■訓練展示 状況開始!
本日は、大久保駐屯地祭2007詳報、訓練展示模擬戦編である。施設団や施設大隊が駐屯している大久保駐屯地祭は、観閲行進などでも施設団駐屯地でしかみれないような迫力であったが、模擬戦も一工夫も二工夫もある見応えである。では、喇叭とともに、いよいよ状況開始だ。
こちら、観測ヘリ・・・、東台周辺の丘陵地帯に敵らしきもの見ゆ、現在陣地構築中、さらに南側平野部に敵トーチカ・・・、さらに情報収集を続ける・・・、終わり。大阪の八尾駐屯地より飛来した観測ヘリコプターOH-6が索敵飛行を展開。武装が無い観測ヘリはその機動性を活かし、地上のどこかに隠れている敵を探し、反撃を受ければ報告し飛び去ってゆく。実戦では、ここ以外にも当然敵が潜んでいる為、更に情報収集を行うべく駐屯地の彼方に索敵飛行を続けた。
出動する偵察オートバイ。ヘリコプターが発見した敵のようなものでは何かわからないので、敵なのか識別するべく第四施設団本部管理中隊より派遣された情報小隊の出動である。なんとなれ、情報が現代戦では最も重要であるが、レーダーや熱画像暗視装置などの各種センサーも有用性も確かだが、偵察員の五感による情報も侮れないものがある。
訓練展示なんだから敵に決まっているのだが、斥候に展開する情報小隊の偵察オートバイに向かって仮設敵の64式小銃が火を噴く。敵の規模を軽攻撃により図る偵察と、敵の有無を図る斥候が情報収集の手段として挙げられるが、偵察は師団などに編成されている偵察隊が行い、情報小隊の任務は火力に限界があることから、専ら斥候に限られる。この斥候部隊に仮設敵が発砲したのだ。
敵陣地に向けて我が方の榴弾砲が火を噴く。姫路駐屯地第3特科隊の155㍉榴弾砲FH-70が制圧射撃と陣地攻撃を行う。敵の火器が火を噴けば必然的にその位置を暴露してしまう。位置が判ってしまった敵は一刻も早く撤収しなければ、その位置には試射、そして効力射の砲弾が降り注ぐ。
FH-70榴弾砲は、最大射程が通常榴弾で24km、特殊装薬使用時で31km。発射するM-107榴弾は155㍉の砲弾内部にTNT火薬6.62kgを内蔵しており、着弾すると長径45㍍×短径30㍍の範囲内にカミソリのように鋭い有効弾片をばら撒く。対コンクリート信管を装着すれば82㌢の強化コンクリートに浸徹する。
ここで残念なお知らせ。なんと仮設敵は我が増援部隊が必ず通らなければならない橋梁を爆破していたのだ!、これでは増援部隊が送れない!そういう訳で、第3施設大隊より81式自走架柱橋が天下し、迅速に渡河作業を行う。橋は重要な戦術拠点となる為、破壊されやすい。ここで、陸上自衛隊の渡河装備が役立つのだ。92式浮橋などもあるが、敵前渡河では、やや性能は劣るが手早く架けられるこの装備が役立つ。
橋梁が破壊されたということは、航空偵察により判明した敵以上に多くの仮設敵部隊が潜んでいるのではないか?、こうして更なる敵を発見するべく、多用途ヘリコプターUH-1Jより信太山駐屯地の第37普通科連隊から展開したレンジャー隊員がロープにより降下した。敵の背後に展開した隊員は身に着けた体力と小銃だけを頼りに、音も無く徒歩により情報収集を行う。
こちら降下部隊、東側丘陵地帯に陣地発見!、なるほど、あからさまに敵が潜んでる想定のトーチカが見つかった、ここに重火器が据えられていれば、81式自走架柱橋による渡河作業にも重大な脅威を及ぼす。川を渡った瞬間に横から待ち伏せされれば目も当てられない状況になってしまう。
敵は、まとめて、消毒だ!携帯放射機が火焔を吹く。ゼリー状のガソリンを引火させつつ高圧ガスで相手に吹き付ける火焔放射機は、第一次世界大戦以来、機銃陣地や塹壕などの掃討に威力を発揮してきた。何分、至近距離ならば面で制圧することが出来るし、放物線を描いて放射できるので、機銃のような直接照準火器の死角から狙い撃つことができる。渡河地点周辺へは架橋に先立って渡河ボートなどで人員や対戦車装備、ジープなどの軽車輌などを送ることが出来る。
