ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『ケイジとケンジ/所轄と地検の24時』2020

2020-01-18 01:19:56 | 刑事ドラマ HISTORY










 
2020年の冬シーズン、テレビ朝日系列の木曜夜9時「木曜ドラマ」枠で全9話が放映された、テレ朝&アズバーズ制作、そして福田靖さんのオリジナル脚本による刑事&検事ドラマ。

これはなかなかイイ! 私はハマりそうです。派手さも謎解き要素も無いから若い世代にはウケないかも知れないけど、それは創り手も承知の上だろうと思います。

なにしろ主人公の1人である仲井戸豪太(桐谷健太)は神奈川県警横浜桜木警察署、つまり所轄の刑事課強行犯係に配属されたばかりの新米刑事で、元体育教師という異色の経歴を持ち、リバーシブルのブルゾンを愛用する純情&熱血野郎!

なので「リバーシブル」っていうあだ名をつけられそうになるし、美人の妹=みなみ(比嘉愛未)とマンションで同居してるし、係長の多胡(矢柴俊博)は裕次郎を気取って見せるしで、これは明らかに『太陽にほえろ!』はじめ昭和の刑事ドラマにオマージュを捧げた世界観。

しかもハイセンスでギャグが滑らない! 昭和ドラマをネタにするのはいいけどセンスまで前時代的で笑えない作品が多い中、この『ケイジとケンジ』は令和という新時代に相応しいサジ加減を心得てます。『太陽~』パロディでちゃんと笑えたのは『デカワンコ』&『コドモ警察』以来かも?

陰気な刑事ドラマばかり創られて心底辟易してる昨今だけに、この明るさとセンスの良さは私にとってオアシスそのもの。

もちろん笑えて楽しくて懐かしいだけじゃなく、横浜地方検察庁みなと支部の若手検事=真島修平(東出昌大)をもう1人の主人公に据え、本来なら畑も身分も違うリバーシブル刑事とコンビを組ませ、ぶつかり合いながらも共に世の理不尽に立ち向かう姿を描き、これまでありそうで無かった組み合わせによるバディ物として新鮮さも味わわせてくれます。

初回は、そんな二人の出逢いが描かれました。仲井戸刑事が着任して初めて捕まえた窃盗犯が、よりによって教師時代の教え子だった!という、これまた昭和の匂いがプンプンする幕開けで、その事件を担当するのが真島検事。

頭が良すぎて世間と感覚がズレてるせいか、なかなか重要案件を任せてもらえない真島は、そのコソ泥が1年前の空き巣で住人を突き飛ばし、死なせた可能性があることに気づき、がぜん張り切ります。過失致死にせよ殺人事件を扱えば検事としてハクがつくってワケです。

一方、仲井戸は元教え子に肩入れするあまり、亡くなった住人が持病を持った老人で、突き飛ばされたことが死因じゃなかった可能性を主張する。これを殺人事件にしたい検事と、したくない刑事が真っ向から対立するワケです。

けど、仲井戸に一目置いてる署長の大貫(風間杜夫)が言うんですよね。元教え子に肩入れするのもいいけど、他にもっと気持ちを汲むべき相手がいるんじゃないのか?って。それで目が覚めた仲井戸は、殺人としての立件をすべきか否かの判断を、亡くなった住人の遺族に託します。

一方、立件したくてしょうがなかった筈の真島は、最終的にそれを見送る決断をするんですよね。今となっては直接の死因を立証するすべが無く、当然のことではあるけど自分のエゴで被告の罪を重くしちゃいけないと気づいたワケです。疑わしきは、罰せず。

上司の樫村部長検事(柳葉敏郎)はどうやら、真島がそれに気づいてくれることに期待して、あえてこの件を担当させたみたいです。一見冷血漢で真島を突き放してるように見えるけど、実はそうやって彼の成長を促してるんでしょう。

かように登場人物たちの配置にムダがなく、それぞれのキャラクターが多面的で魅力的。こういうドラマは裏切りません。信用できます。

検事の真島は、刑事の仲井戸をいくらでも見下せる立場にいるのに、片想いしてる同僚=立会事務官(秘書みたいな役職?)のみなみが彼の妹だったもんだから頭が上がらないっていう、上下逆転の関係がまた可笑しくて和みます。

