アールグレイ日和

春畑 茜(短歌人+里俳句会)のつれづれ。
降っても晴れても、そこにサッカーはある。

「短歌人」6月号あれこれ

2006年05月29日 20時59分22秒 | 短歌あれこれ
「短歌人」6月号、今月は小池光さんのエッセイ「屋号考」が掲載されている。
オチがその、あれだ(・・・詳しくは本誌をご覧ください)。

「にっぽん看板貼紙紀行」は倉益敬さん。
猫とマリア園とカトリック教会のビミョーな関係・・・(内容については本誌をご覧ください)。

時評は西村美佐子さんの担当月(隔月)。
引用されている坂本龍一の発言など、とても興味深い。
ここに書いてしまいたい気持ちを抑えて、本誌をご覧ください!・・・と、ブログには書いておく。

スピーチタイムは井上洋さんの担当月(隔月)。
井上さんは毎回とても真面目に、しかも「オトナのスピーチ」をしておられる。
見習いたいと思うが、毎回思うだけで、来月号はすでにサッカーネタ全開だ(汗)。
どこでサッカーと短歌をつなげているかは、7月号(来月下旬ごろ)をご覧ください。
・・・座布団は大相撲名古屋場所(7月開催)で投げてくださいねっ。


*
「短歌人」6月号より、味(!)な作品を少し抄出。


・鳥毛立女vs石臼男の論争をぼんやりと聞く職員会議 (有沢 蛍さん・113頁)


・父よりも二十年以上生きてゐるわたしを誰も褒めてくれない (中地俊夫さん・25頁)


・〈屈辱の日〉はイチローの屈辱の日でありわれはすぐに忘れむ (伊波虎英さん・86頁)



横書きになると味がやや薄くなってしまうので、本誌をお持ちの方は、ぜひその頁をひらいて読んでみてください。


『茜のランプ』(松尾祥子歌集)を読む

2006年05月24日 14時42分18秒 | 歌集・句集を読む
『茜のランプ』は松尾祥子さん(コスモス・桟橋)の第二歌集。
2006年4月18日、柊書房発行。定価2600円(税込)。


*
歌集名が『茜のランプ』ということもあって、何とも言えない親近感を覚えた。
暖色系の色合いがあたたかみを感じさせる一冊。



・あやまちを赦してくれる木のありて会ひにゆくなり寂しき晩夏

・をんなにはわけのわからぬ力あり踏ん張る足に根がはえてくる

・風ふけばなんぢやもんぢやの樹は揺れてこんなもんだとわれに言ふなり


ああ、とため息をつきたくなった時に、こんな歌に出会うと、
ふつふつと自分の中に力が湧いてくるような気がするのは、何故だろうか。
言葉には力があり、それは人に勇気を与えもするし、絶望のふちに追いやることもある。
「癒し」という言葉は、流行してしまってからは妙にマイナスのイメージを帯びてしまったけれど、
やはりこのような歌はいい意味での「癒し」の力を持っていると思う。
「あやまちを赦してくれる木」とはなんとやさしい存在であろうか。
そして「わけのわからぬ力」が宿ることを自覚したり、
なんじゃもんじゃの木の「こんなもんだ」という言葉にかえって救われてみたり、
歌集を読んでいるうちに少し元気が戻っている自分に気づくのだ。



・へうたんを磨く人ゐし縁側に人なくてひとつへうたん残る

・蜘蛛の子も人間の子も成長す時のしづくをたくはへながら

・死のまへの五分思へばハト麦茶煮出す五分のふいに尊し

・夢を子に問はれてしばしかんがへる頭に大き紫陽花ひらく

・考へて考へすぎて秋ふかし丸干しイワシ頭から食む


寂しいことも悲しいことも、或いは現実のどうしようもないことも、
松尾さんの歌には何とも言えない「救いのようなもの」があって、そこにとても魅力を感じた。
愛唱性のあるあかるい調べもこの作者の魅力だと思う。
あかるすぎない、つよすぎない、ほどほどの加減があって、
きっとそこが心地よいのだろう。


多くの方々にこの松尾さんの歌の魅力を味わっていただけたらと思う。

 (※柊書房・・・電話03-3291-6548)




『きつね日和』のお知らせ(5月24日)

2006年05月24日 13時43分15秒 | 短歌あれこれ
おかげさまで、第二歌集『きつね日和』発売よりひと月ほどたちました。
あたたかいエールをくださったみなさん、ほんとうにありがとうございます。



