文在寅韓国大統領のトランプ歓迎夕食会元慰安婦招待の正当性対安倍晋三の一昨年日韓合意のペテン

2017-11-08 11:48:57 | 政治

 2015年12月28日の従軍慰安婦についての日韓合意については何度かブログに書いてきたから、過去の文章の繰返しとなる箇所が出てくるが、ご勘弁願いたい。

 米大統領トランプが日本訪問後韓国を2017年11月7日に訪問、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領はトランプの歓迎夕食会に元慰安婦の李容洙さんを招待し、両者は握手し、抱擁したと11月7日夕方以降のマスコミネット記事が伝えていた。

 この招待に対する日本の官房長官菅義偉の説明。

 菅義偉「おととしの日韓合意は、慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を確認したものであり、国際社会が高く評価した。韓国側には、粘り強くあらゆる機会を通じて、合意の着実な実施を求めていきたい。

 北朝鮮問題への対応で日米韓の連携強化が求められる中、日米韓の緊密な連携に悪影響を及ぼすような動きは避ける必要がある。韓国側には外交ルートを通じてわが国の立場を申し入れている」(NHK NEWS WEB/2017年11月7日 17時45分)
  
 2015年12月の日韓合意で慰安婦問題は解決済みであって、トランプの歓迎夕食会に招待して慰安婦問題をクローズアップさせる正当な謂れはないと批判している。

 菅義偉は文在寅大統領が2017年6月20日電子版米紙ワシントン・ポストのインタビューで2015年の慰安婦問題を巡る日韓合意に関して「問題解決に日本の法的責任と公式な謝罪」を求めたときも同じ発言をしている。

 文在寅大統領は大統領選で「慰安婦合意破棄」を公約の一つに掲げていた。安倍晋三並みに選挙の勝利=全ての政策に対する国民の信任と解釈するなら、大統領当選は「慰安婦合意破棄」を韓国国民の多くの意思表示と見なければならない。

 だとしても、主権国家同士が締結した日韓合意である。次政権が簡単に破棄したら、主権国家としての正当性が疑われることになる。

 問題は日韓合意自体の正当性である。正当性があるにも関わらず破棄したら、主権国家としての意味を失う。

 日本の外相岸田文雄とユン韓国外相が2015年12月28日、韓国ソウルで両国間に横たわっていた従軍慰安婦問題で会談し、合意に至った。

 2015年12月28日付で外務省サイトが両国外相の「共同記者発表」を記載している。日韓間で対立した問題点の一つとなっていた女性を従軍慰安婦に仕立てていった事例に日本軍の関与があったかどうかについて言及した個所のみを抜粋する。    

 〈1 岸田外務大臣

 (1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。

安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉――

 合意が〈当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題〉としている点、一見すると、慰安婦の強制連行と強制売春に当時の日本軍が関わっていたことを認めた文言に見える。

 だが、岸田文雄が日韓外相会談後に記者団に語った発言では慰安婦の強制連行と強制売春に日本軍が関わっていたことを認める内容とは異なっていた。

 岸田文雄(日本政府の責任を認めたことについて)「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるということは従来から表明してきており、歴代内閣の立場を踏まえたものだ。これまで責任についての立場は日韓で異なってきたが、今回の合意で終止符を打った」(NHK NEWS WEB/2015年12月28日 17時31分)

 韓国側が日本軍による慰安婦の強制連行と強制売春を訴えているのに対して安部政権が従軍慰安婦に関わる「従来から表明」してきた歴史認識は強制連行と強制売春を否定するものであったから、「当時の軍の関与の下に」とした日韓合意は、少なくとも日本側はその中に強制連行と強制売春を含めていない内容ということになって、一見すると、慰安婦の強制連行と強制売春に当時の日本軍が関わっていたことを認めた文言に見えること自体が一種の誤魔化しとなる。

 要するに認めたと見せて、実際は認めていないペテンを働いた疑いが出てくる。

 安倍晋三公式サイトに「慰安婦・歴史認識問題」(最終変更日時2009年06月12日)と題する記事がある。      

 最終変更日時が2009年6月12日だから、それ以前に書かれたのかもしれない。第1次安部政権は2006年9月26日から2007年8月27日、麻生政権が2008年9月24日から2009年9月16日。麻生政権下に最終変更が行われたのだろう。

「狭義の強制性」が「広義の強制性」の議論に変わっていった

(河野官房長官談話は)韓国においていわゆる従軍慰安婦として心に傷を負った方々に対して、政府としての認識を示したものであるわけでありますが、そのときに、この問題に関しましていろいろな議論があったのは事実であります。

いわゆる狭義の上での強制性という問題がありました。それは狭義の強制性ではなくて、広義の意味での強制性について述べているという議論もあったわけでございますが、私が当時述べていたことについては、具体的に狭義の強制性が果たしてあったかどうかという確証については、いろいろな疑問点があるのではないかということを申し上げたわけでございます。

しかし、強制性という中にはいろいろな強制があるのではないか、直接の強制ではなくても、これは広義の意味でそういう状況に実は追い込まれていたのではないかという議論もあったのは確かであります。しかし、最初は狭義の強制性であったわけでありますが、それはその後、いわば広義の強制性ということに議論が変わっていったのも事実ではないかと思います。〉

