多くの国会議員がその無能力を省みずに大臣病に取り憑かれている中で、いくら病気理由とは言え、藤井財務相が自ら大臣を投げ捨てる辞任を申し出て慰留していた鳩山首相に了承され、後任に菅直人副総理・国家戦略担当相が就任。仙谷由人行政刷新担当相が国家戦略担当相を兼務することとなった。
昨7日、菅副総理兼新財務相が財務省内で記者会見をしている。《【菅・財務相就任会見】(1)「財務省ではなく、国民の代表」》(SankeiBiz/2010.1.7 17:29)から見てみる。
冒頭の発言。
「財務大臣に就任いたしました菅直人です。就任にあたっての会見ということで少し私の方から申し上げて、後は皆さんのご質問に答える形で進めたい。
私は10数年前、厚生大臣になったときも申し上げたが、大臣というのはその役所の代表ではなくて、国民が役所に送り込んだ国民の代表。これは市町村(長)や知事の場合はわかりやすい。市長というのは市役所の代表である前に、市民の代表として市役所に入っていく。
基本的には大臣も同じだ。国民の皆さんが選んだ国会議員が選んだ総理大臣が任命する。今回も財務大臣の任命を総理からいただいたが、財務省の代表となるという前に、国民の代表として財務省に(来た)。国民のために働く役所であるようにということで大臣に就任した。それを改めて私なりに確認している。
加えて私の場合、副総理という役割もある。財務省はもちろんだが、内閣全体のことについても総理を支える立場で十分に目配りをしていかなければならないと考えている」―― |
なかなかいいことを言う。要するに省益を図るために就任する大臣でもなければ、企業利益を図るために就任する大臣でもない。勿論族益を図るために就任する大臣でもない。「国民の代表」だから、国民の利益を図るために就任する大臣であって、そうである以上、役所を常に国民の利益を図る組織として存在するよう努めなければならない。
しかしこのスタンスは当たり前のことであって、理想の境地に位置づけてはならない。当たり前のことを記者会見で殊更言わなければならないのは当たり前のことが当たり前になっていないことから起きている事態なのは誰の目にも明らかである。
しかし当たり前のことだからと言って、当たり前のこととして最後まで貫くことができるかどうかは別問題であるところが厄介なところである。人間は自己利害の生きものだから、いつの間にか「国民の代表」から離れて自己保身が目的とならない保証はどこにもない。
菅直人財務相は予算に関しては次のように発言している。
「一つは予算案はすでに出来上がって、いよいよ国会が始まるが、予算執行についての『透明化』ということだ。これはマスコミの皆さんもそういうところがあるが、(予算案の編成過程では)非常に多くの情報が国民に伝えられるわけだが、予算がいったん成立して、例えばある項目に100億円予算がついたと。じゃあ、その100億円が具体的にどのような形で使われて、当初の目的通りに本当に効果的に働いたのか。こういうことについて必ずしも十分なフォローができていないように思う。
国家戦略室でも議論をしてきたが、財政の体質、いわゆる予算執行の中身をできるだけ国民の皆さんに公開していく。それを通して、その予算が本当に国民のためになっているのかどうかを判断することができるような(財政)運営、支出管理ということ。国家戦略室でも取り組んでいただくことだと思っているが、一番多くの情報を持っている財務省がそれを実行していきたいと思っている。
また、民主党のマニフェスト(政権公約)の中で207兆円の総予算、つまり一般会計、特別会計を含む総予算について、全面的に見直すとなっているわけだが、この3カ月半では着手という段階にとどまっている。そういった意味では、ありとあらゆる特別会計や独立行政法人、公益法人について、主に行政刷新会議が担当していただくことになると思うが、財務省の立場でもこの問題にしっかりと取り組んでいきたいと思っている」―― |
各予算について国民の利益に適った執行がなされたかかどうか「支出管理」を厳格に行い、その情報を国民に公開していくことと、着手段階で終わっている一般会計と特別会計合わせた「207兆円の総予算の全面的な見直し」を今後とも続けていくとしている。
確かに独立行政法人、公益法人等の高すぎる人件費や一般省庁も加えた随意契約、一社応札を駆使した事業の丸投げや高値契約、口止め料も含めたかなりいい利益へと平均化させることとなる丸投げや高値契約が提供するボロ儲けからのキックバック等々は「支出管理」や「207兆円の総予算の全面的な見直し」によってかなり是正できるだろうが、それ以外の予算に対する「支出管理」も「207兆円の総予算の全面的な見直し」もその多くは後追い作業となるから、予算執行側がその作業の網を潜り抜けるために前以てゴマカシを働かせて辻褄を合わせておかないとも限らない。
