安倍晋三は2017年9月25日の解散告知の記者会見で国民の信を問う主な二つの問題点を挙げた。
安倍晋三「少子高齢化、緊迫する北朝鮮情勢、正に国難とも呼ぶべき事態に強いリーダーシップを発揮する。自らが先頭に立って国難に立ち向かっていく。これがトップである私の責任であり、総理大臣としての私の使命であります。苦しい選挙戦になろうとも、国民の皆様と共にこの国難を乗り越えるため、どうしても今、国民の声を聞かなければならない。そう判断いたしました。
この解散は、国難突破解散であります。急速に進む少子高齢化を克服し、我が国の未来を開く。北朝鮮の脅威に対して、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この国難とも呼ぶべき問題を、私は全身全霊を傾け、国民の皆様と共に突破していく決意であります」――
「緊迫する北朝鮮情勢」と言っている「緊迫」という言葉の意味は「goo辞書」に「状況などが、非常に差し迫っていること。緊張して、今にも事が起こりそうなこと」と説明づけられている
安倍晋三は北朝鮮情勢が“緊迫している”と見て、「国難」と位置づけた。差し迫っていない事態を「国難」と呼んだら、安倍晋三はたちまち誇大妄想人間に陥ることになる。
安倍晋三は自身の「国難」である北朝鮮に対する圧力一辺倒の政策について少子高齢化政策と共に「国民の声を聞かなければならない」、国民の信を問うとして、衆議院を解散、総選挙で圧勝した。
と言うことは、多くの国民が少子高齢化問題だけではなく、北朝鮮の脅威が差し迫っているという認識を同じくして、安倍晋三と「国難」意識を共有したことになる。
当然、「国難」と位置づけた差し迫っている北朝鮮の脅威と少子化問題に真正面から取り組まなければならない。但し少子高齢化問題はそれが進行していった場合は将来的には国家の命運に関係してくるが、北朝鮮の脅威のように時と場合に応じて直ちに「国民の命と平和な暮らし」に関係してくるというわけではない。
だから、安倍晋三は「北朝鮮の脅威に対して、国民の命と平和な暮らしを守り抜く」と断固とした決意を宣言したのだろう。いわば安倍晋三は少子高齢化問題よりも「北朝鮮の脅威」をより差し迫った「国難」と見ていたし、安倍自民党に1票を投じた多くの国民もそう見ていた。
トランプも北朝鮮金正恩独裁体制によるミサイル開発・核開発を米国の国家安全保障上の重大脅威と見ている。その阻止のために「テーブル上にあらゆる選択肢がある」と軍事行動も辞さない構えでいる。
11月2日(2017年)付「NHK NEWS WEB」がアメリカ議会調査局が政権の方針とは関係なく議員の参考資料として考えられる、北朝鮮への経済的・外交的な圧力強化の一方でアメリカが今後取り得る7つの選択肢を挙げた報告書を纏めたと伝えている。
軍の活動や配置は大きく変えない「現状維持」
韓国への部隊増派と核兵器再配備による「抑止力強化」
北朝鮮発射弾道ミサイル迎撃を手段としたミサイル性能の向上阻止
アメリカ本土に届くICBM=大陸間弾道ミサイルの施設を狙った限定攻撃
核関連施設なども対象にした大規模な攻撃
北朝鮮の政権転覆
北朝鮮の非核化とひき換えに「韓国からのアメリカ軍の撤退」
記事は北朝鮮の政権転覆はトランプ政権は否定していると解説している。この7つの選択肢が政権の方針に関係なくても、トランプが軍事行動を辞さないとしている以上、参考にしない保証はないだけではなく、議員の参考資料を目的にしていることから、トランプ政権だけではなく、議会も北朝鮮の動向がアメリカの国家安全保障上の重大な脅威と見ている点で足並みを揃えていることを示す。
このように北朝鮮のミサイル開発・核開発を米国の安全保障上の重大な脅威と見るトランプが来日し、同じく最近の北朝鮮の動向を日本の安全保障上の差し迫った「国難」と見る安倍晋三と首脳会談を行う。
首脳会談では日米貿易問題、経済問題も話し合われるが、優先すべきテーマは何しろ日米の国家安全保障上の重大な脅威となっている北朝鮮問題ということになる。
