中華民国海兵隊を想定するものなのかは、やはり曖昧模糊とした表現と言わざるを得ません。
元々、多数の離島を以て海洋上に国土を有する島嶼部国家である我が国は、離島を防衛する重要性を考えた場合、勿論太平洋の反対側に上陸し相手国首都を占領できるような師団級の海兵部隊と航空及び水上部隊は不用ですが、少なくとも自国の離島を防衛できる両用戦部隊は必要であったわけです。
ただ、それならば何故今日まで自衛隊が海兵隊機能を有さなかったのかと問われれば、それ以上に冷戦時代は北海道へソ連軍の着上陸という現実的な脅威があり、他方南西諸島を中心とした離島には在沖米軍、在比米軍、そして連接する在韓米軍とグアム及びハワイの強力な米軍が展開していたため、周辺国では海を越えた軍事行動を行うことが事実上できなかったため、我が国は北海道防衛に集中できました。
これが冷戦後、特に在比米軍の撤退と中国の海洋進出の時期が重なり、我が国周辺地域への安全保障上の懸念事項となったため、これまで実質的に棚上げしてきた島嶼部防衛、空中機動部隊を中心に対応してきた島嶼部防衛に本腰を入れる、というものが次の十年を見越す防衛計画の大綱へ反映された、という事なのでしょう。
ただ、離島と言えば、第2師団管区には礼文島、第11旅団管区に奥尻島、第12旅団管区に佐渡島など、第1師団管区には小笠原諸島、第13旅団管区には隠岐島など、第4師団管区には五島列島壱岐対馬、第8師団管区には鹿児島県島嶼部など、そして沖縄の第15旅団管区はほぼ全域が島嶼部、とあり、どの水準の部隊を海兵隊化するのか、これではわかりません。
報道を見る限りでは、南西諸島に重点を置いているのですが、それならば那覇駐屯地の第15旅団を海兵隊化するのか、西部方面隊に直轄部隊としてもつのか、中央即応集団も含め全陸上自衛隊的な取り組みとなるのか、このあたりで、どの程度予算が必要も変わってくるため、慎重に見極めたいところです。
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