このドラマには陰湿さがカケラも無い! ゆえにダークな作風を好む人にとっては面白くないかも知れません。でも、いいじゃないですか。たまにはこういうノーテンキな作品があっても。

結局、住人の死因は不明のまま終わっちゃったけど、全然それでいいんです。これは若い刑事と検事の成長を描く青春ドラマなんだから。

もし、シロかクロかハッキリさせてくんないと納得できない!なんて文句を垂れる視聴者がいるとしたら、それは犯人当てゲームみたいな刑事ドラマばかり量産してきたテレビ制作者たちの自業自得。テレビ朝日さんの責任は特に重いかも知れません。

だからこそ、そのテレ朝さんがこういうノリの刑事ドラマを生み出してくれた意外性も嬉しいし、私はがぜん支持したいと思います。

こういうのもタイミングなんですよね。軽いノリのドラマが主流だった頃なら、もしかすると鼻にも掛けなかったかも知れません。

セクシーショットは、仲井戸の同僚刑事=毛利ひかるに扮する今田美桜さん。ほか、若手刑事に磯村勇斗、真島のライバル検事に渋谷謙人、その立会事務官に奥山かずさ、ベテラン検事に峯村りえ、その立会事務官に西村元貴、そして主人公たち行きつけの小料理屋を営む元裁判官=宮沢かほりに奥貫薫、といったキャスト陣が脇を固めてます。
 

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『ニッポンノワール/刑事Yの反乱』2019

2019-12-23 12:23:38 | 刑事ドラマ HISTORY









 
2019年の秋シーズン、日本テレビ系列の日曜夜10:30「日曜ドラマ」枠で全10話が放映された、日本テレビ&AX-ONの制作による、キャッチコピーによれば「超規格外の刑事ドラマ」。

公式サイトに掲載された概要は、以下のとおり。↓

☆☆☆☆

これが、刑事ドラマと呼べるのかー。

目が覚めると俺の横には女性刑事の亡骸があった。手には拳銃。なぜか俺の記憶は数ヶ月消し飛んでいた。俺がコイツを殺したのか……。それとも何者かにハメられたのか……。

容疑者は『自分自身』と俺の『目に映るすべての人物』。
俺を疑い追いかける同僚刑事。かつての仲間は一夜にして敵に。相棒は亡き女性刑事の一人息子である幼き少年ただ一人。やがて事件は未解決の「十億円強奪事件」の真相へと繋がっていく……。

女性刑事を殺したのは…? 十億円を奪ったのは…? 疑いが加速し、裏切りが止まらない。究極のアンストッパブル・ミステリーがここに開幕! 一人の刑事が巨悪に反乱を起こす、予想を覆し続ける規格外の刑事ドラマ!!

この物語、一度見たらその結末を見届けるまで、「とんでもないこと」が止まらない。

☆☆☆☆

警視庁捜査一課の癌と呼ばれるやさぐれ主人公=遊佐刑事に賀来賢人、殺された捜査一課のマドンナ=碓井班長に広末涼子、その息子に田野井 健、碓井班の刑事に杉本哲太、工藤阿須加、立花恵理。

そして捜査一課の課長に北村一輝、刑事に水上剣星、細田善彦、公安部の刑事に井浦 新が扮するほか、夏帆、佐久間由衣、笹野高史etc…といったキャスト陣が脇を固めます。

私は常々、斬新でサプライズに満ちた刑事ドラマを待望してます。だから「超規格外の刑事ドラマ」なんて言われると期待せずにいられないんだけど、まぁ五分五分以上の確率で「どうせ裏切られるだろう」とも思ってます。さて、この番組はどうだったか?

