さて、『太陽にほえろ!』レビューもようやく折り返し地点が近づいて来たところで、藤堂チーム=七曲署捜査第一係の歴史をざっと振り返りたいと思います。
その目的は、捨てるに捨てられない未使用ショットの数々を処分することw 要するにボツ画像集です。
奇しくも本日(2020.3.18)は『太陽にほえろ!伝説/増補決定版』以来、実に17年ぶりのリリースとなる『太陽にほえろ!』公式本=『ショーケンと優作、そして裕次郎/太陽にほえろ!レジェンドの素顔』(KADOKAWA) の発売日。ですが通販サイトから発送通知が来るまで私は忘れてましたから、これは全くの偶然。不思議な縁を勝手に感じてます。
そんなワケで、まずは1972年7月から翌年7月まで(#001~#052)の最初期メンバー。
☆☆☆☆☆
ボス=藤堂俊介(石原裕次郎)
マカロニ=早見 淳(萩原健一)
シンコ=内田伸子(関根恵子/高橋惠子)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
正確にはシンコが捜査一係に配属されるのは'73年の4月、第38話から。それまでは少年係の婦警でしたが、なぜかいつも一係室に入り浸ってましたw
そのシンコを「女性の社会進出アピール」を理由に捜査一係に推薦したのが、七曲署の初代署長(南原宏治)。
ほか、シンコの父親で藤堂チームいきつけの飲み屋「宗吉」を経営する元ボスの同僚刑事=内田宗吉(ハナ肇)、マカロニの下宿先のおばちゃん=武田ウタ(賀原夏子)、雑誌「タイムス」記者の優子(山東昭子)、東西新聞の記者(片岡五郎)等がセミレギュラーとして絡んで来ます。
また、名物ゲストとして長期に渡り藤堂チームと絡むことになる、麻薬Gメンの村岡房江(浜 美枝)、城北署刑事の鮫島勘五郎(藤岡琢也)もこの1年目に登場してます。
一係のメンバー個々についてはもう語り尽くした感があり、あらためて記すべきことは無いんだけど(とにかく山さんが別人ですw)、この当時の映像を観直すたびに思うのが、「それにしても暑そうだな」あるいは「寒そうだな」ってことw
当時は撮影スタジオ(国際放映)に冷暖房設備が無かったもんで、夏場は扇風機が回りっぱなしでも刑事たちは汗を拭ってるし、冬場は室内でも吐く息が白い!
エアコンがあって当たり前の現在から見れば異様な光景に思えるけど、当時はそれが当たり前。黒電話や木製のデスク&イス、車やファッション、メイク等にも時代を感じるけど、何よりこの実にハッキリした季節感が「昭和」を象徴してますよね。あと、シンコ以外は全員、四六時中タバコを吸ってることもw
1年目の『太陽~』を総括すると、これはもう「萩原健一ショー」ってことに尽きると思います。裕次郎さんの存在も無論大きいけど、番組のスタイルとイメージを決定づけたのが「ショーケンのワガママ」の数々であることは、過去のレビュー記事にも繰り返し書いてきた通り。
そして唯一無二、空前絶後のあの演技! いろんな俳優たちが影響を受けながら誰も再現できなかった、あの時代のショーケンさんの演技を一度も観たことが無い方がもしおられるなら、何を置いても是非、今すぐ観て頂きたいです。そして「こんな演技があり得るのか!?」と驚き、圧倒されて欲しいです。その新鮮さは現在でも全く色褪せてません。
