◆F-Xの話題と政府専用機の話題
本日はF-X問題について、そして国内の運用基盤の重要性について、それぞれ朝雲新聞の記事を引用して、少し考えてみたいと思います。
8月の朝雲ニュース 8/12日付 ニュース トップ :FXで安保研 欧州機採用を提言 「選定先延ばしは限界」・・・ 財団法人平和・安全保障研究所(西原正理事長)は8月5日、空自の次期主力戦闘機(FX)の機種選定についての提言をまとめた「次期戦闘機の調達機種提案」を公表した。 安全保障問題を研究している松村昌廣桃山学院大学教授によるもので、米F22戦闘機の輸出禁止などさまざまな制約から防衛省が次期戦闘機の調達機種に関する決定を先延ばしにしている点について、中国軍の軍拡や日本国内の防衛産業保護・育成などの観点を踏まえ、これ以上の先延ばしは許されないと強調。性能や価格、ライセンス国産の可能性など多角的な検討の結果、欧州共同開発のユーロファイター戦闘機の早期導入が適切と提言。さらに戦術面や日米関係などの点から、ユーロファイター3~4飛行隊(60~80機)のほか、米が開発中のF35戦闘機を1~2飛行隊(20~40機)導入するよう提案している。
提案は現状分析として、急速な経済成長と軍事費増加を背景に中国空軍が多数の旧式戦闘機に加えて第4世代戦闘機を約350機保有する一方、日本はF15戦闘機約140機、F2戦闘機約60機と第4世代機を200機余り保有しているに過ぎないと指摘。 2004年の米印合同軍事演習の格闘戦でSu30にF15が完敗したことや、中国が旧式戦闘機を含めて一斉攻撃を仕掛けてきた場合は有視界内での格闘戦が予想され、F15を主力とする空自の防空体制には疑問が生じるため、「戦術的な視点から見ると、これ以上わが国が次期戦闘機の選定・調達を先延ばしすることはできない」としている。 さらにF2戦闘機の生産ラインが平成23年度で終了し、技術者と技能の散逸、関連企業の撤退による生産技術基盤の弱体化・喪失が危惧されることを挙げ、「抑止効果やバーゲニング・パワーを失い、経済的、商業的国益を損なう」と懸念を表明。 当初、防衛省が導入を目指したF22戦闘機については、ステルス・モードで搭載できるミサイル数が限られており、有効な戦力となるのは小規模な防空戦が散発する戦術環境や、敵地に先制攻撃を仕掛ける場合などで、しかも衛星や各種センサーを含む巨大な軍事通信情報ネットワークがなければ性能を十分発揮できず、技術移転に関しても米側からの提供の見込みはないと指摘。
その上で、F35とユーロファイターに焦点をあて、次期戦闘機を選定する際に鍵となる①ステルス性②レーダー及びセンサー③運動性④兵器搭載能力⑤価格⑥運用リスク⑦技術移転⑧戦闘機の産業基盤⑨対米同盟――について考察。 ユーロファイターは格闘戦と多任務戦闘(空対地、空対艦攻撃)の両機能を持ち、価格面ではF35の約2分の1、F22の約3分の1の価格であり、調達機数の増加やAWACS、空中給油機などへの追加投資で総合的に日本の防空戦力を高めることができ、広範かつ包括的な技術移転が望めるとして、「ユーロファイターこそが性能、価格、技術移転の点から選択肢となる」と提言。 さらに、日米同盟の維持やステルス性が必要な戦術環境も想定されることから、作戦毎に投入する艦載機などとしてのF35の小規模、限定的な配備を求めている。
F-X選定において、ステルス機が必須なのであるならばF-35を一定数導入するとしたうえで、制空戦闘に高い能力を発揮することが出来るタイフーンの導入を検討してはどうか、と本日お昼頃に書いてみたのですが、今回朝雲新聞に出ていた記事も同様の論調がある事に驚きました。一見理想的な提案、と見えるのですが、難しいのは本日のコメント欄で少し書きましたけれども、運用する機種が多くなりすぎる、という一点です。F-2支援戦闘機は2030年代後半まで運用が続きますし、F-15JもMSIP機については近代化改修を重ねて2025年以降までは運用が続けられるでしょう。タイフーンとF-35を導入すると決定した場合、F-4EJ改二個飛行隊所要と近代化改修に機体の配線が対応していないF-15J PreMSIPと呼ばれる初期の機体を含めて六個飛行隊所要を置き換える訳で、F-2支援戦闘機三個飛行隊、F-15J要撃機四個飛行隊、タイフーン要撃機四個飛行隊、F-35支援戦闘機二個飛行隊、という編成を目指す事となります。航空祭に行く楽しみが増えるぞ♪、というような素朴な換装以外には、いくらなんでも機種が多すぎるのではないか、という正直な印象がある訳です。一時的、という事でしたらF-2とF-1が混在していた時代にはF-15とF-4EJで四機種あったわけなのですが、三機種への統合を前提に暫定的に運用されていた訳でして、他方で今回の提案が通りますと相当長期間この状況が続く訳になります。
