不動産鑑定評価額9億3200万円の国有地を地下埋設物の撤去・処理費用を8億1900万円と見積もって、差引き約1億3400万で森友学園に売却していた価格設定の妥当性を検査していた会計検査院が値引きは根拠不十分とする報告書を2017日11月22日に国会に報告し、その後公表した。
内容を「学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果についての報告書(要旨)」(会計検査院/2017年11月)から有益費の算定と地下埋設物撤去・処分費用の算定のみ見てみる。
最初に有益費の算定までの経緯を見てみる。
森友学園は2016年6月20日に財務省近畿財務局と売買契約を結んだ国有地を2013年8月に売却前提特約付き10年間定期借地契約を当初結んだ。2016年3月11日に森友学園から近畿財務局に対して杭打ち工事を行う過程で新たな地下埋設物が発見されたとの連絡が入り、近畿財務局、大阪航空局及び現地関係者と現地確認を実施し、確認の上、地下埋設物撤去工事は森友学園側が行い、撤去によって生じる有益費(地下埋設物撤去によって土地の価値が上がる分の価格)を大阪航空局が支払うとし、2015年6月から12月までの工事終了後の2016年4月に有益費として空港整備勘定から1億3176万円を森友学園へ支払っている。
有益費算定に関わる会計検査院の報告を見てみる。文飾は当方。長文は読みやすいように適宜段落を付けた。
〈(イ)有益費
27年5月29日に本件土地の貸付けを受けた森友学園は、(仮称)森友学園小学校新築工事に伴う土壌改良他工事及び(仮称)森友学園小学校新築工事に伴う敷地南側地中埋設物撤去工事(以下、これらを合わせて「対策工事」という。)を同年6月30日から12月15日までの間に実施していた。対策工事の報告書によれば、対策工事では、汚染された土壌及び地下構造物等を撤去したとしている。
しかし、同報告書によると廃棄物混合土の処分量(以下「処分量」という。)は9.29tにとどまっており、廃棄物混合土はほとんど撤去していなかったと思料される。
そして、対策工事が終了した後の28年2月18日に森友学園は、近畿財務局及び大阪航空局へ貸付合意書第6条第6項に基づく有益費に関する領収書等の資料を提出していた。また、森友学園は、対策工事で支出したとする費用計131,760,000円について、同条第2項に基づき国が返還する有益費の金額の検討を願い出ていた。
そして、近畿財務局は、同月25日に森友学園へ返還する有益費に関して大阪航空局へ意見照会を行っていた。
これを受けて大阪航空局は、国が森友学園に返還する有益費について検証を行い、
①対策工事が本件土地の価値を向上させる内容であるため、国において適正と認められた金額については、森友学園へ償還する義務が生ずる、②対策工事に要した費用(以下「対策費用」という。)は妥当であるとし、対策費用と本件土地の価値の増加額を比較した結果、対策費用の方が安価であるためこれを有益費とする、としていた。
そして、大阪航空局は、これらの意見を同年3月8日に近畿財務局へ回答していた。
近畿財務局は、大阪航空局から上記の回答を得て、同月30日に近畿財務局と森友学園において有益費として合意した額を131,760,000円と定めること、合意した金額を大阪航空局が自らの予算において森友学園へ支払うことなどについて、近畿財務局、森友学園及び大阪航空局の3者において合意し、合意書を締結し、この合意書等に基づき、大阪航空局は、同年4月6日に同額を森友学園へ支払っていた。
なお、近畿財務局は、当該回答の内容については、計数の確認等を行ったにとどまり、本件土地の価値の増加額の算定根拠等の詳細な確認等までは行わなかったとしている。
また、有益費の確認及び支払に当たり、合意書において森友学園と有益費を131,760,000円と定めることに合意した近畿財務局と、有益費の支払のため支出負担行為決議及び支出決定決議を行った大阪航空局の間において、有益費の確認、支払等に関する責任の所在等をどのように取り決めていたのか、保存されている行政文書では確認することができなかった。〉――
〈近畿財務局は、当該回答の内容については、計数の確認等を行ったにとどまり、本件土地の価値の増加額の算定根拠等の詳細な確認等までは行わなかったとしている。〉、いわば計算数値を確認しただけで、〈本件土地の価値の増加額の算定根拠等の詳細な確認等までは行わなかった〉にも関わらず、森友学園側が行った地下埋設物撤去工事の〈対策費用と本件土地の価値の増加額を比較した結果、対策費用の方が安価であるためこれを有益費〉とすることができる考えられる唯一の答は森友学園から提出を受けた対策費用に対して土地価値の増加額の算定額を形式的に高めにつけて、低い金額の対策費用を有益費とすることに妥当性を置いたということであろう。
もし大阪航空局が土地価値の増加額の算定根拠を詳細に記した上でその金額を弾き出していたなら、近畿財務局はその金額算定の根拠を簡単に確認できたはずだ。
確認を行わなかったのは算定根拠が示されていなかったからだろう。森友側の対策費用に対して高めに数字を付けた増加額に過ぎなかった。本来なら地下埋設物撤去によって土地価格にプラス・アルファの付加価値がつくもので、有益費は地下埋設物撤去工事費用よりも上回るものだが、国側が森友学園側も対策費用が有益費として返還されることを計算して工事費を高めの請求にしていることを承知していて、あるいは国側がそうするように指導することもあり得るが、他に対して納得させる方便として対策費用を有益費として落ち着かせたということなのだろう。
いずれにしても近畿財務局は書類上のだろう、確認だけで、〈土地の価値の増加額の算定根拠等の詳細な確認等までは行わな〉い杜撰な方法で有益費が決められた。
