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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

2010年末の防衛大綱改訂を見据え 財政難下でも装備定数増勢の必要性

2010-06-08 23:10:22 | 国際・政治

◆菅直人内閣の課題

 防衛省によれば、6月6日1700時頃、ロシア海軍のスラヴァ級ミサイル巡洋艦が青森県竜飛岬西南西約50kmの日本海を北東進しているのを警戒中の護衛艦ちくま、が発見。追尾した結果同艦は津軽海峡を通行したことが確認されました。

Img_4493  日本は北海道防衛に重点を置いた冷戦型の編成を維持している、と一部から批判されるのですが、北方の脅威は今なお健在のようです、なにせ旧中東欧を緩衝地帯と出来る冷戦時代のNATO諸国と違い、日本には有事の際の緩衝地帯が海だけですからね。現在、ロシア軍は極東地域の陸上、航空部隊に加え北方艦隊、黒海艦隊の艦船を参加させた大規模演習ヴォストーク2010を展開中です。確認されたスラヴァ級は艦番号“011”から太平洋艦隊旗艦のワリャーグである事が判明しています。ワリャーグは満載排水量11490㌧、アメリカ海軍の航空母艦を狙う射程750kmの大型対艦ミサイルSS-N-12を搭載し、搭載する艦対空ミサイルのもとで空母に接近、攻撃するという運用方法を用いています。同艦はミサイルによる打撃力の面で中国海軍が保有する艦艇よりも遥かに高い能力をもち、艦隊防空能力も高いものを持っています。

Img_3120  日本の防衛政策の基本指針は防衛大綱に中長期的な方向性と脅威、それらに対処するために必要な防衛力は具体的に観てどの程度なのか、主要装備定数や主要部隊数を明示して、これを中期防衛力整備計画で数年ごとの装備計画の大まかな方向性を指し示し、そして毎年の防衛予算により中期防衛力整備計画を実現するという方式で自衛隊の装備は毎年調達され、隊員の錬成を行っています。実は民主党新政権へと自民党から政権交代した際、昨年末に防衛大綱を改訂し、その新しい防衛大綱に基づく中期防衛力整備計画を画定する方針が立てられていたのですけれども、新政権に就いた民主党は、まだまだ防衛力の在り方について本格的な数字を提示して防衛力を定める指針を提示するだけの能力がない状況でしたから、これは2009年末までに明示する、という自民党時代の方針を覆し、2010年末に提示する、と発表した訳です。

Img_8856  非常に異例な事なのですが、昨年度が中期防衛力整備計画の最終年度に当たったので、今年度は新しい中期防衛力整備計画に基づく最初の一年になる予定が、肝心の中期防衛力整備計画も提示されなかった、ということで、可もなく不可も無く当たり障りのない範囲内で平成22年度防衛予算の概要は組み立てられる事となりました。現行の防衛大綱にも続いて新しい中期防衛力整備計画を作成してそのまま数年間推移させる、という事も出来たようなのですが、民主党としては防衛大綱の画定に関与したかったのでしょうか、防衛大綱書く艇において防衛力の削減を盛り込み、防衛力整備の上での無駄を洗いだせる、と当時考えていたのかもしれません。

Img_6418  しかしながら、民主党の目玉政策の一つとして実施された行政刷新会議事業仕分では残念ながら防衛予算から無駄を探すことは難しく、広報予算について一部見直しを行うべき、という方針だけは示す事が出来たものの防衛予算について、特に装備購入費は単純な議論だけでは結論付けることは出来ない、として判断の対象外としてしまいました。そもそも、防衛力整備に無駄があるのか、という事は中長期的な防衛力整備の在り方を示す防衛大綱、その防衛大綱を画定する際に行われる防衛懇話会等で学術研究者や企業経営者、自衛隊OB、元外交官、部外専門家を招いて徹底的に論議を行ったうえで方針を示し、防衛大綱として具体化したものなのですから、数週間の準備で行われる数時間程度の行政刷新会議では結論というものは見出し得ないほど元々の内容は複雑な訳です。それに、防衛装備品の調達は毎年ごとに財務省の査定を受け、予算を得ていますので個々の内容に至るまで厳しく精査されています。本当に必要、しかも翌年度に必要なものだけを調達しているのですね。

