安倍晋三の教育無償化は経済的余裕を与えても、「人づくり革命」と「生産性革命」を必ずしも約束しない

2017-11-18 12:04:37 | 政治

 11月3日(2017年)の当ブログ《安倍晋三が「規範意識」重視である以上、人づくり革命と生産性革命が少子高齢化打破の車の両輪とはならない - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で書いたこととかなり重なるが、少々異なる把え方で扱ってみたいと思う。  

 安倍晋三が昨日2017年11月17日、衆参本会議それぞれで「第195回国会所信表明演説」を行った。    

 最初に北朝鮮問題を、次に少子高齢化を取り上げた。兎に角北朝鮮の脅威を「国難」と位置づけて10月の総選挙の最大の争点とし、圧勝した手前、北朝鮮問題を最初に持てこざるを得なかったのだろうか。

 次いで取り上げた少子高齢化の関する発言を見てみる。

 三 少子高齢化を克服する
 (生産性革命)

 この5年間、アベノミクス「改革の矢」を放ち続け、雇用は185万人増加しました。この春、大学を卒業した皆さんの就職率は過去最高です。この2年間で正規雇用は79万人増え、正社員の有効求人倍率は、調査開始以来、初めて、一倍を超えました。

 この経済の成長軌道を確かなものとするために、今こそ、最大の課題である少子高齢化の克服に向けて、力強く、踏み出す時であります。

 「生産性革命」、「人づくり革命」を断行いたします。来月、新しい経済政策パッケージを策定し、速やかに実行に移します。

 人工知能、ロボット、IoT。生産性を劇的に押し上げるイノベーションを実現し、世界に胎動する「生産性革命」を牽(けん)引していく。2020年度までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」と位置付け、人手不足に悩む中小・小規模事業者も含め、企業による設備や人材への投資を力強く促します。

 大胆な税制、予算、規制改革。あらゆる施策を総動員することで、4年連続の賃金アップの勢いを更に力強いものとし、デフレからの脱却を確実なものとしてまいります。

 (人づくり革命)

 「人生百年時代」を見据えた経済社会の在り方を大胆に構想し、我が国の経済社会システムの大改革に挑戦します。

 幼児教育の無償化を一気に進めます。2020年度までに、3歳から5歳まで、全ての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0歳から2歳児も、所得の低い世帯では無償化します。

 待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺るぎません。本年6月に策定した「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度までに32万人分の受け皿整備を進めます。

 どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば、高校、高専にも、専修学校、大学にも行くことができる。そういう日本に、皆さん、していこうではありませんか。真に必要な子どもたちには、高等教育を無償化します。

 いくつになっても、誰にでも、学び直しと新しいチャレンジの機会を確保する。そのためのリカレント教育を抜本的に拡充します。

 こうしたニーズに応え、「人づくり革命」を牽引する拠点として、大学改革を進めてまいります。

 相変わらず都合のいい景気指標しか口にしない。「4年連続の賃金アップの勢いを更に力強いものとし、デフレからの脱却を確実なものとしてまいります」と力強く宣言しているが、毎年毎年企業の尻を突ついて賃上げを要請したとしても、それが僅かばかりの上乗せに過ぎないのだが、満足に賃金が上がらない状況、結果的に個人消費が振るわない状況については決して口にすることはない。

 上に厚く、下に薄いアベノミクス景気がその正体であることは隠し通す。

 「人工知能、ロボット、IoT。生産性を劇的に押し上げるイノベーションを実現し、世界に胎動する『生産性革命』を牽(けん)引していく」はまさに大風呂敷中の大風呂敷になっている。

 「労働生産性の国際比較 2016年版」(日本生産性本部/2016 年12月19日)には、〈OECD データに基づく2015 年の日本の時間当たり労働生産性は、42.1 ドル(4,439 円)。米国の6割強の水準で、順位はOECD加盟35カ国中20位。1人当たり労働生産性は、74,315ドル(783万円)、OECD加盟35カ国中22位となっている。〉との記述がある。   

 主として研究開発費を「投資」項目に組み入れて新たに算入することにしたGDP新基準に基づく労働生産性の国際比較では、〈2015 年の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり名目付加価値)は44.8ドル(4,718円/購買力平価(PPP)換算)。従来基準から6.3%上昇し、順位もOECD加盟35カ国中19位と従来基準による順位から1つ上昇している。

 1人当たり労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は78,997 ドル(832万円)。順位はOECD加盟35カ国中22位となっている。〉

 新基準で計算しても、時間当たり労働生産性は、〈OECD加盟35カ国中20位〉から〈OECD加盟35カ国中19位〉へと1つ上がっただけで、1人当たり労働生産性は〈OECD 加盟35カ国中22位〉で変わりはない。