北朝鮮の金正恩も日米首脳会談で何が話し合われるのか、日米の今後の行動を占う材料にするために注目していたはずだ。
ところが首脳会談で北朝鮮問題を話し合うよりもプロゴルファーの松山英樹を交えたトランプと安倍晋三の日米首脳ゴルフを優先させた。「時事ドットコム」の「首相動静」によると開始が10月5日午後12時49分、終了が午後2時43分、約2時間プレーを愉しんでいる。
夜は7時42分から9時5分までの約2時間、東京・銀座の鉄板焼き店で会食をしている。
トランプのことは措いておこう。多くの国民と北朝鮮の脅威を共有し、「国難」意識を共有することで選挙に圧勝していながら、あるいは「国難」とした朝鮮の脅威を訴えることで国民の信を圧倒的に得ていながら、先ずは首脳会談をいの一番に開いて、その脅威「国難」を如何に取り除くか、「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ことができるか話し合うべきを、いの一番にゴルフを愉しんだ。
一般的には重要な話し合いを無事にこなして肩の荷を降ろしてから、打ち上げの意味でゴルフや会食をするのが通例となっているが、国家安全保障上の重要な課題についての議論を後回しとした。
信頼関係を結ぶのも重要なことだという言い訳は許されない。安倍晋三にしてもトランプにしても「国民の命と平和な暮らし」背負っているのである。そのことを忘れずにいたなら、先ずは首脳会談から入って、国家の安全保障上の重大な脅威となっていると見做している以上、最初に北朝鮮問題を話し合ったはずだ。
安倍晋三のゴルフ終了後の午後3時半頃にヘリコプターで総理大臣官邸に戻った際の対記者団発言を11月5日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
安倍晋三「お天気も本当によくて、クラブの皆さんにも温かい歓迎をしていただき、トランプ大統領にも大変楽しんでいただいたのではないか。私も本当に楽しいひとときを過ごすことができた。
ゴルフ場では、ゴルフのプレー中ならではの会話も弾んだ。ゴルフ場であればお互いにリラックスして本音の話ができるということもあるので、様々な難しい話題も時々、織り交ぜながら、ゆっくりと突っ込んだ話ができた」
「ゴルフ場であればお互いにリラックスして本音の話ができる」と言っていることはあくまでもプライベートな話題であるはずである。なぜなら、北朝鮮問題は「リラックスして本音」をぶっつけ合っていい類いの脅威ではないし、「国難」でもないはずだからだ。
その程度の脅威、「国難」であるなら、衆議院を解散して国民に信を問う必要はない。
その一方で、「様々な難しい話題も時々、織り交ぜながら、ゆっくりと突っ込んだ話ができた」と単にゴルフを愉しんだだけではない、政治関係の話題を交わしたと打ち明けている。
ゴルフのプレーをしながら、「時々、織り交ぜ」た程度の「様々な難しい話題」について「ゆっくりと突っ込んだ話ができた」と、それが政治向きの話であったとしても、その話題の中に北朝鮮問題含まれていないはずだ。
「時々、織り交ぜ」た程度で「ゆっくりと突っ込んだ話」ができる脅威、「国難」と位置づけているわけではないだろうからである。
要するに安倍晋三とトランプがコルフを愉しみながら交わした話題が各国首脳のゴシップ、その他であったり、その中に時折り政治向きの話題を混ぜていたとしても、北朝鮮問題を取り上げていたとしたら、非常に不謹慎極まりないことになる。
北朝鮮の動向を国家安全保障上の脅威、「国難」と位置づけ、その認識を多くの国民と共有しながら、日米共通の難題として首脳会談で話し合う前にゴルフを愉しむことを優先させたこと自体、それが不謹慎なことではないとするなら、北朝鮮の脅威を「国難」としたことをウソにして、単に選挙用の戦術に過ぎなかったことを暴露することになるばかりか、そうである以上、ゴルフ好きのトランプの気に入られることを優先させた首脳会談に先んじたゴルフということであるはずだ。
いや、ウソではない、正真正銘の事実だとするなら、逆に首脳会談よりもゴルフを先に行ったことは不謹慎極まりないとしなければならない。