第325話から登場した4代目マスコットガール「ナーコ」こと松原直子(友 直子)は、先代=アッコ(木村理恵)の清楚さと「みんなの妹」的キャラ、そして初代=クミ(青木英美)と2代目=チャコ(浅野ゆう子)のサバサバした男前キャラをも引き継いだ、刑事ドラマにおける(当時は『お茶くみ』と呼ばれた)内勤員キャラの集大成、あるいは完成形とも言える存在だったように思います。
ただし、クミとチャコの「お色気」の部分だけは微塵も受け継ぎませんでしたw そこが恐らくオーディションで最も重要視されたポイントの1つで、女性視聴者たちからカミソリを送りつけられない為に無くてはならない防衛策。アッコの代からミニスカートは御法度ですからね。
「ナーコ」っていうニックネームは、先輩(殿下)の「ナオちゃんってのはどうかな?」っていう提案をあっさり却下したw、ボンによる命名。
正直「ナーコ」ってのもセンス的に如何なもんかと私は思うんだけど、世間とはちょっと感覚がズレてる七曲署の面々は「おおっ、そりゃ最高だ!」と言わんばかりに即採用w ナーコ自身は心の中で舌打ちしてたかも知れませんw
何はともあれ、ナーコは歴代マスコットガールの中でも最長となる4年間(第527話まで)七曲署に勤めることになります。登場時でも充分に可愛いけど、少女からオトナの女性へ脱皮していく過程でどんどん美しくなっていきます。
出番は少ないけどその成長ぶりは随時フィルムに刻まれてますから、このブログでもつぶさに追って行くつもりです。ファンの方はどうぞお楽しみに。
この回から4代目マスコットガール「ナーコ」こと松原直子(友 直子)がレギュラー入りします。
約5万2千人の応募があったという一般オーディションを勝ち抜いて選ばれた友直子さんは、当時高校3年生で演技経験ゼロ!
女優になろうなんて野心もさらさら無く、ただオーディション会場で山さん(露口 茂)に会えるかも?程度の動機で応募したら選ばれちゃったもんで、学校から出演許可をもらうのに四苦八苦されたそうですw
さすがに演技はぎこちないしメイクもやや不自然だけど、そこが初々しくて良い! 昨今のドラマには子役ですら巧い人しか出てこないから、かえって新鮮です。
あ、でも最近『警視庁捜査一課長スペシャル』にゲスト出演された澤穂希さんや浜口京子さんは、昔ながらの棒読み演技でめちゃ可愛かった!w
そんな全くの素人さんをレギュラーキャストに抜擢するという懐の深さが、当時の『太陽にほえろ!』の無敵ぶりを象徴してますよね。
主役である若手刑事、すなわちボン=宮内淳さんもロッキー=木之元亮さんも、この番組でデビューされたド新人。そんなテレビ番組って、今や特撮ヒーロー物以外に存在しませんよね。ほんとに凄い時代の凄い番組でした。
☆第325話『波止場』(1978.10.20.OA/脚本=中村勝之&小川 英/監督=木下 亮)
杉原と名乗る仮面ライダー2号(佐々木 剛)が「いま一緒にいる男を逮捕して欲しい」と七曲署に電話して来たもんで、捜査一係で一番シュッとした顔の殿下(小野寺 昭)と一番暑苦しい顔のロッキーが指定された場所に駆けつけると、男が刺されて死んでたもんだから驚いた!
