NHK総合の土曜夜9時「土曜ドラマ」枠で2019年夏シーズンの終盤にスタートした、NHKエンタープライズ制作による全5回の刑事ドラマ。
2018年に「ドラマ10」枠で放映された名作『透明なゆりかご』を書かれた、安達奈緒子さんによるオリジナル脚本です。
振り込め詐欺、還付金詐欺など新手の特殊詐欺犯罪を取り締まる、警視庁捜査二課・南新宿分室に所属する刑事たちの活躍と葛藤が描かれます。
舘ひろしばりにバイクを乗り回す熱血警部補=今宮夏蓮に木村文乃、その元カレにして同僚の森安警部補に眞島秀和、若手の戸山巡査長に清水尋也、デスクワークの向井巡査部長に足立梨花、コワモテ係長の手塚警部に遠藤憲一、管理官の北原警視に鶴見辰吾、夏蓮の捜査に協力する詐欺グループの「かけ子」に高杉真宇、夏蓮に近づくベンチャー起業家に青木崇高、そして夏蓮の祖母に香川京子、といったレギュラーキャスト陣。
特殊詐欺犯罪は今、早急にどげんかせにゃならん深刻な社会問題の1つなのに、まだ我々はその実態をよく分かってないんやなぁと、このドラマを観ると身につまされます。
取り締まる側が主役ではあるけど、本作は特殊詐欺グループの犯行手口はもちろん組織の構成図、そのメンバーの生い立ちから犯行加担に至るまでのいきさつ、そして彼らの育成法まで、綿密な取材を基に細かく見せてくれます。これを観れば明日から詐欺師になれるかも知れませんw
それは冗談としても、敵をよく知ることに勝る防犯対策は無いやも知れず、これから高齢者=かっこうのターゲットになっていく我々世代は是非とも観ておくべき作品かも知れません。
初回は振り込め詐欺グループの摘発が『マルサの女』ばりのハードボイルドタッチで展開し「受け子」や「かけ子」ら下っ端を鮮やかに逮捕するも、組織トップの正体はまるで掴めないジレンマが描かれました。
捕まえた「かけ子」の1人と夏蓮が心を通わせ、彼を通じて組織トップを追い詰めていく過程がどうやらシリーズの縦軸となりそうです。
そんな初回も面白かったけど、よりガツン!と来たのが第2話。伊東四朗さん扮する元高校教師の独居老人に、かつての教え子を名乗る女性(筒井真理子)が近づき、金銭トラブルに巻き込まれたから助けて欲しいと懇願する。
もちろんその教え子はニセモノで、伊東先生は大手銀行相手の詐欺にまんまと加担させられちゃう。ずっと真面目ひとすじに生きて来た男が、その人生の終盤で自覚しないまま前科者になっちゃう恐ろしさ。
だけど夏蓮たちに捕まった犯人グループの1人は、まったく悪びれもせずに言うんですよね。
「俺たちは年寄りに希望を与えてるんですよ。何て言うか、生きてる実感って言うんですか?」
実際、伊東先生は認知症のお陰で犯罪への加担は自覚しておらず、自分が教え子の窮地を救った事実(錯覚なんだけど)に満足し、むしろ以前よりも元気になっている!
私の父親も元教師で、どんな質問にも答えてくれる神様みたいな存在だったのに、今じゃ息子に教わらないと電気髭剃り(ボタン1つ押すだけ)も使えない立派なぼけ老人。かつて山ほど届いたお中元や年賀状もほとんど来なくなり、もちろん訪ねて来る人もいない。
私みたいに最初から孤独な人間ならともかく、父みたいに沢山の人から頼られる存在だった人がこうなった場合、また誰かに頼られたい願望がきっと奥底にある筈で、そこを巧みに突いて利用する詐欺グループの狡猾さは、言いたくないけどホント見事なもんです。
どうして詐欺被害が一向に減らないのかと嘆く夏蓮に、上司のエンケンさんがトカゲみたいな顔して言いました。
「俺たち人間は、信じたいものだけを信じて生きてる。だから騙される」
短い言葉で詐欺犯罪の本質を的確に突いた、名台詞だと思います。宗教や戦争にも同じことが言えますよね。
信じたいものがある以上、誰でも詐欺被害に遭う可能性はある。遭ってない人は自分がしっかりしてるからじゃなく、単に今まで運が良かっただけと肝に命じるべし。
たった今思い出したけど、私も若い頃に一度だけ詐欺(いわゆるキャッチセールス)の被害に遭ってるんですよね! 大学受験の下見で友人と二人、初めて東京に行ったその夜のことです。
新宿駅の周辺だったかをウロウロしてたら若い兄ちゃんから「映画に関するアンケート」の回答を頼まれて、映画監督を目指してた我々は喜んで応じ、最後に映画の割引券か何かと引き換えに署名を求められ、純朴な田舎少年二人は何の疑いもなく名前を書いちゃった。
そしたら「これは券を買い取る契約書だから代金を払え」みたいなことを言われ、その金額は明らかに法外なもので、だけど貧乏学生の小遣いでも払えなくはない絶妙な価格設定。
もちろん「話が違う」って抗議したけど相手も必死。「払ってくれないと自分のクビが飛ぶ」だの「事務所に来てもらう」だのと泣きと脅しを入れて来て、あんまりしつこいから最後には「じゃあ半分だけ払う」ってことで許してもらいましたw
もしあの時、私が友人と一緒でなかったら、あるいは相手がもっと百戦錬磨のやり手だったら、たぶん全額払ってただろうと思います。まさに大都会の洗礼。怖かったしメチャクチャ悔しかったです。
映画好きの我々に映画というエサを使ったのはたぶん偶然でしょうけど、例えばファッションに関するアンケートなら我々は選ばれなかっただろうしw、もし声を掛けられてもスルー出来たはず。パッと見で人が「信じたいもの」を見分ける嗅覚が連中にはあるんでしょう。
だから「絶対大丈夫」はあり得ない。報道番組で現実の被害者による証言を聞くよりも、ドラマで感情移入した人物が酷い目に遭う、その姿を見た方がより「他人事じゃない」ことを実感出来るかも知れません。
もちろん異色の刑事ドラマとしても楽しめるし、木村文乃さんの珍しいハードボイルドアクション、足立梨花さんのお尻など、エンタメ的見所も満載。オススメします。
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