また後追い作業となると、仕事の効率や労働生産性の問題が取り残されかねない。随意契約、一社応札を駆使した事業の丸投げや高値契約は減らすことができても、慣例通りに何ら工夫もなく事業を組み立て、組み立てた事業に応じて同じく慣例通りに予算を組み、それを慣例に従ったまま競争入札にかけたり、独立行政法人、公益法人等にそのまま下げ、独立行政法人、公益法人等が別の独立行政法人、公益法人等に、あるいは関連省庁の天下りが在籍している企業も参加させて入札にかけるという従来通りの事業執行であったなら、仕事の効率が向上しない以上、あるいは労働生産性が向上しない点、否応もなしに随所に少しずつムダを含むことになって、その総計は「207兆円の総予算」から見た場合、決して無視できないかなりの量のムダになるはずである。
農林水産省が所管する全国の農業ダム190カ所のうち44カ所で想定を大きく上回る水漏れや水の利用が低いムダな事業だった問題が生じていることも後追いの検証作業で分かることで、赤松広隆農水相は役人が言ったことを鵜呑みにしたのか、ダム完成時の正確な需要を見通すのは難しいなどとして、国営事業としては離島を除き、新たな農業ダムは造らない方針を明らかにしたということだが(asahi.com)、水漏れはさておいて、水利用率が低いと言うことは
地元の要望がないままの需要見通しというあり得ない矛盾を無視して建設した疑いか、10年20年経過して農業の後継者不足から生じた水利用率の低下であったとしても、農業の後継者不足は現在の日本では一般現象なのだから、そのことまで含めた需要見通しの甘さの疑いが生じることから、ただ単に深い考えもなく慣例通りに惰性で建設し続ける予算執行を行ってきたとしか思えない。
ムダが生じている以上、ムダに応じて労働生産性は低い所にある。
「207兆円の総予算の全面的な見直し」とは別に後追い作業となる「支出管理」から洩れるムダ遣いを可能な限り排除するためには以前《事業仕分け/予算圧縮は官僚のコスト意識の観点からムダの存在を絶対前提とすべし》(2009-11-27 12:35:35)と《概算要求95兆円から3兆円圧縮への査定は少な過ぎないか》(2009-10-20 14:46:23)で書いたように各事業予算を一律1割カットして、1割カットした予算でコスト意識を持たせて遣り繰り算段する工夫を凝らさせる中で国民の利益に適う的確な必要性から割り出した各事業設計と予算編成を成果とさせることが必要ではないだろうか。
結果的に少なくないムダが排除され、仕事の効率と労働生産性の向上へとつながっていくはずである。
勿論、このような事業設計と予算編成が慣例となった場合、前以て1割上乗せした予算編成を行う省庁も出てくる恐れがあるが、そういうことをさせないように省庁を横断的に高額予算の事業をいくつかピックアップして1割上乗せしていないか、無駄がないか厳しく企業仕分けすることにしたなら、前以ての上乗せは防げるはずである。
もし上乗せしてあったなら、その予算は執行しない罰則を課すぐらいの厳しい態度を示すべきである。
河村たかし名古屋長が「市民税10%減税」を掲げて、その減税案を市議会を通すことに成功したが、河村氏のHPによると、市民税2500億円の10%、減税分の250億円減収分は名古屋市の平成20年度予算総額2兆6,000億円の1%相当に当たるが、減収分は徹底した行財政改革により無駄遣いを根絶することで対処するとしている。
昨年末だったと思うが、河村氏は朝日テレビの「サンデープロジェクト」で、「各予算の10%ぐらいはムダがあるから、予算総額2兆6,000億円の1%ぐらいは簡単に圧縮できる」といったことを言っていたが、“10%のムダ”は政治家としての直感からくるこのくらいのムダがあるはずだという数字だと思う。
いずれにしても、前以て一律1割カットして、その中で事業とその規模の必要性を的確に見極めさせ、ギリギリの予算を組む習慣を植えつけて遣り繰り算段の工夫をつけさせる。もしそれで国民の利益に適う事業とするには予算が不足ということなら、後払いでもいいのだから、不足分を補正予算を組んで付け足すことにしたらいい。
そもそもからして国の赤字財政は09年度末の国債発行残高は592兆円から601兆円に膨らみ、98年度末の295兆円から倍増し、国債以外の借り入れを含めた国と地方の長期債務残高は820兆円超となり、先進国最悪の水準を更新する対国内総生産(GDP)比で1.7倍に達する状況にあるのだから、財政規律化は待ったなしの緊急事態にあるはずである。
鳩山内閣が閣議決定した10年度予算、一般会計総額92.3兆円、うち国債発行額44.3兆円、特別会計114,7兆円――「総予算207兆円」を一律1割カットしたら、一般会計総額83、07兆円、うち国債発行額39,87兆円、特別会計103、23兆円――「総予算186,3兆円」の減額となる。
一般会計のみで9.23兆円の節約。子ども手当初年度半額支給(月額1万3千円)は約2兆3千億円の財源が必要で、暫定税率を廃止した場合2・5兆円減税分が減収となる。合わせて4.8兆円、一般会計の9.23兆円カット分のうち4.43兆円まだ余裕がある。
勿論計算どおりには正確にはいかないが、子ども手当の地方負担だ、所得制限だと騒ぐこともなかったし、暫定税率維持はマニフェスト違反だと批判されることもなかったのではないのか。
財政規律化への大きな一歩を踏み出すことにもなる。 |