このような杜撰な方法は森友側の地下埋設物撤去対策工事の〈報告書によると廃棄物混合土の処分量(以下「処分量」という。)は9.29tにとどまっており、廃棄物混合土はほとんど撤去していなかったと思料される。〉と会計検査院の報告書にあることが背景にあるはずである。
9.29tとは10トンダンプ1台分であって、それだけの廃棄物混合土の撤去に対して、例え重機何台かで全面的に掘り起こしたとしても、あるいは2015年6月30日から12月15日までの約5カ月半の工事期間がかかったとしても、有益費を1億31,76万円も支払った。
1日の工事単価は約80万円。0.7重機1台分のレンタル料相場が6千円か7千円。2日目から500円程度安くなるが。それは無視して5台としても最大で4万円。作業員平均1万5千円として(重機オペレーターは賃金が高いが、一般作業員はそれほど高くない)、重機台数の倍の10人としても、合計15万円で、10トンダンプが月40万円前後で1日1万5千円として、全合計で1日21万円そこそこ。
これを1日30万円としても、1日の工事単価は約80万円は経費の倍の利益を上げていることになる。
国側は杜撰な方法を罷り通らせていた。
次に地下埋設物撤去・処分費用の算定を見てみるが、「確認できない」という言葉が列挙されているが、その部分の箇条書きの体裁で一つ人と取り出してみる
①〈杭工事においていずれの杭から廃棄物混合土が確認されたかを特定することができない。〉
②〈杭部分を除く部分に設定された深度3.8mについてみると、大阪航空局が確認したとしている工事写真には3.8mを正確に指し示していることを確認することができる状況は写っていない。〉
③〈廃棄物混合土を3.8mの深度において確認したとしていることの裏付けは確認することができなかった。〉
④〈ボーリング調査等を実施した箇所付近において、深度3.8mに廃棄物混合土が確認されていないのに、大阪航空局が森友学園小学校新築工事において工事関係者が北側区画で試掘した5か所のうち1か所の試掘において深度3.8mに廃棄物混合土が確認された結果をもって敷地面積4,887㎡に対して深度3.8mを一律に適用して処分量を算定しているのは、過去の調査等において廃棄物混合土が確認されていなかったとの調査結果と整合しておらず、この算定方法は十分な根拠が確認できないものとなっている。
⑤〈杭部分に関し、深度9.9mまで廃棄物混合土の存在を見込んでいることについては、森友学園が行った対策工事において廃棄物混合土は撤去されていないため、近畿財務局及び大阪航空局が現地や施工写真等で確認したとしている廃棄物混合土が既知の地下3m程度までの深度のものなのか、杭先端部の地下9.9mの深度のものなのかなどについては確認することができなかった。〉
⑥以上のように、深度3.8mについて、廃棄物混合土を確認していることの妥当性を確認することができず、敷地面積4,887㎡に対して一律の深度として用いたことについて十分な根拠が確認できないこと及び深度9.9mを用いる根拠について確認することができないこと、また、大阪航空局は、廃棄物混合土が確認されていない箇所についても地下埋設物が存在すると見込んでいることとなることなどから、地下埋設物撤去・処分概算額の算定に用いた廃棄物混合土の深度については、十分な根拠が確認できないものとなっている。
⑦〈21年度の地下構造物調査時の試掘箇所における掘削土量に占める廃棄物混合土の割合(以下「混入率」という。)の47.1%は、地下構造物調査において北側区画内で試掘した42か所のうち廃棄物混合土の層が存在すると判断された28か所の混入率を平均して算定されているが、28か所以外の14か所についても北側区画での試掘であり、うち13か所では廃棄物混合土が確認されていない。
14か所を混入率の平均の算定から除外していることに合理性はなく、混入率の平均値が試掘した42か所の平均より高めに算定されていることも考えられる。
このように、対象面積全体に乗じる平均混入率として、廃棄物混合土が確認された箇所に限定した混入率の平均値を用いていることについては、十分な根拠が確認できないものとなっている。
⑧本件土地の地下埋設物撤去・処分費用の算定における処分費(以下「本件処分費」という。)の単価22,500円/tがどのような条件下で提示された単価であるのかなどを示す資料はなく、単価がどのような項目から構成されているかなど、単価の詳細な内容について確認することができなかった。〉――
以下延々と続くが、これくらいで十分である。特に掘削土量に占める廃棄物混合土の割合の47.1%という数字は試掘した42か所のうち廃棄物混合土の層が存在すると判断された28か所の混入率を平均して算定したもので、残り14か所のうち廃棄物混合土が確認されていない13か所を除いた計算となっていることは杜撰というよりも、国有地を森友学園側に格安で譲り渡すための混入率の意図的な高い数字設定以外に根拠を見い出すことはできない。
だが、国会答弁に立った国側は、特に野党追及の矢面に立った財務省理財局長の佐川宣寿は「地下埋設物撤去・処分費用の算定は適切に行なった」、「適切な時価で売却した」の一点張りで野党の追及を巧みにかわした。
そして2017年7月5日に栄転という形で国税庁長官に就任した。安倍晋三に対する森友学園疑惑・加計学園疑惑の追及が一段落した通常国会終了の2017年6月18日から17日後である。
国側が主張している森友学園への国有地格安売却の正当根拠に対してほぼ全面的に疑問を投げかけている会計検査院報告書の根拠不十分説から見ると、理財局長だった佐川宣寿の通常国会終了後の国税庁長官栄転は安倍晋三の意を受けた森友疑惑隠しに功があった論功行賞と口止め料の意味を込めた異動ということでなければ、会計検査院報告書と整合性を取ることができなくなる。