安倍晋三「1億総活躍社会」2017年度末40万人分保育施設整備の政府目標50万人分積み増しの大風呂敷

2015-11-08 10:03:16 | 政治

 
 安倍晋三が11月6日、《読売国際経済懇話会(YIES)》で講演、未だ途上だというのにアベノミクス3本の矢の成果を誇り、「1億総活躍社会」のスローガンのもと掲げた新3本の矢の実現に向けて大風呂敷を広げた。 

 新3本の矢とは2015年9月24日の自民党両院議員総会後の記者会見で述べていることをこの講演でも繰返したのだが、「希望を生み出す強い経済」を第1の矢、「夢を紡ぐ子育て支援」を第2の矢、「安心につながる社会保障」を第3の矢であると改めて紹介、それぞれの矢に対する目標とする中心の政策を記者会見では「ターゲット」とか、「旗」という言葉を使っていたが、ここでは「的」という言葉を使って告知している。

 第1の矢には第1の的「戦後最大のGDP600兆円」、第2の矢には第2の的「希望出生率1.8」、第3の矢には第3の的「介護離職ゼロ」といったふうに。

 本人は勿論、大風呂敷だとは思っていない。大風呂敷だという批判を承知していて、自信満々を示している。

 安倍晋三「この3つの『的』については、既に、『大風呂敷だ』とか、『実現できない』といった批判をいただいております。

 これもまた、20年近く続いたデフレによる自信喪失が、日本の中に蔓延している証左であると思います。3年前、私が、大胆な金融緩和を主張した時もそうでした。『デフレはどうやっても脱却できない。金融政策でも脱却できない』といった批判がありました。しかし、現実はどうでしょうか。私たちは、デフレ脱却に向けて、一歩ずつ確実に前進しています」――

 本人は大風呂敷ではないと信じていたとしても、アベノミクスを格差拡大に貢献させておきながら、第1の矢に「希望を生み出す強い経済」とネーミングした政策を掲げるその逆説性からして、既に大風呂敷であることを露わにしている。

 尤も拡大格差の底辺に位置する者が日本の政治や社会、そして自身の生活に希望を見い出すことができているとすることができるなら、アベノミクス関連の政策のネーミングに「希望」という言葉をどう入れようと、大風呂敷でも何でもないことになる。

 このブログでは第2の矢「夢を紡ぐ子育て支援」が的としている「希望出生率1.8」を実現させる政策手段の一つとしている待機児童ゼロとするための保育所の整備――平成29年末(2017年度末)までの5年間で現在のプランとしている40万人分の受け皿を50万人に増やす方針転換が、40万人でさえ大風呂敷と見えるのに如何に大風呂敷であるかを証明したいと思う。

 保育所整備について安倍晋三は次のように発言している。

 安倍晋三「第二の的は『希望出生率1.8』の実現です。そこに向かって『夢を紡ぐ子育て支援』という第二の矢を放ちます。

 『結婚したい』。『子どもが欲しい』。一人ひとりのこうした願いがすべて叶えられれば、それだけで出生率は1.8へと上昇します。これが『希望出生率1.8』の目標であり、2020年代半ばまでに実現しなければならないと考えています。

 私が、出生率を目標にするなどと申し上げると、すぐに、『産めよ、増やせよ』じゃないかという批判が出てまいります。これは平和安全法制の時もそうだったのですが、分かっていながら、あえて根拠のない不安を煽ろうと、レッテル貼りをする人たちがいます。

 しかし、あくまで『希望』出生率であって、結婚したくない人、産みたくない人にまで、国家が推奨しようというわけでは断じてありません。

 例えば、経済的な事情で、結婚や出産を躊躇している若者たちがいます。たしかに、結婚・出産で家族が増えれば、衣食住のコストが上がります。とりわけ、広い住まいに引っ越すことになれば、家賃はこれまでよりも高くなってしまう。

