お互い刑事で、同じ犯人を追ってると判って、新宿署の沖田(萩原健一)と港街署の美咲(南野陽子)は手を組む事になりました。
2人が追うのは、新宿署管内で現金輸送車を襲撃し、3億5千万円を強奪した上に3人も殺して逃走中の凶悪犯=氷室(又野誠治)。2人は氷室の元恋人=麻由美(相楽晴子)が住むマンションを張り込みます。
「沖田さん。いつもこんな無茶してるんですか?」
「氷室だけは別だ。アイツだけは必ず俺の手で逮捕する」
「どうしてです?」
「……お前こそどうして署に戻らない?」
「このまま戻ったらクビになるに決まってるもん」
「よく刑事になれたな」
「射撃の選手だったんで優遇されたんです。オリンピックの候補に決まってたんだけど、プレッシャーに弱くて結局モノにならなくて……」
「刑事には向いてねえな」
「分かってます。でも、このままじゃ負け犬みたいだし、一生後悔しそうだし……どうせなら1人ぐらい犯人逮捕して、自信つけたいなって…… 沖田さん?」
「黙ってろ」
麻由美の部屋の電話に着信があり、沖田はそれを盗聴してるのでした。もちろん違法捜査ですw ちなみに当時はまだ携帯電話が普及してません。
電話はやはり氷室からでした。「これからそっちへ行く」との用件ですが、なぜか麻由美は異常に怯えてます。
そしていよいよ氷室が登場するワケですが、演じる又野誠治さんの圧倒的な存在感と貫禄たるや、とても20代の若者とは思えませんw(当時29歳)
『太陽にほえろ!』のブルース刑事役でデビューし、番組終了後はもっぱら悪役ゲストが多かった又野さんですが、2003年の映画『GUN CRAZY Episode4/用心棒の鎮魂歌』ではヒロイン(加藤夏希)に力を貸す用心棒チームのリーダーという、ヒロイックな役を演じておられました。
私はその映画の撮影に参加してましたので、又野さんのヒーロー演技&アクションを間近で見られて本当に幸せでした。ところが翌年、又野さんは自殺しちゃいます。
『あいつがトラブル』はアクション物ファンにウケたものの視聴率は奮わず、同時期の石原プロ作品『ゴリラ/警視庁捜査第8班』(本作にも又野さんがゲスト出演)も途中から地味な人間ドラマに路線変更しちゃう等、役者としてこれからって時に、アクションドラマが絶滅しちゃったんですよねぇ……合掌。
氷室は麻由美の部屋を訪ね、ごっつい手で彼女の首を絞めるのですが、駆けつけた沖田に気づいて逃走します。氷室は麻由美を殺すつもりだったのか? それとも……?
沖田は氷室を追い詰めますが、肝心なところで美咲が氷室に捕まっちゃいます。
「銃を捨てろ! この女殺すぞオラァ!!」
「……勝手にしろ」
沖田は愛銃コルト・ガバメントを氷室に向けます。決して命中精度の良い拳銃とは思えないけど、命中させる気が無い沖田には関係ありませんw
「分かった!」
全くひるまない氷室を見て、仕方なく沖田はガバメントを投げ捨てます。
「沖田さん……」
「馬鹿野郎っ! どこまで邪魔すりゃ気が済むんだ!?」
沖田は美咲を巻き込まないよう手錠で繋いでおいたのに、彼女はヘアピンを鍵代わりに手錠を外し、氷室に捕まった挙げ句に愛銃デベルカスタムを奪われた=敵に武器を提供しちゃったワケです。
「おいっ! 麻由美を連れて来い! この女は人質だ!」
そんな氷室の要求に対して、沖田は人質の交換を要求します。自分が美咲の代わりに人質になると言うのです。
「俺は心臓が悪いんだ。医者から激しい運動はするなと言われてる。麻由美を連れて来ることは出来ない」
沖田が心臓を患ってるのはどうやら事実で、走ったり興奮したりする度に左胸を手で押さえる姿が描かれてます。でもそれだけで、ストーリーにはあまり活かされてなかった気がしますw
