一平のペンとギター

僕らしい小説を書き、僕らしい歌をうたう、ぞ♪、ペンとギターの一平です。ギター弾き語りと小説書きの二刀流。

一年を振り返って-「人」:(7)僕の弾き語り。

2007-02-08 21:15:16 | Weblog

    ○アメイジング・グレイス。シェフ。

 

 僕は、講壇の真ん中で、2本のマイクの前の椅子に坐っている。肩から吊るしたギターを、左腕と右腕の間に挟んで、太腿で支えている。首からは、ハーモニカを吊るしている。 「母さんの歌」を歌い終わって、会場一杯に拍手が鳴り響いている。3列目の、おばあちゃんは眼を潤ませて、ハンカチを持ったまま、拍手している。                   

「次の曲は、アメイジング・グレイス。英語と、日本語いっぺいバージョンで」

 あかべら、で、歌い始める。 「アーメー ヅィン グレェース  ハウ スウィートゥ♪・・・・・・・・・

 途中から、ギターの弦を弾く。ポロロロロン ポロロロオン・・

一番だけ、歌い終わって、一平日本語バージョン、を歌う。ぼくの こころに ひびく こえ、ぼくの くだけた こころ♪・・・・・ 

 歌いながら、つい先ほど、礼拝堂に戻ってきた時、腹の底に響いた、宮田さんの吹いたホルンの響きが、頭の中で、聞こえた。低音の太い、ゆったりとした響き。宮田さんは、左側、最前列に坐って、僕の歌声を聞いている。時折、宮田さんと眼が合う。そのたびに、宮田さんは、うなずいて、首を、軽く立てに振る。

 歌い終わって、すぐ、ぼくは、拍手が鳴るか鳴らぬ間に、語り始める。

僕は、28才の頃、悩みのどん底にいました。ふと、教会の礼拝堂から聞こえてきた歌声が、僕の傷つき折れてヒリヒリ痛む心に、染みてきました。一年ほど、教会に通うようになりました。日曜日、賛美歌を歌い、祈りました。すると、眼が潤み、涙がこぼれ、不思議にも、僕の心の、痛み、がスーッと消えました。でも、一日もすると、また、心が、ヒリヒリ痛みました。また日曜日、賛美歌を歌い、祈りました。また、涙が溢れ、痛みがスーッと、消えました。2年後、牧師さんが、洗礼を受けませんか、と薦めてくれた。

 歌って、祈る。聖書の言葉を、聞く、読む。僕の心の中に、スーッとはいってきました。そして、心が、元気を取り戻しました。

 ある時、教会の末席にいつも坐っている、片足がなく、片目が潰れた白髪の老人が、僕に、聞きました。君は、これからの人生の海を、神あり、として泳ぐか、神なし、として泳ぐか、そのどちらかね? と。僕は、それまで、神あり、なし、を考えたことがありませんでした。老人は、続けました。 君、神あり、にかけて、これからの人生を泳いでみなさい。神なし、に賭けるか、神あり、に賭けるか・・・。どちらかだ。・・・。

 祈り、歌うと、心の痛みが、スーっと消えて、心が元気になること。牧師さんが薦めてくれたこと。老人の、神あり、に賭けなさい、の言葉で、2年後、30才のとき、神あり、に賭けて、海に飛び込みました。あれから、31年。今、僕は、アメイジング・グレイス、を歌えて、嬉しく思います

 僕は、喫茶店で考えた、台本にはない《語り》を、長々していた。次の歌は、「夢見る人」だ。礼拝堂の壁にかかっている時計が見える。

 3:06pm を差している。始めたのは、2:50pm。後、14分。

次は、僕が、学生時代、うたごえ、をやっていた頃の歌で、イムジン河」

 ハーモニカで、前奏、 同時に、ギターでポロロロン伴奏。

 歌いだす。

イムジン河 水清く 静かに 流れ行く・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とうとう流る

 僕は、「夢見る人」をやめた。母さんの歌、を3番まで歌っちゃった。アメイズングの語りが、長かった。よし、次は、「千の風になって」だ。語りは短く。

自分の大切な人を失ってしまった人に、この歌を贈ります。

 ♪わたしの おはかのまえで なかないでください そこに わたしは いません ねむってなんか いません、せんのかぜになって せんのかぜになって あの おおきなそらを ふきわたっています・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪

最後の歌になりました。61歳の僕が、弾き語りを、本格的に始めたのは、26才の青年と、2年前、路上で知り合ったのがきっかけでした。その青年を、僕は、僕の師匠だ、と思って、精進しています。その青年、工藤慎太郎さんの歌、シェフ、お聞きください

 僕は、深呼吸をして、師匠の歌を、歌った。

 《前奏》-ハーモニカとギターの共奏。

 《ギターでの弾き歌い》-慎太郎がイタリヤ料理店でアルバイトしてるシーン。シェフから励まされる。夢を捨てちゃいけねーぞ、と。

 《中奏》-ハーモニカとギターの共奏。

 《ギター弾き歌い》-二人の子供と奥さんを、優しく見つめながら、シェフが、さびしそうに慎太郎に言う。生き方に、レシピは、ねえんだよ。雨にも、風邪にも、負けない心を持て!と。慎太郎、あれ、歌ってくれ・・・。

 《後奏》-ハーモニカとギターの共奏。前奏と、若干、音を変える。

 ハーモニカの、糸のような音色。ギターの弦の、流れ星のように消える音。イタリヤ料理店で働く、若き、歌手志望の、無名の青年、と、人生半ばまで来た、シェフ。頭の中は、慎太郎とシェフが浮かんで、二人の、シーンが浮かんできて、観客は、見えなかった。また、歌うことで、必死だった。 

 歌い終え、後奏を終えた時、トンネルから出た時みたいに、突然、目の前に、観客が、パッと現れた。そして、拍手の音が聞こえた。僕は、立ち上がって、お辞儀をした。拍手の音が大きくなって、怒涛のようになった。僕は、ギターを肩からはずし、ハーモニカも首からはずして、手に持ったまま、また、お辞儀をした。

 最前列に坐っていた宮田さんが、席を立ち、講壇に昇ってきて、僕のところに来て、

「音 一平さん、ありがとうございました」

と言って、握手を求めてきた。僕は、ギターとハーモニカを椅子の上に置いて、右手を出して、宮田さんの手を握った。

 夢のようだった。礼拝堂で、弾き語り、歌えた!大役を、果たせた! 

 控え室の部屋に戻って、ギターケースに、ハーモニカや譜面をしまいこみながら、夢のまた夢が、実現しちゃったことに、僕は驚いていた。ドアが開いて、中年の女の人が、お疲れ様、ありがとうございました。素敵でしたよ。お茶をどうぞ、と言って、冷たい麦茶を持ってきてくれた。

 

 

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一年を振り返って-「人」:(6)魔法のジュウタン

2007-02-08 21:09:49 | Weblog

   ○魔法のじゅうたん。そして、出番♪

 

 がんばってくださーい!

 天使の声に思えた。背中に聞こえた八木さんと女の子の声が。Gパンの尻の右ポケットの中の「財布」が、、自転車を漕ぐたびに、尻に当たる。 

 一寸前は、谷底にまっさかさまに落ちてゆく僕。あー、もう駄目だ、と思ったとたん、空飛ぶジュウタンが現れ、僕を拾った。そして、今、空を飛んでいる。自転車のペダルが軽やか。このペダルを漕いでいると、何処までも飛んでゆけるような気がする。脳梗塞になり、会社を辞めざるをえなくなり、治療、リハビリ後、ホテルの従業員になって、高校生の息子のために頑張っている八木さん、の、がんばってくださーい、がまた耳元で聞こえる。ありがとー。がんばるぞー、八木さん!と僕は、叫ぶ。やがて、見えた。白い十字架が、青空にくっきりと。

「北上聖書バプテスト教会」。自転車を飛び下り、後輪に鍵をかける。その後輪の覆いに「グリーンホテル北上用」の小さな白い文字が目に入った。八木さんの顔が、よぎる。

 礼拝堂から、低音のゆったりした太い響きが、聞こえた。あの大きなカタツムリが発する音。縄のような太いメロデイー。教会の玄関に、そおっと入る。聞いたことがあるメロデイー。忍び足で、礼拝堂に入る。急に、低音の太い音が、腹に響く。あっ、アメイジング・グレイス、だ♪

