「イスラム国」が2015年11月13日夜(日本時間11月14日早朝)フランスのパリ中心部でコンサートホールやレストランを狙った同時多発テロは原子力発電所や火力発電所、あるいはダム等重要インフラがテロの襲撃を受けた場合、国民生活に与える予想される被害の大きさから必然的に備えを迫られることになる厳重な警備網、あるいは主要各国の首脳が集まる国際会議等での要人警護の必要上の多重・大掛かりに敷くことになる警戒網、さらにオリンピックのような各国観客が大勢集まる国際イベント等でその人命保護のために準備することになる警備態勢等の誰もが予想する一点集中主義の厳戒態勢の裏をかくテロではないかという指摘がある。
テロの頻発化によって今後益々警戒は厳重になる。警戒が厳重な場所へのテロはそれ相応の武器を携行したとしても、目的とした成功の実現には困難が伴う。攻撃を仕掛けた時点で阻止され、撃退させられたり、あるいは全員が射殺されたりして目的を達することなくテロそのものが失敗に帰す可能性も否定できない。
何よりもテロは国家や社会に与える衝撃の大きさ、その恐怖の大きさを成果とするから、何も警戒が厳重な場所に向かって自らの行動を困難にする必要はなく、より警戒の薄い場所を標的として、警戒軽微に便乗して逆に人的被害を大きくすれば、テロとしての目的を達することができる。
テロが警備の比較的緩やかなレストランやコンサートホール等を狙い場所とする、それらの対象を「ソフトターゲット」と呼ぶとマスコミが伝えていた。
警戒厳重な場所に押し入って先進国首脳を一人でも多く殺そうとするよりも、警備の薄い人の集まるソフトターゲットを襲って、20人、30人殺す方がより容易であるし、逆に国家や社会に与える衝撃や恐怖を大きいものとすることができる。
現地時間2015年3月18日午前11時(日本時間3月18日午後7時)過ぎにテロリスト2人がチュニジアの首都チュニスの国立のバルドー博物館を襲って銃を乱射、22人を死亡させ、42人を負傷させたテロ事件もソフトターゲット狙いであったのかもしれない。
二人は治安部隊によって射殺されたが、テロ集団側から見た場合、テロリスト2人の犠牲に対して観光客を混じえた博物館入場者を22人を犠牲にすることができたのだから、ソフトターゲットを狙った方が国家や社会に与える衝撃の大きさ・恐怖の大きさという点で遥かに効率性がいいと言うことになるのかもしれない。
当然、ソフトターゲットを標的とするテロをも今後警戒しなければならないことになる。特に有志国連合やロシアの「イスラム国」に対する空爆が激しくなって「イスラム国」を追いつめることになった場合、有志国連合やロシアに対する手段や場所を選ばないテロ――いわばソフトターゲットを対象としたテロを反撃行為の主流とする危険性を想定しなければならない。
安倍晋三がパリ同時多発テロを受けて、11月17日、国家安全保障会議(NSC)閣僚会合を開催、来年5月の主要国首脳会議・「伊勢志摩サミット」や2020年の東京オリンピック・パラリンピック等に向けて情報収集や分析能力の向上等、テロ対策を強化するよう指示したという。
また金高警察庁長官が同じく11月17日のサミットの警備対策委員会会合で、「テロを行ったとされる組織は日本を標的として挙げている。厳しい国際テロ情勢の下、サミット開催までおよそ半年となり、万全の態勢で臨めるよう対策を着実に進めてほしい」(NHK NEWS WEB)と述べ、三重県の伊勢志摩サミットの会場だけでなく、東京や名古屋など各地の大都市も狙われる恐れを想定、警察は自治体や関係機関と連携して万全の警備態勢を整える方針だという。
当然、ソフトターゲットも警戒対象に入れることになっているだろうが、より警戒の薄い場所を狙ってきたなら、どうするのだろう。
例えば入場者や客が100人入るコンサートホールやレストラン、映画館に対してソフトターゲットとしておくことの危険性からそれぞれに一点集中主義的に警備を敷いてハードターゲット化することはできるが、10人程度の人間が集まる場所まで警備の手を回してハードターゲット化することは可能だろうか。手を回すとしたら、警察官がいくらいても数が足りないことになる。
警戒態勢下にある100人が集まっているハードターゲット化した場所を狙って、警備に阻まれてそのうちの何十人かを犠牲にすることができたとしても、警備の殆どない10人程度が集まっているソフトターゲットを10個所襲って各箇所毎にそこにいる人間の数だけより確実に犠牲者を出していけば、場合によっては100人近い成果を上げる可能性は否定できない。しかもその無差別性によって衝撃や恐怖をより厳しいものに駆り立てることができる。
勿論、テロリスト集団が伊勢サミットなら伊勢サミットと決めて警備厳重なハードターゲットであることを承知して正直に狙うならいい。あるいは東京オリンピックなら、その会場と決めてハードターゲットであることを問題とせずに狙うなら、それなりの防御が可能となる。あるいは100人程度の集まりと決めて襲うなら、一度襲われたなら、そのことを学習して、ソフトターゲットからハードターゲットへと転換も可能となる。
だが、常にそう決まっているという保証はない。伊勢志摩サッミトの会場周辺で故意に不審な動きを見せて警戒をより一点集中主義的に厳重にするように仕向けて、他の警備が殆どないソフトターゲットを狙う可能性も否定できない。
結果、各国要人は安全だったが、多数の日本人が犠牲になるという皮肉な現象が生じないとも限らない。
こういった厳重な警備が及ばない、あるいは警備らしい警備を敷くことができないソフトターゲットへの万が一のテロを防ぐには中南米等の治安が非常に悪い国々でちょっとした商店の店先や市場の入り口、あるいは富裕層の集まる鉄格子で囲った地域の入り口をマシンガンやライフル銃を持たせて防弾チョッキで身を固めさせた民間の警備員(ガードマン)を置いて強盗や誘拐から身の安全を守っているのを真似て、それぞれが同じことをしないことには襲撃場所の範囲を広げようとしているテロを防ぐことができないのではないだろうか。
勿論、日本は銃規制が厳しく、テロ対策だと言っても民間のガードマンが銃を所持するのは許さないだろう。テロ対策に限定して所持を許したとしたとしても、暴力団員が民間のガードマンに紛れ込んで、所持を許されたマシンガンを暴力団に横流しする危険性も考慮しなければならない。
だが、パリやニューヨーク、ロンドン、その他の主要都市、あるいはそれに準ずる都市はソフトターゲット化していくテロの襲撃を防いで犠牲者を可能な限り出さないためには、そうせざるを得ないのではないだろうか。