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浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

[資料]袴田事件再審決定 要旨

2014-03-27 21:47:19 | 日記
袴田事件決定要旨

  平成26年3月27日 静岡地方裁判所


決 定 要 旨

  有罪の言渡を受けた者 袴田 巌


主     文

  本件について再審を開始する。
  有罪の言渡を受けた者に対する死刑及び拘置の執行を停止する。


理 由 の 要 旨

第1 確定判決
 1 確定判決の存在と主文
   静岡地方裁判所昭和41年(わ)第329号住居侵入,強盗殺人,放火被告事件
   昭和43年9月11日判決宣告 主文は死刑

 2 確定判決の認定事実(概要)
   味噌製造会社工場の住み込み工員であった袴田巌(以下「袴田」という。)は,昭和41年6月30日,工場に隣接する会社の専務方に侵入し, 同人とその家族3名をくり小刀で突き刺した上,会社の売上現金等を強取し,被害者らに混合油を振り掛け放火して専務方を焼毀し,被害者4名を殺害した。

 3 確定判決の証拠構造
   確定判決が,袴田を犯人と認定する上で最も重視した証拠は,昭和42年8月に工場の味噌タンクから発見された5点の衣類 (白ステテコ,白半袖シヤツ,ネズミ色スポーツシャツ,鉄紺色ズボン及び緑色パシツ)である。 これらが,袴田が犯行時に着用していた衣類であると認定され,袴田が犯人と認められた。

第2 当裁判所の判断
 1 再審開始
  (1) 弁護人が提出した証拠と結論
    弁護人が提出した証拠,とりわけ,5点の衣類等のDNA鑑定関係の証拠及び5点の衣類の色に関する証拠は,新規性の要件を満たすものである。
    また,それは,最重要証拠であった5点の衣類が,袴田のものでも,犯行着衣でもなく, 後日ねつ造されたものであったとの疑いを生じさせるものである。 これらの新証拠の存在を前提にすれば,新旧証拠を総合して判断しても,5点の衣類がねつ造されたものであるとの疑いは払拭されないから, 5点の衣類により,袴田が犯人であると認めるには合理的な疑いが残り,他に袴田が犯人であることを認めるに足る証拠もない。 したがって,DNA鑑定関係の証拠等が確定審において提出されていれば,袴田が有罪との判断に到達していなかったものと認められる。 5点の衣類等のDNA鑑定関係の証拠及び5点の衣類の色に関する証拠は,刑事訴訟法435条8号の 「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」 に該当する。
    したがって,本件については再審を開始すべきである。

  (2) DNA鑑定関係の結果
    弁護側鑑定(弁護人推薦の鑑定人による鑑定)(STR型)の結果によれば,5点の衣類の結婚は, 袴田のものでも,被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる。

   ① 検出されたアレル(対立遺伝子)は,対照試料(血痕とは別の場所から採取した試料)からは全くアレルが検出されていないこと等からみて, その大部分は血痕に由来する可能性が高い。

   ② 確定判決応よれば,袴田の血痕とされる白半袖シャツの右肩の試料から検出されるアレルは,袴田のアレルと一致するはずであるのに, 検出されたアレルの半分以上が袴田のものと一致しておらず,そのうち1個は,2回目の検査で2回とも検出されているという再現性のあるものである。
     白半袖シャツ右肩の血痕は袴田のものではない蓋然性が高まった。

   ③ 被害者4名は夫婦とその子2人であるから,同じ座位に出現する4名のアレルは,遺伝子の性質上4種類以内である。 しかし,5点の衣類及び被害者着衣からは,袴田と同一のアレルを除いても,同じ座位に5種類以上のアレルが検出される結果が複数確認された。 5点の衣類には,被害者4名の血液以外の血液が付着している可能性が相当程度認められる。

   ④ 検察側鑑定(検察官鑑定の鑑定人による鑑定)STR型)の結果は,弁護側鑑定の結果と相当異なっている。 その理由は,確率効果によりアレルが出たり出なかったりすることがあること及び検査方法の違いによる可能性があり, 検査方法としては弁護側鑑定の方がより信頼性の高い方法を用いているから,検察側鑑定の結果によって, 弁護側鑑定の結果の信用性が央われることはない。 また,検察側鑑定(ミトコンドリア型)の結果は,白半袖シャツ右肩から袴田と一致しないミトコンドロアDNAが検出されている。 その余の試料からの検出結果を踏まえると,外来DNAによる汚染の可能性もないとは言えないが,この限度では,弁護側鑑定と整合的と評価できる。