上記のあらすじを読む限りだと、どこが超規格外なのかサッパリ分かりません。刑事が罠に嵌まって殺人容疑者になったり、そこに記憶喪失が絡んだり、同僚刑事を含む周りの人間がみんな怪しかったりするサスペンスは、私が子供の頃からいったい何本観て来たか見当もつかないほど、全く新しくも何ともないネタです。「警視庁の癌」と呼ばれる刑事も沢山いたし、小さな子供が相棒になるって話もいっぱいありました。

じゃあ、創り手はどこを指してこれが「超規格外」だと言ってるのか? 驚きました。これは違う意味でサプライズでした。

刑事たちが、同僚(しかも課のマドンナだった女性)が殺された現場で、その遺体を前にしてフザケたりはしゃいだりしてる!

そして捜査会議で下らない縄張り争いから全員で大乱闘をおっ始める! そこにやって来た公安の刑事が拳銃をぶっ放して騒ぎを止める!

まだまだあります。初対面の上役から「遊佐が犯人だ」と聞かされた若手刑事が、その裏もとらずに遊佐を殺そうとする! 反撃してそいつを殺そうとした遊佐を、小さな子供が拳銃をぶっ放して止める!等々、メチャクチャとしか言いようのない描写が初回だけでも枚挙に暇ありません。出てくる刑事が全員、バカばっかり。

規格外って、そういう事ですか……やれやれ……困ったもんです。

違うんだよなぁ……私が求めてるのはそういうサプライズじゃない。それはむしろ、一番やって欲しくない「なんでもあり」の「悪ふざけ」です。ぜんぜん新しくもなければアナーキーでもなく、ただ単に「奇をてらった」だけ。

彼らがやってることは、コンビニや飲食店のバイト店員がふざけて食品にツバをかけ、それを撮った動画をネットにアップするような行為と同じことで、そんなの観たって笑えもしないし、まして「こいつら尖ってて超クール!」なんて微塵も思いませんよ。

ただ単に幼稚で無能でひたすらダサい連中でしかなく、そんなヤツらをドラマの主役として描いてる創り手たちも同じ穴のムジナ。なにがニッポンノワールじゃ、ふざけんな!って、私は言いたいです。

これまでの刑事ドラマがなぜ、そういう事をやらなかったか? 別に誰も思い付かなかったからじゃない。そんな事をしても作品の面白さには全く繋がらないことを、皆が分かってたからです。

マトモな人間が職場でフザケてる動画をネットにアップしないのも、臆病だからじゃない、それが究極にダサくて面白くも何ともない事が分かってるからです。あんな動画を観て笑う人は、アップした人と同レベルのおバカさんだけ。大半の人は怒りもせず、ただ「ああ、可哀想に」って思うだけ。その可哀想っていう意味も、おバカさんたちには解らないんだろうけど。

結局、全くもってありきたりなストーリーを、フザケたり裏をかいて見せることで「新しい」と言い張ってるだけ、としか私には思えません。警察という権威をおちょくったり、人気ジャンルの伝統やルールを壊して見せることがアナーキーでカッコいい、と思い込んでる小学生レベルの発想でしかない。

それは私が大好きな「パロディ」とは似て非なるものです。パロディが面白いのは、ネタ元に対する創り手のリスペクトや愛情が根底にあるからです。「この作者、よっぽど好きなんだな」っていう微笑ましさが笑いに繋がるワケです。

この『ニッポンノワール』って作品からは、刑事ドラマに対するリスペクトや愛情が微塵も感じられません。だからまったく笑えない。

同じ枠で冬シーズンに放映された連ドラ『3年A組/今から皆さんは、人質です』と話が繋がってるような仕掛けがあるらしいけど、そんな小手先の話題作りも上滑りしてます。

最終回まで「とんでもないこと」が止まらないそうだけど、そのたびに私の口から出るのは「驚いた」でも「笑った」でもない、「やれやれ……」っていう溜め息だけになりそうです。刑事ドラマの破滅が止まらない。

セクシーショットはレギュラーキャストの立花恵理さんと佐久間由衣さん。共にファッションモデル出身の女優さんです。
 
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『時効警察はじめました』2019

2019-12-23 00:00:07 | 刑事ドラマ HISTORY









 
2019年の秋シーズン、テレビ朝日系列の金曜深夜「金曜ナイトドラマ」枠で全8話が放映された、テレビ朝日&MMJの制作による人気シリーズ第3弾。スタート直前に『時効警察はじめました 零号』として2時間スペシャルも放映されてます。

