よしえには訳あって、一緒には暮らせない彼氏がいた。
一緒にいられないのは仕方ないとしても、彼にいろんな女がアプローチしてくるのがよしえにはつらかった。
彼に関しては、彼が元気がないと私も苦しい。彼を楽しませてくれるなら、いろんな女と過ごしたっていいのだ。
私は日ごろ、彼の世話をすることが出来ないのだから。
いろんな女と付き合い、元気になった彼と会って、幸せな時間を過ごせれば私は満足なのだ。
彼が幸せで元気なら、他の女たちとデートをしてくれていいのだ。
私に会えなくてしょげて元気をなくして魅力がなくなるくらいなら、他の女と会ってほしいのだ。
どうしても、昔自分を好きだった男の事は軽く見る嫌いがある。
それは大昔のことなのに、
『貴方は私のことが好きなのだから、私の思い通りになる。この人は私の言うことなら聞く』と思い込む節がある。
だから、男が自分の言うことを聞かないと腹を立てるのだ。
聞いた話だが、彼の中学の時の初恋の人もそうらしい。
彼の事をブログで読んで、ぬけぬけと会いに来て、会ってみたら、けっこうかっこよくて、むなしい自分を忘れさせてくれた。
私が結婚すべきはこの人だったのかもしれない、と思わせてくれた。なのに、彼は他の女友達と楽しそうに会話をする。
私は我慢ならない。おしゃべりをやめて。
彼はやめない。どうしてやめないの?貴方、私の事が好きなんでしょう?だったら、私の言うことを聞きなさい。
彼は首をかしげる。
「貴女の事は確かに昔好きだった。昔だよ。それは思い出話だ。しかも告白して付き合った、という事実はない。
こうして会ったからと言って、今の貴女を好きになったわけではない。かつて中学で同級生だった友達同士、と言う関係だ。
目の前の僕が、未だに貴女の事を愛していて、貴女のために何でもすると思っているの?
飛んでもない勘違いだね。貴女が寂しそうだから少し付き合ってあげたけれど、僕は今の貴女を好きでもなんでもないんだ。
ああ、誤解させたのなら許してくれ。貴女の遊びに付き合ってあげただけだよ。
…今の君はそんなに寂しいの?昔の思い出にしがみつかなければ生きていかれないくらいに…。かわいそうだね」
よしえは、男を縛ることはできない、と、その女に教えてあげたいと思った。
いや、教えるなんで出来っこない。それは、その女が自ら悟るべきものだ。
私が時間をかけてそうなったように。
よしえは、数年前の自分を見るようで、少し切なくなったのだった。