  (3) 5点の衣類の色に関する評価
    弁護人らは,模造5点の衣類に血液を付着させ,それを味噌に入れて色の変化を見るという実験を行った。 その実験結果と発見当時の5点の衣類の色を比較すると,実験条件が厳密に同じものではないことを十分考慮しても, 5点の衣類の色は,味噌タンタ内の味噌の色と比較して不自然に薄い可能性が高い上,血痕の赤みも強すぎ, 長期間味噌の中に隠匿されていたにしては不自然である。

  (4) 5点の衣類に関するその他の新旧証拠の評価
   ① 5点の衣類の発見経緯
     5点の衣類は,事件後の捜索や味噌の仕込みの際に発見されなかったのに,事件から1年以上経過して発見されており,不自然である。 また,そもそも,焼却するなどのより効果的な証拠隠滅手段もあったのだから, 袴田が早晩発見されることが予想される味噌タンク内に5点の衣類を隠匿すること自体が不自然である。

   ② ズボンのサイズ
     弁護人が提出した新証拠により,鉄紺色ズボンのサイズは,確定判決等の認定と異なり,細身用の 「Y体」 であったことが明らかになった。 袴田のウエストサイズと適合していなかった可能性があり.ズボンが袴田のものではなかったとの疑いに整合する。

   ③ シャツの損傷と袴田の傷の位置関係
     白半袖シャツの損傷,ネズミ色スポーツシャツの損傷及び袴田の右上腕の傷の数が一致しておらず, 位置関係からしても,これらが,袴田が着用していた際に形成されたものではない可能性があり,ねつ造されたとの疑いに整合する。

   ④ ズボンの端布の押収経緯
     鉄紺色ズボンの端布が袴田の実家から押収されたが,その際,一緒に押収された物は,捜索差押許可状の目的物となっていたバンドだけである。 本件は,極めて重大な事件であったから,5点の衣類に関係のありそうな物, すなわち袴田の着衣やこれに関連する物を広範に押収するのが自然であるのに,一見しただけでは事件との関連性が明らかでない端布を押収して, 他には目的物とされていたバンドしか差し押さえていないのは,不自然である。 加えて,5点の衣類と端布は,いわばセットの証拠とも言え,5点の衣類にねっ造の疑いがあれば,端布についても同様の疑いがあり, 袴田の実家から端布が出てきたことを装うために捜索差押を行ったとすれば,容易に説明が付く。

  (5) 5点の衣類以外についての進級証拠の総合評価
    念のため,確定判決で触れられている,袴田のパジャマ,袴田が知人女性に渡したとされる紙幣, 袴田の左手中指の切創等及び袴田の自白調書についても,新旧証拠を総合して検討を行った。
    これらの証拠は,袴田の犯人性を推認させる力がもともと限定的又は弱いものしかなく, DNA鑑定等の新証拠の影響でその証拠価値がほとんど失われるものもあり,自白調書も,それ自体証明力が弱く, その他の証拠を総合しても,袴田を犯人であると認定できるものでは全くない。

 2 執行停止
   再審を開始する以上,死刑の執行を停止するのは当然である。さらに,当裁判所は,刑事訴訟法448条2項により拘置の執行停止もできると解した上, 同条項に基づき,裁量により,死刑(絞首)のみならず,拘置の執行をも停止するのが相当であると判断した。
 袴田は,捜査機関によりねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ,極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。 無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在,これ以上,袴田に対する拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する状況にある。

                                    以 上

再審

2014-03-27 20:50:05 | 日記
 静岡県は、えん罪のデパートといわれるほど、えん罪事件が多発しているところだ。有名なところでは、幸浦事件、二俣事件、島田事件、丸正事件、小島事件、そして袴田事件。その他にもあったかもしれない。すべてを思い出せないほど、えん罪事件が多い。