火焔放射機は射程が短い印象があるが、最大射程は55㍍ほどある(ただし、老朽化が進んでいる)。後ろのクレーン車がどうしても気になるが、これは火焔放射部隊を上空から金タライ攻撃でドリフのコントみたく撃退する為では決してなく、後々使用する為に待機しているクレーン車である。
トーチカ炎上。完全に炎上ですよ。ただ、この火焔放射機による陣地掃討やトーチカ攻撃であるが、確実に一度発射すると火焔放射機の位置が暴露してしまい、なおかつ背中に背負った燃料タンクに命中すれば大変なことになってしまう。こうした理由から、特に1982年のフォークランド紛争以降は携帯対戦車ミサイルによる機銃陣地攻撃が行われるようになっている。なんとなれ、焼く身分にも焼かれる身分にもなりたくないものだが、幸い、防衛力と予防外交によって抑止力を維持したことで、日本では訓練標的以外焼かずに今日に至っている。
渡河拠点に脅威を及ぼすトーチカが排除されたことで、完成した81式自走架柱橋の上を軽装甲機動車が展開する。第37普通科連隊の車輌だ。軽装甲機動車は、01式軽対戦車誘導弾など火力装備の重量化や指揮通信能力向上を目的とした器材その他の搬送を行うには徒歩では限界があり、車輌化の必要が生じた点、大型装甲車ではなく小型装甲車とすることで、火力拠点の複数化を実現することに主眼を置いて開発された国産小型装甲車である。細い橋と車輌、けっこう危なっかしい情景にみえるが、落ちにくい構造になっているので、安心とのこと。
続いて渡河する96式装輪装甲車。一個小銃班を輸送する装輪装甲車として開発された車両で、主に73式装甲車の後継という位置づけで配備が進められている。火力拠点という乗車戦闘に主眼を置いた軽装甲機動車に対し、降車戦闘に重点を置いた車輌。この種の装甲人員輸送車は、普通科の機動を支援する車輌で、戦闘には適さないという評価があるが、近接戦闘などでは狙撃に対処できる装甲などを有し、降車戦闘を遂行する上で充分な人員を輸送できるという評価も高い。
渡河した車輌群を待ち構えるのは、先ほど(前回掲載)の装備品紹介の際に、裏でコッソリ敷設していた地雷原である。もう点々と点在している。例えば92式対戦車地雷は作動させた場合、なにも無かった場合、真上に2000㍍程度(十年くらいまえの軍事研究に書いてあった)までジェット熱流を発し、戦車が相手の場合はこの熱エネルギーにより車体下部から車内に浸徹し、破壊するという。
この地雷原を処理するべく、92式地雷原処理車が登場した。箱型の発射機には26個の爆薬を繋いだロケットが内臓されており、これにより地雷もろとも爆薬で吹き飛ばすという処理方式をとる。富士総合火力演習などでは、火薬をやや減らした状態で実爆展示を行うが、大気状態によっては衝撃波がはっきりと見える。このように、施設科が運用する爆薬は、実は特科よりも遥かに多量の爆薬が使用されるという。
戦車砲で敵を射撃し、地雷除去作業を支援する第3戦車大隊の74式戦車。地雷原というものは、基本的に待ち伏せしやすく、また、遠方からの火砲支援が届きにくい地形に敷設される。このため、地雷原に接したらば、同時に地雷に併せ攻撃が仕掛けられるとみなければならない。地雷除去作業は、こうして危険を孕んでおり、戦車は施設科部隊を支援するべく、敵火力拠点を直接照準により無力化する。
戦車や普通科部隊の射撃支援の下で、いよいよ92式地雷原処理車が発射機を発射態勢に・・!ここでまさか撃つのか!?と観客がどよめくが、会場端っこで撮影していたので、角度的に小生撮影位置からは発射機とは別のものが見える。発射機の後方では先ほどのクレーン車がアームを高々と伸ばし、その後ろに、なにやら正体不明の物体がもくもくと煙を上げている。
非常にコメントに困る描写ではある。2006年の大久保駐屯地祭では、同日行われていた東千歳駐屯地祭を撮影していたため、92式地雷原処理車がロケットを発射する様子を撮影した。が、しかし、である。むろん、大久保ではコレの実射は面積の関係上難しい。で、苦肉の策が、これ。そのうち、青野原駐屯地祭や下志津駐屯地祭なんかで実射できないホークミサイルの射撃展示がクレーンで行われるようになったりして・・・。ただ、これはこれで面白い!。