遺体は沼田という貿易会社の元ドライバーで、どうやらライダー2号をナイフで殺そうとして争い、逆に刺されてしまったらしい。
姿をくらました2号の行方を追うべく、殿下は彼と親しかったらしい画廊の受付嬢=洋子(田中真理)を訪ねますが、彼女は2号との交際は認めたものの沼田のことは全く知らないと言う。
藤堂チームが捜査を進めると、ライダー2号と沼田は1年前に起きた交通事故の加害者と被害者だったこと、そして一等航海士であるライダー2号が乗務してた横浜の輸送船が、ダイヤ密輸の容疑で関税局の立ち入り検査を受けていたことも判明。
どうやら2号は沼田から事故の莫大な補償金を請求され、その肩代わりにダイヤ密輸を手引きすることになった。だけど仮面ライダーゆえ罪悪感に耐えかね、警察に密告したもんで怒った沼田と争い、死なせてしまったらしい。
なにか知ってそうだった洋子が鍵を握ってると睨み、殿下は彼女をマークします。そしたら案の定、洋子の部屋が何者かに荒らされ、なのにパンティーもブラジャーも盗まれてないという不自然さ。
ダイヤ密輸と関わってるに違いないと確信した殿下に問い詰められ、洋子はついにその正体を明かします。彼女はなんと関税局の潜入捜査官、いわゆる密輸Gメンなのでした。
ケープタウン経由の大掛かりな密輸を1年前から捜査してた洋子は、その為にライダー2号と接触したワケだけど、やっぱりライダーだけに女性として愛してしまった。
彼を逮捕するんじゃなくて自首させたいと願う、洋子の必死な想いを尊重した殿下は、彼女を2号と密会させるんだけど、そこに密輸組織の戦闘員たちが乱入し、銃撃戦のどさくさに紛れて2号と洋子は姿をくらませてしまうのでした。
怒り心頭の神奈川県警はライダー2号の射殺指令を下し、ボス(石原裕次郎)も「やむなし」と判断するんだけど、世にも優しい刑事として売り出し中の殿下が猛抗議します。
「確かに、彼女が杉原を愛してしまったのは、彼女の弱さかも知れません! 彼女を1人で行かせた僕も甘かったかも知れません! でもボス、だからと言って彼女を全く普通の女性と同じ眼で見るのは間違いじゃないでしょうか?」
ここで殿下は加入したばかりのナーコに、なぜ勤務先に警察を選んだのかを尋ね、見せ場を与えます。さすが世にも優しい刑事!
「好きだからです」
まだ演技が拙いゆえ台詞は一言だけど、それはまさに殿下が求めてた答えでした。
「僕らもそうです。この仕事が好きなんです! 中町洋子だってきっとそうだと思うんですよ! 一時の迷いはあっても、この仕事を選んだ彼女の気持ちが消えて無くなる筈がありません! それを、その気持ちを信じるのは、間違いでしょうか?」
かくしてボスの圧力によりライダー2号射殺命令は撤回され、殿下の厚い信頼に応えた洋子は無事、2号を自首へと導きます。
事件解決後、洋子はGメンを退き、故郷に帰って一からやり直すことを決意します。そんな彼女の為にボスは、地元の警察署に圧力をかけて就職を斡旋するのでした。
嬉しそうに微笑む洋子だけど、内心は「もう捜査なんかウンザリなのに」と、ボスと殿下を一生恨んでるかも知れませんw
シンコ(関根恵子)のブラジャー姿が眼に焼きつく第110話『愛が終わった朝』とちょっと似た話ではあるんだけど、あの時の婦警は警察を裏切ったにも関わらず犯人に殺されちゃう悲劇のヒロインでした。
それに対して洋子はあくまで気丈に職務を全うし、多少はメソメソするけどスパッと気持ちを切り替え、最後は爽やかに去っていくという逞しさ。僅か4年の間に女性の描かれ方も随分と変わりました。
洋子を演じられた田中真理さんは、当時27歳。日活出身の女優さんで連ドラ『サインはV』等でも活躍されましたが、何と言ってもロマンポルノにおける主演作が2作連続で「猥褻図画」として警察に摘発され、その顛末をネタにした新作が会社の逆鱗に触れて監督と一緒にクビにされちゃう等、「警視庁のアイドル」あるいは「エロスの女闘士」と呼ばれた活躍ぶりがレジェンドとなってます。
刑事ドラマは他に『キイハンター』『Gメン'75』『新幹線公安官』『特捜最前線』『大空港』等にゲスト出演。'81年頃まで活躍し、スパッと引退された模様。カッコいいですよね。
どんな人にも輝ける時期があって、私にすら黄金期と呼べなくもない時期がありました。そういう時は誰であれ「いい顔をしてる」んだろうと思います。
'77年後半から'78年にかけての宮内淳さんは、まさに輝いてました。いや、黄金期はきっと他にもあるでしょうけど「いい顔をしてる」って意味においてはこの時期がピークだったんじゃないでしょうか?