 さて今日は、袴田事件の再審が決定した。

 ボクは、ちょうど静岡に用事があったので、いつもよりはやく家を出て、静岡地方裁判所に行った。たくさんの報道陣、支援者の人並みができていた。

 まさに10時。再審決定の知らせ。たくさんの拍手、支援者の中には泣き出す人も。ボクも感動してじんときた。

 ボクは、昨今の裁判所の動向から、再審は難しいと思っていた。ところが蓋を開けてみたら、弁護人の主張がかなり取り入れられていて、逆に驚いた。しかし弁護人の主張は、とうぜん正しい主張であるから、本来ならばもっとはやく取り上げられるべきものであった。

 テレビも生放送をしていた。全国から注目された事件である。

 『朝日新聞』記事掲載させていただく。



袴田事件の再審開始決定、釈放へ 証拠「捏造の疑い」

2014年3月27日10時55分


 1966年に静岡県の一家4人が殺害、放火された「袴田事件」で死刑が確定した元プロボクサー袴田巌(いわお)死刑囚(78)=東京拘置所在監=の第2次再審請求審で、静岡地裁(村山浩昭裁判長)は27日、再審開始を認める決定をした。村山裁判長は「捜査機関が重要な証拠を捏造(ねつぞう)した疑いがあり、犯人と認めるには合理的疑いが残る」と判断。「拘置の続行は耐え難いほど正義に反する」と刑の執行停止(釈放)も決めた。

 死刑囚の再審開始決定は免田、財田川、松山、島田の無罪確定4事件と、後に覆された2005年の名張毒ブドウ酒事件の名古屋高裁決定に次いで6件目。

 静岡地検の西谷隆次席検事は「予想外の決定。上級庁と協議して速やかに対応する」と語った。刑の執行停止に対しては即日、不服申し立てをする方針。再審開始の判断については、不服申し立てを28日以降に行う方向とみられる。

 事件は66年6月30日に発生。同年8月、みそ工場従業員だった袴田元被告が強盗殺人や放火などの容疑で逮捕され、捜査段階で犯行を認める自白調書が作られたが、公判では一貫して否認。静岡地裁は68年9月、自白調書1通と間接証拠から元被告の犯行と断定して死刑を宣告し、80年11月に最高裁で確定した。

 08年4月に始まった第2次再審請求の最大の争点は、犯行時の着衣の一つとされる白半袖シャツに付いていた血痕のDNA型鑑定だった。確定判決は、シャツの右肩についた血痕の血液型が同じB型だとして、元被告のものと認定。第1次再審請求でもDNA型鑑定が行われたが、「鑑定不能」だった。

 第2次請求で再鑑定された結果、検察、弁護側双方の鑑定ともシャツの血と元被告のDNA型が「一致しない」とする結果が出た。検察側は「鑑定したDNAが劣化しており、汚染された可能性がある」と主張。弁護側と鑑定結果の信用性を巡って争っていた。

 この日の静岡地裁決定は弁護側鑑定について、「検査方法に再現性もあり、より信頼性の高い方法を用いている」と指摘。「検察側主張によっても信用性は失われない」と判断した。そのうえで、犯行時に元被告が着ていたとされる着衣は「後日捏造された疑いがぬぐえない」と指摘。DNA型鑑定の証拠が過去の裁判で提出されていれば、「死刑囚が有罪との判断に到達しなかった」と述べ、刑事訴訟法上の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたると結論づけた。

 さらに「捏造された疑いがある重要な証拠で有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄拘束されてきた」として、「再審を開始する以上、死刑の執行停止は当然」とも指摘した。

 事件では起訴から1年後の一審公判中、現場近くのみそ工場のタンクから血染めの白半袖シャツやズボンなどが見つかり、検察側は犯行時の着衣を、パジャマから変更。静岡地裁判決は自白偏重の捜査を批判し、45通のうち44通の自白調書を違法な取り調べによるものとして証拠排除したが、5点の衣類を始めとする間接証拠類と自白調書1通で、死刑を選択した。

     ◇

 〈袴田事件〉 1966年6月30日未明、静岡県清水市(現・静岡市清水区)のみそ製造会社専務(当時41)宅から出火。焼け跡から専務、妻(同39)、次女(同17)、長男(同14)の遺体が見つかった。全員、胸や背中に多数の刺し傷があった。県警は同年8月、従業員の袴田巌さん(同30)を強盗殺人などの疑いで逮捕。一審で死刑判決を書いた熊本典道・元裁判官は2007年、「捜査段階での自白に疑問を抱き、無罪を主張したが、裁判官3人の合議で死刑が決まった」と評議の経緯を明かし、再審開始を求めていた。