“選定先延ばし限界”という論調については全くその通りで、実際問題、2007年頃に選定結果が出ていて、今頃F-X初号機が岐阜基地での運用試験が終了しつつあって、百里基地あたりで部隊運用試験が開始、そして三菱重工小牧南工場においてライセンス生産された機体が小牧基地の滑走路を経て飛行試験を繰り返している、というのが2010年頃のあるべき姿でした。しかし、結局航空自衛隊が切望していたF-22の導入計画がアメリカ側の機密保護という壁に阻まれ、実現せずに、F-22以外の航空機という事を視野に入れていなかったので長引いている、という状況にあります。別の理想的な機体ならば幾つかあるのですが、防衛大綱に戦闘機定数が明記されていて、周辺国の空軍力増大を背景に幾度も防衛大綱の戦闘機定数を縮小できたのはF-XにF-22のような第五世代戦闘機を導入する、という前提があったからであって、第4.5世代戦闘機の導入が念頭にあればもう少し多数の戦闘機を導入するべく画定していただろう、といえるからです。それならば、防衛大綱が本年末に改訂されるのだから反映すれば、とも思うのですが、何分、防衛費を縮小することこそが民意、と考えている政府ですから、これはこれで難しそうです。
提言内容では、“2004年の米印合同演習の格闘戦でSu30にF15が完敗”という部分では、そもそも遠距離の視程外戦闘を念頭に重くとも強力なレーダーと射程の大きいミサイルを搭載して早期警戒管制機と協同する事が念頭のF-15について、そもそも有事の際に格闘戦に展開する可能性はどのくらいあるのか、元々大型戦闘機に高い機動性を与えるべく最強のエンジンを搭載している設計のF-15ですが、F-15Jに搭載するAAM-5のような高機動目標を追尾することが可能な短射程(といっても60km)ミサイルで、果たしてそこまで不利な状況はありえるのか、という一点。“中国が旧式戦闘機を含めて一斉攻撃を仕掛けてきた場合”というのですが、そもそも専守防衛の日本において南西諸島沖縄周辺空域等中国大陸から離れた空域での要撃戦を想定するのですから、多くの燃料を消費する空中戦を念頭に日本側のレーダーへ捕捉されないよう燃費の悪い低空飛行を行って進出することは旧式戦闘機に可能なのか、という一点等少々疑問点はあるのですけれども、いつまでもF-4に頼れる状況ではない、という事は確かです。
8月の朝雲ニュース 8/12日付 ニュース トップ :政府専用機 日航のジャンボ機撤退で 委託整備が“視界不良”・・・ 空自特別航空輸送隊(千歳)が運航する政府専用機B747―400型ジャンボ・ジェット機の定期整備が委託会社の経営事情で先行き不透明となっており、防衛省は対応を迫られている。整備を委託している日本航空が経営再建策の一環として燃費効率の悪いジャンボ機の年度内退役を決定、整備用機材や要員を中型機に振り向けるためで、防衛省は日航と引き続き協議しているが、日航が契約更新に応じるかどうか微妙な段階だ。全日空も同型機からの撤退が取りざたされていることから、国内での整備を断念するか、場合によっては政府専用機の機種変更といった問題にも発展しかねない状況となっている。
海外委託や最悪機種変更も・・・ 特輸隊が運航するB747―400型機は昭和62年、先進国の例にならって総理大臣等の輸送のため政府専用機として購入を決定。平成3年9月と11月に当時の総理府が2機を取得し、4年4月、防衛庁(当時)に所属替えとなった。 約1年間の運用試験などを経て基本的な運用体制を整備し、5年6月、空自千歳基地に特別航空輸送隊を新編、任務運航を開始。任務運航は7月末現在、約220回に達している。 日常的な整備は特輸隊整備隊で実施し、5年に1回行う重整備(M整備)や1年毎のC整備、8週間毎のA整備はいずれも日航に委託している。M整備は機体やエンジンを分解して部品に不具合がないか精密な点検を行うもので、不具合があれば部品を交換し、その後の試験も実施して部隊に引き渡す。防衛省ではこれらの整備に年間約25億円を手当てしている。