なにげにメチャクチャ失礼なこと書いてるかも知れないけどw、とにかくあの時期の宮内さんは神がかり的にカッコ良かった。
じゃあ他の時期はそれほどカッコ良くなかったの?と言われれば、その通りなんですw 髪をセンター分けにする前の宮内さんには精悍さを感じなかったし、'79年に入ってからはお顔がやや丸くなってモミアゲがクドく感じられ、ボン殉職を経て『あさひが丘の大統領』に主演される頃には「カッコいい」イメージから遠ざかってるように私は感じてました。
それは役柄が変わったせいもあり、やっぱりボン=田口良というキャラクターがあまりに良すぎた反動なのかも知れないけど、それだけじゃ説明がつかない何か大きな違い、ベタを承知で言えば「オーラ」が違ってたような気がするんですね。まさに'77年~'78年は輝いてたワケです。
内面の充実による輝きもあるだろうし、ハードな撮影で肉体的にもシェイプアップされてただろうし、年齢的にもちょうど良い時期で、もしかすると七曲署捜査一係という環境が何より良かったのかも?
そう言えば私は後のドック=神田正輝さんやラガー=渡辺徹さんにも同じことを感じてました。『太陽にほえろ!』ではあんなに輝いてたのに、他のドラマで見るとなぜか全然魅力を感じない……って、ほんと色んな人に対して失礼だけどm(_ _)m
単純に私が『太陽~』を愛しすぎて、七曲署捜査一係のメンバーなら誰でもカッコ良く見えたんじゃないの?って思われそうだけど、私はマイコン刑事をカッコいいと思ったことは一度もありませんからw 彼の黄金期はいつなんでしょう?w
ともかく今回、北海道ロケ編をあらためて観直して、あの頃のボンは無敵のカッコ良さで、当時の人気爆発にも納得せざるを得ないと、私は思いました。やっぱりイチオシです。
第324話『愛よさらば』(1978.10.13.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=竹林 進)
もちろん、ボン(宮内 淳)が主役の回でロッキー(木之元 亮)が殉職する筈もなく、電気ショックによる心臓マッサージでなんとか息を吹き返します。
この大手術を担当されたお医者さんが実に冷静なお方で、終始淡々と処置しておられるもんだから、我々視聴者はあまりハラハラせずに済みましたw
昨今の医療ドラマで描かれる大袈裟な心臓マッサージとどっちがリアルなのか知る由もないけど、お医者さんにはもうちょっと焦って頂いた方が場面的に盛り上がったかも知れませんw
ともかくロッキーは生き返ったけど、まだまだ予断は許されない状態で、ボンは気が気じゃありません。なにしろ初めての後輩刑事であり同居人でもあるロッキーは、単なる同僚を超えた存在。毛むくじゃらだしイビキは超うるさいけど、素直で憎めぬ可愛い弟分なのです。
そんなボンの様子を見て、その兄貴分であるゴリさん(竜 雷太)が声を掛けます。
「ボン、大丈夫だ。あれだけの崖から落ちても死ななかった奴だ。一度呼び戻した命を金輪際離すもんか」
「ええ……でもまだ心配です。七曲署には1年目のジンクスがありますから」
「! ……ボス、そう言えばロッキーは」
「その話はよせ。そんなジンクスなんか、ロッキーが吹き飛ばしてくれるさ」
とは言いつつ、ボス(石原裕次郎)にも普段の落ち着きが見られません。
この時点での殉職者はマカロニ、ジーパン、テキサスの3名だけ。1年後にボンが、そしてその翌年に殿下が死んだ辺りから正直なところ「殉職」に重みが無くなっちゃうんだけど、この頃はまだ違ってました。
しかし今はロッキーの復活を祈るしかなく、ボンは恋人=白城幸子(純アリス)を奪って逃走した尾形清(清水健太郎)の人間性を掘り下げるべく、捜査を再開します。彼の内面を知れば行く先も予測できると踏んだワケです。
すると困ったことに、聞こえて来るのは「清はいいヤツ」という声ばかり。
清はワールドドラッグ社への投資の件を知らなかったのに、子供が生まれたばかりの仲間(穂積ぺぺ)に強盗をさせない為に、あえて自分の手を汚した。
過去に起こした殺人未遂事件も実は、幸子の生い立ちを知った途端に彼女を捨てた、元婚約者が相手だった。だけど清は、その動機を最後まで言わなかった。幸子をそれ以上傷つけない為に。
最初は清を撃ち殺しかねない勢いだったボンも、知らず知らず清に共感していきます。もし自分が清の立場だったら、きっと同じことをしたに違いない……