 OECD加盟35 カ国の中で下から13位や15位に付けていて、「世界に胎動する『生産性革命』を牽引していく」と宣言できる。大風呂敷でなくて何であろう。

 その手段たるや「人工知能、ロボット、IoT」に置いているのだろうが、これらが実際に「生産性を劇的に押し上げるイノベーション」であったとしても、このような技術、あるいは技術革新はカネを使い(優秀な才能への投資)、優れた研究環境を与えることができさえすれば、どの国も入手可能であって、あるいは優れた研究環境を提供できなくても、カネさえ使えば、それが国際特許を取った技術であったとしても、買うことで入手可能となり、いわば同じような技術を使うことになって、生産性という点ではほぼ同じ土俵に立つことになり、差は大して出てこないことになる。

 如何に技術革新を経た技術であっても、技術そのものにしても、その技術を組み込んだ何らかの製品であったとしても、カネで売り買いされて、すぐに真似されるてしまう。日本のかつての専売特許のように。

 当然、「人工知能、ロボット、IoT」を生産性を押し上げる手段に置くこと自体が考えが浅いことになる。

 優れた研究環境とはカネをかけた優れた設備が整った研究空間のみを言うわけではない。日本人は権威主義を行動様式・思考様式としていて上下関係で人間を律する傾向があるために、この上下関係が下の才能を時として抑えつける役目を果たす。

 日本の大学で徒弟制度と言われている権威主義から来ている上下関係を嫌って、上下の隔てのない自由な人間関係で研究できる環境を求めてアメリカに研究の場を移す教授や助手といった研究者が多く存在するのを聞く。

 アメリカの映画でよく見かけるが、雇い主の会社経営者とかの方から新しく雇った使用人であるお抱え運転手に対して初対面でファーストネームで呼ぶことを許し、お互いがファーストネームで呼び合いつつお互いの職業に敬意を払って信頼関係を築いていくといった日本では考えられないシーンをよく見かける。

 優れた技術革新を望むなら、伸び伸びと才能を伸ばすことができる上下関係を取り払った自由な人間関係とそのような人間関係を許容できる研究環境を提供する以外にない。

 安倍晋三は「幼児教育の無償化」と「高等教育の無償化」を「人づくり革命」の礎とする腹づもりでいるが、教育の無償化は無償化を受ける家庭に対して経済的余裕を与えると同時に無償化を受ける者をして学びの機会の幅を広げる効果的な要素となるのは確かだが、生産性の決め手は“考える力”であって、大学進学率と言ったことではない。

 例えば、「大学進学率の国際比較(2010年)」(文科省)によると、大学進学率をアメリカ73%に対して日本は51%。但し〈アメリカのみ、2年制の機関が含まれた値〉と表記されていることから、2016年5月1日現在の日本の短大進学率を、「平成28年度学校基本調査」(文科省)で調べてみると、「大学・短大進学率(現役)は54.8%」から「大学(学部)進学率(現役)は49.3%」を引くと、短大卒は5.5%、これに6年の差はあるが、プラスすると56.6%。アメリカとの差は16.3%もあるが、大学進学率だけで生産性を計算することになるが、日本の進学率がアメリカの77%、いわばアメリカの進学率の8割近くであるのに対して日本の生産性がアメリカの6割強の水準と言うのは必ずしも教育機会に結びつかない証拠となるはずである。  

 この計算があながち間違っていないのは韓国の進学率はアメリカについで71%だが、1人当たり労働生産性は日本の22位よりも低く、26位となっていることを根拠として挙げることができる。

 進学率、いわば教育機会の多寡に労働生産性が連動するなら、進学率の高い韓国は技術力は高いのだから、アメリカと同等の生産性を誇らなけばならない。だが、現実は違っている。

 なぜ“考える力”が生産性の決め手なのかは指示されたことを指示されたとおりに指示されたことだけをするのでは、いくら大学教育を受けても生産性は上がるはずはない。指示されたことを自分で考えて行動することでプラスアルファの付加価値を付けることができ、この付加価値によって生産性は上がる。

 かつて日本人はマニュアル人間が多いとされたが、上が下を従え、下が上に従う権威主義の行動様式が自ずとつくり出したマニュアル人間であって、現在も潜在した状態で数多く存在する。

 そして日本人の考える力の不足は長いこと言われていた。学校教育自体が権威主義の様式を受けて教師が教えることを児童・生徒が暗記する機械的従属を基本構造とする教育が今以って主流となっていて、そこに考える思考回路を置いていないことが結果として“考える力”が身につかない要因となっている。

 リカレント教育で何であろうと、学びの場の提供が「人づくり革命」に発展するわけでも、「生産性革命」を起こすわけでもない。他人と同じではない、自分独自の考えを生み出し、行動する“考える力”こそが原動力となるはずである。

 安倍晋三みたいに「人工知能、ロボット、IoT」といった技術に頼っていたのでは他の国と同じ条件を土俵とすることになって、生産性の国際比較でさして順位を変えることはできないだろう。

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