*
毎日新聞(4月30日付)新刊紹介のところで『きつね日和』をとりあげていただきました。
↑ここをクリックするとネットでも記事が読めます。
ありがたく思います。


*
現在発売中の「短歌往来」6月号(ながらみ書房)、142頁「今月のスポット」欄で『きつね日和』をとりあげていただきました。
ありがとうございます。


*
村本希理子さんのブログ「きりころじっく」の5月8日の日記で『きつね日和』の感想をいただきました。
ありがとうございます。


*
中日新聞(5月23日付)「中部の文芸」欄で『きつね日和』をとりあげていただきました。
ありがとうございます。





ひきつづき、書店やネット書店で『きつね日和』発売中です。
どうぞよろしくお願いします。

風媒社から直接購入することができます。


また、ほかにもネットで購入できるところがあります↓

丸善

ジュンク堂書店

ManaHouse

bk1(ビーケーワン)

Amazon(アマゾン)

セブンアンドワイ

紀伊國屋書店

楽天ブックス

喜久屋書店




『海境』(角田純歌集)を読む

2006年05月19日 19時11分41秒 | 歌集・句集を読む
『海境』は角田純(かどた・じゅん)さん(未来短歌会)の第一歌集。
2005年6月25日、砂子屋書房発行。定価3000円+税。
解説:岡井隆氏。

装丁の色合いが渋くて、おさめられている歌もまたしかり。
付箋を貼りながら読んでいて、ふと気がつくと付箋の嵐(!)になってしまっていた。
低く底ごもるような、しかしそれでいてとてもなめらかな調べで、
静かに描き上げられてゆく世界には、何とも言い難い魅力がある。
こういう本に出会うと、短歌の韻律を味わうよろこびを感じる。


*
ここに十首ほど好きな歌を紹介しておこうと思う。



・こずゑよりこずゑに遊ぶつきかげの寂しさの瀬に朝が来ている


・わが窓に蒼きはがねの空は見ゆ、くるしむ夏の翼うつして


・河口とふおほいなる無に出会ひたる川のながれのおもさ虚(むな)しさ


・探りうつ襤褸のつばさうみ鳥は昏きひびきに微かつかれて


・きさらぎはひかり降るつき苦しみのほどかれしごと繊(ほそ)き雨ふる


・陸(くが)を背にさけびたきかな、海境(うなさか)へゆけゆきつけよぼくの葦舟


・かざきりはそら裂くつばさなつ風邪のゆめの断崖(きりぎし)なつ雲生れて


・ねむり濃き快楽(けらく)のひるのうたかたのたとへばくらげ或いはひとで


・受け流すそしりのことば胡瓜かむおと悲しむもけふのうつそみ


・雲翳(うんえい)のさびしく揺らぐみづのうへ墜ちたる鳥はみなもうつろふ



*
みづ、雲、鳥、草など私自身が好きなモチーフが多くて
すきな歌を十首に絞るのはとても難儀なことだった・・・。

どうぞみなさま、この深くうつくしい世界を、
実際に(歌集を)手にとって味わってください。






『帆を張れり』(うまきいつこ句集)を読む

2006年05月16日 14時49分03秒 | 歌集・句集を読む
『帆を張れり』は、うまきいつこさん(「沖」同人)の第一句集。2006年4月1日、邑書林発行。定価2500円(税込)。
序:林翔氏、跋:櫂未知子氏。
帯が凝っていて、前後なく、ひろげて読むようなスタイルになっている。


*

・薄氷に羽毛ひとひら帆を張れり

作品は句集のタイトルにもなっているこの一句からはじまる。薄氷の上のひとひらの羽毛を帆と捉えた作者の感性が冴える。全体にハ行音のひびきが多く含まれていることで、羽毛と早春のひかりのやわらかさがより感じられるように思う。



・如月や目鼻あやふき野の仏

・光琳の水の干菓子と夏に入る

たとえばこれらの句の「目鼻あやふき」や「光琳の水の」といった具合に、短い言葉ながら表現が的確で、しかも緩みのないところが、私にはとても印象深く感じられた。



・一人づつ遠き眼をせり掻氷

・捻花となりて芝より抜け出せり

・心身のほころびへ巻くショール白

・風花や童謡で来る灯油売

・馬追といつしよ日暮のエレベーター

・木蓮に日はしろがねを尽しけり

・一芸といへど胡瓜の飾り切り


作者の発想は自由自在に縮んだり広がったりする。時にユーモラスであったり、時にこの上ない哀愁を感じさせたり、その匙加減がほどよくて、読む方に無理なく伝わってくる。


・のどけしや応挙の孔雀歩きさう

・麦を踏む大地の凝りをほぐしつつ


*
多くの方々にこの『帆を張れり』の孕む「自在な世界」を味わってほしいと思う。