「清がなぜ彼女を拉致したのか、これでやっと分かりました」
ボンの話を聞いて、ゴリさんも頷きます。
「刑事のお前とは、所詮は結ばれない。それを彼女に納得させたかったんだろうな」
「……清たちと我々は、本当に違う世界の人間なんでしょうか?」
「…………」
「解り合うってことは、もうホントに不可能なんでしょうか?」
「いや、そんなことはない。絶対にない。非常に難しいのは事実だが……」
「…………」
ボンと清は似た者どうし。なのに片や裕福な家庭で愛情いっぱいに育てられた警察官。片や孤児で肉親の愛を知らずに育ち、さんざん差別や虐待も受けて来たであろうアウトロー。
ゴリさんが言う通り、解り合うのは並大抵のことじゃないでしょう。それでも、ボンは諦めません。あくまで人を信じ抜く意志の強さは、七曲署歴代刑事の中でも一番かも知れない男なんです。
ところが運命の悪戯か、北海道に渡って来た清の仲間=次郎が、その行方を追ってた長さん(下川辰平)や地元の刑事たちから逃げようとして、交通事故に遭って死んでしまいます。
次郎の目的はどうやら、警察の捜査を撹乱することにあった。これもまた、言わば自己犠牲……
「清を逃がすために命を捨てたのか、次郎……」
そんな時に、ようやくロッキーが意識を取り戻します。次週にはケロッと元気に仕事復帰しますから、彼はやはり人間じゃありません。
すぐさま見舞いに来たボンは、あの時なぜ自らロープを切ったのか尋ねます。するとロッキーは、一人でも命を救える道を選択するのが「山の掟だから」と答えます。
「方法は別として、自分たちの村を作るために命を捨てた次郎……そして山の掟とは言えお前は、清のために命を捨てようとした」
そうさせる何かが、尾形清という男にはある。
「つき合ってみると、ホントにいい奴かも知れないな、清って」
だけど刑事である以上、ボンは清を捕まえなくちゃいけない。もちろん、強盗に荷担してしまった大好きな幸子も……
その清と幸子は、北海道を諦めて海外で「俺たちの村」を作ることを決意し、密航準備を進めてました。ロッキーに命を救われて一時は心が揺らいだ清だけど、次郎が「警察に殺された」と知って再びダークサイドへの道を突っ走ってしまうのでした。
だけど港まで行くには厳重な包囲網を突破せねばならず、その為に二人は深夜、鉱山の工事現場にダイナマイトを盗みに行きます。そこでバッタリ出くわしてしまう若い作業員を演じたのが、この1年後にスニーカー刑事として登場する山下真司さん。
実はすでにレギュラー入りがほぼ決まってたそうで、なのにボンの殉職が延期されて浪人生活を送る羽目になり、その埋め合わせとして北海道ロケに呼ばれたみたいです。『太陽にほえろ!』における山下さんの不遇は登場前から始まってたワケで、そりゃあ確執的な思いが残るのもムリないかも知れません。
「山へ逃げ込んだ二人ってあんたたちだろ? 俺たちの村ってのが出来たら、俺も入れてもらおうと思ってたんだ」
スニーカーは警察に通報するどころか「好きなだけ持ってけよ」と盗みの手引きを自ら買って出ちゃう始末。
自分たちの牧場を作ることがそんな大した夢なの?っていう疑問は正直感じるけど、現実社会に絶望し、夢にすがってないと生きてられない彼らの気持ちは解らなくもありません。往年のアメリカンニューシネマみたいなもんで、行き着く先は破滅しか無いんだけども……
さて、清と幸子が強奪したと見られる車が検問を突破し、西部警察ばりにダイナマイトをぶっ飛ばしながら派手に暴走します。
すぐに駆けつけたボン、ゴリさん、長さんに包囲されるんだけど、運転してたのは清ではなく、後のスニーカー刑事でした。(もちろん実際のスニーカー=五代潤とは別キャラです。念のため)
「貴様、何者だ?」
「尾形清の仲間さ。もっとも仲間になってまだ半日しかつき合ってねえけどな」
そう、これも清たちを逃がすための陽動作戦。だけどそこは素人の浅知恵で、かえって刑事たちに清たちの行く先を特定させる結果を招きます。恐らく清はこの道と逆方向、つまり大雪山を目指しており、旭岳ロープウェイを使うに違いないとボンはヤマを張るのでした。
「ボン、車じゃ間に合わんかも知れんぞ」
「!!」
『太陽にほえろ!メインテーマ(信じあう仲間バージョン)』をバックに、ヘリを飛ばすボン! 眼下に広がるのは大雪山の雄大な風景! シビレます。『太陽~』にはなぜか大自然がよく似合う!