シレっとFBIから総武警察署・時効管理課に戻って来た霧山修一朗(オダギリジョー)が、またもや趣味で時効成立済み事件の謎をシレっと解いていきます。

相棒となる交通課婦警=三日月に麻生久美子、時効管理課メンバーにふせえり、江口のりこ、若松 了、刑事課の刑事に豊原功輔、緋田康人、鑑識課員に光石 研、といったお馴染みの顔ぶれに加え、交通課婦警に内藤理沙、田中真琴、鑑識課員に磯村勇斗、そして刑事課の新人刑事で第2ヒロインとなる彩雲に吉岡里帆、といった新レギュラーが加わります。

チャーミングな面々による独特のネアカなノリは健在で、ストーリー自体はよくあるコールドケースの謎解き物でも、全編に隙間なくユーモアが仕込まれてるので退屈はしません。

そのユーモアがウケようがスベろうが、意味が通じようが通じまいがお構いなしの、視聴者に媚びない制作姿勢が魅力で、そこがファンの心を掴んで離さないポイントなのかな?と、続けて観てる内に何となく解って来ました。

主演のオダギリジョーくんがそういうタイプの役者さんだと思うし、シリーズの世界観を創り上げた三木聡さんや園子温さん等も多分そういうクリエイター。深夜枠でこそ本領を発揮する人達ですよね。

それと、意外にミステリーとしてのクオリティーも高いかも知れません。基本はよくある謎解き物って書きましたけど、扱うのは既に時効が成立してる事件であり、だいたい真犯人の目星は最初からついてる。

言わば完全犯罪を成し遂げた知能犯によるトリックを、主人公が見抜いていく過程を見せ場にした『刑事コロンボ』式(倒叙法)の作劇。犯人当てゲームよりもずっとハードルの高いジャンルで、日本での成功例は『古畑任三郎』や『実験刑事トトリ』等、ほんの数本しか思い当たりません。

謎解きの面白さだけじゃなく、いかに魅力的なキャラクターを描けるかが倒叙ドラマの勝負どころで、その点『時効警察』シリーズは成功してると思います。退屈せずに観てられるのは、決して小ネタが笑えるからだけじゃない。

今となっては珍しい1話完結フォーマットで、やれ主人公の秘められた過去だの失われた記憶だのとわざとらしい「謎」設定で引っ張らなくたって、人物を魅力的に描きさえすれば視聴者はついて来るんだって事を、本作が証明してくれてます。

勿論そこにアクティブな描写(チェイス&バトル)が加われば言うこと無しだけど、このシリーズに限っては必要ありません。霧山くんがあくまで趣味でやってる捜査であり、時効済みで犯人を逮捕する必要も無いワケですから。

ボインぼよよん画像は、言わずと知れた本作のWヒロイン、吉岡里帆さんと麻生久美子さん。おっぱい星人な方にはたまらん組み合わせかと思います。
 
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『サギデカ』2019

2019-12-22 12:22:28 | 刑事ドラマ HISTORY









 
NHK総合の土曜夜9時「土曜ドラマ」枠で2019年夏シーズンの終盤にスタートした、NHKエンタープライズ制作による全5回の刑事ドラマ。

2018年に「ドラマ10」枠で放映された名作『透明なゆりかご』を書かれた、安達奈緒子さんによるオリジナル脚本です。

振り込め詐欺、還付金詐欺など新手の特殊詐欺犯罪を取り締まる、警視庁捜査二課・南新宿分室に所属する刑事たちの活躍と葛藤が描かれます。

舘ひろしばりにバイクを乗り回す熱血警部補=今宮夏蓮に木村文乃、その元カレにして同僚の森安警部補に眞島秀和、若手の戸山巡査長に清水尋也、デスクワークの向井巡査部長に足立梨花、コワモテ係長の手塚警部に遠藤憲一、管理官の北原警視に鶴見辰吾、夏蓮の捜査に協力する詐欺グループの「かけ子」に高杉真宇、夏蓮に近づくベンチャー起業家に青木崇高、そして夏蓮の祖母に香川京子、といったレギュラーキャスト陣。