 ですから、新婚夫婦や、子育て世帯の皆さんには、公的賃貸住宅に優先的に入居できるようにすると同時に、家賃負担を大胆に軽減する取組を始めたいと考えています。

 妊娠・出産に要する負担の更なる軽減策も検討したい。子宝を願って、不妊治療を受ける皆さんへの支援も、一層拡充していく考えであります。

 子育てにやさしい社会を創らなければなりません。

 安倍政権になって、『待機児童ゼロ』という目標を掲げ、保育所の整備スピードは、これまでの2倍に加速しています。

 しかし、今年、待機児童は、前年より増えてしまった。安倍政権発足以来、女性の就業者が90万人以上増えたから、無理もないことであります。その意味で、うれしい悲鳴ではあるのですが、『待機児童ゼロ』は必ず成し遂げなければなりません。

 そのため、平成29年(2017年)末までの5年間で40万人分の保育の受け皿を整備する、としている現在のプランについて、更なる上積みを目指します。

 各自治体の本気度も高まっていて、既に計画を上回る見込みです。この勢いに、更に弾みをつけて、合計で少なくとも50万人分の保育の受け皿を整備したい。そのことによって「待機児童ゼロ」の達成を、確実なものとしたいと考えています」――

 2017年末まであと2年しか残されていない。

 当初のプラン、2012年(平成24年)から2017年(平成29年)までの5年間で収容人員を40万人分整備するには1年間に平均8万人ずつ、それを50万人にする場合は1年間に平均で10万人分ずつ整備しなければならない。

 これが如何に大風呂敷であるか、一つの統計が証明してくれる。文飾は当方。


保育所関連状況取りまとめ(厚労省/平成26年4月1日)  

厚生労働省では、このほど、平成26 年4月1日時点での保育所の定員や待機児童の状況を取りまとめましたので公表します。

○保育所定員は234万人
 増加数:平成25年4月→平成26年4月:4万7千人
 【参考】
  平成21年4月→平成22年4月→平成23年4月→平成24年4月→平成25年4月→平成26年4月
       (2.6 万人増)  (4.6 万人増)  (3.6 万人増)  (4.9 万人増)  (4.7 万人増)

○保育所を利用する児童の数は47,232人増加
 ・保育所利用児童数は2,266,813人で、前年から47,232人の増
 【参考】
  平成21年4月→平成22年4月→平成23年4月→平成24年4月→平成25年4月→平成26年4月
       (3.9 万人増)  (4.3 万人増)  (5.4 万人増)  (4.3 万人増)  (4.7 万人増)

 ・年齢区分別では、3歳未満が31,184人の増、3歳以上は16,048人の増となっている。

○待機児童数は21,371人で4年連続の減少(1,370人の減少)
 ・この1年間で待機児童数は1,370人減少した。
 ・待機児童のいる市区町村は、前年から2減少して338。
 ・100人以上増加したのは、世田谷区(225人増)、大田区(175人増)、熊本市(139人増)など6市区。一方、福岡市(695人減)、川崎市(376人減)、名古屋市(280人減)などの9市区町は100人以上減少した。

○特定市区町村は98市区町村
 ・特定市区町村(注)は前年から3減少し、98市区町村となった。
 注:50 人以上の待機児童がいて、児童福祉法で保育事業の供給体制の確保に関する計画を策定するよう義務付けられる市区町村。

 政府プランのスタート年である2012年(平成24年)から2014年(平成26年)4月までの2年間の保育所定員は各年共に5万人以下増、平均で4.8万に過ぎない。

 当初プランの5年間で40万人分の整備、年平均8万人分にも届かないし、それを50万人分、年平均10万人にするとなると、当初2年間それぞれで5万人分にも達していないのだから、不足分の皺寄せは後回しになって、計算してみると、2014年(平成26年)4月から2017年(平成29年)までの3年間で平均で各年13万4千人分の整備が求められることになって、現状の増加状況からどう公平に見ても、大風呂敷と言う以外表現しようがない。