そしてロープウェイを降りたばかりの清&幸子を見つけたボンは、ヘリの着陸を待たずに決死のダイビング! このスタントにはジャパン・アクションクラブのメンバーが駆り出された模様です。
さぁ、ここで名曲中の名曲「ジーパン刑事のテーマ(青春のテーマ)」をバックにボンが疾走! カメラはその勇姿を上空から捉えます。単なる駆けっこをこれほど力を入れて撮り、これほど時間を割いて見せてくれるテレビ番組は、陸上競技の中継を除けば『太陽にほえろ!』以外にありません。だから私はこのドラマを愛してやまないんです。最高!
で、清と幸子は山の中腹にある避難小屋へと逃げ込み、ボンも続いて駆け込みます。そこには数人の登山者がいて、ダイナマイトを持った清にとって格好の人質となります。
拳銃を抜いたボンは清に銃口を向けながらも、必死に説得を試みます。
「盗んだ金でユートピアなんか作れやしない! やり直すんだもう一度!」
「うるせえんだよ! やり直せやり直せって、それがお前らの決まり文句さ! その一言で俺たちに手錠をぶちこみ、ムショに放り込んで安心してやがんだっ!!」
実際、地元の刑事は「あんな連中は1日でも長く刑務所に入れとくに限る」なんて言って、ボンを怒らせたりしてました。そんな世間に対する清の恨みが、積もりに積もってついに爆発したワケです。
「俺たちは、俺たちの村を作るほか無いんだよ……人間らしく生きるには……自由で幸せに生きるには、それしか無いんだ。それしか無いんだよ田口さん!」
「分かる! お前の気持ちは分かる! だから、それを正しい金で作るんだ。俺だって力になるよ! でも今はやめるんだ。俺はお前にこんなマネをして欲しくないんだよ! 清っ!!」
「あんたも、ただのデカなんだ! あんなインチキ会社に金返すくらいなら、お前らと一緒にここで死んでやるよっ!!」
「!!」
いよいよ清がダイナマイトの導火線に火を点けてしまい、ボンは拳銃の引金に指をかけます。撃たなければ、清を殺さなければ、幸子も登山者たちも救えません。でも……!!
