民主党の元代表前原誠司と政調会長細野豪は年内に民主党を解党して維新の党との新党結成を提案している。11月11日、前原誠司は新党結成対象の、同じく両党の結党に積極的な維新の党の江田前代表と会談、翌11月12日に民主党代表の岡田克也と会談した。要するに前原ら新党結成に向けた段階に踏み出したということなのだろう。
前原との会談について岡田は次のように述べている。
岡田克也「中身は言えないが、現時点で非常に穏やかに、いい話ができたと思っている。党の執行部は私だ。党の在り方に対する根本論なので、執行部の中で考え方が固まり、党を支える皆さんの理解を得られる前に、軽々にお話しすることはできない。
私が申し上げているのは、本質が変わらなければだめだと、看板の掛け替えではだめだということだ」(NHK NEWS WEB)
変えるべき現在の「本質」とはどのような本質なのだろうか。自分たちが抱えている問題点としてあるのかだから、十分に認識しているだろうから、その「本質」を提示、新党結成ではなぜ看板の掛け替えで終わるのかの説明がなければならないはずだが、前原との会談では話したのかどうか分からないが、見えてこない。
11月12日の前原・岡田会談の翌11月13日、民主党代表代行の長妻昭が民主党解党・維新の党との新党結成について発言している。
長妻昭「野党の力を結集しなければならないという一点については、誰も異論はない。方法論や時間軸に色々と濃淡があるなかで、皆が納得できるようなかたちで決着をしないといけない。
政策が同じでなければ、野合となって瓦解(がかい)するという歴史は何度も経験している。本質は中身であり、外形を変えるだけであれば、国民から見透かされることは火を見るよりも明らかだ」(NHK NEWS WEB)
要するに政策の一致がなければならないと言っている。
では、足元の民主党は全員が政策を一致させているのだろうか。民主党には自民党系、日本労働組合総連合会(連合)結成前の全日本労働総同盟(同盟)を支持母体とした民社党系と同じく連合結成前の総評を支持母体とした社会党系、その流れを組む社民党系様々に入り乱れていて、安全保障政策や外交といった重要政策で必ずしも一致しているわけではない。
原発政策にしても原発全廃派議員から全国電力関連産業労働組合総連合(電気総連)を支持母体としていて、推進派議員まで様々である。
また同じ自民党出身ながら、岡田克也は安倍晋三が成立させた安全保障関連法の廃止を目指しているが、前原誠司は廃止ではなく、見直しを主張している。
自民党にしても安倍晋三を筆頭に稲田朋美、高市早苗、山谷えり子、その他、戦前の大日本帝国を理想の国家像とする右翼の国家主義集団からリベラルな保守まで様々に存在して、常に政策を一致させているわけではない。
新安保法制にしても、村上誠一郎衆院議員は2015年6月10日、日弁連主催の安保法制反対集会に出席して、安保法制に反対することを表明、2015年7月16日の関連法案衆議院採決の日に病気理由であるが欠席していて、それが少数であったとしても、国家存立の基盤を決定する重要な安保政策に於いて完全一致というわけではない。
因みにやはり病気理由であるが、それが事実かどうか、若狭勝衆院議員も欠席している。
ただ単に現在のところ景気回復によって、それが格差拡大を犠牲としたものであるが、安倍晋三の発言力に力を与えていることからの右へ倣えの状況を作り出しているが、もし何らかの事情で自民党の党勢が弱体したとき、かつて弱体したとき同様に様々に政策の違いが噴出して、混乱を見せるに違いない。
安倍第1次政権、麻生政権の不人気から2009年に民主党に政権を奪われた後の谷垣自民党総裁下での党勢の低迷から離党者が相次いだが、その一例として現東京都知事の舛添要一が執行部を批判して離党、新党結成したのも、党勢弱体時の政策の違いの噴出が原因していた。