「そのコが代わりに連れて来る。もし連れて来れなかったら俺を殺せ!」
「イヤよそんなの! そんなムチャな約束守れないわ!」
「どうする氷室?」
「沖田さん!」
「……デカなんだろ、お前」
「…………」
氷室は沖田の要求を呑み、美咲を解放します。そうなれば氷室を罠に嵌める事が可能になり、沖田もそれを狙ってたみたいだけど、美咲はバカ正直に麻由美が療養中の病院へと向かいます。
たまたまかも知れませんが、この展開は『太陽にほえろ!』初期(マカロニ編)の名作『危険な約束』(第36話、市川森一脚本)とよく似てます。沖田は「もしマカロニが生きていたら」っていうキャラ設定ですから、意図的にマカロニ編を再現した可能性も充分に考えられます。
病院では港街署の城野(織田裕二)と虎田(宍戸 開)が麻由美のガードに就いており、怪しい物音に気づいた2人は病室に飛び込みます。
「美咲?」
「何やってんだ、お前?」
病室の窓から忍び込んだ美咲でしたがアッサリ見つかり、2人に事情を話します。そして城野に拳銃を貸してくれるよう頼むのですが……
「条件がある。俺も手伝うぞ」
現在のリアリティ優先のドラマ創りだと、こんな脚本を書いたら「有り得ない」の一言で却下されそうだけど、こういう友情の描き方が出来ない時代って、なんだか寂しいですよね。
「……ありがとう」
「だっ、駄目だ、俺は絶対そんな事やらんぞ。もうすぐ刑事課に転属出来る、大事な時だからな!」
制服巡査の虎田は、刑事課に欠員が出たら即、私服刑事に昇格する予定なのです。
「何だよ、もうすぐって?」
「お前が美咲の手伝いをすれば間違いなくクビだから」
「お前なあ!」
「とにかく絶対俺はやらんからな! 警察官としての誇りがあるんだっ!」
絶対協力しない!って言い張ってた張本人が、あっさり次の場面で協力しちゃってるのは伝統的古典ギャグですw
それにしても、なぜ氷室は警察に捕まる危険を冒してまで、麻由美に執着するのか? 氷室と2人きりになった沖田は、強奪した3億5千万円を麻由美が隠し持ってるんじゃないか?とカマをかけます。
「図星か。オメエみたいな血の通ってない人間は、女に執着するなんて事はねえからな。人の命なんか何とも思っちゃいねえんだ」
「説教垂れるんならな、逮捕してからにしたらどうだよ」
「俺はお前を逮捕しに来たんじゃない……ハジきに来たんだ。お前が新宿で殺したデカな……あいつは、俺の相棒だったんだ」
「ハジきに来た」っていうのは多分「撃ち殺しに来た」って意味でしょう。それにしても『太陽にほえろ!』の礎を築いたマカロニ刑事と、終盤を支えたブルース刑事の、最初で最後のツーショット。『太陽』マニアとしては感慨深いものがあります。
一方、美咲らは看護師や医師に変装し、麻由美を病室から連れ出します。このナース姿も含め、ナンノさんは初回だけで5種類のコスチュームを披露されてます。マメなお着替えはヒロイン物のお約束ですね。
ついでに言うと、ドクターに化けた織田裕二さんは『振り返れば奴がいる』の悪徳医師そのまんまですw
「あなたの安全は守るわ。ね、協力して? あなただって氷室が逮捕されない限り安心出来ないでしょ?」
麻由美を救急車に乗せ、氷室の逮捕に協力することを依頼する美咲ですが、予想外の答えが返って来ます。
「逮捕したって安心出来ないわ。氷室を殺してよ。どうせアイツは死刑になるんだから」
「麻由美さん……」
「協力しないわよ。殺してくれないなら」
言うまでもなく、氷室が死んでくれさえすれば、3億5千万円は麻由美の独り占めです。麻由美の部屋で氷室が首を絞めたのは、彼女が隠した金の在処を聞き出す為だったのでしょう。
しかし、麻由美の協力が得られないとなると、人質にされた沖田の生命が危うくなります。このピンチを美咲はどう切り抜けるのか?