特殊詐欺犯罪は今、早急にどげんかせにゃならん深刻な社会問題の1つなのに、まだ我々はその実態をよく分かってないんやなぁと、このドラマを観ると身につまされます。

取り締まる側が主役ではあるけど、本作は特殊詐欺グループの犯行手口はもちろん組織の構成図、そのメンバーの生い立ちから犯行加担に至るまでのいきさつ、そして彼らの育成法まで、綿密な取材を基に細かく見せてくれます。これを観れば明日から詐欺師になれるかも知れませんw

それは冗談としても、敵をよく知ることに勝る防犯対策は無いやも知れず、これから高齢者=かっこうのターゲットになっていく我々世代は是非とも観ておくべき作品かも知れません。

初回は振り込め詐欺グループの摘発が『マルサの女』ばりのハードボイルドタッチで展開し「受け子」や「かけ子」ら下っ端を鮮やかに逮捕するも、組織トップの正体はまるで掴めないジレンマが描かれました。

捕まえた「かけ子」の1人と夏蓮が心を通わせ、彼を通じて組織トップを追い詰めていく過程がどうやらシリーズの縦軸となりそうです。

そんな初回も面白かったけど、よりガツン!と来たのが第2話。伊東四朗さん扮する元高校教師の独居老人に、かつての教え子を名乗る女性(筒井真理子)が近づき、金銭トラブルに巻き込まれたから助けて欲しいと懇願する。

もちろんその教え子はニセモノで、伊東先生は大手銀行相手の詐欺にまんまと加担させられちゃう。ずっと真面目ひとすじに生きて来た男が、その人生の終盤で自覚しないまま前科者になっちゃう恐ろしさ。

だけど夏蓮たちに捕まった犯人グループの1人は、まったく悪びれもせずに言うんですよね。

「俺たちは年寄りに希望を与えてるんですよ。何て言うか、生きてる実感って言うんですか?」

実際、伊東先生は認知症のお陰で犯罪への加担は自覚しておらず、自分が教え子の窮地を救った事実(錯覚なんだけど)に満足し、むしろ以前よりも元気になっている!

私の父親も元教師で、どんな質問にも答えてくれる神様みたいな存在だったのに、今じゃ息子に教わらないと電気髭剃り(ボタン1つ押すだけ)も使えない立派なぼけ老人。かつて山ほど届いたお中元や年賀状もほとんど来なくなり、もちろん訪ねて来る人もいない。

私みたいに最初から孤独な人間ならともかく、父みたいに沢山の人から頼られる存在だった人がこうなった場合、また誰かに頼られたい願望がきっと奥底にある筈で、そこを巧みに突いて利用する詐欺グループの狡猾さは、言いたくないけどホント見事なもんです。

どうして詐欺被害が一向に減らないのかと嘆く夏蓮に、上司のエンケンさんがトカゲみたいな顔して言いました。

「俺たち人間は、信じたいものだけを信じて生きてる。だから騙される」

短い言葉で詐欺犯罪の本質を的確に突いた、名台詞だと思います。宗教や戦争にも同じことが言えますよね。

信じたいものがある以上、誰でも詐欺被害に遭う可能性はある。遭ってない人は自分がしっかりしてるからじゃなく、単に今まで運が良かっただけと肝に命じるべし。

たった今思い出したけど、私も若い頃に一度だけ詐欺(いわゆるキャッチセールス)の被害に遭ってるんですよね! 大学受験の下見で友人と二人、初めて東京に行ったその夜のことです。

新宿駅の周辺だったかをウロウロしてたら若い兄ちゃんから「映画に関するアンケート」の回答を頼まれて、映画監督を目指してた我々は喜んで応じ、最後に映画の割引券か何かと引き換えに署名を求められ、純朴な田舎少年二人は何の疑いもなく名前を書いちゃった。

そしたら「これは券を買い取る契約書だから代金を払え」みたいなことを言われ、その金額は明らかに法外なもので、だけど貧乏学生の小遣いでも払えなくはない絶妙な価格設定。

