アールグレイ日和

春畑 茜(短歌人+里俳句会)のつれづれ。
降っても晴れても、そこにサッカーはある。

『爬虫の王子』(大津仁昭歌集)を読む

2006年11月17日 18時54分52秒 | 歌集・句集を読む
『爬虫の王子』は大津仁昭さん(心の花)の第六歌集。
平成十八年十月十九日、角川書店発行。定価1905円(税別)。

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タイトルも装丁もなにやら美しく妖しげな魅力を放っている歌集である。
読み進んでいくと、いま自分がいるはずの現実の世界から
遠く遠く離れていくような、ふしぎな感じを覚えた。

そして、作者の前世と思われる記憶の一場面が語られた
あとがきがとても印象にのこったのだった。



・若葉その色のみすべて空へ発ち残る影絵の初夏となりたる

・手を上げて横断歩道渡る子の千本の指風にそよぎぬ

・埋められし池の跡より浮かび来て五月の空に貝殻ひらく

・つまりは不運それはそれとてスプーンに滲む油は虹のごとしも

・大陸が夜ごと広がる地球儀の苦痛 秋にも水仙が咲く

・空腹を抱へ入りたる眼鏡店 うすあかりさす海底にゐる

・何といふさみしさこれは紅鮭が茸ソースに塗り固められ

・ジルテック眠りを誘ふ一錠に黄金(きん)の雪降る夜はひらきをり

・人は必ず生まれ変はるか老年の父深夜より掃除を始め

・占ひはさらに詩的にあらざれどこの半生や秋に始まる

・鳥の声 人の声より響くなりはた転生のそののち告げよ

・目覚めとは夢の忘却 朝の鳥コルトレーンのサックスの音



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この本が多くのよき読者を得られますように。




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