ここで銃声が轟き、清の身体が小屋の壁へと叩きつけられます。と同時にゴリさんと長さんが突入し、導火線の火を消し止めます。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
幸子が駆け寄り、清の身体を揺らしますが、胸に被弾した彼は二度と動くことはありませんでした。
ボーゼンと立ち尽くすボンが窓の外を見ると、上空のヘリコプターに、拳銃を構えた藤堂ボスの姿が……
ボスが持ってたのはリボルバー拳銃のCOLTローマンMk-III4インチ。飛行中(すなわち激揺れ)のヘリから、数百メートル先の山小屋の中にいる人間を4インチの拳銃で狙撃し、たった1発で息の根を止めるという、ゴルゴ13でさえ不可能であろう神技をやり遂げられた理由はただ1つ。ボスだからです。石原裕次郎だからです。ロッキーとはまた違う意味で人間じゃない、ほぼ神様なんです。
だけど、ここはせめてライフル銃を使って欲しかった! この件については、後であらためて検証させて頂きます。
ともかく尾形清がボスに射殺され、「俺たちの村」の夢は完全に幻となりました。
「ボス……殺せなかった……俺には、殺せませんでした」
「……手錠だ、ボン」
「!!」
そう、ボンが愛した白城幸子は強盗事件に荷担し、清の逃亡を手助けするなど数々の罪を犯してしまったのです。ボンはじっと幸子の眼を見つめ、幸子も見つめ返します。
「白城幸子……強盗共犯容疑で、逮捕する」
切ないラストシーンです。充分に切ないんだけど、ボンが自分で尾形清を射殺しなかった事については、ファンの間で賛否両論があったみたいです。
『太陽にほえろ!』の新人刑事たちは代々、殺したくない犯人をやむなく射殺するという最大の試練を乗り越え、成長し、卒業していきました。
ところがボンだけは最後まで1人も殺さないまま殉職するんですよね! いや、正確にはマイコンとDJも射殺未経験のまま終わってるんだけど、DJは任期があまりに短かったし、マイコンは石原良純さんだから仕方ありませんw(ジプシーも確か殺さず終いだけど、彼は新人刑事じゃないから例外でしょう)
賛否両論の「否」は、要するに「甘いんじゃない?」って声だろうと思います。ボンというキャラクターに対しても甘いし、アクションを売りにした刑事ドラマとしても甘い。
だけど私は、ボンに限っては射殺経験ゼロで良かったと思ってます。とことん人間が好きで、何があっても人の良心を信じ抜くボンは、やっぱり何があっても人は殺せない。ドラマとして筋が通ってます。
もしかするとこのエピソードで、本来ならボンが清を射殺する予定だったんじゃないかって、思ってた時期もありました。それが撮影当日に急遽、ボスが代わりに射殺する案に変更されたもんで、小道具さんがライフル銃を用意しておらず、やむなくリボルバーを使う事になったのかも?って。
ところが脚本にはちゃんとボスが「拳銃で」射殺するって書かれてたそうです。ってことは多分、銃の知識に疎いライターさんがそう書かれたのを、小道具さんも真に受けてライフルを用意しなかった、っていうのが真相じゃないでしょうか?
思い返せば前編の中盤、ボンが射撃訓練所でマンターゲットの心臓ばかり狙う=憎しみに駆られて清を射殺するかも知れない、っていう伏線が張られてるんですよね。
本当にラストで射殺させるつもりなら、逆にそんな伏線は張らない筈です。つまり創り手たちは最初から、ボンにだけは何があっても射殺はさせないって決めてた。私はそう確信するワケです。
歴代刑事の中でもボンがイチオシだった私としては、そんな創り手たちのボン愛が詰まったこのエピソードもまた、イチオシせずにいられません。いや、ボンだけじゃなく、ロッキーも本当に痺れるほどカッコ良かった。今回だけはw
ゲストの清水健太郎さんも光ってるし、ヒロインの純アリスさんは歴代「ボンの相手役」の中でも一番ステキだったと思います。
そんなアリスさんは当時25歳。父親がニュージーランド人で2歳の時に両親が離婚しており、祖母に育てられ家庭というものを知らずに育った生い立ちは、今回演じられた白城幸子のキャラに少なからず反映されてるかも知れません。
柴田恭兵さんを輩出した「東京キッドブラザース」に所属し、同劇団でほぼ同期の三浦浩一さんと'80年にご結婚。次男の三浦孝太くんと三男の三浦涼介くんは共に俳優となり、特に涼介くんは私が脚本家として参加した戦隊ヒーロー番組にレギュラー出演された上、タベリストツアーで観に行った舞台で多部未華子さんと共演される等、ちょっとした縁を勝手に感じさせてもらってます。
なので昨年、アリスさんが66歳の若さで亡くなられたのはショックでした。ご冥福をお祈り致します。合掌。