◆師団等指揮システム等によりネットワーク構築
旭川第2師団が、平成22年度C4ISR部隊実験演習を北海道上富良野演習場において実施した旨、朝雲新聞に掲載がありました。
1/20日付 ニュース トップ :2師団・研本 野外ネット実験演習 最新装備の有効性確認 全部隊が情報共有・・・ 陸自の野外ネットワーク構築のための部隊実験を続けている2師団(旭川)はこのほど、研究本部と連携して「22年度C4ISR部隊実験演習」を上富良野演習場などで実施した。 最新装備を導入しての「C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)実験演習」は上富良野演習場で、また、シミュレーションを活用した指揮所演習は旭川駐屯地で行われた。 田中敏明師団長は演習開始にあたり、「部隊実験の目的は今後の陸自の戦い方の創造にある。各部隊・隊員は全陸自のさきがけとして主体的に取り組み、各職種・部隊・隊員の発想が今後の陸自の戦い方の具体化に寄与することを肝に銘じ、実戦的感覚を堅持して実験成果収集に万全を期せ」と訓示した。
同実験演習は、偵察部隊をはじめ地上配置の各種センサー、戦闘ヘリ、無人機などを最大限に活用、得られた敵情報を野外ネットを通じて全部隊に伝送し、情報を共有しながら効率的に敵を撃破する戦い方を創造しようとするもの。今演習では「FiCS(師団等指揮システム)」と連隊、特科などの各システムを連接し、広域での火力・防御戦闘などを実演、その有効性を確認した。 "空のイージス艦"の機能を持つ戦闘ヘリAH64Dアパッチが高性能レーダーなどで探知した敵地上部隊の位置情報などを、僚機のAH1Sヘリに新装備の「空空間情報共有システム」で伝送し、空対地作戦を行ったほか、AH64Dヘリが地上隊員のヘルメット装着眼鏡に敵部隊の最新情報を送り、空陸一体で戦う「個人データ共有システム」の試験などが行われた。 このほか、敵部隊の動きを遠方から探知できる新型の「地上レーダー2号」や携帯型無人機なども投入された。http://www.asagumo-news.com/news/201101/110120/11012011.html◆
陸上自衛隊では2000年代から第2師団、第6師団を実験部隊としてC4ISR部隊運用の実動研究を継続してきました。ネットワーク型の防衛力、記事そのものを読んでみますと、FiCSとか、第2戦車連隊には74式戦車が配備されているのですが、90式戦車がC4ISRに対応するデータリンク装備を搭載している様子が朝雲新聞に掲載されていたのですけれども、74式戦車も対応できたのかな、という点や、五年ほど前にヘリコプターデータリンク実験装置を搭載していたOH-1観測ヘリコプター初号機を見た事があるのですがAH-1Sがデータリンク装置により結ばれているという事は技術的に完成したのか、という点、AH-64Dの重要性について高さを再認識したり、いろいろ注目点はあるのですが、本日はC4ISRについて。
C4ISR,簡単にいえば、指揮官が必要な情報を素早くネットワーク情報から受け取れる体制と第一線部隊が持っている能力と展開している位置に応じて行わなければならない戦闘行動を瞬時に受け取れる体制を創るのが今回の目的。簡単そうに見えるのですが、第一線では敵が何処にいるのか分からないという状況、支援命令を受けたとしてもその射程内に敵がいない場合、補給を要請しても情報が混乱して中々装備が来ない、という事例が起きないような体制をデータリンクによって実現するのです。
東宝の特撮映画に出てくるゴジラに立ち向かうような自衛隊、理想的な陸上戦闘の動態というものを考えてみますと、例としてはあのように明確な目標に対する火力の投射による無力化でしょう。第一作目は位置情報が分からず無線にかじりついて停車していたパトカーがヤラれましたが、まああれはさておき、無力化できているかという一点も置いておいて、位置を補足すれば明確な目標に対して各種装備を射程に応じて投射してゆけばよいのです。しかし、実態は映画のエイリアン2のように、そもそも相手が何処にいるのか分からないというのが実情です。どこそこに敵がいた、それはらしいのか確認したのか、エンジン音と砂煙が見えたという抽象的な情報から、特定地域から攻撃を受けたという情報等など、細かな情報を集めてゆけば全体像、戦場はどうなっているのか分かってくるのですが、分析に時間を掛けてしまうと出た情報の位置に敵が既に移動している可能性が、情報分析が不確かだと誤射等が考えられる訳です。