 会堂内を恐る恐る見る。ひとつだけ空いている一番後ろの末席。その上に、プログラムと紙切れが、無造作に置いてある。思い出した!僕は、あの席にプログラムと歌う順を書いた紙切れ、を置いて、トイレに行ったこんだ、、、、、、。そして、それから、、、、、、、、、、。ずいぶん、昔のことのような気がした。まるで、僕は浦島太郎になったみたいだった。

 椅子に、そおおっと、坐る。また、恐る恐る顔を上げ、講壇を見た。宮田さんが、あのでっかいカタツムリを、ほっぺを膨らませて、目をつぶって、吹いている。目をつぶって、、。僕は、ほっとして、席に坐りなおし、背筋を伸ばして、宮田さんの演奏に集中した。

 ぶぶぶー、ぶぶぶぶ、ぶぶぶー、ぶぶー ♪

(I once was lost but now I'm found) のところだ。 

全く、僕の頭の中から消えていた記憶が、蘇った。この曲を僕は、弾き歌うんだ、そうだ、、、。

 ぶぶぶー、ぶぶぶぶー、ぶーぶー。♪

(Was blind but now I see.) 最後のところ。

 アメイジング・グレイスの演奏が終わった。宮田さんが、目を開けて、お辞儀をしている。会場内を、見回して、また、お辞儀をした。その時、僕を、一瞬、見た様な気がした。が、宮田さんは、何もなかったように、今度は、マイクの前で、語りだした。

「次の曲は、前半、最後の曲になりました。「誰でも」という曲です。福音を知らせるラッパの響き、をお聞きください。皆さん、福音、とは、よい知らせ、グッドゥ、ニュース(good news)という、意味です。良い知らせ、とは、救い主キリストがあなたとともにおられる、というようなことです。皆さん、路上で、救世軍が、鍋を持って、トランペットを吹いているのをお聞きにになったことありませんか?今日は、ホルン、聖書に出てくる、角笛、でお聞きください。」

 聞いたことがあるような気がする、賛美歌だった。

 この曲が終わったら、僕の出番だ、とその事ばかりが気になって、ソワソワしだしている僕がいる。そっと、手に握っていた紙切れを見る。

《「北の国から」「エデンの東」・語り-自己紹介、歌の紹介・「Amazing Grace」「月の砂漠」「母さんの歌」・語り-歌の紹介・「夢見る人」「イムジン河」・語り-歌と僕・「シェフ」「千の風になって」。終わり》と走り書きで書いてある。喫茶店で、考えたイメージと選曲、を思い出した。そう、ハンバーグの味を思い出した。美味かった。遠い昔のような気がする。でも、はっきり、思い出した。

 拍手が鳴っていた。講壇で、ホルンを持ったまま、宮田さんが何度もお辞儀をしている。しばらく、拍手が止まなかった。

 僕は、控え室の奥の部屋にいた。テーブルの上に、僕のギター、ハーモニカ、譜面、が並んでいる。

 宮田さんが、演奏を終え、長い拍手が止み、10分、休憩です、と言って、僕を見て、奥の部屋を、指差してから、僕は、トイレに2度も行った。あれから、ソワソワ、が始まった。心臓が、ドキドキ、鳴っている。ふわっと、体が浮いているような感覚。顔が、ほてっている。サイフ、さいふ、財布、と自転車を走らせた時、弾き語りのことは、頭から、ぶっ飛んでしまった、ように、今度は、ポケットの財布、のことは、頭から、全く消えていた。

 そろそろ、時間だ。出番だ。僕は、深呼吸を、3度して、首を2,3回、まわした。肩からギターを掛け、首にはハーモニカをぶら下げ、譜面を、手に持つ。

 会堂が、静かになった。シーンとなった。宮田さんの声がする。

「皆さん、今日は、飛び入りで、特別ゲスト、をお迎えしています。」

 会堂で話している宮田さんの声が、ドア越に、聞こえて来る。

「横浜からいらした、ギター弾き語りシンガー、の、音一平、さんです。では、御呼びしましょう。音一平さーん!」

 さ、来た!時が来た!いざ、出番。

 僕は、ギターを持ち、ハーモニカを首にかけ、譜面を持って、ドアを開けた。拍手が鳴った。講壇に登って、中央に進む。直立のスタンドマイクと「く」の字に曲がったマイクの前に、置いてある、椅子に坐る。

