ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『科学歳時記』『かたばみ』

2024-03-26 22:37:10 | 
『科学歳時記』 寺田寅彦 KADOKAWA
 初期から晩年まで、季節を主題にした随筆作品を歳時記風に掲載。生きる世界を俳諧に見出し、科学と融合させた独自の短文集。文学的随筆の代表作として著名な「団栗」「竜舌蘭」をはじめ、夏目家の文章会以前の「祭」「車」「窮理日記」「凩」等、全39篇を収録する。
 季節と科学を融合したようなエッセイ。私はちょっと読みにくかった。私の頭では何回か読み直して、心が動きそう。
 日本人の感じる「涼しさ」を論じた章にはスゴイと思った。暑さがなければ涼しさはない。言われてみればその通り。そこから、自由へと考察が広がるなんて!スゴイ。
 「蓑虫と蜘蛛」「追憶の冬夜」が好き。

『かたばみ』 木内昇 KADOKAWA
 太平洋戦争直前、故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校で槍投げ選手として活躍していた山岡悌子は、肩を壊したのをきっかけに引退し、国民学校の代用教員となった。西東京の小金井で教師生活を始めた悌子は、幼馴染みで早稲田大学野球部のエース神代清一と結婚するつもりでいたが、恋に破れ、下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。やがて、女性の生き方もままならない戦後の混乱と高度成長期の中、よんどころない事情で家族を持った悌子の行く末は……。
 かたばみ。かたばみの葉の形や花言葉が物語を表している。
 読みながら、「そうはいかんやろ」「やっぱりな」「でも、よかった」の繰り返し。普通にいいホームドラマだった。
 そして、さまざまな人物の言葉が深いこと、深いこと。「負けを経験すると人生に深みが出る」「時代によって『正しいこと』は変わっていきます」「親は神じゃないよ。人だからね」「普通って結構難しい。そもそもなにをもって普通っていうんだろうね」「挫折は忌み事と捉えがちですが、もしかすると『お前はそっちじゃないよ』という天からの差配かもしれない」etc 心に突き刺さる言葉がいっぱいだった。
 
 
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『ルクレツィアの肖像』『独裁者の料理人』

2024-03-26 21:27:00 | 
『ルクレツィアの肖像』 マギー・オファーレル 小竹由美子訳 新潮社
 15歳で結婚し16歳で亡くなったと、わずかな記録しかイタリア史に残されていない主人公ルクレツィア・ディ・コジモ・デ・メディチ。彼女は病気で亡くなったと言われるが、夫に殺されたという噂があった。政略結婚の末に早世したという少女の「生」を力強く羽ばたかせる。
 幼少時のルクレツィアは、鋭い感性のため周囲から風変わりな子と見なされ無視されていた。死んだ姉の婚約者だった男と結婚させられ。さらに夫からは、好きな絵画を奪われ、徐々に支配されていく。しかし、彼女は内なる自分を手放さずにいた。その強さが眩しい。そして、驚愕のラスト。
 過去と現在が交互にはさみこまれ、始めは、年号や地名でこんがらがった。
 地下室に飼われている虎、絵の上からまた別の絵を描ける油絵。閉じ込められているかのようなルクレツィアの境遇、それに屈しない彼女の魂を表すようなエピソードが印象的。
 わずかな記録しかないルクレツィアだからこそ、作者は想像の翼を自由に再構築させた。あっぱれ。

『独裁者の料理人 厨房から覗いた政権の舞台裏と食卓』 ヴィトルト・シャブウォフスキ 芝田文乃訳 白水社
 本書に登場する独裁者は、サダム・フセイン(イラク)、イディ・アミン(ウガンダ)、エンヴェル・ホッジャ(アルバニア)、フィデル・カストロ(キューバ)、ポル・ポト(カンボジア)。彼らに仕えた料理人たちは、一歩間違えば死の危険に見舞われた独裁体制下を、料理の腕と己の才覚で生き延びた無名の苦労人ばかりである。インタビューを再構成する形で料理人たちの声が生き生きと語られ、彼らの紆余曲折の人生の背後に、それぞれの国の歴史や時代背景が浮かび上がる。
 興味深く読んだ。いまだポルポトに心酔する女性料理人とアミンの料理人が印象的。とくにアミンの料理人は、親友と思っていた人の嘘の密告により命の危機に陥る。そこが、独裁国家だとしみじみと思った。精神を患った料理人は、何があったのだろうかと思う。
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