アールグレイ日和

春畑 茜(短歌人+里俳句会)のつれづれ。
降っても晴れても、そこにサッカーはある。

『風に帰らむ』(原田千万歌集)を読む

2006年09月14日 18時09分59秒 | 歌集・句集を読む
『風に帰らむ』は原田千万さん(短歌人)の第二歌集。
2006年6月20日、邑書林発行。定価2600円(税込)。

黒を基調とした渋い(!)装訂は、俳人・島田牙城さん(邑書林)によるもの。
カバーを外すと黒地に背表紙の銀の文字だけ。もちろん栞ひとすじも黒である。
いかにも牙城さんらしいこだわりの本づくりだな、と思ったが、
ひょっとしたら原田さん自身のこだわりなのかもしれない。
随分前に出された第一歌集も黒が印象的な本だった。


*

・〈なぜ生きる〉を〈いかに生きる〉に摩り替へて葡萄の粒を口に運びぬ

この一首に代表されるように、原田さんはこの歌集において
「生きる」ということにこだわり、
郷里である信州の地に根ざして、生活や家族の為に生きてゆく自分の姿を
半ば否定するかのように厳しく見つめ続けているように思える。
それは時に痛々しいまでに孤独で、苦悶の表情にさえ見えることもある。
しかし、いのちあるかぎり「今ここに生きる」ということの意味を問い続けるその姿勢は、今のこのような時代において、とても貴重なものに思えてくる。
原田千万さんは軽いノリでは人生を語らない。
「なぜ生きる」とは、魂のレベルでの問いかけであり、
「いかに生きる」という生活レベルでの問題とは、根本的に違うのだ。
ひとが生きてゆくために摩り替えなければならないもの、
そのほんとうのかなしみを歌うのが原田さんであり、
この歌集であるように私には思える。


・雪の野に立つ樹に死者はつどひきてゆふべしきりにわれを呼びゐる

・父は子に越えられてゆくものなるや 天の頂に雲雀鳴きゐる

・見えがたきもの視るためにまづ眼ふたつをしづかに洗ひゐる朝

・翼なきものをすなはちにんげんといふやふかぶかと空はありたり

・手のひらに天道虫をあそばせてかぎりなく英雄にとほきわれあり

・かたはらに眠る妻と子 それぞれに明日のかたちを調へてゐむ

・鎮めかねし怒りはつひに悲しみとなり風のなか羊歯は揺れをり

・いつさいを焼かねばいのち生(な)らざらむ春来たりなば野に火を放つ


ほかにも多くの秀歌がおさめられている。
多くの方々にぜひこの歌集を読んでいただきたいと思う。






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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はい (牙城)
2006-09-25 09:47:16
装丁、千万さんのこだわり+僕の遊び心です。『こころの傾斜』っぽくいきたいという千万さんと、同じではつまらないという僕が融合したわけです。
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なるほど~ (はるはたあかね)
2006-09-25 18:11:34
牙城さん、なるほどそういうわけであの装丁になったのですね。信濃らしい樹木と「風」の文字のちからづよさが印象的でした。

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