日航は4月に策定した経営再建のための「2010年度路線便数計画」で保有機材の削減を決め、B747―400型機とA300―600型機の年度内の退役を決めた。このため防衛省との23年度以降の整備委託契約交渉では国による整備機材の買い取りの可能性や整備チームの人件費をどうするかといった問題が話し合われた。 日航とは引き続き協議中だが、来年3月で契約打ち切りとなれば政府専用機の運航は困難で、国内で整備が出来なくなれば製造元の米ボーイング社や同機を使用している外国の航空会社への委託、あるいはジャンボ以外の機種に変更せざるを得なくなる。機種を変更する場合、北米まで給油なしで飛べる性能がなければならないなど、選択肢は限られている。 防衛省では「政府専用機は民航機と比べて使用頻度が少ない上に、3年前に改修したばかりで、そう簡単には機種変更はできない」としているが、整備を継続するにしても委託先を変更するにしても、厳しい財政事情の中で新たな予算措置が必要とあって、対応に苦慮している。
政府専用機がだめならな輸送機で空輸、というのも難しいでしょうし、困りました。もっとも、それ以上に政府専用機B-747の実機を撮影する機会に恵まれず、浜松基地に隣接する航空自衛隊広報館で撮影した模型の写真で代用したので、この写真を探す方が大変だったのですが。閑話休題、運用基盤が航空自衛隊に無い場合、外因的な影響で装備の寿命に関わらず運用が制限される事がある、というのがこの政府専用機の問題ではないでしょうか。民間機を利用すればいいのではないか、と問われれば国策企業としての歴史をもつ日本航空の旅客機が、航空自衛隊に政府専用機が導入されるまでは専用機の運用をお願いしていたのですけれども、緊急事態への対応では民間会社という形を採っている日本航空に毎回依頼するという時間が無い場合もあり、加えて緊急時には邦人救出に使う、という場合には航空自衛隊が運用した方が即応性が高い、という一点を元にB-747を航空自衛隊が導入しました。しかし整備基盤は外側にあった、ということでまだまだB-747を運用する計画の航空自衛隊としては整備基盤の喪失という危機を前に苦労している、という状況である訳です。旅客機として長距離飛行する747と比べて航空自衛隊のB-747は訓練飛行でもそこまで長時間長距離を飛行している訳ではありませんので、まだまだ使える訳です。しかし、整備は民間委託だったので、と。
B-747については、民間軍事会社に委託すれば整備支援を受けることは可能でしょう。日本では補給艦の運用や航空機の整備などは全て自衛隊が行っているのですけれども、米軍では補給艦は軍属の民間人にかなりの部分を依存していますし、戦闘機整備のような専門知識が必要な業務について民間軍事会社に委託している、という部分があります。もっとも、日本航空にどの程度の費用で業務委託しているかは浅学にして知らないのですけれども、新千歳空港に整備基盤がある関係でその延長線から航空自衛隊の同型機である747を整備してもらっている、という状況と、航空自衛隊機の整備の為だけに海外から専門の要員を、という場合では相当費用では変わってくるようにも思う訳です。自前で航空自衛隊が整備していたのならば、こういう事にはならなかったのだろう、と言える訳で、これは海外の機体をそのまま有償軍事供与にて入手した場合のリスクを如実に示している、とも言える訳です。
M整備についてはアメリカのボーイング社に委託すれば、後部の隔壁あたりに心配は残りますが、何とか運用できるのではないか、といえるのですが国内で出来ない、というのは問題です、何となれ予備機を含め二機で運用する政府専用機は二機しか無いので長期間海外で整備して運用を維持できるのか、という問題が残りますからね。日本航空の747全部下請けしてPKO支援に運用すれば一石二鳥、U-4とKC-767をVIP輸送に使えばもう747は用途廃止に出来るのでは、エンジンの艦形状航空自衛隊でも整備は出来る筈、という対処療法はいくつか提示出来る訳なのですけれども、運用基盤が国内に整備されているのか否か、というものを真剣に考えさせられるのが今回の提示でしょう。
HARUNA
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