本家ヤースケ伝

年取ってから困ること、考えること、興味を惹かれること・・の総集編だろうか。

なんばの現場を見に行った。

2008-10-03 10:37:09 | 社会
放火されたビルは「むちゃくちゃな改装」
『日刊スポーツ』

 大阪・難波の放火殺人事件で、店側の防火態勢も捜査対象となる中、現場となったビルを35年前に設計した大阪府の男性建築士(73)は3日、「明らかにむちゃくちゃな改装」と、変わってしまった店内構造の問題点を指摘した。

 建築士によると、個室ビデオ店が入る1階は「貸事務所用」として設計。「逃げ場となる入り口ももっと広かった。あんなに多くの個室を作ることは全く想定していなかった」という。

 15人は全員一酸化炭素中毒で死亡した。大量の煙の発生が被害拡大の要因とみられるが、「小さな個室ごとの排煙は無理。本来は機械式の大型排煙装置を設置すべきだ。窓をふさぐなんてもってのほか」と憤る。

 設計当時は一般の建物より厳しい審査を受けたといい、「借り主が何度も変わるうち、いつのまにか利益優先で安全面を考えなくなったのだろう。一生懸命設計したのに、なぜなんだ」とあきれ気味につぶやいた。(共同)[2008年10月3日23時11分]

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 昨10月2日午後1時過ぎ、浪速警察署前を通りかかったら多数の報道陣が詰めていた。そのときは意味がわからなかったが、ヤマダ電機からビックカメラへ行こうとして『ああ、あの事件か』とはたと気づいた。なんばの個室ビデオ店の放火殺人事件である。場所はテレビに「難波中3-3-10」と出たからすぐに地図で確認して知っていた。あそこなら確かに浪速警察署の管轄で、私の個人的関係からすると『餃子の王将』の近くなのである。

 では事件の現場を見ておこうかと行ってみてわかったのだが、近くどころか、事件のあったビデオショップと王将とは同じ雑居ビルの同じ1Fフロアにあって王将は営業中だった。私の想像では、個室ビデオ『Cat's難波店』の袋小路になった部屋の壁の向こうは王将の調理場辺りになると思われた。私はこの王将には2度程行ったことがあり、以前他のblogにアップした『冷麺』はここで食べたものである。

 写真を撮っていたら二人の記者から取材された。興味深かったのは「日本テレビです」と名乗った女性記者で、カメラを向けると直ちに「顔写真は絶対撮らせない!」というファイティングポーズ(?)をとるのだが、こちらがカメラを下ろすと途端に何事もなかったかのように手を下ろし質問を続けて来たのである。数瞬後レンズを向けるとまた顔を隠すといった具合で、なにかすることが手馴れていて私は彼女の写真は諦めた。

「この辺にはよく来られるのですか?近くにお住まいの方ですか?」
「近くではない。そう頻繁にではないけど、ここはよく通るよ。あそこの王将なら何回か来たことある」
「写真撮られてどうされるんですか?」
「別にどうもしないけどね」
「コレクター?」
(コレクターという言葉にはどこか偏執的でマニアックな人という響きがある。)
「コレクターやったらあそこ(←Cat'sのこと)行かんならんやん。webに乗せるんや」と私はジョークを交えてしかも正直に答えたつもりだったが相手は「行かないんですね」と聞き違え、このおっさんから聞き出せることは何もないと悟って「ありがとうございました」と去って行った。

 もう一人は男の記者で「事件の夜何をされていましたか?」と来た。まるで土曜ワイド劇場の世界である。放火があったのは夜中の3時だ。普通なら寝ている。
「火事を見ましたか?」(←見てるわけねえだろ?!)
私は「テレビで見たから来たんだ」と答えた。(←「あんたらが野次馬を煽っているんだ」と言いたかったのだ。ぁそ。)相手は笑っていた。

 私に対する彼らの取材なんてこのようにいい加減なものであった。何人か手頃なところに当たってみて絵になりそうだったらカメラを回すのである。尤も彼らが現場に詰めていたのは警察と消防の本格的な現場検証が青いビニールシートの向こうで始まっていたからであって、当局からの新しい発表がない限り当面することがないという手持ち無沙汰の状態が続いていたのである。

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 ところでビデオショップというのは(昔そういうところに入り浸りだった知人がいたので!)とにかくエロAVビデオの濡れ場だけを狂ったようにザッピングしまくる殆ど変態のような人物が出入りする場所だと思っていたら、今はそういう需要よりも格安の仮眠施設として使われることが多いと知って驚いた。我が『先進諸国』(←どこが!?)にあっては住宅も投機の対象であって、日本でもアメリカでも、売れないマンション・邸宅が野積み状態である一方、住居に困る人々が巷に溢れ返っている状況である。『家』の話から私が直ちに連想するのは例によって安倍公房の短編『赤い繭』である。この小説の概要はと言えば、夕暮れどき鴉には帰るべきネグラがあるが『俺』にはない。『俺』がようやく繭となって『家を持った』(家になった)ときには今度は中身が空洞だから『俺』自身がない・・という実にわかり易い反面シュールな観念小説でもあり、検索したら高校の教科書で読んだという人が多かったが、私もその一人である。

 個室ビデオの店というのは業種としては何に該当するのだろうか。物品販売店もしくはレンタル店の扱いだろうか。飲料やスナックフードの自販機があるそうだが飲食店ではない。個室ソファで仮眠出来るが宿泊施設ではない。「客が勝手に寝て行くだけ」という建前なのか、風営法の規制もなく、例えば西成のドヤだったら簡易宿泊所だから消防法が適用され、緊急時の避難経路等は確保されているのだが、他方実質日々安価な宿泊を提供しているにも関わらず、ネットカフェやビデオルームには規定がなく、設備投資を省略した営利第一主義がここでも野放しの状態なのである。問題の店も当直一人で消火訓練も避難訓練も受けたことがなかったという。換気も悪そうだし、下手に消火活動などしようものならたちまちCOでノックダウンとなったのではないか。

 それにしても、一旦入ると密室、窓なし、袋小路、迷路、外からの音は聞こえない・・と言うのだから、これは起こるべきして起きた惨事だったと言うしかない。一階に泊まっていざというとき逃げ出せないというのだからひどい話だ。亡くなられた15人の方は本当にお気の毒だった。合掌。

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(後註:10/5朝の番組で関口宏は個室ビデオのことを『カラオケ』などと言っていた。そんな違いもわからない『貴族』がニュース評をしているのである。)


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