Img_3215  防衛予算に無駄は無い、装備調達費も国産装備は割高のように見えて稼働率、運用特性、将来装備開発等必然性がある、という事を民主党新政権が理解した頃には、防衛大綱改訂の見通しが現行大綱から削減する事を以て必ずしも予算の縮減に繋がるものではない、ということが明らかとなってきます。在日米軍駐留経費の一部負担を縮減する事も考慮したようですが、そもそも在日米軍の駐留を前提として現在の憲法体制に基づいて自衛隊は専守防衛に徹している訳ですし、日本周辺地域での有事に日本有事と同等の態勢でもって対応することの難しさを含め非常に繊細な問題でしたので、こちらについても縮減にはなお一層の日米間の議論が必要として見送られた訳です。

Img_6604  こうした中で、朝鮮半島と言えば北朝鮮の核開発放棄を第一問題としていた中で韓国艦撃沈事件を契機として一気に逼迫、現在は小康状態を保っているのですが朝鮮半島有事という単語を念頭に思考を巡らせれば、朝鮮戦争は休戦状態であり終戦には至っていないという至極当然の事実を突き付けられます。また、台湾海峡をめぐる問題では独立を目指し最低でも主権維持を提示する台湾を念頭に米中関係を一定以上進展させ得ない要素として台湾の武力統一に関する可否をめぐる米中間の問題があり、台湾軍も作戦機数、陸軍定数では日本以上、大型水上戦闘艦の数では韓国海軍以上の勢力をもっていますので、台湾海峡有事では日本にも相当の緊張が及ぶ事が予想されています。そして東シナ海ガス田問題では中国が南西諸島から小笠原諸島に掛けての日本の排他的経済水域内で繰り返し艦隊行動を実施し示威行動を続け、そこに昨今のロシア海軍の活発な行動と航空機による東京急行と呼ばれる日本周辺での長距離飛行訓練の再活性化、という状況が突き付けられました。

Img_6133  現時点で、日本は深刻な財政難にあり、実質的に可能であるならば子供手当の満額実施を現行財源下で確保するという名目で無駄を捻出して、そのうえで子供手当を廃止、歳出額の大きな抑制を行い、高速道路の現状維持、更に消費税増額を実施、企業活動を筆頭に日本の競争力を阻害しない範囲内での最大限の歳出確保を国債発行以外の手段で行わなければなりません。こうした中で、日本周辺の脅威が増大したからとはいえ、防衛費増額は、実際に日本有事でも起きなければ、こういう場合を手遅れというのですが、実現しそうにありません。

Img_5773  しかし、安全に関する予算は、例えば災害時の予備費を平成22年度予算において、必ずしも必要かは不明であるので無駄として縮減したのですが、予備費の縮減が宮崎県の口蹄疫への迅速な対応を阻害して、この結果当初であれば迅速に疾病対策を行えば数百億円で対応できる事が過去の口蹄疫事案で証明されているのですが、現時点で遅れたことで数千億円、次の対処で一兆円に達する補償や復興予算の捻出を法整備させる事となりました。危機管理は破綻した後で大急ぎで立て直す方が多くの負担を要する訳なのですが、これを不幸な形で証明してしまいました。危機を煽って適切でない対処を行えば、逆の結果を招くことも過去の危機に際しての歴史が証明しているのですが、さりとて憲法問題と集団的自衛権の問題があり、例えばロシアや中国との軍事協力による信頼醸成措置を執るような政策は日本から主体的に行われていませんし、情報収集能力は一定の実績がある日本ですけれども、政策への反映は歴史的にもその能力は稚拙です。とりあえず、方針を明確に諸外国に示したうえで備える、という事が現状では最善であるという訳です。

Img_7232  沿岸警備能力の向上の為の地方隊の警備能力再整備と無人機の導入、任務範囲広域化に伴う航空機運用艦の増勢への見直し、陸上自衛隊の現状に基づく普通科部隊の強化と機甲部隊・特科部隊減勢方針の再検討、少数部隊の効率運用を期した空中機動部隊の強化、弾道ミサイル防衛と太平洋側からの脅威に備える飛行隊配置の再検討と一部増勢、空輸能力の強化、様々な方策はあると思うのですが、危機状態が破綻する前に管理できる危機管理体制構築の為に、自衛隊についても緊縮財政下での脅威増大に対応できる能力を整備できるよう期待したいです。日本国民を危機に際して主体的に防護し安全を保障できるのは、日本国だけなのですからね。そしてもう一つ付け加えれば、危機管理が出来ない国に外国の投資は集まりませんし、日本リスクとして危機管理問題の対応力を向上させなければ、今後の経済的発展にも差し障ります。この点にも配慮が必要でしょう。

HARUNA

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