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『太陽にほえろ!』#295

2019-11-04 00:00:21 | 刑事ドラマ'70年代









 
☆第295話『二つの顔の男』

(1978.3.24.OA/脚本=塩田千種&小川 英/監督=木下 亮)

新宿公園の近くで、ホームレスらしき男(梅野泰晴)が高所から転落して死亡。現場検証の際、男の遺体を見て「おっちゃん!」と叫んで取り乱す若い女(根岸季衣)に、ボン(宮内 淳)は話を聞こうとしますが逃げられてしまいます。

検死の結果、遺体の腰にうっ血の痕があり、背中を手摺に強い力で押し付けられた=他殺の線が濃厚となり、藤堂チームは捜査を開始します。

ボンは、山さん(露口 茂)のお抱え情報屋の1人であるホームレスの坂田(今福正雄)から、被害者が1年前から新宿界隈に現れ始めた事と、「二丁目の茜」と呼ばれる若い女とよく一緒にいた事実を聞き出します。おそらくそれが、現場から逃げ出したあの女。

一方、現場に落ちていたライターの持ち主を探していたゴリさん(竜 雷太)と殿下(小野寺 昭)は、持ち主が商事会社のエリート部長・早坂であることを突き止めます。しかも、前日から無断欠勤して連絡がつかないという早坂の顔写真が、どう見ても死んだホームレス男と同一人物なもんだから驚いた!

会社では出世コースを歩み、普通に妻子もいる真面目なアラフィフ男が、1年前からホームレスを装って夜の新宿に出没し、一昨日までは会社にも普通に出勤していた。そして夜の新宿で殺された。

「分かんないなぁ、何がどうなってんのか。こんなおかしな事件、初めてですよ」

困惑しながらもボンは、若い女がホームレスと仲良くする不自然さから、例の「二丁目の茜」が早坂の正体を知り、カネ目当てで殺したんだと推理します。

その茜が、葬儀を終えた早坂家に現れ、「おっちゃん」の遺骨を分けて欲しいと早坂の妻・信子(柳川慶子)に詰め寄りますが、居合わせた山さんに止められます。

茜は七曲署に連行され、ボンの取り調べを受けますが殺人はハッキリと否定、早坂が実はエリート商社マンだったことも知らなかった、現場から逃げたのは警察が大嫌いだからだと主張します。

そして茜の事件当夜のアリバイが実証され、捜査は振り出しに戻ります。

何よりも不可解なのは、部長への昇進が決まり、息子も大学に進学して順風満帆だった早坂が、なぜホームレスの真似事なんか始めたのか? ボンにはどうしても理解出来ません。

「言えるのはただ、彼をそうさせた何かが、浮浪者の生活にあったという事だ。それを知ってるのはボン、あの子だけだよ」

山さんにそう言われて、ボンはさんざん疑いをかけた茜から話を聞こうとしますが、当然ながら拒否されます。

「そんなにおっちゃんのことが知りたきゃ、あんたも浮浪者になりゃいいじゃん」

去り際に茜が残した捨て台詞を聞いて、ボンは眼からウロコが落ちますw 夜の新宿界隈をウロウロし、ホームレス生活を自ら体験してみたボンは、やがて先輩ホームレスたちに受け入れられ、仲良くなっていきます。そんなボンを見て、茜は……

「おいでよ。熱いコーヒー入れたげる」

寒い朝に路上で寝ていたボンを、茜は安アパートの自室に招き入れるのでした。

「おっちゃん、ダメでドジな浮浪者だった。寝床見つけるのもヘタだし、シケモク拾うのもヘタでさ。バカで、ドジでウスノロだった」

そんな早坂を放っておけなくて、茜は彼をこの部屋に寝泊まりさせるようになった。

「子供みたいに笑ったり怒ったりしてさ。そんなおっちゃん見てると、なんだか調子狂っちゃってさ。変に優しい気持ちになっちゃうんだよね」

「信じられないなぁ……エリートの早坂とは、あまりに違い過ぎる」

「きっと別の人だったんだよ」

ゴミが散乱する茜の部屋とは対照的に、早坂家の書斎は整然と落ち着いた空間で、あまりにイメージが隔離している。ますます分からなくなったボンは、やっぱり早坂は茜に脅されて無理やりホームレスの格好をさせられてたのでは?と疑いますが、山さんが否定します。

「逆だな。見事に整えられた、チリ1つ無いあの書斎から、早坂は逃げ出したんだ」

早坂がホームレスの真似事を始めたのは、マイホーム、昇進、息子の進学と、彼が人生の目標をほぼ達成した1年前の春からだった。

「50に手の届こうとする年齢だが、生きることにも疲れた。気を張り詰めて出世コースを歩くのも嫌になった。早坂はただ、ほんのちょっとだけ息抜きがしたかったんだろう」

「…………」

さて、事件は急転直下。茜の証言により、早坂の行動を探っていた男がいることが判明。その男は探偵で、雇ったのは早坂の妻・信子。早坂の二重生活は知らなかったと彼女は証言したのに、実は全て知っていた!

当初は黙認しようとした信子だけど、出張を装って夜の新宿に出ていく夫を放っておけず、公園でホームレスの衣裳に着替えた早坂を問い詰め、やめさせようとした。それでも振り切って行こうとする早坂を、信子は夢中で突き飛ばしたのでした。

「主人が、なぜ逆らおうとしなかったのか……どうしようも無かったんです……私たち家族の生活を守るためには、どうしようも無かったんです!」

信子の自供により、事件は一応解決したものの、非常に切ない、やりきれない結末となりました。

「可哀想だね、奥さん……でも、おっちゃんも可哀想」

「ああ……キミ、これからどうする?」

「私? どうもしないよ。ここで暮らしていくよ。だって、二丁目の茜だもん。フフフ」

茜とはすっかり仲良くなったボンですが、早坂の気持ちだけはどうしても理解出来ないまま、捜査は終わってしまいました。

「それでいいんだよ。奴さんだって、嫌でも解ってしまう日が来る」

「四十男の気持ち……我々もトシですかねぇ、早坂の気持ちが解るってことは」

そんなこと言ってるボス(石原裕次郎)と山さんも、気がつけば現在の私より歳下ですw 40代であの貫禄と渋味は有り得んでしょ!w

「でもな、山さん。俺たちには早坂のように疲れを感じる時間は無いぜ。この東京から犯罪が無くならん限りはね」

もはや50歳を過ぎて、まぁ私は早坂さんみたいな地位も名誉も持たないけど、日常のしがらみから解放されたい気持ちは解らなくもありません。

だからってホームレスにならなくても……とは思うけど、一方で裕福な生活があればこその選択なんでしょう。

考えさせられるエピソードではありますが、ホームレス生活を実体験するボンや、茜との交流の描かれ方がやけにアッサリしてたのは、そこが一番の見所だっただけに残念です。当時としても自主規制的な配慮があったんでしょうか?

そのへんがもっと丁寧に描かれていれば、もっと強く記憶に刻まれる傑作エピソードになったかも知れず、ひとこと勿体ない!

茜を演じた根岸季衣(当時のクレジットは根岸とし江)さんは当時24歳。つかこうへい劇団で活躍し、'75年の映画『ストリッパー物語』主演で注目され、徐々にテレビ出演が増え始めた時期でした。

根岸さんの『太陽~』出演はボン役・宮内淳さんのリクエストだったそうで、後にボンの殉職編でも根岸さんがヒロインを務められる事になります。

それからずっと名バイプレーヤーとして第一線で活躍されてますから、宮内さんは役者の才能を見抜くプロデューサー的な眼も持たれてたワケですね。
 

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