長妻昭が言うように「政策が同じでなければならない」としたら、先ずは民主党を政策ごとに解体しなければならないことになる。
政策の違いを前提として、代表選で多数を占めた集団が全党的な合意形成を演出するか、あるいは安倍晋三のように支持率や政策の成功を背景に高めた自身の発言力を力として自らの政策で党を統一、独断的に自らが思う政治を演出するか、それ以外に方法があるというのだろうか。
長妻昭が新党結成は「政策が同じでなければならない」といった2日後の1月15日、民主党代表代行の蓮舫がフジテレビ「新報道2001」に出演して、共産党提唱の各野党を結集した「国民連合政府」と民主党解党、維新の党との新党結成に反対している。
長妻も代表代行、蓮舫も代表代行、岡田を含めて指導者としての艶やかさがない。蓮舫は相手の発言に素早く反応してピーチクパーチクよく喋るし、自分は美人だと思っていて、発言途中で美人であることを見せる媚びを売るそれらしい笑みを必要に応じて演出するが、言葉自体に人を惹きつける力はない。ただ単に早口で言えば頭の回転が早いことを示せると信じて、それを実行している単細胞に過ぎない。
須田哲夫司会「蓮舫さんも代表代行という立場上、執行部なんですが、認識も岡田さんと一緒だと思っていいんですか」
蓮舫「一緒です。ただ前原さんも細野さんも、恐らく岡田さんも私たちと同じ思いなのは下野して3年経って、やっぱり一強多弱は何も生まなかった。特に安保の時の我々は論戦で頑張ったけれども、決定的に数で足りなかったとか、いろいろな部分で国民のためになかなか声を代弁できなかったという反省の下で出口をどういう形で民主党をどうにかしていくのか、その部分の我々は統一会派を先ずつくって、で、今の東京維新の方たちも何か、また大阪維新の方と色々ありますから、そこをすっきりして頂かないと、なかなか一緒にというわけにはいきませんので、統一会派でやっていこうと我々の方針、それと解党、手段は違うんですけども、方向はおんなじだと見ていただきたいと思います」
統一会派と解党・新党結成と同じ方向であるはずはない。それを同じだとする判断能力に合理性を見るわけにはいかない。前者は異なる党として行動を共にしていく形式を取り、後者は同じ党として行動を共にする形式を取る。
どちらの形式を選択するかで、国民に与える期待値に対するインパクトという点でも、前者と後者は決定的に違う。
蓮舫は「一強多弱は何も生まなかった」と言っているが、一強多弱はつくられるべくしてつくられたのである。自然に与えられた情勢というわけではない。それをつくったのは民主党菅政権・野田政権であり、それぞれの内閣執行部であった。結果は原因に基づいてつくられる。
蓮舫はその両内閣で大臣を務めている。一強多弱の元を作った顔触れが民主党の今の執行部に顔を揃えている。面々が指導者としての艶やかさを備えていないことと合わせて、政党支持率が10%以下で低迷しているのも無理はない状況としか言えない。
つまり今の民主党執行部自体が人気がないということである。
また、「特に安保の時の我々は論戦で頑張ったけれども、決定的に数で足りなかった」と言っているが、その原因を自分たちでつくったにしても、野党の中で最も多くの質疑の時間を与えられていながら、政府答弁の矛盾を少しは引き出すことはできたが、決定的に追及し切ることができなかったことは追及を生かし得なかった何よりの証拠で、「論戦で頑張った」の評価は自己満足に過ぎない。
安倍晋三は一度つくった一強多弱を盤石なものにするために2014年11月18日、首相官邸で記者会見を行い、2015年10月の消費税率再引き上げの2017年4月への先送りを決定したことを表明、この判断の是非を国民に信を問うべきとして任期を待たずに解散を宣言、2014年12月の総選挙投票日に向けた選挙戦では記者会見通りに増税先送りとアベノミクスを主たる争点として前面に掲げ、集団的自衛権の憲法解釈による行使に関しては表に出さずに戦った。