そこでどうするか。私たちは情報に困ると一昔は書庫や図書館や書架の前で延々と情報を探していました、しかし現代ではインターネットにより公的情報や参考資料のヒントを得ることが出来ます、ネットワークによって情報を得るようになって便利になりました。軍隊でも情報共有という概念が90年代以降各国陸軍の重要なテーマとなっていました。これを可能としたのが戦術インターネット、各部隊間のデータリンクです。一昔は無線電波を出し続けて情報を集めようとすればその電波をたどり攻撃を受けてしまう、電波評定を避けるために無線封止という措置が採られていたのですが、現在の戦闘ではデータを通信して脅威情報の共有化を図る事で脅威対象の電波評定により発信位置が暴露したとしてもその位置情報に基づいての攻撃の兆候を素早く感知し、戦力を投射できる範囲内にある味方部隊の支援を最大限受けつつ対処することが結果的に戦闘を有利に展開させる事に繋がると考えられるようになりました。
同時にデータリンクで支援されているのならば、小隊規模で敵勢力のある地域に分散侵入した場合でも、危険な脅威はやり過ごして位置情報だけ入力すれば後方からの強力な火力支援により対処してくれることになりますし、補給面でも補給を必要な位置に必要な分だけ的確に行う事が可能に、最大の打撃力と防御力を持つ戦車は最強の偵察手段に、ヘリコプターは高い進出能力と情報伝送能力を持つ装備として飛躍することが可能になります。余りこれをやり過ぎると、無駄を削減しすぎたために補給が命取りになる一瞬のタイミングで間に合わなかったり、データリンクのオーバーロードが致命的になってしまう事もあるのですが、これまでよりも任務の対応能力が向上し所要時間が短縮されるので効率的な運用と民生被害の局限化も期待できるとともに部隊が孤立化しにくくなり隊員の損耗も低く抑えることが可能となります。
実はこの方式を陸軍の装備体系で最も早期に実現していたのは砲兵、陸上自衛隊で言うところの野戦特科部隊です。野戦特科部隊はFH-70榴弾砲で30km、99式自走榴弾砲で40kmの長距離射撃を行いますが、当然、30km先の目標情報など見える訳がありません。40kmというと京都から大阪まで京阪本線が確か42kmですが、砲弾の威力は楕円形に35×45m程度、誤差50m以内で撃たなければ効果が無い訳です。この為、着弾観測を行うために空中観測や前進観測を行い、他には音響測定や電波測定を行い脅威情報の捜索を実施、精度を向上させるために気象情報等の部隊間での共有を実施してきました。この方式を戦車部隊やっ兵部隊、工兵部隊等に広める、というのが誤解を恐れずに言えばC4ISRの実現の具現化方法です。砲兵よりも前に、海戦な航空戦では早く実現されていましたけれども、陸戦が最後まで実現に手間取ったのは、海や空で展開される戦いと違い、陸では隠れる場所が多く少人数運用が可能で、分析に必要な情報が桁違いに多かったため時間が掛かった、という事情。
この策の実現のためにデータリンク重視の戦闘に最も適している装備としてAH-64D戦闘ヘリコプターの導入を開始したのですし、新型の10式戦車にもデータリンク装置の搭載を重視していました。基幹連隊指揮システム等、目標情報を素早く共有する体制構築にも努力してきました。まだまだ、このデータリンクを全陸上自衛隊へ普及させなければなりませんし、指揮通信能力の向上は方面隊と師団という位置関係を、指揮部隊と戦闘部隊・戦闘支援部隊と変化させてゆく事も出来るかもしれません。また、災害派遣を考えれば全国に自衛隊を配置する基盤的防衛力は維持する必要がありますが、有事の際には他管区からの支援を迅速に行う動的防衛力の構築にも大きく寄与する、そういう意味で重要な演習だという事が出来る訳です。
HARUNA
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