一方、沖田自身は美咲に助けてもらう気など最初から無かった模様です。
「まぁ、普通のデカだったら麻由美を連れて来るような事はしねえわな。デカが人質なんだから、犯人逮捕が優先だ。残念だったな」
「残念はどっちだ?」
そう、誠に残念ながら、美咲たちはバカ正直にやって来てしまったのでした。かつてのマカロニ刑事みたいに。
救急車から、ロングコートに帽子というハードボイルドな出で立ちの麻由美(?)が降り立ち、氷室が立てこもる廃屋へと近づいて来ます。(?)なんて書いちゃうとオチがバレバレなんだけどw、嘘を書くワケには行きません。
ところが番組スタッフは大嘘つきでw、この場面の途中まで(その女が麻由美じゃなく美咲である事が判明する直前まで)相楽晴子さんに演じさせるという、大胆不敵なミスリードをやってくれてます。
氷室が沖田を盾にしながら外に出て来ると、歩く麻由美(実は美咲)のコートのポケットが、まるで冴羽 僚(シティハンター)の股間みたいにモッコリして来ますw
「!?」
異変を感じた氷室が、ようやく女の正体が美咲である事に気づき、とっさに銃口を向けます。と同時に美咲のモッコリが火を吹いた!
彼女は城野から借りたコルト・ローマンを、コートのポケットに入れたまま撃って、みごと氷室の右肩を射抜いたのでした。いくら射撃のオリンピック候補でも不可能だろうとは思いますがw
地面に落ちたデベルカスタムを拾おうとする氷室ですが、その手を沖田が思いっきり踏みつけます。ショーケンさんは手加減を知らない人ですからw、踏まれた又野さんは相当痛かった筈です。
今度は沖田がデベルカスタムを手にし、その銃口を氷室の口に突っ込みます。いよいよ相棒の仇を討つ時が来たのです。
「撃たないで! 私の拳銃で人殺しなんかしないでっ!」
美咲の悲痛な叫びを聞いて、沖田の動きが止まります。その拳銃を殺人に使ってしまったら、美咲の刑事生命は確実に絶たれてしまう事でしょう。
「……沖田さん?」
沖田は振り返り、若い刑事たちに向かって怒鳴ります。
「なに見てんだ!? 早く逮捕しろっ!!」
かくして氷室は無事に逮捕され、隠された3億5千万円も回収されたのですが、沖田は勝手な単独捜査&違法捜査の責任を取り、新宿署を依願退職するのでした。
そんな沖田を、港街署の水原署長(橋爪 功)は、新設された「失踪人課」の課長に任命します。
「勘弁して下さいよ。新宿に帰して下さい。俺は横浜が大嫌いだ」
「大嫌いは結構だけども、デカやれんの此処だけだぞ。辞められんのかよ、デカを?」
「…………」
もちろん刑事課の金子課長(伊武雅刀)は顔を真っ赤にして反対しますが、署長はいつも通り聞き流しますw
「心配しなさんなって。課長になりゃ変わるよ、沖田君だって」
辞める覚悟を決めてたのは沖田だけじゃありません。美咲も城野も虎田も、どうやらハミダシ者が大好物らしい水原署長に拾われ、失踪人課への異動が決まりました。
「……冗談じゃないよ」
色んな意味で不本意な沖田課長ですが、刑事を続ける為には受け入れるしかありません。
かくして、日本警察においては初となる「失踪人課」がここに誕生。沖田は美咲たちから「代表」と呼ばれる事になるのでした。
……とまあ、ドラマがあるような無いようなw、とにかくノリだけで突っ走り、オシャレさで魅せるのが'80年代後期アクションドラマの特徴なんですね。
そこに感動は無いし、何の余韻も残らないんだけど、とにかく観てる時間が楽しけりゃそれでいいじゃん!っていう姿勢。まさにバブル時代の産物であり、放映局=フジテレビの当時を象徴するような作品だったと思います。