◆脅威が想定される補給路では必要な改修
先日、協同転地演習から撤収する第14旅団の車両を掲載したのですが、そのなかに一両興味深い車両があったのをお気づきだったでしょうか。
写真は最もよく見られている自衛隊車両として挙げられる、駐屯地のどこにでもありそうな73式大型トラックの新型ですが、よくみてみるとキャビン部分に装甲が施されているのが見えます。ボルトで留められている装甲板は前面部分と扉部分を防護していて、フロントガラスも三分割された防弾ガラスになっています。
装甲を取り付けた73式大型トラックは数年前から様々な駐屯地でみられていた、ということなのですが、高機動車にも中央即応集団用の車両で防弾装甲を施した車両が配備されていたようなのですけれども、残念ながら当方が足を運んだ行事には、装甲付の73式は本当にいませんでした。
高機動車にしても73式大型トラックについても装甲を装着して乗員の防御を図ろう、という事が行われるようになったのは、2003年のイラク派遣を契機に大きく進められたように思います。軽装甲機動車の数は揃ってきていますが、どうしてもこの種の車両は必要ですし、必要ならばせめて緊急時の生存性を、ということなのでしょうか、ね。
昨年度の富士総合火力演習にも中央即応集団の高機動車があの特設歩道橋の下に何台かいたとのことなのですが、残念ながら急いでいて違う方向に行ってしまった当方、撮れたのは姫路のパジェロくらいで、ニアミスでした。滋賀県内を普通に走っていたとのことですけれども、ご縁がなかったようで、そこが73式大型トラックの防弾装甲付のものを初めてみることができましたわけです。
春日井駐屯地祭の模擬戦で襲撃された輸送車両の救出に関する展示の写真です。輸送車両というものは、部隊が行動を行うためには戦闘支援として整備補給品や弾薬、そして食料から飲料水、燃料までを輸送して支援を行うために不可欠なものですが、一方で戦車や装甲車と比べて攻撃に対しては脆弱性を抱えています。
攻撃する相手としては戦車よりもトラックの方が狙いやすいでしょう、敵特殊部隊が後方に浸透した場合は、こうした後方支援車両を襲撃した方が攪乱行動として効果的である一方、攻撃を受ける側としてはとにかくどこで襲撃されるのかわからないという難点があり、補給路すべてを警戒しつつ前進しなくてはなりません。そこでトラックに装甲を取り付けて、ということになったわけです。
後方支援、というと日本国内では目立たない印象を持たれる方も多いかもしれません、戦車の方が注目されますから、ね。しかし、国際貢献などの任務では自衛隊は戦闘よりも後方支援を期待されますので、国内の輸送時における戦闘との遭遇や襲撃も想定されるのですが、国際貢献任務への派遣、という事も考えられているのでしょう、ね。
さて、73式大型トラックにとりつけられた装甲の防御力はどのくらいなのでしょうか、あまり強力な防御力を付与してしまうと装甲の重量が大きくなりすぎてフロントヘビーになり、つまり重くて前のめりになってしまって走行性能に影響がでてきてしまうのですが、簡単に貫通されるようなものでは意味がありません。
軽装甲機動車の前面防御力が防弾ガラス部分を含めて12.7mm重機関銃に耐えられるといいますから、これほどではないにしても、全くの推測なのですが、この垂直に立った防弾プレートは一定の距離での7.62mmや5.56mm弾への防御力は付与されているのではないだろうか、と考えます。防弾ガラスは結構頑丈ですし、一見、戦闘防弾チョッキ2型のプレート部分と同程度の防弾プレートにみえますからね。
なお、最近のアフガニスタンにおける各国軍の輸送車両を見ていますと、防弾はあたりまえで、即席爆発物IEDやRPG7のような対戦車ロケット弾を想定した重装甲の輸送車両にシフトして行っています。こういう状況に鑑みると、この73式の防弾装甲は少々不安にも思うのですが、携行できる装備が限られる特殊部隊を想定しての輸送であれば、こうした車両の方が扱いやすいのでしょう。しかし、重装輪回収車のような余裕のある車両を改造した防弾輸送車、というものも国際貢献任務を念頭に開発する必要があるのかな、と。ともあれ、珍しいものを見ることが出来ました。
HARUNA
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