 お辞儀をする。拍手が、一段と大きくなる。頭を上げ、ハーモニカを銜(くわ)えて、ギターを抱えた。

 拍手が止み、会場がシーンとなる。水を打ったように静かだ。僕は、この、空気が好きだ。この静けさの中に身を、しばし置く。会場の観客を見る。顔顔顔・・頭頭頭・・目目目・・。この人たちの、心に向かって歌おう、と心の中で呟く。

 僕は、口に銜えたハーモニカを、吹き始めた。ハーモニカの、糸を引くような音が、会堂一杯に響き渡る。その音が会堂を一周して、また、僕の耳に戻ってくる。右指が弦を弾く。ギターの流れ星のようにすぐ消える弦の音が、加わって、会堂の空気が、虹色になる。ステンドガラス越しに差し込む光に、ハーモニカとギターの和音が、弾ける。

  ♪「北の国から」続けて、♪「エデンの東」

 吹き,弾き終える。会堂に拍手が起こる。

 僕は、口に銜えていたハーモニカを口から放し、ギターは抱えたまま、お辞儀をし、

「おと、いっぺい(音一平)です。よろしく」

 と言った。

 拍手が、一段と大きくなる。僕は、首輪をつけられて、つながれた犬みたいに、観念して、腰が坐っていた。会堂を見渡せる。観客の顔顔顔が見える。観客全員の視線が、僕に集中して耳を澄ませている。中には、僕の眼を見ている人もいる。観客の心、心、心と、僕は今向き合っている。僕の口から、言葉が出る。

 「当年とって、30プラス、31才、の61才です。路上で、ライブハウスで、童謡、唱歌、日本のなつかしのメロデイー、世界の民謡、ポップス、を歌っています。飛び入りで、皆さんの前で、弾き語り、弾き歌いが出来ることを感謝します。宮田さんは、ホルンの、吹き語り、でしたが、僕は、ギターの弾き語り引き歌いを、します。まずは、童謡と唱歌から。月の砂漠、母さんの歌。」

  ♪つきのー、さばくをー、はーるーばると 

   たびのー、ラクダがー、ゆーきーました

   きんとー、ぎんとのー、くらー、おいてー

   ふたつー、ならんでー,ゆきー、ました♪

ギターの弦を弾く、ポロンポロンという音が、僕の歌声を支えてくれる。

 ♪かあさんが、よなべをして、てぶくろあんでくれたー

  こがらしふいちゃ、つめたかろうて

  せっせと、あんだだよー

  ふるさとのたよりもとどく

  いろりのにおいがした♪

 僕は、弾き歌いながら、耳を澄ませて聞いている、観客席の人々の心の呼吸や気配を感じた。

 「ふるさとのたよりもとどく♪」のところに差し掛かったとき、観客席の中の、3列目に坐っているおばあさんの顔が目に入った。おばあさんの頭が、僕の歌のリズムに乗って、ゆっくり左右に揺れている。眼をパッチリ開いて、僕を見ている。時折、手に持ったハンカチを眼に当てる。「いろりのにおいがした♪」と歌い終わった時、おばあさんの眼が潤んでいた。その時、僕の心に、こみ上げてくるものがあって、僕は、また「囲炉裏の臭いがした♪」をもう一度、ゆっくり繰り返して歌った。一番だけ歌おうと思っていたが、ギターの伴奏をつづけて、2番も、3番も歌ってしまった。僕は、僕の前に坐って、聞いているあのおばあちゃんと、この時間を共有している、と感じて歌っていた。この、共有感、この刹那・・・。 

                     ・・・つづく。

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お知らせ♪

一平のギター弾き語り。 日時・場所など。  2015年9月19日(土)2:00-4:00pm ふれあいコンサート・ギター弾き語りライブ・相鉄線星川駅下車徒歩3分。保土ヶ谷区役所前。「クレヨン」2:00-4:00pm ゲスト:アルトサックス奏者:おすぎ君 初秋の人生の歌など♪