登場してから10週目にして早くも5本目となる、新人ラガー刑事(渡辺 徹)の主演作。実に2本に1本は主役を任され、他の回でもだいたい助演のポジションで大活躍のラガー。
前任のスニーカー(山下真司)が最初の10週で3回しか主演してないのとえらい違いで、ラガー売出しへの並々ならぬ力の入れようが伺えます。
スニーカーやロッキー(木之元 亮)の売出しに失敗した反省もあるだろうし、ボス(石原裕次郎)とスコッチ(沖 雅也)が不在という危機的状況が、かえってラガーの追い風になったかも知れません。
なお、この第486話は『太陽にほえろ!』の数少ない女性脚本家のお一人である、亜槍文代さんのデビュー作だったりもします。
誰も死んだりしない「ネコババ」という地味な題材を扱いながら、ちっとも退屈しない面白さ。
その上、学歴や職業だけで人を判断しがちな日本人をチクリと皮肉る鋭さもあり、投稿シナリオがいきなり採用されてデビュー作になったという、非常にレアないきさつにも納得できるクオリティーです。
☆第486話『赤い財布』(1981.12.4.OA/脚本=亜槍文代&小川 英/監督=竹林 進)
ラガーが非番の日、公園で男女の言い争いを見かけ、行きがかり上、仲裁することに。
男は一流大学「東都大」の学生=星野 稔(氏家 修)で、アパートの隣室に住むシングルマザー=中川恭子(鈴鹿景子)に「泥棒」呼ばわりされてるのでした。
口の悪い恭子が去った後で星野の話を聞くと、彼は半年前に道端で「赤い財布」を拾い、交番に届けたけど持ち主不明のまま期限が過ぎ、財布とその中身=8万5千円の現金を受け取ることになった。
ところが今になって恭子が自分の財布だと言い出し、泥棒だと騒いで困ってるという。
恭子が財布を落としたと主張する場所と、星野が拾った場所が食い違っており、中身の金額も微妙に違う。拾った方が千五百円ほど多いのでした。
別に頼まれたワケじゃないけど、恭子が財布の横取りを狙ってると睨んだラガーは、星野を助けるべく吉野巡査(横谷雄二)と一緒に捜査を始めます。
すると警察の記録に残ったデータは全て星野の証言を裏付けており、疑う余地がない。けれど先輩のロッキーとドック(神田正輝)は口を挟みます。
「それじゃお前、片手落ちなんじゃないか?」
「片手落ち?」
「捜査ってのはな、ああだこうだ、ああだこうだ、ああだこうだってやるものなんだよ。お前のは、ああだああだああだで、こうだが無いんだよ」
つまりラガーは、星野側の話だけを聞き、恭子に悪い印象を持ったまま捜査して、結論を出そうとしてる。
「つまり女の方も調べろって事ですね?」
「そう、首を突っ込んだ以上はね」
それでラガーはアパートを訪ねるんだけど、恭子は相変わらず無愛想で「話があるなら店に来て」と相手にしてくれない。
店というのはキャバレーで、彼女はホステス。有名大学の学生である星野と比べると、やっぱり分が悪い。
「そりゃねえ、あっちは東都大のエリートで、こっちはご覧の通りの酔っ払いよ。でもねえ、からかい半分でこんなとこ来るんなら帰ってよ!」
自分が店に来いと言っておきながらこの対応。
同僚のホステスたちに聞くと、どうやら彼女には強いエリートコンプレックスがあるらしい。得られた情報はそれだけで、飲み代3万6千円を割り勘させられた先輩2人が気の毒すぎますw
ますます印象が悪くなっちゃった恭子だけど、アパートに戻れば実に慎ましい生活ぶりで、幼い娘に無償の愛を注ぐ彼女の姿を見るにつけ、ラガーの見方が変わっていきます。
よくよく聞いてみると、恭子がシングルなのは夫が在り金全部を持って失踪したせいであり、女手1つで生計を立てる彼女には同情すべき点が多々ある。
そして逆に、星野の方が実は遊び人で周囲の評判が悪く、よその家に配達されたマンガ本を盗み読みするという、セコい犯罪を繰り返してる疑惑も浮上!
おまけに、例の赤い財布は「ケチがついたから」と焼却炉で燃やしてしまったらしい。これはもしかして、いや、どう考えても証拠隠滅!?
「やっぱりアイツだったんです! アイツは8万3千5百円を堂々と盗むために、手の込んだ偽装工作をしたんです!」
「どういうことだ?」
つまり星野は、拾った財布が恭子の物であることを知った上で、わざわざ千五百円を足し、拾った場所も偽って交番に届けたんだと、ラガーは推理します。
しかし金が欲しいなら、そのまま黙ってネコババすれば済んだ話では?と先輩たちはツッコみますが……
「それはアイツの性格です!」
「性格?」
「アイツは人をイジメたり、鼻を明かしたりするのが好きなんです。そういう人間だから中川恭子さんをあざ笑ってやりたくて、拾った財布をわざわざ届けたんです!」
「お願いです、窃盗でアイツを逮捕させて下さい!」
「無理だ、証拠が無い」
「山さん、無いのは当然なんです! みんな燃やされちゃったんです!」
「証拠が無いはずは無い」
「?」
「犯罪である限り証拠はある。無いと思うのはお前の焦りだ」
「……分かりました、探します!」
いぶし銀の山さん(露口 茂)に叱咤され、徹底的に証拠を探したラガーはついに、星野が財布を拾ったと言う場所でその日時、交通課の婦警たちが駐車違反の取締りをしていた事実を掴むのでした。
つまり、そこに財布が落ちてたなら先に婦警が見つけたはず!……っていうのは証拠として弱い気もするけど、ラッキーなことに星野は逃走してくれました。
河原に星野を追い詰めたラガーは、東都大学というブランドに惑わされた自分への怒りも込めて、フルボッコにしますw
そこにかけつけ、止めに入ったドックとロッキーが、もう1つの真実をラガーに伝えます。
「確かにコイツは中川恭子さんの財布を盗んだ。だがな、それは彼女がワケも無くこの男を毛嫌いしたからなんだよ!」
「でもコイツはね、平気で本を盗み読むような男なんですよ!」
「その犯人はこの男じゃない、同じアパートの高校生だ!」
「えっ?」
「マンガ本を買う金が無くてやったんだ」
「…………」
恭子は恭子で、東都大出だというだけで星野を毛嫌いし、悪い噂を周りに吹き込んでいた。実は失踪した夫も東都大の出身で、彼女はそれだけで星野を憎んでたワケです。
ネコババも立派な犯罪だけど、恭子がそんな偏見さえ持たなければ、星野は素直に財布を返したかも知れない。
結局「ああだああだ」だけで突っ走った青くさい自分を、大いに反省するラガー刑事なのでした。
殺人事件が起きなくたって、身内に裏切り者がいなくたって、いくらでも刑事ドラマは面白く出来るんだっていう、近頃のテレビ屋さんたちに是非とも観て頂きたい絶好のテキストです。
まあ、どんな事件でも扱っちゃう「なんでも屋」の七曲署捜査一係だからこそ成立した話ではあるけど、新米刑事の成長ドラマとしてもよく出来てるし、地味ながら私の好きなエピソードの1本です。
亜槍文代さんはこの後も主婦ならではの着眼点から、ユニークなストーリーを度々提供されて『太陽にほえろ!』の強力な戦力となられます。