 「狭義の強制性」とは旧日本軍が直接現地の若い女性を力づくで拉致、連行して、強制売春に従事させたことを言い、「広義の強制性」とは直接的な旧日本軍の関与はなかったが、売春業者が日本軍の依頼を受けて売春婦を募集する過程で正当な手続きではなく力づくで強制的に狩り集めたといった間接的な日本軍の関与を指す。

 安倍晋三は旧日本軍関与に於ける「狭義の強制性」を否定し、「広義の強制性」に関しては認める歴史認識に立っていた。

 この歴史認識は第1次安部政権(2006年9月26日~2007年8月27日)下の2007年3月5日参院予算委員会での答弁に現れている。

 安倍晋三「河野談話は基本的に継承していきます。狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかったということです。

 (中略)

 ご本人がそういう道に進もうと思った方は恐らくおられなかったんだろうと、このように思います。また間に入って業者がですね、事実上強制をしていたという、まあ、ケースもあった、ということでございます。そういう意味に於いて、広義の解釈に於いて、ですね、強制性があったという。官憲がですね、家に押し入って、人攫いのごとくに連れていくという、まあ、そういう強制性はなかったということではないかと」

 要するに2015年12月28日の日韓合意は少なくとも日本側は安倍晋三の歴史認識をそのまま反映させて纏めた取り決めということになる。当時の韓国の朴槿恵政権がそのことを承知していて合意を受け入れたのかどうか分からない。2015年は韓国は経済危機に陥り、危機脱出には歴史認識で対立していた日本の力を借りる必要上、一見、日本軍の直接的な関与に見えるということで手を打ったのかもしれない。

 また岸田文雄は日韓外相会談後の対記者団発言で、「当時の軍の関与」を「歴代内閣の立場を踏まえたものだ」と言っているが、このことについて安倍晋三は2015年1月5日の三重県伊勢市の伊勢神宮参拝後に神宮司庁で行った年頭記者会見で次のように発言している。  

 安倍晋三「従来から申し上げておりますように、安倍内閣としては、村山談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいます。そしてまた、引き継いでまいります」

 安倍晋三はここで上に挙げた2007年3月5日参院予算委員会での答弁で安倍内閣として「基本的に継承」するとした「河野談話」は「狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかった」と、日本軍の直接的な強制性は認めていない談話だとする解釈を施している。

 1993年8月4日の「河野談話」外務省)には次のような文言が記されている。     

 〈いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。〉――

 日本国内でも軍人や警官は怖い存在であったが、日本軍が支配した外国では日本人であるというだけでそれ相応の威嚇性を持ち得ただけではなく、日本軍をバックとした日本軍兵士の威嚇性は売春業者が持つ威嚇性と比較して相当なものがあったあったはずで、当然、売春業者単独の慰安婦募集であったとしても、日本軍の名前を使えばそれ相応の効果があり、「官憲等が直接これに加担した」と言うことなら、一般的には加担される側が主役で加担する側が脇役という関係を築くのとは反対に官憲が持つ威嚇性によって官憲そのものが主役に映って、いわば軍の命令で動いている売春業者という一体性をそこに見ることになって、その強制性は計り知れない強力な力を持ち、慰安婦募集は「狭義の強制性」の部類に入ることになる。

 だが、安倍晋三は官憲が売春業者の慰安婦募集に、それが「直接」であったとしても、単に「加担」しただけの脇役の関係と解釈、「広義の強制性」の部類に入れて、日本軍の直接的な関与を否定する歴史認識を引きずっている。

 かなり前にネットで探し出したのだが、日本軍の現地人に対する威嚇性を証明する文章がある。どんな人物が知らないが、元軍人なのだろう、松浦敬紀著による「終りなき海軍―若い世代へ伝えたい残したい (1978年) -」(1978年6月刊行) なる書物に当時インドネシアの設営部隊の海軍主計長だった中曽根康弘の寄稿文が載せられているという。

 タイトルは「二十三歳で三千人の総指揮官」

 「三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。かれらは、ちょうど、たらいのなかにひしめくイモであった。卑屈なところもあるし、ずるい面もあった。そして、私自身、そのイモの一つとして、ゴシゴシともまれてきたのである」――

 「原住民の女」はその女だけで存在していたのでなく、それが小さなものであったとしても、その地域に築かれた一つの社会に親や兄弟(姉妹)、あるいは子どもと共に生き、生活していた。当然、兵士に襲われた場合、直ちにか、あるいはいつかは他の住民に知られることになる。

 知った場合、兵士に襲われた「原住民の女」の親や兄弟(姉妹)、その他の近親者や住民は日本軍兵士に怒り、憎しみ、二度と襲わせないために仕返しに襲うことがあるだろうか。泣き寝入りするだけだったろうか。

 権利意識の発達していない時代であり、現地であることを考慮すると、歴然とした力の差はを弁えて、後者の選択しかなかったはずだ。

 ここに現地の住民を心理的に支配していた日本軍が持つ威嚇性を明確に窺うことができる。

 その威嚇性によって中曽根主計官は簡単に現地の女たちを有無を言わせずに慰安婦として狩り集めることができたはずだ

 日本軍が纏っていた威嚇性、その威を借りた日本軍兵士の威嚇性を抹消・無視した安倍晋三の慰安婦の強制性否定の歴史認識が反映されたペテンでしかない日韓合意であって、朴槿恵政権がどのような事情で受け入れたとしても、文在寅韓国大統領ならずとも、韓国内で合意破棄の世論が起こるのは無理はない。
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