Oxford Bookwormsシリーズの「Vanity Fair (虚栄の市)」を読んだ。
正直言って面白くなかった。だけど妙に印象に残る小説ではあった。
私が読んだのは、かなり長編の小説を120ページにまとめたリトールド版。本来なら作者の長い語りがところどころに入っていたようなんだけど、そのあたりはほとんどカットしてあるみたい。作者の語り……めんどくさそう。リトールド版でもかなり長く感じたくらいだから、完全版なんてとても読めそうにないな。
この小説の登場人物の中で一番印象的なのはやっぱりベッキー・シャープ。とても頭が良くて野心の強い悪女。ほんのたまに人間らしさも見せるけど、基本的には性格悪い。情がない。憎めないという人もいるみたいだけど、私はやっぱり嫌いだこの女。
ベッキーは自分の息子をものすごく嫌っていて、人が見ているとき以外は完全に無視している。それだけならまだいいとしても、人の同情をひくために「息子と引き離されて辛い」と訴えたりするのが嫌らしい。自分から捨てたくせに。
最後には保険金殺人まで犯している。ベッキーがやったとはっきりとか書かれていないけど、多分そう。
このベッキー・シャープをはじめ、登場人物はかなり利己的でどうしようもない人が多い印象。その中で数少ない好感の持てる人物がウィリアム・ドビン。決してハンサムではないし、不器用な冴えない男なんだけどとても心の暖かい人。
そして意外に賢い。ベッキーは口がうまくてみんな(特に男性陣は)すぐに騙されてしまうんだけど、その嘘を即座に見抜けるくらいの洞察力を持っている。
このドビンはアミーリアという女性をずっと(15年も!)一途に思っている。一途すぎてちょっと怖い気もしないでもないけど。でもいい人だから応援したくなるんだ。この人の行く末を見守るためだけに、大して面白くもないこの小説を我慢して最後まで読んだようなもの。
そのドビンの憧れの女性、アミーリア・セドリーはベッキーの(一応)友人でベッキーとは正反対のタイプ。息子を溺愛しているところもベッキーとは対照的。
アミーリアは優しいけどあまり頭は良くない、弱い女性。一人では何もできなくて、人に守ってもらってばっかり。これはこれで女性に嫌われそうな感じ。
アミーリアのドビンに対する扱いは結構ひどい。ずっと尽くしてきたドビンについに愛想を尽かされたとき、アミーリアの心情が語られるんだけど、これが「優しいアミーリア」像からはかけ離れた感じ。
「ドビンと結婚する気はないけど、そばにいて自分のためになんでもしてほしい。自分は彼のために何ひとつしてあげる気はないけど」って。おいおい。それはあんまりだよ。
そんなこともありつつ、紆余曲折を経て最後に二人は結ばれて幸せになる。よかったねドビン。
だけど、この二人をくっつけたのがベッキーなんだよね。このあたり、ちょっと複雑な気持ちにさせられる。