ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#276

2019-10-10 00:20:16 | 刑事ドラマ'70年代









 
'77年秋の改編期スペシャル第3弾の目玉は、既にNHKの朝ドラ『水色の時』主演などで国民的女優として認知されてた、当時20歳の大竹しのぶさん。

恐らく刑事ドラマへのゲスト出演は、後にも先にもこれが唯一。連ドラ全体でも大竹さんが1回限りでゲスト出演されたのって、私の知る限りほとんど無かったように思います。

多数の映画、ドラマのレギュラー出演でチョー多忙だったこの時期、かなり無理をしてのゲスト出演が叶ったのは、当時「お化け番組」として朝ドラと肩を並べる存在だった『太陽にほえろ!』だからこそ、であったに違いありません。

スコッチ(沖 雅也)の再登場、長谷直美さんのセミレギュラー入りに続いて、この回も世間から相当な注目を集めてました。まさに『太陽~』の黄金時代を象徴するような作品です。


☆第276話『初恋』(1977.11.11.OA/脚本=播磨幸治/監督=木下 亮)

ある夜、商事会社の社長=浜田(岡田英次)が自宅で侵入者と鉢合わせし、拳銃のグリップで殴られ負傷します。

屋敷にいたのは他に家政婦の友子(片桐夕子)と、病弱でずっと自宅療養してる17歳の一人娘=陽子(大竹しのぶ)だけ。どちらも犯人の姿は見ていないと証言するんだけど、どうやら何かを隠してる様子。

藤堂チームがとりあえず強盗傷害事件として捜査を始める中、今度は陽子の部屋の窓ガラスが割られます。

張り込んでたゴリさん(竜 雷太)とロッキー(木之元 亮)がすぐに駆けつけ、事情を聞くんだけど、なぜか口を閉ざす陽子。ところが我らが貴公子=殿下(小野寺 昭)が現れた途端、嬉しそうに侵入者の特徴を証言する陽子は、どうやら最初の現場検証で殿下と出逢った時、恋をしてしまったらしい。

なのに殿下は、ガラスの破片が部屋の外側に多く落ちてる状況を見て、これが陽子の狂言であることをすぐに見抜きます。そう、陽子は殿下にまた会いたい一心で、自分でガラスを割ったのでした。

チョー箱入り娘の陽子にとって、これは生まれて初めての恋。そんな陽子に、父親の浜田は「お前はやっぱり、母親に似てふしだらな女だ」と冷たい言葉を浴びせます。

陽子の母親=浜田の妻は、ずっと前に他の男と駆け落ちして出て行ったのでした。陽子が病弱を理由にずっと外出を禁じられてるのは、浜田が妻の「ふしだら」な血を憎み、恐れてるから。地味で「ふしだらじゃない」ように見える友子を家政婦に雇ったのも、たぶん同じ理由。

なのに、あろうことか浜田を負傷させた侵入者=宮下(幸野直樹)を屋敷に引き入れた張本人は、その友子だった!

宮下は浜田の財産を狙って友子に近づき、結婚を匂わせて逢い引きを重ねていた。実は陽子も二人の仲を知ってたのに、その恋を応援したいが為に黙っていたのでした。

「ねぇ、恋ってどんな感じ? 男性を好きになるってどんな感じ? 男性を一目見て好きになった事あるでしょ? そういう時どうしたの? 分からないのよ……私、分からないの」

普段から、陽子は友子にそんな質問をよくしてました。思春期なのに出逢いもなく、ゆえに純粋な興味もあるんでしょうが、それ以上に彼女は、出ていった母親が決して「ふしだら」なんかじゃない、恋とは全てを捨てて成就させるだけの価値がある、美しくて素晴らしいものだと信じたかったんでしょう。

だけど、やはり現実は違ってました。再び浜田邸に侵入した宮下は財産目当ての卑劣な本性を表し、また友子も薄々それに気づいてたのに、寂しさを紛らす為に(つまり肉欲に溺れて)逢い引きを重ねてたことを告白します。

「うそ……嘘でしょう?」

「嘘なもんですか。あなたが考えてるような、愛なんて、この男との間に、カケラも……カケラも在りはしなかった!」

それは友子の、せめてもの強がり発言なんでしょうけど、陽子にはその言葉の裏にある切ない想いまで、まだ理解できません。

殿下の活躍によって宮下は逮捕されたものの、陽子は泣きじゃくりながら屋敷を飛び出すのでした。

「みんな不潔よ! お父様も、友子さんも……お母様も……」

追ってきた殿下が、優しく語りかけます。

「キミはもう17歳だろう? だったら解ってもいい筈だな。人は、大人になるに従って、それぞれ心に傷を持つ。その傷は、人によって深かったり浅かったりするけど、みんな持ってる」

「…………」

「キミのお父さんも、友子さんも……それから、おそらくキミのお母さんもだ。キミはもう、そのことを思いやれる年頃だと思うけどな」

「でも……でもあなたは……世間知らずで、少しおっちょこちょいで、あんまり頭の良くない女の子の気持ちを……少しも思いやって下さらなかったわ」

「…………」

殿下は返す言葉を失います。いやはや、モテる男はつらいですなあ!w ざまあ見たまえ!www

だけど初恋なんてハシカにかかったようなもんで、数日後には入院先の病室で、陽子はクラスメイトたちとケロっと初恋談義で大はしゃぎ。それをドアの外で立ち聞きし、ほくそ笑む殿下なのでしたw

『太陽~』にしては珍しく大半が夜間シーン(たぶん大竹さんのスケジュールの都合)で、BGMも控えめ。やたら「ふしだら」なんて単語が飛び交うシナリオは、まるで大映ドラマを観てるよう。

でも、それより何より本エピソードを異色たらしめたのは、大竹しのぶという天才女優の存在そのものでしょう。まるでこれは「大竹しのぶ劇場」と言っても過言じゃない、全てをそのワールドに引き込んじゃう魔力。弱冠20歳にして圧倒的なものがあります。

現在の若手女優さんだと、二階堂ふみさんにそれと近いものを感じます。ルックスもちょっと似てますもんね。

単純な初恋ストーリーではなく、性の目覚めや屈折した親子愛なども絡む複雑なシナリオを、ちゃんと説得力をもって描けたのも、その気になれば「ふしだら」な女でもサラッと演じられる天才女優がいればこそ、だろうと思います。

あらためて、本当に凄い女優さんです。
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『太陽にほえろ!』#275 | トップ | 『太陽にほえろ!』#279 »

コメントを投稿