 この大風呂敷は当然、「希望出生率1.8」の実現にも影響を与えることになる。影響すれば、講演の中で「少子高齢化に歯止めをかけることは、単なる社会政策ではありません。むしろ、究極の成長戦略であります」と言っていることも、「50年後も、『人口一億人』を維持する。これを、明確な国家目標として掲げます」と言っている目標も大風呂敷としかねない可能性が生じることになる。

 問題点は他にもある。「待機児童ゼロ」のための保育所の整備にしても後から追っかけて辻褄を合わせる追っかけ政策であるが、結婚率を上げて出生率を上げる人口政策――「希望出生率1.8」にしても、貧困ゆえに結婚できないでいる若者――安倍晋三の言葉を借りると、「経済的な事情で、結婚や出産を躊躇している若者」をその主な対象とするのは当然だとしても、「公的賃貸住宅優先的入居」とか、「家賃負担の大胆軽減」、「妊娠・出産負担軽減策」等々、国や自治体が後からの手当で賄う追っかけ政策――対処療法となっていて、貧困をなくす、あるいは年収格差や生涯賃金格差を是正して誰もが結婚や出産にチャレンジできる公平な社会を提供して、国や自治体があとから追っかけなくても済むという原因療法となっていないことである。

 国や自治体の補助がなければ満足に結婚も出産も、さらにはそれなりの生活を老後までを通して送ることができない「1億総活躍社会」とは、その逆説性からして、どのような社会だと言うのだろうか。

 裏返して言うと、国や自治体の補助があればそれ相応の満足度で結婚も出産も、さらにはそれなりの生活を老後までを通して送ることができる「1億総活躍社会」とは、その他者依存性・非自律性からして、何を意味する社会だと言うのだろうか。

 安倍晋三は「1億総活躍」のスローガンを掲げて、人口政策達成のために後者の社会を目指している。これは格差の結果値として導き出されている後者であることは断るまでもない。

 格差是正に政治のエネルギーを最大限に注がずに後追いの政策で逆説性・他者依存性・非自律性を社会の仕組みとする。

 当然、「希望出生率1.8」の実現にしても、「人口一億人維持」の実現にしても、格差是正が大きな意味を持つことになる。是正ができなければ、大風呂敷となる危険性は増大することになるだろう。

 大風呂敷に向かいかねない仕組みを招く政策こそが大風呂敷でなければならないが、必要とする肝心の政策が大風呂敷となっていて、必要としない政策が大風呂敷ではない実現の確実性を備えている。

 この逆説性も如何ともし難い。

 安倍晋三講演の最後の発言。

 安倍晋三「本日は、3年前申し上げたことが次々と実現している。その御報告をすることができました。是非、次回のこの場所におきましては、『一億総活躍』の成果を、たっぷりと説明をさせていただきまして、今の時点での批判がいかに間違っていたかということを証明させていただきたいと思います。そのタイミングを選んで、どうか声をかけていただきたいと思います。

 本日は、御清聴ありがとうございました」

 この何も疑わない溢れんばかりのたっぷりな自身は素晴らしい。格差が眼中にないから、満々の自信を示すことができる。

 この講演でも、「正社員に限った有効求人倍率も、2004年の統計開始以来、最高の水準になっています」、「1年前と比べて、正規雇用は21万人増加しています」、「大手企業の冬のボーナスは平均で91万円を超え過去最高を更新しました」と、非正規社員、あるいは中小企業の正社員を視野に置かない発言をしていたが、格差が眼中にないからこそのこれらの自身の成果に向けた発言であって、こういった格差抜きが講演最後の発言でも現れているように自信の源泉となっている。

 いずれにしても、自身はいくら大風呂敷ではない、レッテル貼りだと否定しても、安倍晋三は国家主義者である。国家の発展だけに目を向けて各種格差を問題外としたなら、国民、特に中低所得層の国民にとっては、自分たちに向けられる政策の多くが大風呂敷の政策となる確率は高くなるはずである。


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