ハリボテ地雷処理!って、そんなんありかー!?といわんばかりに仮設敵は小銃で反撃(ツッコミ)する。ちなみに、このハリボテロケットはそのまましゅるしゅると着地して、会場でお子さんを中心に笑い声が出ていたが、爆薬はしっかり別の場所に予め演出用TNTが設置、爆発すると、わーんゴメンなさーい!って子供たちを大いにビビらしていた。
74式戦車が、仮設敵のハリボテネタに対するツッコミの為に思わず射撃した瞬間に暴露した陣地に向けて攻撃を加える。74式戦車の空包射撃写真のなかで、これまででいちばん良く映った一枚である。この前撮影にせいこうしたのは大津駐屯地。なぜか、第3戦車大隊の戦車と相性がいいらしい小生である。
戦車砲による直接照準射撃により、地雷除去に脅威を及ぼす目標はほぼ全滅した。しかし、92式地雷原処理車の地雷除去は、木々や建造物、電線などの地形障害により着地しないまま爆発し、地雷の除去が不完全な地域もある。更に地隙などの障害も戦車の攻撃には妨げとなるわけで、そういった場所では、この75式装甲ドーザーが活躍する。装甲により防御されているため、小火器による狙撃程度ならば、無視して作業を遂行可能だ。
地雷除去により、わが部隊は仮設敵陣地に対する突撃の準備にはいる。特科部隊の155㍉榴弾砲は攻撃準備射撃として射撃を開始した。次々と撃ち込まれる砲弾に併せ、仮設敵陣地でも演出用のTNTや擬爆筒は破裂音と煙を上げ、火砲周辺も空包の硝煙に包まれてゆく。
攻撃準備射撃が終了すると同時に、戦車大隊の96式装輪装甲車、普通科連隊の軽装甲機動車が普通科隊員を満載して、高々なエンジン音とともに、仮設敵陣地に向かって前進を始める。戦車も同軸機銃を射撃しつつ、正確に敵の抵抗拠点を無力化し、普通科部隊の攻撃前進を支援する。装甲車も敵影を求めて機銃を盛んに振り、戦機は熟しつつあった。
特科部隊が攻撃準備射撃とともに猛烈な勢いで支援射撃を行う。こちらが攻撃前進を始めれば、仮設敵も(会場には居ないので想定仮設敵ってことで)砲迫により、突撃破砕射撃を行う。この砲迫を対砲兵戦により叩き潰すのも、特科部隊の重要な任務の一つである。砲焔の閃光とともに一瞬遅れて砲声と衝撃波が空気を震わせる。
最後の特科支援が終了し、砲弾落着を演出する擬爆筒が仮設敵陣地近くで炸裂した。一瞬の静寂とともに会場に硝煙の煙が流れ込むその刹那、後方から砂塵とともに一塊の車輌群がグラウンドを横切り、全速力で仮設敵陣地に向かって殺到する。それは、今まさに装甲車部隊が降車戦闘により陣地占領に移ろうという戦機熟した瞬間であり、後方からの機動支援が、陣地攻略に参加するという状況だ。
12.7㍉重機関銃を搭載し、車体に偽装網を纏った73式小型トラックが次々と見学者の前を通り過ぎてゆく。12.7㍉重機関銃は、46.8㌘の弾丸を初速853㍍/秒で撃ち出し、その威力は、二発命中すれば胴体が千切れるといわれる。軽装甲車にも威力を発揮し(各国の大半の装輪装甲車の装甲は、7.62㍉徹甲弾レベル耐弾が標準)対地、対空射撃までをこなす傑作重機関銃である。
上空からはAH-1S対戦車ヘリコプターが飛来する。対戦車ミサイルやロケット弾、20㍉機関砲を搭載し、稜線から突如ミサイルを浴びせ、戦車の天敵と呼ばれるAH-1Sは、もともとヴェトナム戦争における対地掃討用に開発されたAH-1Gの発展型(対戦車ミサイル運用能力の付与)であり、こうした航空支援もAH-1Sの得意とすることろである。
仮設敵が爆破した橋梁は施設科の架橋により復旧され、仕掛けた地雷原も地雷原処理車と装甲ドーザーにより排除、その上特科部隊と戦車砲の射撃により戦意を喪失した仮設敵は、この車輌部隊の一斉突撃を前に、ついに降伏した、という想定。状況終了の喇叭が鳴り響く。
こうして模擬戦は終了した。状況開始は1155時、状況終了は1212時であった。次回は装備品展示編。お楽しみに。
HARUNA
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