そうまでした確保した一強多弱体制であり、民主党は満足に太刀打ちできずにその体制を許したのである。つくられるべくしてつくられた一強多弱であって、自分たちの責任を考えなければならないのに、その責任意識もなく、単に「決定的に数で足りなかった」と現在ある数だけの問題とする表面的な解釈は一種の責任回避でしかない。
須田哲夫(フジテレビ解説委員だとかの平井文夫に顔を向けて)「方向は同じだと蓮舫さんは言いますけども、民主党解党に向かうんでしょうか、これどうなんでしょうか」
平井文夫「先日ある民主党議員がね、心配していることがあると。それはね、来年安倍さんがダブル選挙やるんじゃないかと。解散するんじゃないかと。民主党内にそれを心配している人が一杯いるんだと言っていました。今回の前原さんの動き、それから松本剛明さんの離党もね、その辺のことがベースにあるのかもしれません。
ただ、今の岡田執行部はまだ動かないで、恐らくですね、本当にダブルの風が吹いてきたり、あるいは大阪の橋下さんが国政に参加したり、そう言うことがないとなかなか野党再編というのは動かないかもしれませんが、一つだけ、蓮舫さん、共産党との連携というのはあれはやめた方がいいんじゃないですかねえー」
蓮舫「ないと思います」
即座にキッパリと答えて、ニコニコして自分から何度も頷く。
平井文夫「保守的な支持者というのは民主党にも多いので、蓮舫さんだって、左翼ではないでしょ。共産党と一緒にやるって、アリですか」
蓮舫(失笑気味に笑ってから)「何度も私、これは申し上げておりますけども、ないです。ただ、選挙協力という形で、申し訳ないですけど、自民党と公明党に対抗するときに1人区となったときに、野党が乱立したら、それは票は分散します。
その部分の思いで協力することは、それな私たちは否定していません」
須田哲夫「選挙協力はあるのですか」
蓮舫「否定はしていません。勿論否定していません。候補者協力ですよ。だけど、私たちは共産党の候補者を全面的に応援するとか、民主党の仲間に共産党を応援しろとか、あり得ないです」
この後平井と蓮舫が短い遣り取りをするが、聞き取れない。ここまでが蓮舫の時間ということで、退出する。
蓮舫は1人区での共産党をも交えた他野党との「候補者協力」、いわば立候補調整は行うが、共産党候補が立った場合の1人区では、その「共産党の候補者を全面的に応援するとか、民主党の仲間に共産党を応援しろとか、あり得ないです」と断言している。
蓮舫は如何に自分が小賢しいことを発言したか、そのことに気づいていない。
言っていることはギブ&テイクの相互利益交換関係ではなく、テイク&テイクの片務的な自己利益限定獲得関係である。共産党に対して民主党と選挙協力したいななら、1人区で共産党候補を立てるなと言っているに等しい。
それが選挙協力であろうと、候補者協力であろうと、どう名付けようが、“協力”という概念に反することを「協力」という名で口にしているに過ぎない。
何と小賢しいばかりの愚かな認識だろうか。
この手の認識の政治家が民主党の代表代行を務めている。
自民党は安全保障政策で水と油の関係で鋭く対立し、自衛隊を違憲としていた社会党と新党さきがけも加えて1994年に連立を組み、村山富市を首班に指名した。村山は首相在任中に自衛隊を合憲とし、それまでの社会党の安保政策を大きく転換した。
共産党の志位委員長は国民連合政府が実現した場合の首相は民主党代表を指名する可能性に言及している。例え政策の違いが大きくても、リーダーに就いた者がリーダーに必須の能力となっている強力なリーダーシップを持っていさえすれば、そのリーダーシップで以て、あるいは国民から高い支持率を得ることができたなら、その支持率を背景に政策の全党的な合意形成の演出は不可能ではないはずだ。
不可能だと言うなら、あるいは民主党だけで議席を大幅に増やす自信があるなら、民主党単独でやっていけばいい。小賢しさはいらない。小賢しさだけでは何も前に進まない。