もちろん「話が違う」って抗議したけど相手も必死。「払ってくれないと自分のクビが飛ぶ」だの「事務所に来てもらう」だのと泣きと脅しを入れて来て、あんまりしつこいから最後には「じゃあ半分だけ払う」ってことで許してもらいましたw

もしあの時、私が友人と一緒でなかったら、あるいは相手がもっと百戦錬磨のやり手だったら、たぶん全額払ってただろうと思います。まさに大都会の洗礼。怖かったしメチャクチャ悔しかったです。

映画好きの我々に映画というエサを使ったのはたぶん偶然でしょうけど、例えばファッションに関するアンケートなら我々は選ばれなかっただろうしw、もし声を掛けられてもスルー出来たはず。パッと見で人が「信じたいもの」を見分ける嗅覚が連中にはあるんでしょう。

だから「絶対大丈夫」はあり得ない。報道番組で現実の被害者による証言を聞くよりも、ドラマで感情移入した人物が酷い目に遭う、その姿を見た方がより「他人事じゃない」ことを実感出来るかも知れません。

もちろん異色の刑事ドラマとしても楽しめるし、木村文乃さんの珍しいハードボイルドアクション、足立梨花さんのお尻など、エンタメ的見所も満載。オススメします。
 
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『ピュア!/一日アイドル署長の事件簿』2019

2019-12-22 00:00:17 | 刑事ドラマ HISTORY









 
2019年8月、盆休みシーズンに「NHK特集ドラマ」として三夜連続で全3話が放映された、NHKと東宝映画の制作によるミステリードラマ。

さっぱり売れず、日夜ライバルを蹴落とすことばかり考えてる腹黒アイドル=黒薔薇純子(浜辺美波)が、一日署長キャンペーンの仕事で出向いた先々でなぜか殺人事件に出くわし、警視庁捜査一課のゴーマン刑事=東堂(東出昌大)を手玉に取りつつ、得意の悪知恵を活かして事件を「一日」で解決していきます。

まるでやる気の無い純子のマネージャーに六角精児、やる気はあるのに純子のせいで出番がない若手刑事に長村航希が扮するほか、大塚千弘、忍成修吾、大島蓉子、団時朗、白羽ゆり、早織etc…といったゲスト陣が絡んできます。

とにかく徹底的に性格の悪いC級アイドルを、絶賛売り出し中の清純派女優=浜辺美波さんがメチャクチャ楽しそうに演じる姿が見ものです。

とっさの悪知恵と嘘泣きテクで刑事を手玉に取り「おい、東堂」と呼び捨てにしてコキ使うアイドル。

他のアイドルがSNSに投稿した画像を徹底分析し、スキャンダルを暴き出す得意技をそのまま捜査に活かし、「へ、へ、へ、……」と不気味に笑うアイドル。

普通に考えれば不愉快だし、恐ろしくも感じる筈なのに、彼女を見てるとなぜか清々しくて笑っちゃう。

それはたぶん、彼女が自分の欲望に対して果てしなく正直だから。本能だけで動く赤ちゃんみたいなもんで、だからタイトルが『ピュア!』なんでしょう。

ミステリーとしては平均的な出来で、密室、移動、遠隔といった不可能殺人のトリックを見破る凸凹男女コンビの構図は、堤幸彦さんのヒット作『トリック』シリーズを彷彿させます。ロケーションやカメラワークも似てますから、創り手は意識されてたんじゃないでしょうか。

なので見所は浜辺美波さんのコメディエンヌぶりに集中するワケだけど、『トリック』の仲間由紀恵さんと同じように、浜辺さんも本作で見事に開花したと私は見ました。可愛いし面白い!

彼女に手玉に取られながらも手柄はちゃっかり独り占めする刑事の東出くん、ちっともタレントを大事にしないマネージャーの六角さんと、どいつもこいつもロクデナシだけど人間らしくて愛らしく、ずっと観ていたくなる魅力がありました。

気楽に笑って謎解きゲームを楽しむドラマとしては文句なし。重いものを望まない方にはオススメです。
 
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